- Home
- マーケティングの基礎
- 自分の欲しいモノではなく、お客様の欲しいモノを作るのがマーケティングの基本
自分の欲しいモノではなく、お客様の欲しいモノを作るのがマーケティングの基本
この記事の目次
●自分とお客様は違うから、自分の欲しいものではなく「お客様の欲しいもの」を作らないと売れない。
●例外として「自分のニーズ=お客様のニーズ」という前提が成立するときに、それを認識した上で、「自分というお客様ニーズの代表者が欲しいモノを作る」という発想はアリ。ただその場合も「お客様の欲しいモノを作ったから売れた」というところは同じ。
自分が作りたいものを作れば売れる?
マーケティングで見かける言説の1つに、「自分の作りたいものを作れば売れるんだ」というものがあります。
統計をとってはいませんが、感覚としてはいわゆる「成功した実績」を持った方が「経験談」として語られることが多いように感じます。
これは果たして正しいのでしょうか?
もちろん、個別論としては正しかったのでしょう。
「自分の作りたいものを作ったら売れた」
「自分が欲しいものを作ったら売れた」
ということは、おそらくあるでしょう。
しかし、その背後には「自分が欲しいものを作ったのに売れなかった」たくさんの人がいるはずです。
いわゆる「生存者バイアス」とか「成功者バイアス」というものですね。例えば、100才まで生きたヘビースモーカーの方が「オレはタバコを毎日100本吸ってきた。だから長生きできた」というようなことをおっしゃって、それを信じますか、ということです。その背後に、タバコを毎日100本吸って亡くなった方もいらっしゃるはずです。その方々は残念なことに亡くなられているので、この「生存者」の方に反論できないわけです(タバコはあくまで例です。タバコが良い・悪いという価値判断はしていません)。
これはどういうことなのでしょうか?
「自分が作りたいものを作れば売れる」は限定的な場面において正しい
結論から言えば、
「自分が作りたいものを作れば売れる」は限定的な場面においてのみ正しい
ということになります。「限定的に」と申し上げているのは、常にそうだとは限らない、ということです。
限定的な場面においては、「自分が作りたいものを作れば売れる」ことはあります。
それはどういうときかというと、偶然、あるいは意図的に
・自分が欲しいモノ=お客様が欲しいモノ
という条件が成立するときです。
例えば、私はかなり老眼になっています。小さい文字が非常に読みにくいです。その一方で、「文字が大きい文庫本」などはあまりなかったりします。
そこで、「私が欲しいような、文字が大きい文庫本」を出したとして、そのようなニーズが他のお客様(例えば老眼が進んだ方)にも多ければ、売れるわけです。
しかし、その「文字が大きい文庫本」を欲しいのが「私だけ」であれば、当然売れない、ということになりますよね。
つまり、「自分」と同じニーズを持つ人がたくさんいることが確認できる場合には、「自分が作りたいものを作れば売れる」ということになるわけです。
具体的には、職人さん(例えばカバンの職人さん)が「自分が欲しいようなモノ」を作り(例えばカバン)、それをネット販売し、「自分と同じようなニーズを持つ人」に売る、ということであれば成立します。いわゆる「ロングテール」が成立するような場合です。
このようなことを意図的にやるのであれば、それは良いかと想います。つまり、自分と同じようなニーズを持つ人に向けて、自分の作りたいものを作る、ということを意図的にやるわけですね。
ただ、これは、あくまで
・自分が欲しいモノ=お客様が欲しいモノ
という条件が成立するときだけしか通用しません。この条件が成立しているときはいいですが、いつしかお客様のニーズが変わってしまったときなどは、いくら「自分が欲しいモノ」を頑張って作っても売れなくなります。
そして、
・自分の欲しいモノとお客様が欲しいモノが違う
という場合には、これはもちろん成立しません。自分の欲しいモノを作っても売れません。
「自分」と「お客様」は違う
通常のビジネスにおいては、「自分の欲しいモノ」と「お客様が欲しいモノ」は違うわけです。
ですから、マーケティングの基本的な考え方は
・お客様が欲しいモノを作る
ということです。それを自分が欲しいかどうかにかかわらず、です。当たり前ですね。
マーケティングの基本的な考え方は、「お客様が欲しいモノ」を作る」こと
そしてそれがマーケティングの基本的なセオリーになります。
・お客様の立場に立って考える
・お客様の目線でモノを見る
などと言われるような、顧客志向や顧客視点が基本的な考え方になります。
「自分が作りたいものを作れば売れる」というとき、すなわち「自分のニーズ=お客様のニーズ」というときも、実は「お客様が欲しいモノを作る」から売れる、ということは同じです。
たまたま「自分が欲しいモノ=お客様が欲しいモノ」という条件が成立しているからこそ売れるわけです。「自分が欲しいから売れる」のではなく、あくまで「お客様が欲しいから売れる」わけです。
あなたが子ども用の商品を作るとき、「自分の欲しいモノ」を作ることに意味はあるか?
