ナイキのD2C戦略が持つ意味:メーカー対小売で、メーカーが力を取り戻すか?

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この記事のざっくりまとめ

ナイキのD2C戦略は、メーカーと小売店の「パワーバランス」に大きな意味を持っている(かもしれない)。お客様をつかんでいるのは誰なのか、つかむためにはどうすればいいのか、を真剣に考えよう!

ナイキが小売店との取引を縮小中!?

あのスポーツウェアのナイキが、ナイキを売ってくれている小売店との取引を続々と削減しています。

『ナイキは3月末、靴専門ディスカウントチェーンDSW、若者向け衣料品や小物販売チェーンのアーバン・アウトフィッターズ、百貨店最大手メーシーズなど小売業7社への商品供給の停止を決めた。各小売業への最後の商品納入は10月ごろになる予定だ』
『同社は2020年8月にも地域型百貨店チェーンのベルク、アマゾン・ドット・コム傘下で靴専門のECザッポスら9社への商品卸を取りやめている』

2021/04/23 日経MJ P.8
以下、各記事からの引用部分は『』で括ります。

ナイキの商品は、お店で売っています。そのお店で売れないようにする、ということです。

ナイキのいるアパレルはコロナ下で苦しんでいる業界の1つ。それにも関わらず、わざわざ自ら「自分の商品の売り場を減らす」ということをしているのはなぜでしょう?

それは……まさにそれがナイキの「戦略」だからです。

ナイキのデジタルシフト:2017年の「コンシューマー・ダイレクト・オフェンス」宣言

ことの発端は、2017年。ナイキがConsumer Direct Offenseという有名な戦略を高らかに宣言しました。詳細はここをクリックしてください。ナイキの英語HPに飛びます。内容は衝撃的なのですが、日本ではそれほど話題にならなかったように思います。

その一部を意訳・抄訳します。

『ナイキは本日コンシューマー・ダイレクト・オフェンスを導入、消費者1人1人に寄り添っていきます。デジタルの力を使い、革新と製品開発で、キーシティのお客さまと1対1の対話を通じて成長していきます』

『ナイキは、消費者の方に近づいていき、ローカルビジネスをグローバルスケールで行っていきます』

ナイキ 2017年ニュースリリース

「デジタル」とは要はITやネットの力であり、消費者側からするとパソコンやスマホの端末ということでしょう。ネットなどの「デジタル」を使い、顧客とOne-to-one、1対1の関係を「直接に」築いていく、ということです。

平たく言えば「ネット通販強化」ということですね。そういうと身もフタも無い感じはしますが。最近の言葉で言うとD2C、Direct To Consumerすなわち「消費者直販」です。

ネット通販強化は、コロナ下では当たり前の動きです。D2Cと言う言葉が一気に市民権を得たのもコロナがきっかででしょう。

しかし、ナイキはコロナ前の2017年からこれを実行・強化してきたわけです。

デジタル強化・ネット通販強化は、コロナ下では当たり前の動きです。しかし、ナイキはコロナ前の2017年からこれを実行・強化してきたわけです。

そしてその実行・強化の一手が、冒頭の取引小売店の削減、というわけです。

なお、上のナイキのリリースにある「キーシティ」とはニューヨーク、ロンドン、上海、北京、ロサンジ
ェルス、東京、パリ、ベルリン、メキシコシティ、バルセロナ、ソウル、ミラン、の12都市です。その意味では「ローカルビジネス」なわけです。それを「グローバルスケール」で行っていく、というのが上記の宣言ですね。

このConsumer Direct Offense 宣言を一言でまとめると

・とにかくお客様(消費者)に近づき、直接コミュニケーションする

という強い意思が見えるものになっています。

お客様(消費者)に近づく、というのはBtoC(個人顧客対象のビジネス)のメーカーとしては、当たり前のように聞こえます。

この「真の意味」は何でしょうか?

