マーケティング戦略をたった5つの要素で考えられる強力フレームワーク:戦略BASiCS

BASiCS:使える戦略フレームワーク

このページは「マーケティング戦略」への導入ガイドであり、本サイトの中核をなすマーケティング戦略フレームワーク「戦略BASiCS」を解説する内容です。4万字を越える内容になっていますので、お手すきのときにどうぞ。

特にマーケティングにあまり詳しくない方は、こちら↓の記事をお読みいただけていることが前提となります。

まずは上の記事をざっとでも眺めてみていただければと思います。

復習:マーケティングとは

まずはマーケティングとは、というおさらいから

マーケティングを粗っぽく定義しますと、

「お客様に自社の商品・サービスを選んでいただくための全てのこと」
=「自社の商品・サービスを売れるようにする全てのこと」

であり、それはすなわち

「お客様の「買いたい」を作る全てのこと」

となるでしょう。

営業はもちろんのこと、市場調査、商品開発、仕入れなども含まれることになりますから、非常に広い概念であることがわかります。「マーケティング」は「マーケティング部門」だけの仕事ではない、ということでもあります。

ここでの主体は「お客様」です。「自社の商品・サービスを選ぶ」というのは、要は「買っていただく」ことです(リピート購買ももちろん含みます)。という意思決定をするのは「お客様」です。

お客様の立場に立って考える

お客様の「買いたい」を作るために決定的に重要なことが

・お客様の立場に立って考える
・お客様の視点でモノを見る

という考え方です。

これがマーケティングの本質であり、かつ一番難しいことと言ってもよいでしょう。

「お客様」と言っても、一口に誰でしょう?

BtoC(個人顧客対象のビジネス)の場合、お客様は数多くいらっしゃいます。その中の誰のことでしょう?

BtoB(法人顧客対象のビジネス)の場合、例えばメーカーの場合は、卸会社、販売店、エンドユーザー、など色々と関係者がいます。その中で「お客様」とは誰なのでしょう? 本当に「自社を選ぶ」という決定権を持っている方は誰なのでしょう?

さらに、「お客様」でなかったとしても、「他人の立場に立つ」こと自体、極めて難しいものです。私事で恐縮ですが、私(佐藤義典)は、結婚して20年以上立ちますが、「妻の立場に立つ」ということが未だに難しく感じます。それがカンタンであれば夫婦げんかなどは起きません。そして小学生の娘がいますが、娘とは見ている景色が全く違い、数年間ずっと一緒にいるにもかかわらず、「小学生の娘の立場に立つ」ことは、もはや不可能なことのようにすら思います。

まして、お客様は「赤の他人」です。家族の立場に立って考えることすら難しいのに、会ったことすらない「赤の他人」の立場に立つことがいかに難しいか、おわかりいただけるでしょう。

そして、その「お客様の立場に立つ」ことの難しさを知るのが、マーケティングの最初のステップです。

お客様のことがわからないのであれば、尋ねてみる、観察するなどして、

・お客様のことをひたすらによく知ろうとする

ことがマーケティングで一番大事なことになります。どんな人で、どんなことをお考えなのか、どんなときに自社(あるいは競合の)商品・サービスを欲しいと思い立つのか、そのあと何をするのか、そしてどのような基準で商品・サービスを選ぶのか……

これらはすごく当たり前のことです。そして、その「当たり前のこと」が極めて難しいのです。

ビジネスは「対戦競技」ではなく「採点競技」

ビジネスをスポーツに例えるとすると、「殴り合いのボクシング」はあまり適切ではありません。ビジネスは自社と競合が殴りあう「対戦競技」の場だ、というのは一面の真理ではありますが、実際には自社と競合だけでビジネスが決まるわけではありません。

ビジネスの適切な例えは「フィギュアスケート」や「体操」のような「採点競技」です

自社も競合もあくまで「競技者の一人」であり、全力でプレーするだけです。最終的に「勝敗」を決めるのは……

・審査員

です。審査員は「採点基準」をあらかじめ持っており、それにそって「勝敗を決める」わけです。

ビジネスも同じかと思います。自社と競合が全力でプレーし、最終的に「買う」と決めるのは……

・お客様

です。お客様も、意識的か無意識的かはともかく、何らかの採点基準を持っています。例えば価格、品質、自分の好みに合う、などです。その「採点基準」に合ったものが「選ばれる」(=売れる)わけです。

その「採点基準」がお客様の購買意思決定方法であり、それは「顧客ニーズ」を表すということですね。

フィギュアスケートや体操で「勝つ」ためには、審査員の「採点基準」を知る必要があります。

ビジネスで「勝つ」(=お客様に選ばれる)ためには、お客様の「採点基準」=「顧客ニーズ」を知る必要があります。

自社の活動をお客様の採点基準に合わせていき、お客様に選ばれるようにする全ての活動が「マーケティング」ということになります。

なぜマーケティングか:マーケティングの重要性

では、なぜその「マーケティング」が大事なのでしょうか?