そもそも、「自分」と「お客様」が全く違うというような場合には、
・「自分が欲しいモノを作れば売れる」
ということは成立しません。
例えば、化粧品会社で、女性向けの商品を開発する男性マーケターというのは、実は多くいます。化粧品会社だからといって、開発者が全部女性というわけではありません(そういう会社もあるかもしれませんが、私の知る限り、男性の開発者・マーケターは結構いらっしゃいます)。
となると、男性マーケターが女性に向けて「自分の欲しい化粧品」を作ろうと想っても、難しいというか、想像がつかないわけです。もちろん自分で口紅をつけたり、ファンデーションを使ったりはできるでしょうが、では果たして、ユーザーの女性がそれをどう感じるかはわからないわけですね。
ですから、男性マーケターは悩むわけです。「どうすれば女性のニーズがわかるんだろう」と。
だからこそ、マーケティングの基本的な考え方である、「顧客視点」が大事になるわけですね。
同様に、シニアの方向けの商品・サービスを考える若手のマーケターの方は悩むと思います。「シニアの方ってどんなことにお悩みなんだろう?」と。階段を1段飛ばしで元気よく登れる若手マーケターの方が、膝や腰が痛くて悩んでいるシニアの方の立場に立つのは非常に難しいです(極端な話、自分の膝をわざと傷めれば体感できるかもしれませんが、そんなことをすべきではありませんよね)。
さらにさらに、「子ども向け」の商品・サービスを作る「大人」のマーケター(マーケターの方はほとんどが大人でしょうが)の方も悩むでしょう。私にも小学生の娘がいますが、長時間一緒にいるにも関わらず、我が子の思考方法を理解するのは非常に難しいです。
「子ども向け」の商品開発をするには、もう「子どもに試してもらう」以外の現実的な方法は無いと思います。子どもに聞く、というのもあるかもしれませんが、大人でも自分のニーズを説明するのは難しい(できる人は非常に少ない)ので、子どもだとさらに難しそうです。
このような、「明らかに自分ではない顧客のために商品開発をする、販売・営業をする」という経験は、マーケターの成長過程として非常に大切だと私は考えています。
というのは、「自分とお客様は違う」ということを心の底から割り切れるからです。
「自分とお客様は違う存在だ」ということをきちんと実感できれば、「自分の考え」というのをアタマから追い出し、
・お客様はどう考えるんだろう?
ということに集中し始めるんです。そしてそれが、一流マーケターへの最初の一歩、と言っても過言ではありません。
結局、お客様と話す、聞く、観察する、くらいしかお客様のニーズを把握する方法はないわけで、それに集中できるんです。なぜなら、「自分が欲しいモノ」を考えてもしょうがない、ということを心の底から理解しているからです。
この「心の底から」というのが重要です。セグメンテーションの理論を知って「わかった気になっている」だけではダメです。というのも、
「自分の欲しいモノ」と「お客様の欲しいモノ」が中途半端に重なると、どうしても「自分の欲しいモノ」に引っ張られる
からです。自分でもそういう経験が多くあるのでわかります。
例えば、アナタが「パスタソース」の商品開発をしているような場合、どうしても「自分の好み」に引っ張られやすくなります。
味の好みは人によって千差万別であるにも関わらず、「自分はこれはおいしいと思わない」というようなことを考えてしまうわけですね。
・自分のニーズ=お客様のニーズ
という確証が取れていればいいですが、そうではない場合、「自分がおいしいと思うかどうか」などは、お客様には関係ないわけです。
例えば、私は酸味がダメです。ダメなものほど敏感にわかってしまう、というのが皮肉です。少しでも酸味がある料理は、抵抗があります。さて、ここで私が「タイ料理」の商品開発をするとします。タイ料理は酸味が効いているものが多いので、私は苦手です。一方で、タイ料理は特に女性に好まれているようです。ここで「私がおいしいと思う酸味の全くないタイ料理」を開発しても、まず売れないでしょう。酸味を徹底的に抜いてしまったタイ料理は、もはやタイ料理とは呼べないかもしれません。
このように、
・「自分の欲しいモノを作れば売れる」
という考え方は、障害になりかねません。自分の味覚が障害になるわけです。このような時には、自分の感覚すら疑ってかからないといけないので、自分の感覚が非常に怖くなります。
ちなみにこのようなときはどうすれば良いかというと、「自分の感覚を相対的に」使います。自分の舌を酸味計測器として使うんです。そして「この酸味レベルは4だ。これならタイ料理好きの女性が好きそうだな。ちなみに私は全く食べたくないけど」という形で「相対化」するわけです。自分の好みとお客様の好みを切り離した上で、「感覚器」としてだけ使えばいいわです。
ただ、「自分が欲しいモノを作る」のが全くダメとは言いません。
というのも、入門者・初心者が入るところはどうしてもそこになるからです。マーケティングを知らない方に「自分の感覚を相対的に捉える」と言ったところで、わかるはずがありません。
ですから、例えば、
出発点として、「自分だったら何が欲しいか?」と考えるのはアリかもしれません。
しかし、その「自分だったら欲しいもの」が本当に「お客様が欲しいものなのか」というのを検証する必要があります。なぜなら、お客様は、お客様が欲しいものを買うからです。「自分が欲しいモノ」と「お客様が欲しいモノ」のズレを確認していく作業が必要です。
やはりマーケティングの基本は、
・お客様が欲しいモノを作る
ということです。