ナイキはBtoBから真の意味でのBtoCへの転換を宣言

その「真の意味」は、本当の意味で「BtoC」(個人顧客対象のビジネス)企業になる、ということです。

では、ナイキは「BtoC」ではなかったのかというと、はい、そうなんですね。

『ナイキは直営の小売店を全世界で展開すると同時にスポーツ用品、百貨店、靴専門チェーンなど多くの小売業に商品を卸売り販売してきた。小売りチェーンへの卸売事業からD2C事業にかじを切ると宣言したのは17年6月。当時のマーク・パーカー最高経営責任者(CEO)は「デジタル戦略で主要市場に向けて商品を迅速に届ける」と表明、店舗を介さず消費者との関係を強めるためのマーケティングを主体にすると意欲を示した』

2021/04/23 日経MJ P.8
以下、各記事からの引用部分は『』で括ります。

ナイキは一般的には「BtoC」と呼ばれます。

しかし、直営店はあるにせよ、ナイキのビジネスは「卸売業」でした。協力工場で商品を作ってもらい、その商品を小売チェーンに販売する(卸売する)というのがナイキの主要ビジネスだったわけです。

ですから、その「取引形態」としては、小売店に販売する「BtoB」(法人顧客対象のビジネス)卸売業だったんです。

このあたりが難しいところですが、多くの食品メーカー、菓子メーカー、飲料メーカー、などは「BtoC」と言われます。実際にその商品を消費するエンドユーザーが「一般消費者」だからですね。

が、実際にはこれらの会社も卸会社に販売し、卸会社がコンビニやスーパーなどに販売します。一般消費者からお金をいただくわけではなく、あくまで卸会社や小売店からお金をいただきます。

ですから、ナイキは「BtoC」と言われつつも、実際の取引形態としては「BtoB」なんです。

本当の意味での「BtoC」の会社は、コンビニ・スーパーなどの店舗や、TVショッピングなどの「消費者直販」の会社などです。

D2Cというのは、まさに「消費者直販」なんですよね。

メーカーのBtoCというのは、それほど多くありません。極端な話をすれば、昔の豆腐やさんは自分で豆腐を作って(=豆腐のメーカー)、自分で直接エンドユーザーに売っていました。それがメーカーのBtoCですね。スーパーに売ったら、それはBtoBになります。

ナイキはデジタルの力を使って「消費者直販」の会社へ

そしてナイキは、本当に「BtoC」、つまり「消費者直販」の会社になろうとしている、というのが2017年のConsumer Direct Offense宣言の意味です。「卸売ビジネス」から脱皮して、デジタルでの直販などを主体とする会社になる、という宣言です。

そして口だけでは無く、実際にそのような行動を取ってきました。

まず、ナイキは直営店を開きました。日本では原宿にフラッグシップストアを2009年に開いています(ナイキ原宿HPより)。

ナイキの直営店は「卸売」ではなく、実際にBtoCです。

東京は世界に12しかないナイキの「キーシティ」の1つですから、このような大型直営店を開いて、エンドユーザーと直接のコミュニケーションを図っているのでしょう。

そして、冒頭の記事のように、実際に小売店との取引を減らしています。つまりは「卸売ビジネス」を縮小しているわけです。

記事中のアーバン・アウトフィッターズやメーシーズなどは日本ではあまり名前を聞かないかもしれませんが、名だたる小売大手です。

これらの大手小売店チェーンへの商品供給を止めました。つまりこれらの店舗では「売らない」ということです。

ではどこで売ろうとしているかというと、「デジタル」つまり「ネット通販」ですね。

『小売りを取り巻く環境は新型コロナでがらりと変わった』『ナイキでもEC販売が急増し、20年3~5月期はネット通販の売上高は全売上高の30%まで拡大した』『ジョン・ドナホーCEOは「デジタル事業からの売り上げ目標は全体の50%だ」と説明、「われわれはデジタル・ファーストカンパニーになる」と断言した

2021/04/23 日経MJ P.8

 

コロナの影響とはいえ、既に売上の30%がネット通販。そして目標は記事にあるように

『デジタル事業からの売り上げ目標は全体の50%』

です。

ナイキは、まさに「消費者直販」の会社になろうとし、そして実際になりつつあるわけです。

そこに、2017年のConsumer Direct Offense宣言の意味があります。そして、それこそが

・とにかくお客様(消費者)に近づき、直接コミュニケーションする

ということの本当の意味なんです。

ではそれで本当に大丈夫なのでしょうか?