それは、現在の企業活動の中核課題がマーケティングだからです。

一橋大学の調査によれば、

経営環境が厳しい場合、「事業成果」の4割以上*をマーケティング戦略の質が説明する

「日本企業のマーケティング力」 P.99 
日本企業の国内157事業、海外91事業(計248事業)の統計分析結果
*事業成果:売上高成長率、収益性、高品質、新技術・市場創造、新規顧客、既存顧客、リピート購買、値崩れ防止の8因子
**決定係数R2=0.42

という結果が出ています。

ポイントは、「経営環境が厳しい場合」ということです。

「経営環境が厳しい場合」とは、つまりは「売れないとき」ということです。

そして、前述のように、マーケティングとは

「お客様に自社の商品・サービスを選んでいただくための全てのこと」
「自社の商品・サービスを売れるようにする全てのこと」

です。ですから、「売れないとき」には「売れるようにする」マーケティングが極めて重要、ということですね。当たり前と言えば当たり前のことです。

逆に言えば、「作れば売れる」ようなときには、マーケティングは不要、とも言えます。

そして現在は「作れば売れる」ようなことは希なため、マーケティングが現在の企業の中核課題になっている、ということです。

「『事業成果』の4割以上をマーケティング戦略の質が説明する」のですから、企業のエネルギーの4割以上をマーケティング戦略に割くべき、というのが自然な発想だと思います。

BtoB と BtoC 

「マーケティング」のお話をするときに、考えておくべきことがもう1つあります。それは、

・BtoB(Business to Business):法人顧客対象のビジネス
・BtoC(Business to Consumer):個人顧客対象のビジネス

です。

なぜこの話をさせていただくかというと、「うちはBtoBだから特殊だ、他社の事例なんかあてはまらない」「うちはBtoCだから違う」というような話が出てくることが多いからです。

ちなみに、「うちの業種は特殊だ」と思っていらっしゃる方は、ぜひこちらの記事もご一読くださいね↓

売れるマーケティングは他業種から学ぼう!

BtoBは、企業相手のビジネスです。企業がオフィスビルを選ぶときのような意思決定は、

・アイミツを取り、企画・価格で時間をかけて比較する
・主な販売チャネル・販促媒体は営業パーソンや展示会
・支払いは請求書

となります。

BtoCは、個人相手のビジネスです。私たちがアイスクリームを買うようなときな意思決定は、

・店頭で短時間で決める
・主な販売チャネル・販促媒体は店頭やTVCM
・支払いは現金払い

となります。

このように、BtoBとBtoCで「見え方」は変わります。

が、本質的には変わりません。例えば、戦略の中核である「強み」(=お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由)を考えていくと、

・(他よりも)手軽・便利・低価格
・(他よりも)品質・技術などに優れる
・(他よりも)自分・自社向けになっている

というようなことになります。これは、部品の供給会社を選ぶ場合も、今日のお昼ご飯を選ぶ場合も、ほぼ共通します。

さらに言えば、BtoBだから、BtoCだから、ということで違う、ということではありません

「意思決定方法」=お客様の決め方の違いがポイントなんです。

例えば、住むところを決める(家を買う、賃貸マンションを決める)という場合は、いわゆる「BtoC」です。

が……アイスクリームを買うように、

・店頭で短時間で決める
・主な販売チャネル・販促媒体は店頭やTVCM
・支払いは現金払い

とはなりません。

・アイミツを取り、時間をかけて比較する
・主な販売チャネル・販促媒体は営業パーソンや展示会
・支払いは請求書

と、「BtoB」的な意思決定方法となります。

BtoBだから、BtoCだから違うわけではなく、

「お客様の意思決定方法」(=選び方や採点基準)

が違うから、マーケティングなどの見え方が違ってくる、ということです。

繰り返します。ポイントはBtoBかBtoCかではなく、

・お客様はどのように選ぶのか・決めるのか

です。

BtoBの3つの特徴

そこまで申し上げた上で、BtoBに比較的多い意思決定の特徴は3つあります。

1)求める「利益」の違い

BtoBでは意思決定主体は「企業」ですので、最終的・長期的には「企業利益」を最大化することが企業が求めること、となります。

売り手から見れば、「顧客企業が儲かるようになる提案」をすることがポイントとなります。

2)「流れ」で考えると考えやすくなる

BtoBでは、

・メーカー → 一次流通 → 二次流通 → エンドユーザー

というような「流れ」で意思決定されます。

エンドユーザーが商品・サービスを決める場合もあれば、中間流通が決める場合もあります。

この「流れ」の中で、「誰がどのように」決めるか、を考えることが重要です。

3)顧客の「組織」を動かすと効果的

BtoBの顧客は「企業」ですから、「組織」で動きます。

「組織」の中で、どのように意思決定されるか、を考えることも大切です。中小企業ですと、ワンマン社長が全て決めるかもしれません。大規模企業ですと、社内で稟議書が回るかもしれません。購入金額によって決裁権者も変わります。