実際に決算は好調です。

2021年2月末の四半期決算(レポートベース)の数字は……

・売上:104億ドル(前年比3%増)
・ダイレクト:40億ドル(20%増)
・デジタル:59%増

ナイキHPより

↑1行につなげてご覧ください

既に「ダイレクト」の売上が4割近くあるわけですね。ナイキの直営店の売上はここに入るのでしょう。

「デジタル」も59%増と急伸中です。

『「デジタル事業からの売り上げ目標は全体の50%だ』

というのも、非現実的では無い、ということでしょう。

「お客さまを掴んでいる人」が最も強い

ナイキがデジタルを促進してもお客さまがついてくる理由

ナイキの動きは「小売への卸売」から「直販」へ、です。

小売店への「卸売」をゼロにはしていませんから、「きちんと売ってくれる小売店では売る」ということでしょう。

つまりは

・きちんと売ってくれないところでは売らない。それよりはデジタルで自分で売る

というような方向を志向しているわけです。

そして実際にそれを実戦しながら、売上を上げています。

ではなぜこのようなことが可能なのでしょうか?

お店で売ってなかったら、お客様が買わないのでは……? それは……

ナイキがお客さま、この場合は「エンドユーザー」である「消費者」をきちんとつかめているからです。

ここで重要になるのは、

・お客様は(なんでもいいから)「靴」が欲しいのか、「ナイキの靴」が欲しいのか

ということです。

お客様が(なんでもいいから)「靴」が欲しい、だとお店に行って、そこで売っているものを(何でもいいから)買います。これだと、近くにあるお店で(なんでもいいから)靴を選びます。

しかし、お客様が「ナイキの靴」が欲しい場合は、お客様は「ナイキの靴」を買いにお店に行きます。お店で「ナイキの靴」売ってなければ、ナイキのネット店で買うわけです。

つまりお客様は

・他の靴では無く「ナイキの靴」が欲しい

のです。だから小売店で売ってなければ、ナイキのネット直販で買うわけですね。

ナイキのここまでのマーケティング戦略の結果として、

・他の靴では無く「ナイキの靴」が欲しい

とお客様に思っていただけているからこそ、成立する戦略です。

そして、だからこそConsumer Direct Offense宣言の

・とにかくお客様(消費者)に近づき、直接コミュニケーションする

ということが重要になります。それによってお客様(消費者)をきちんとつかむわけです。

そしてその目的の1つが、お客様に

・他の靴では無く「ナイキの靴」が欲しい

と思っていただくことですね。

例えば、2021年の箱根駅伝で、出場選手のナイキの厚底シューズの着用率が極めて高かった(9割以上)という事実があります。

すると、

「箱根駅伝でみんなが履いていたあのナイキが欲しい!」

となりますよね。他の靴では無く「ナイキの厚底シューズが欲しい」となるわけです。

小売店で売っていなければ、「他の靴でいいや」とはならず、ナイキのHPに殺到するわけです。そうなると、ナイキが小売店に「卸売」する必要がなくなるわけですね。

エンドユーザーをつかんでいる会社が強い

ここから学べることは、

ビジネスで最も強いのは、「お客様」をつかんでいる会社だ

ということです。商品・サービスの「最終購買意思決定者」をつかんでいる会社が最も強いんです。

BtoCの場合は、「消費者」です。

例えば、半導体で言えば「Apple」です。Appleが消費者をきちんとつかんでいるからこそ、お客様はAppleを選
びます。

そして、Appleに部品などを販売している半導体関係の会社は、Appleの「下請け」になるわけです。

すると、Appleの交渉力が最も強くなるわけです。Appleに文字通り「つぶされた」日本の部品会社もあります(公になっています)。それでも文句が言えない(あるいは言ってもどうしようもない)わけです。