誰が「キーマン」(実質的な意思決定者)になるのかを把握し、そのキーマンに到達する、そのキーマンのニーズに刺さるようにしていくことがポイントです。

この3つが「BtoBの特徴」であり、逆に言えば、この3つに注意すれば、BtoCもBtoBもそれほど大きな違いはない、ということになります。

BtoBでもBtoCでも結局は「人間の意思決定」ですから、その決め方にはそれほど変わりはありません。

「マーケティング」という意味でもそうですし、「戦略」となりますと、BtoB・BtoC、業種・業態、などすべてを超えて普遍的に共通するものとなります。

全てのベースになる「顧客価値」=ベネフィット

ベネフィット=顧客価値=お客様のうれしさ

マーケティングの中核となる考え方が、

・ベネフィット=顧客価値=お客様のうれしさ

です。

私たちが何かを買う、というとき、商品・サービスそのものというよりも、その「商品・サービスがもたらしてくれるうれしさ」にお金を払っているのです。

その「うれしさ」のことを「ベネフィット」と呼びます。日本語にすると「顧客価値」でしょうか。

例えば、私たちが「ハーゲンダッツのアイスクリーム」を買うとき、実際に手に入れるものは「白くて冷たい乳製品」という物体です。

が……本当に「価値」を感じてお金を払っているのは、

・甘くておいしく、ひとときの幸福感をもたらしてくれるもの

に対して、ですよね? それが「ハーゲンダッツのアイスクリームがもたらす顧客価値」です。

BtoBでは、例えば企業が「IT投資」をする場合、「コンピューターとソフト」という物体に対してではなく

・今まで3日かかっていたことが3時間でできるようになる

という、「効率化(およびそれがもたらす利益)」にお金を払っているわけですよね? それが「IT投資がもたらす顧客価値」です。

売り手は、自社の商品・サービス「それ自体」を売っている気になりがちですが、お客様は、商品・サービスがもたす「うれしさ」(=ベネフィット)にお金を払っているんです。

「手段と目的」とも言い換えられます。

お客様にとっては、商品・サービスは何かの「目的」を達成する「手段」なんです。

ここは、売り手と買い手の「乖離」が起きやすいところです。

売り手はどうしても自分たちが提供する「商品・サービス」にとらわれてしまいます。が、お客様はそれがもたらす「価値」を考えるのです。

マーケティングは「お客様の立場に立つ」ことですが、その重要なポイントの1つが、この売り手と買い手の「乖離」を減らすことです。

そして、この「ベネフィット」がこの後で説明する「戦略」の中核的な概念となります。

ベネフィットを考える方法その1:「課題解決」としてのベネフィット

ベネフィットを考える、というのは単純ですが非常に難しいことです(「単純」と「カンタン」は全く異なる概念です)。

その「非常に難しいこと」を考えるときのポイントは2つあります。

1つは「お客様はどんな課題を解決しようとしているのか」と考えることです。

ベネフィットは、「課題解決」という形を取ることが多いです。平たく言えば「ビフォー・アフター」ですね。「ビフォー」が課題で、「アフター」が解決、です。

例えば、「朝食にバナナを食べる」という場合がそれにあたります。

・課題(ビフォー):それなりに健康的な朝ご飯が食べたいけど、朝は忙しくて朝食を用意する時間がとれない

・解決策(アフター):バナナなら、調理不要ですぐに食べられるし、着替えながらでも食べられる。包丁も食器も不要なので片付ける時間も不要。適度に栄養があり、昼食まではなんとかもたせられる

バナナが見事に「課題解決」になっていることがわかります。これが「顧客価値」でありベネフィットです。バナナですら(というとバナナに失礼ですが)課題解決となるのです。

この場合、例えばバナナを売る店頭で「明日の朝食に、食器いらずのバナナを」という「課題解決」を訴求すれば良いということになります。

そして、「課題」が変われば、「解決策」も全く変わります。「子どもとのおやつにチョコバナナ」ということであれば、

・課題(ビフォー):子どもにおやつを食べさせたいが、できればカラダに良いものがいい。できれば一緒に作ったりして楽しめればなお良い

・解決策(アフター):チョコバナナなら、いわゆる菓子よりも健康的のような感じがする。それに、チョコを溶かしてかけるだけだからカンタンで子どもにもできるし、ちょっとしたイベント的な楽しさもある

ということになります。

この場合、バナナを売る店頭では、チョコバナナを作るチョコレートソースと一緒に陳列し、「明日のおやつにお子さんとチョコバナナを」という訴求をすることになりますね。

お客様の「課題」を知ることで、「価値提案」がやりやすくなるのです。

ベネフィットを考える方法その2:価値は使い方に現れる=TPOを考えよう

ベネフィットを考えるもう1つの方法は、お客様の「使い方」を考えることです。「利用場面」と言われるものです。

売り手にとっては、商品・サービスが「売れたらそれで終わり」かもしれませんが、お客様にとってはそれは「始まり」です。

お客様は「使うために買う」のです。ですから、価値は使い方に現れます。

重要ですので繰り返します。

お客様は「使うために買う」のです。ですから、価値は使い方に現れます。

先ほどの「バナナ」の例であれば、その価値は「使い方」に現れます。

先ほど2つの利用場面をあげました

1)忙しい朝の朝食
2)子どもとのおやつ

同じバナナでも「使い方」が違うために、求めるベネフィットが違うわけです。

その「使い方」を考えるときに使いやすい考え方が「TPO」です。

Time:時間
Place:場所
Occasion:状況・加工方法

のTPOです。

例えばあなたが「カバン」のマーケティングをしたいとして、お客様の「カバン」の選び方を考えてみましょう。

あなたがお使いのカバンを思い浮かべてください。なぜそのカバンを選んだのでしょうか? あなたのカバンの「選び方」を考えてみてください。

まず、いつ(T)、どこに(P)持っていくかを考えますよね。

・T:平日
・P:会社に

ということであれば、それで既にかなりの部分が決まります。会社に持っていくカバンであれば、「派手なピンク」よりは「落ち着いた黒・茶」になるでしょう。

そして、もちろん「カバンに入れる」ものです。それが「O」になります。カバンに何を入れるか、によってカバンの選択が異なります。

・O:パソコンを入れる→クッションが入っているもの
・O:A4の書類を入れる→A4の書類が入れられるサイズ

となります。

そして、TPOが変わればまた選ぶカバンが変わります。

・T:休暇に旅行するときに
・P;旅先に持っていく

となると、大型の旅行カバンになります。何泊かによってもサイズが変わりますね。

さらに、カバンの「デザイン」も重要になります。カバンは、服に合わせます。服をカバンに合わせるのではなく、服を先に選び、あとでカバンを選びますよね?

そうなると、カバンの「デザイン」を決める際には、お客様がどんな服を着ているか、という「お客様が持っている服」を考える必要も出てくるのです。

TPOの「O:状況」とは、「周囲にあるもの」です。カバンの意思決定には、「服装」が関わるのです。

おそらくこの意思決定の多くの部分が「無意識」に行われます。会社に持っていくカバン、という時点で、色・サイズなどがかなり絞られるわけですね。

お客様は「無意識に」決めますが、売り手はその「無意識」に合わせて選ばれるように「意識的に」商品を設計し、訴求ポイントを決めていくことでお客様に選ばれるようにするわけです。

BtoBのベネフィット

BtoCのベネフィットは、先ほどのバナナやカバンの例のように、「お客様のうれしさ」がわかりやすいところです。

BtoBの場合は、以下の2つに分けられます。

1)企業体としてのベネフィット

企業が求めるのは、基本的には会計的な意味での「利益」です。近年ではSDGsのようなことも言われますが、やはり「利益」が最優先になるでしょう。

・利益=売上-費用

となりますから、企業が求めることは、

・売上を上げる
・費用を下げる

ということになります。

自社の商品・サービスが

・顧客企業の売上を上げるお手伝いをする
・顧客企業の費用を下げるお手伝いをする

ということ、平たくいえば「自社を使えば顧客企業が儲かる」ということを顧客企業に訴求しきれれば、自社商品・サービスを選んでいただける確率は高まるでしょう。

BtoBでは「展示会」などが顧客獲得の媒体になります。例えば展示会に出展するときでも、「自社の製品紹介」をしても顧客企業に興味を持ってもたえません。

そうではなく、自社の商品・サービスが「顧客企業の売上アップ・費用削減のお手伝いができる」ことを訴求すれば、興味をもっていただけるわけです。

2)個人としてのベネフィット

企業の中で働いている人は、あくまで「人間」です。人間ですから、感情もあります。

外資系企業などでよく言われるのは、

・Make your client hero

つまり個人としてのお客様を顧客企業内で「ヒーロー」にする、ということです。お客様が社内で手柄をたてるお手伝いをする、ということです。もちろん、実績を上げるお手伝いをするなどの正当な手段で、です。