パソコンの場合は面白いところで、最終製品であるパソコンメーカーが最も強いとは限りません。

半導体部品メーカーである「Intel」が最終意思決定者であるエンドユーザーをつかんでいる、とも言えます。

Intelが入っていないパソコンは、エンドユーザーに選ばれない、ということになると、Intelの交渉力が強くなるわけですね。パソコンメーカーもIntelから買わざるを得ないからです。

要は

・誰がお客様をつかんでいるのか

で勝負が決まるわけです。お客様(最終購買意思決定者)をつかんでいる会社が最も強いわけです。

そして、ナイキは「お客様をつかんでいる」がゆえに上記のような戦略が可能になりました。そしてそれをさらに強化するために、お客様にさらに近づこうとしています。

それが2017年のConsumer Direct Offense宣言の本当の意味なのだと思います。

長期視点で時代を眺める:「小売のパワー」vs「メーカーのパワー」

1980年代~2020年は「小売の力が強まった時代」

このナイキの戦略の持つ意味は、現代マーケティングを語る上で、非常に、非常に大きいと思います。ですので、ここで取り上げました。

ここから先は、思いっきり私見であり1コンサルの勝手な解釈です。

ただ、私は食品メーカーで実際に営業・マーケティングの現場にいました。又、今でも多くのメーカーをサポートする立場にいます(コンサルタントとして)。それから、色々なところでマーケティングを教えており、メーカーや小売店の現場にいらっしゃる方からの情報も得ています。

そんな立場にいた・いるものしての「読み」です。異論・反論があるかもしれませんが、大歓迎です。

小売の力が強くなっていったのは1970年代くらいだと思います。

それまではメーカーの力が強力でした。

1つの要因は、小売店が個店(パパママストア)ばかりだったからです。小売店に交渉力がなかったわけです。

しかし、1970年代頃から、小売の組織化が進んでいきます。チェーンストアの登場です。これは日米共通の現象です(米国が先)。

小売が力をつけはじめたことによる象徴的な出来事が、1964年の

・ダイエー・松下戦争

です。当時ダイエーは、中内氏率いるチェーンストアの代表格。力を付けてきた新興勢力の小売が、メーカーの代表格であった松下電器産業(パナソニック)と衝突したわけです。

これはダイエーと松下のケンカというよりも、長期的な「時代の流れ」としての、小売とメーカーの「覇権争いの始まり」と見るべきです。

そして、小売の方が「お客様に近い」という理由で優勢になり、覇権を握ります。物理的にお客様に接する機会が圧倒的に多いことに加え、お客様の「購買」チャネルを握っているためです。

実際、1970年~1980年代と、小売優位の傾向が強まっていきます。

・ジャスコ(現イオン)創立が1970年
・ヨドバシカメラの小売部門創設が1971年
・小売の王者「セブン-イレブン」の第1号店が1974年。
(それぞれWikipediaより)

と、1970年代に、今の小売の覇者が続々と形作られていきます。

そして、これらの会社が70~90年代に急成長していきます。それはすなわち

・1970年代以降、今に至るまでの「メーカーから小売へのパワーシフト

を起こしていくことになります。

1990年代、私は食品メーカーでマーケティングをしていました。

まさに、「小売のパワー」がどんどん強くなっていくのを目の当たりにしていました。

それまでは、食品メーカーや菓子メーカーなどは「個店の小売店」で商売ができていました。例えば、お菓子を買いに行くのは「お菓子屋さん」だったわけです。

このときにはメーカーの力が強く、メーカーの価格統制力(合法か違法かはさておき)もありました。

しかし、1980年代~1990年代にコンビニやスーパーの組織化・チェーン化が進みます。そしてその店舗がどんどん増えていきました。

結果として、食品メーカーなどは、「セブン-イレブン」などのコンビニや量販店の売上なしには、売上が立たなくなったわけです。

極端な話、セブン-イレブン向けの売上が自社の全売上の1割以上を占める、というようなことが食品メーカー→飲料メーカーで起きるようになるわけです。

となると、コンビニや量販店の交渉力がどんどん強まっていきます。

新店開店のときにメーカーに無償で人員を出させる、というような「優越的地位の濫用」が横行した背景には、この「交渉力」があるわけです。実際、公正取引委員会のHPにもこのような記述があります↓