もしお客様に「あなたのお陰でヒーローになった」とお感じいただければ、そのあとの仕事はグッとやりやすくなるでしょう。

マーケティング戦略の基礎

「戦略」とは

「戦略」と「戦術」

次に、「戦略」に入っていきましょう。「マーケティング」と「マーケティング戦略」を分けるのは「戦略」という言葉です。

「戦略」という言葉について、ここで粗っぽく定義しておきます。

戦略とは、ある状況下で目的に対して行動を最適化する考え方

となります。「売上を上げる」ということは、戦略ではありません。それは「目的」です。「売上を上げる」ためにどのように行動を最適化するか、というのが「戦略」です。

そして、「考え方」ですから、目に見えません。例えば、「顧客ターゲットの設定」などは典型的な「戦略」ですが、それは目に見えないものです。

戦略の対照的な存在が「戦術」です。「戦術」は「戦略の具体的な打ち手」です。「打ち手」は目に見えます。例えば、商品そのものでしたり、商品のCMやパッケージなどがそれにあたります。

ハーゲンダッツのアイスクリームの場合、「20代の所得に少し余裕のある有職女性に、1日のストレスを癒やす夜のリラックスタイムに楽しんでいただく」というのが戦略でしょう。これは目に見えません。それに対して「戦術」は、具体的な「味」や「CM」「パッケージ」という目に見えるもの、となります。

そして、「戦略」は国・地域・業種業態などに依存しない「普遍性」があります。国や業種業態を超えて通用するものです。だからこそ「戦略のプロフェッショナル」のような存在があり得るわけです。

それに対して「戦術」は、国・地域・業種業態で変わります。単純な話、国が変われば法規制が変わりますから、国によってできること・できないことがあります。例えば、食品では国によって使えないものもあります。日本で菓子などに使われるキシリトールが認可されたのは比較的最近のことです(1997年)。こちらは、その国・地域・業種業態で働いている方がプロフェッショナルです。

「戦略」というのは、「成功パターンの集積」ですから、戦術のプロフェッショナル(=その国・地域・業種業態で働いている方)が戦略的な発想をもって戦術を一定方向に向けていくと、大きな成果が出ることが多いものです。

マーケティングvs戦略:マーケティング戦略という言葉の矛盾

「戦略」の本質を平たく言えば、「強みを活かして勝つ」ということです。

実はここに「マーケティング戦略」という言葉の矛盾があります。「マーケティング」は「お客様」志向の発想です。しかし、「戦略」とは「自分の強み」志向の発想なのです。

「お客様」と「自分」という、全く違う、ある意味で対立する2つの視点を内包しているのが「マーケティング戦略」という言葉なのです。

この矛盾を解消・昇華するのが、「お客様に選んでいただく」という冒頭の考え方です。

ビジネスの場合「勝つ」とは「お客様に選んでいただくための競争に勝つ」ということになります。競合に勝つことが目的ではなく、「お客様に選んでいただくこと」が目的です。

「マーケティング戦略」とは、「強みを活かし、お客様に選んでいただけるようにすること」と考えることで、この矛盾を解消できるようになります。

「一貫性」と「具体性」

「戦略」を考えるにあたって重要なことが2つあります。「一貫性」と「具体性」です。

1)一貫性

まず「一貫性」ですが、戦略の各要素(各要素についてはこの後にご紹介します)間に矛盾があってはいけません。

例えば、

・顧客ターゲット:1人くらしの高齢者
・強み:食べ応えがある、ボリュームたっぷりの総菜

のようなものだと(一般論として)一貫性がありません。

近年スーパーでも総菜が高齢者向けに「個食対応」をするようになってきましたね。「1人くらしの高齢者」であれば、「食べきれる量」を考える必要があります。

「当たり前だ」と言われるかもしれませんが、その「当たり前」をきちんと確認して実行する、ということは結構難しいものです。

売れる商品・サービスというものは、その「当たり前」がきちんとできており、「売れるべくして売れている」ものです。

2)具体性

次に「具体性」です。

例えば、「顧客ターゲット」の描写で「女性」や「中小企業」というのはNGです。あまりに粗っぽく、具体性がありません。「女性」と言っても、人口の半分は女性です。それではニーズが具体化できません。

また、「強み」として「高品質」をあげることも具体性がなく、NGです。「高品質」と言っても、「仕上げが良くて見た目がキレイ」も高品質でしょうし、「耐久性が高い」ことも高品質に入ります。「耐久性が高い」でもまだ粗すぎます。「1万時間連続稼働ができる」も「耐久性が高い」でしょうし、「1tの荷重に耐える」も「耐久性が高い」に入ってしまい、両者は全く違うものです。「安心・安全な食品」同様に粗すぎます。「防腐剤無添加」だから余計なものが入ってなくて安心・安全、と感じる方もいるでしょうし、「防腐剤たっぷり」だから腐らなくて安心・安全、と感じる方もいるでしょう。それぞれに「安心・安全」の内容が全く違うわけですね。

戦略を考えていくときに、この「具体性」は詰まるポイントの1つになることが多いものです。

「一貫性」と「具体性」の両方をしっかりチェックしていく必要があります。

戦略BASiCS:戦略を考える5つの要素

戦略BASiCS:戦略を考える5つの要素

ここからようやく、具体的な「マーケティング戦略」の内容に入って参ります。

今回使っていくマーケティング戦略のフレームワーク(考え方)は、私が戦略BASiCSと呼んでいるものです。

Battlefield:戦場・競合
Asset:独自資源
Strength:強み

Customer:顧客
Selling message:メッセージ

この5つの要素の頭文字をとり、間に語呂合わせでiを入れると、BASiCSとなります。

5つの要素自体は、戦略を考えるときによく使われるものです。が、戦略を考えるときに必要十分な要素にまで絞り込み、BASiCSという名前にして覚えやすくしたのは私です。

BASiCSと他のフレームワークとの違い

戦略フレームワークとして、他に3C、SWOTなどがありますが、それらの各要素を分解して再構成したものです。

ご興味がある方のために、他の戦略フレームワーク、分析手法との関連を下に載せておきます。BASiCSは、よく使われるフレームワークの上位互換であると同時に、戦略の多くの要素を統合したフレームワークであることがおわかりいただけるかと思います。

Customer:顧客 自社の強みを選ぶ人はどんな人か?

セグメンテーションとターゲット

説明の順番は、BASiCSの順番ではなく、まずは「C:顧客」からです。

「マーケティング」という考え方の中核にあるのが「顧客」であり、そして「顧客」に対して提供する価値すなわち「ベネフィット」です。

ここで知っておきたいのは、「セグメンテーション」と「ターゲット」という言葉です。どちらもビジネス用語としてかなり一般化した言葉かと思います。

顧客や市場を何らかの「切り口」で分けることを「セグメンテーション」(顧客セグメンテーション)と呼びます。分けられた1つ1つのカタマリを「セグメント」(顧客セグメント)と呼びます。

そして、全ての顧客に売るのは(通常は)ムリですから、どこかのセグメントを狙います。それが「顧客ターゲット」となります。通常は、自社の「強み」が活きるセグメントを顧客ターゲットとする、ということになります。

なぜセグメンテーションをするかというと、

「顧客によって求めるもの(ニーズ)が違うから分ける」

ということです。

例えばノートパソコンを作る・売る場合、

・「大型機」が欲しい顧客(ニーズは見やすさ、打ちやすさ、など)
・「小型機」が欲しい顧客(ニーズは持ち運びのしやすさ、など)

では、ニーズが異なります。

となると、「大型機」が欲しい顧客と「小型機」が欲しい顧客には、それぞれ分けて対応する必要がある、ということです。

だから市場には「大型機」もあれば「小型機」もあります。それぞれに「顧客ターゲット」が違うわけです。

BtoCの場合は、セグメンテーションの「切り口」としては、例えば以下のものがあります。

・性別:男女
・年齢・年代:10代、20代、30代……
・家族:未婚・既婚、子どもの有無、世帯人数、など
・居住地:大都市、地方都市、郊外……
・世帯年収

などです。

BtoBの場合のセグメンテーションの「切り口」としては、例えば以下のものがあります。

・企業規模:売上、利益、従業員人数、拠点数、など
・業種・業態
・地域・立地
・意思決定をする部署:経営者、営業、総務、人事、経理、IT……
・決裁者の役職:経営者、部門長、課長……

BtoBのセグメンテーションについては、後ほど詳述いたします。

適切なセグメンテーションの切り口を選ぶことが重要

セグメンテーションは「分ければいい」というものではありません。あくまでも「自社商品・サービスの選び方」に関連するもので選びます。

例えば、「食品」について考えてみましょう。外食ではなく、家庭内で消費する「食品」です。食品の消費金額が多い世帯は、どのような世帯だと思われますか? 

これは、単純に「世帯人数」です。世帯人数が多いと、食品の消費金額が多いことが総務省の家計調査からわかっています。年収よりも、世帯人数の方が影響が大きいのです。

となると、「家庭内で使う食品ビジネス」の場合は、「世帯人数」をセグメンテーションの切り口とすることが効果的になりそうだ、ということがわかります。

では、「教育費」はどうでしょうか? 