公正取引委員会 相談事例集 優越的地位の濫用に関するもの
大規模小売業者による従業員等の人件費を納入業者に負担させる行為

小売の方がまさに「優越的地位」にあるわけです。それが可能になったのが、この時点で「お客様をつかんでいた」のがコンビニなどの大手小売チェーンだったからです。

そしてメーカーが小売に従わざるを得なかったのは、食品メーカーなどに「消費者に販売する手段」が他になかったからです。販売チャネルとして他に選択肢がなく、小売店に頼らざるを得なかったからです。

小売に「店舗」「売り場」「立地」という「独自資源」があったわけですね。

このようなことは、食品に限らず、家電製品などでも起きました。家電量販店チェーンが巨大になり、交渉力を強めていったわけです。

ついに、メーカーの「反撃」が始まるか?

メーカーが「直販」の手段を手に入れた

その一方で、「ネット通販」が進んできたのはご存じの通りです。消費者がネットでモノを買うようになりました。

それが一気に進んだのがご存じの通り、「コロナ」です。「ネット通販」の存在感が一気に高まりました。2020年から2021年にかけて、「猫も杓子もネット通販」となりました。D2Cという言葉が毎日のように新聞に載るようになり、一気に市民権を得ました。

コロナ下での消費者の意識変化もあり、メーカーが「直販チャネル」をついに獲得したわけです。

メーカーの小売店への「反撃」が始まる?

ここで、ナイキの事例に戻ります。

メーカーは、小売店に苦しめられてきました(もちろんそういうことをしなかった良心的な小売店もあると思います。この記事の目的は小売店を非難するものではありません。メーカーと小売店のパワーバランスについて論じるものです。メーカーが強かったときには、メーカーがその「優越的地位」を濫用していたこともあったようです)。

ナイキの場合はわかりませんが、しかし一般論として、メーカーが小売店経由で販売する場合

・売り場は小売が決め、メーカーは売り場作りが自由にできない
・売り場でエンドユーザーに商品の情報が伝わらない、伝える打ち手を許可するかも小売次第
・勝手に値引き販売されたあげくにその値引きを補填する「協賛金」を要請される

というようなことが少なくとも一部ではありました。繰り返しますが、もちろん良心的な小売も多くあります。

小売店に悪意があったわけではないと思いますが、メーカーに「販売チャネルの自由・選択権」がなかったわけです。

売り場が作れない、というのは4P(売り物・売り方・売り場・売り値)の1つが自分でコントロールできない、といことです。これは一貫性のあるマーケティング戦略を実行していく上で、大きな障害になります。

そひて、ついに、ついにメーカーが「直販」という販売チャネルを得ました。

となれば、「自分で自由に売ろう」となるのは必然です。

勝手に値下げ販売するような小売店からは商品を引き上げよう、となるのも当然です。自分で売るチャネルがあれば、自分で売ればいいわけですから。

そして何より、ナイキはお客様をつかんでいます。

繰り返しますが、お客様をつかんでいる会社が最も強いのです。ナイキは小売店に頼る必然性がありません。

・他の靴では無く「ナイキの靴」が欲しい

と思っていただければ、小売店で売る必要がないわけです。

ナイキの場合は、「偽造品」対策という問題もありました。ナイキが米アマゾンでの販売をやめたのもそれが一因とされています。自分で売れるのであれば、「偽造品が出回るようなチャネルでは売らない」とすればいいですよね。そうすればそのチャネルで売っているナイキ製品は全て「偽造品」となりますから。

それに、チャネルとしての「実店舗」が必要であれば、メーカーには「直営店」を開くという選択肢もあります。ナイキは実際そうしています。

ナイキが直販で売ろうとすれば、ネットや直販店含めお客様にそこに直接来ていただけるわけです。

いわば……メーカーにとって小売が「不要」となるわけです。

よく考えてみれば、これまで、小売は「メーカーのブランド力」を使って商売していたんです。お客様が「メーカー商品」を買うから、それを売っていた、ということです。

ナイキを買いに来るお客様の場合、「店に来る理由」を作っていたのは、店では無く、ナイキだったんです。

実際にはメーカーに「販売チャネル」の選択肢がなかっただけで、メーカーがその小売店で売る理由があったとは限らない、ということが今回わかったわけです。

小売の独自資源が「独自」でなくなった

小売は「店舗」「売り場」「立地」という独自資源(ハード資源)でメーカーに対して勝負していました。

そして、それがほぼ唯一の「お客様(消費者)」と接する手段でもありました。小売が一番お客様に「近かった」わけです。

しかし、ネット通販という「販売手段」が出現しました。メーカーがお客様と直接接する手段を得たわけです。小売の「店舗」「立地」という独自資源が「独自」でなくなったわけです。

メーカーが、ついに、ついに「反撃」の手段を得ました!

そして実際に、ナイキのような超大手メーカーが小売への販売を絞り始め、自分で直販をするようになりました。

アディダスもナイキに続くようです。

『競合する独アディダスもD2C販路に切り替え始めている。中期計画の中で自社の販売サイトを通じ、消費者への直接販売から売り上げを大幅に拡大させるとぶちあげた』

2021/04/23 日経MJ P.8
以下、各記事からの引用部分は『』で括ります。

アディダスもナイキ同様、D2Cに舵をきったんです。こうなると、スポーツ用品は一気にこの方向に流れていくかもしれません。

そしてそして、この動きが、スポーツ用品から他のカテゴリーに波及するかもしれません。

40年続いた「メーカーから小売へのパワーシフト」の転換点か?

まだ断言はできません。全てのメーカーや小売に当てはまるとも言えません。スポーツ用品にとどまるかもしれません。

しかし、ここまでの歴史を俯瞰してみると、このナイキの動き

・40年くらい続いた「小売のパワーが強くなった時代」の転換点

になり得るのかもしれません。それくらいの大きな意味を持ったニュースだと私は感じました。

これまでメーカーは小売に「攻められる」一方でした。

1つは上記のような小売の交渉力。

もう1つは、小売の「メーカー機能」の強化、です。

例えばコンビニ各社の「PB強化」。メーカーを「下請け」として使い、実際にメーカーが作れなかったような商品を作りました。

その典型例がセブン-イレブンの「金の食パン」の大ヒットです。2013年に発売された「金の食パン」は、『発売から2カ月間の販売累計は720万食』という大ヒット商品になりました(セブン&アイ ニュースリリースより)。メーカーよりも「高価」な商品を小売が企画して、売れる、という象徴的な出来事でした。小売がついに製品開発力でメーカーに並んだ、あるいは上回った記念碑的な出来事だと私は認識しています。

それからユニクロなどの「SPA」の隆盛。SPAとは、いわば「自分で作る」小売店です。

これらは

・小売が「自分で作る」

というものです。小売がメーカーに攻め込んだわけです。

このように「攻められる」側だったメーカーが、ついに小売に反撃を始めたわけです。

・メーカーが「自分で売る」

と、小売の領分に進出したわけです。

小売とメーカーの異業種間競合、「バトルロワイヤル」のゴングが鳴った、と言ったら言い過ぎでしょうか。

誰がお客様をつかんでいるのか」で勝負が決まる

この戦いで、何が勝負を決めるかというと……

・どちらがお客様をつかんでいるのか

です。繰り返しますが、

ビジネスで最も強いのは、「お客様」をつかんでいる会社

だからです。

靴を買いたいお客様が、

・ナイキを買いたい→ナイキのショップに行く
・あの店で買いたい→あの店に行く

の、どちらで「買いたい」か、でこの勝負が決まります。

マーケティングとはお客様の「買いたい」を作ること。

その「買いたい作り」競争が「メーカーvs小売」で起きつつある、というわけです。

結局、「お客様の買いたいを作れるかどうか」が今のビジネスの決め手となるわけです。そしてそれこそが「マーケティング戦略」と呼ばれるものです。

ここから先、どうなるのか?

ここから先、どうなるのでしょう?