まずは、子どもの有無、ですね。そして「年収」が大きな影響を与えます。年収が高いほど、教育費も高くなります(総務省家計調査によればそういう傾向が明確に出ています)。

となると、「教育ビジネス」では、子どもの有無、世帯年収をセグメンテーションの切り口で使うと効果的にセグメンテーションできそうだ、ということがわかります。

的確なセグメンテーションの切り口は、業種業態、顧客の状況、自社商品・サービスの強みなどによって変わります。

基本的には自社商品・サービスに関わる「ニーズ」で分ける

セグメンテーションをする理由は、

「顧客によって求めるもの(ニーズ)が違うから分ける」

ということです。

であれば、「ニーズで分ける」ということが理想的なセグメンテーションの切り口となることが多くなります。

「ニーズで分ける」ときに重要になるのが先ほど見た、「TPO」です。価値は使い方に現れます。

例えば、「パソコンの選び方」は、パソコンを使うTPOで説明できます。

まず、「どこで使うか」、という「P:場所」です。

P:パソコンを使う場所=持ち運ぶかどうか

・机の上・持ち運ばない → デスクトップまたは大型ノート
・会議室などにたまに持ち運ぶ → 大型ノートまたはモバイルノート
・新幹線で使うなどよく持ち運ぶ → モバイルノート

となります。

次に、「どう使うか」、という「O:状況」ですね。

・ゲームやグラフィック・動画作成 →高性能機 + グラフィックボード
・パワーポイント・資料作成 → 通常の性能
・メールくらい → もはやパソコンではなくスマホ・タブレットに

という感じでしょうか。カバンの場合は「入れるもの」にニーズが現れます。パソコンの場合は「使うソフト」にニーズが現れます。

TPO(=利用場面)が変わればニーズが変わります。

逆に言えば、「ニーズを把握する」ためには、TPO(=利用場面)」を考えれば良い、ということにもなるのです。

BtoBのセグメンテーションとターゲット

BtoCでは、「20代女性」のような性別・年代や、職業・家族構成などでセグメンテーションをすることが多いように思います。

BtoBでは、お客様が「会社」ですので、例えば例えば以下のものがあります。

・企業規模:売上、利益、従業員人数、拠点数、など
・業種・業態
・地域・立地
・意思決定をする部署:経営者、営業、総務、人事、経理、IT……
・決裁者の役職:経営者、部門長、課長……

などです。次の表をご覧ください。

経験上、BtoBのセグメンテーションで非常に重要なのが、「部署」です。

会社として何かを「買う」と決める場合、通常はそれを決める「部署」があります。例えば、「机・イス」や「文房具」なら「総務部」でしょうし、パソコンなら「情報システム部」ですね。工場が部品を発注する、という場合も、新たに図面を起こすようなカスタム部品なら「開発部門」でしょうし、汎用品であれば「購買部門」かもしれません。そして、非常に金額が大きいもの(例えば大規模ITシステムなど)であれば、担当部門(情報システム部)が起案し、「経営者」が決裁する、ということになるでしょう。

そして、部署によって求めるものが違います。典型的なものは以下の通りです。

・経営者・経営部門 : 利益を上げること
・営業部門: 売上が上がること
・生産部門: 安全性と生産性
・開発部門: 何か新しいことができること
・調達部門: コスト削減、納期遵守

などです。

なぜこのような違いが生まれるか、は単純です。それぞれの部署が、その指標で評価されるからです。経営者は株主に「利益」で評価されます。営業部門は「売上」で評価されます。生産部門は「売上」ではなく、安全性・生産性で評価されます。

自社の商品・サービスの「購入」を決める部署を考えた上で、その部署が重視することは何なのか、何で評価されるか、を考えると、お客様のニーズが考えやすくなることが多いです。

もう1つポイントになるのが、この章の冒頭でも申し上げた、「流れ」です。

BtoBの場合、

・メーカー → 一次流通 → 二次流通 → エンドユーザー

というような「流れ」でモノが決まる・動くことが多いと思います。

ここで、自社商品・サービスの「意思決定者」はこの「流れ」の中の誰か、ということを考える必要があります。というのも、中間流通とエンドユーザーでニーズが変わることが多いからです。

・中間流通:自社が儲かるもの、売りやすいモノを求める。往々にして価格競争になる
・エンドユーザー:自分が使いやすいもの、自分のニーズに合うモノを求める

ということが多いものです。

いずれにせよ、BtoBでも考えるべきは、「自社商品・サービスの本当のお客様は誰なのか?」ということですね。

Battlefield:戦場・競合 顧客にとっての自社の代替選択肢は?