ナイキの話は、アメリカの話です。日本は、アメリカから数年~10年遅れくらいでこのような流れが来ることが多いです。日本ですぐさまこのようなことが起きないかもしれません。

が、現在は「グローバル」です。ナイキの動きは、当然日本でもすぐに起きるでしょう。アディダスもナイキを追うとのことですので、日本でもすぐにそうなるかもしれません。グローバルメーカーがみなナイキのような動きをしたら、日本でもすぐに対応する必要性が出てくる可能性はあります。

ではここから先、どうなるのでしょうか?

答えは神のみぞ知る、ですが、考えてみたいと思います。

おそらく、

・お客様をつかめる・つかんでいるメーカー

は、直販を進めるでしょう。

上記のように、小売店で売るメリットは「その場所で売れる」以外には、(現時点では)あまりないからです。

しかし、そうではないメーカーは、それが難しいので、小売店に頼らざるを得ないでしょう。

直販やお客様との直接コミュニケーションを進められるメーカーは、ますますお客様を「ファン化」させられるようになっていきます。

意思決定者(お客様)に自分の考えていることを直接伝えられます。お客様と直接コミュニケーションできることで、そのニーズもわかるようになります。

だからナイキは

・とにかくお客様(消費者)に近づき、直接コミュニケーションする

という戦略をとったわけです。それがConsumer Direct Offense宣言です。

小売店側の動きはどうなるでしょうか? 正直に言えば、わかりません。

しかし、賢い小売なら、こう考えるはずです。

・もっとメーカーと協力して、一緒にお客様(消費者)を見よう

と。小売が提供するのは「リアルな売り場」です。「売り場」を使って、

・その場所で売れる以外のメリットを作る

ことができればいいわけです。

メーカーが「この小売店で売りたい」と考える理由を作るんです。例えば、

・売り場で様々な仮説検証をする(やっている小売もあります)
・POSデータを一緒に分析する(やっている小売もあります)
・POSに加えて、顧客の行動変化の分析をする(IoTや電子マネーなどで可能になるかもしれません)

など、小売とメーカーが協力してできることはいくらでもあります。

もともと小売とメーカーは「敵」ではありません。一緒に「お客様」を見るべき「仲間」であり「同士」のはずです。

しかし、人間の性なのか、「優越的地位」に立った方がその強さを「濫用」してきたというのが私の見たメーカーと小売の関係です。

小売も、「自分だけが消費者への売り場を持っているわけではない」ということが、今回のナイキの一件でわかったはずです。ネット通販との競合は小売にとっても大きな課題です。

実際、ナイキのデジタルがこれだけ伸びている、ということは、小売はその分の売上を失っている、ということです。

きちんと考えられる小売なら青ざめているはずです。

なぜなら、「お客様をつかんでいるメーカー」がみんな直販をしたら小売が売れるのは「お客様をつかんでいないメーカー」だけになってしまうからです。

スポーツ用品では、ナイキとアディダスが直販に走ったら(走ると宣言しています)、小売はどうなるでしょうか?

であれば、小売も「お客様をつかんでいるメーカー」に高圧的に出ずに、「対等に(あるいは下手に出て)協力しよう」と考えるのではないでしょうか?

「リアル店舗」には、リアル店舗ならではの良さがあるはずです。

お客様のために、メーカーと小売が本当の意味での協力関係ができる方向に進むといいな、と思います。

今回は、個別の事例というよりも「大きな流れの中での出来事」という位置付けの号です。また、出来事の「解釈」ですので、「私見」が主となりました。

将来の読みについては外れる可能性もありますが、ぜひ、あなたご自身での「解釈」も考えてみてください。

私がメーカーにいた期間が長い(かつお手伝いする機会が多い)ため小売の方から見ると「メーカー寄りの意見」に見えると思います。小売の方からは、小売の立場からのご意見もあると思いますので、ぜひお聞かせくださいね!

この記事のざっくりまとめ

ナイキのD2C戦略は、メーカーと小売店の「パワーバランス」に大きな意味を持っている(かもしれない)。お客様をつかんでいるのは誰なのか、つかむためにはどうすればいいのか、を真剣に考えよう!

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