同じ価値を提供するものが「競合」となる

次は、「B:戦場・競合」について考えていきましょう。

ほぼ全ての商品・サービスに「競合」があります。「競合」を定義すると、

「自社の商品・サービスの代替選択肢」

となります。自社の商品・サービスがなかったとき、代わりに選ばれるものですね。

まずは、業種業態が同じものが競合となります。

「ノートパソコンの競合は、他のノートパソコン」となることが多いでしょう。

が……デスクトップパソコンとノートパソコンが競合することもありえます。例えば、

「持ち運ばないので、デスクトップで構わない。が、机のスペースがあまり大きくないので省スペースのノートパソコンにする」という選択もあり得ます。

また、近年、スマホやタブレットの性能が向上したため、「パソコンでなくスマホ・タブレット」という代替が起きたと思われます。すると、「ノートパソコンとスマホ・タブレットが競合した」ということです。

使い方・TPOが同じだから競合する

自社商品・サービスがどのようなものと「競合」するかというと……

・提供する価値が同じもの

と競合します。そして「価値は使い方に現れる」ので、

・使い方・TPOが同じもの

と競合します

同じ業種業態の他社商品・サービスと競合することが多いのは、同じ価値を提供し、同じような使い方・TPOになるからですね。

「ご飯(米)とパン」という競合は非常にわかりやすいでしょう。ご飯(米)とパンは全く違うものです。ご飯は国産穀物を炊いたものです。パンは輸入穀物を挽いて、こねて、焼いたものです。全く違います。

が、「ご飯(米)とパン」は競合します。それは……

「昼食の主食」

という、使い方・TPOが同じだからです。

「モノ」が同じだから競合するのではなく、「使い方・TPO」が同じだから競合するのです。

「戦場」は「使い方・TPO」で定義される

そして、その「使い方・TPO」がそのまま「戦場」となります。

先ほどの「ご飯(米)とパン」が「競合」するのは

・「昼食の主食」戦場

となります。

ノートパソコンとスマホ・タブレットが競合するのは、

・「手軽にメール、メッセ、インスタができる」戦場

という感じでしょうか。メールやインスタントメッセージでしたら、むしろスマホ・タブレットの方がノートパソコンより使いやすいかもしれません。

ハーゲンダッツのアイスクリームがもたらす顧客価値(ベネフィット)は、

・甘くておいしく、ひとときの幸福感をもたらしてくれるもの

です。ですから、ハーゲンダッツが狙っているのは

・「甘くておいしく、ひとときの幸福感をもたらしてくれるもの」戦場

であり、使い方・TPOでの定義は「自分を癒やす夕食の後のデザート」戦場となるでしょう。

具体的なTPOは、

・T:平日の夕食後
・P:ダイニングテーブルやソファーで
・O:ゆっくりリラックスして自分を癒やす

という感じでしょうか。そしてそのときの競合は……「ケーキや果物」です。

ハーゲンダッツは、「他のアイス」と比べると高価ですが、「ケーキや果物」と比べるとむしろ安価です。

ハーゲンダッツはブレずにこの「戦場」をずっと狙い続け、アイスの一大勢力となったわけです。

ちなみに、ハーゲンダッツが一番売れるのは12月だそうです。「冬の夜」という、それまでアイスクリームがほとんど狙っていなかった戦場(=TPO)を狙ったため、独壇場になった、ということもありそうです。

この「自分を癒やす夕食の後のデザート」としてのアイス戦場はコンビニ各社なども続々と参入して活性化し、伸びている戦場となっています。

企業の接待などでは、「高級フレンチレストラン」と「高級寿司店」と「高級天ぷら店」が競合したりしますよね。それぞれ、業種は違います。が……

・「顧客企業の担当者にいい気持ちになっていただき、ビジネスを進めやすくする企業間接待」戦場

では、このような「異業種競合」が起きるわけです。

BtoBでも、「商品・サービスの認知を上げて売上向上する」戦場では、

・広告代理店とTV局
・Google(広告媒体)
・リクルート(無料の紙メディアやHP)
・印刷会社(DM作成)
・HP作成会社
・各種展示会の開催会社

などの異業種各社が渾然一体となって「競合」し(あるいは相互に連携し)、「戦場」を構成しています。

なぜそのような「異業種競合」が起きるかというと……

「競合」とは、お客様が求めている「ベネフィット」「価値」「うれしさ」を巡る競合だからです。

「暑い夏にカラダを冷やしたい」戦場では、「ガリガリ君」と「コーラ」と「ミネラルウォーター」が競合するかもしれません。

お客様にとっては、「カラダを冷やしてくれる」という「目的」(=ベネフィット)を達成してもらえるのであれば、「手段」(=商品・サービス)は何でも良いのです。

この意味で、「ベネフィット」「価値」「うれしさ」が「戦略」を考えるときの中核になっていることがわかります。

あなたは「何屋」か?

こう考えてくると、「あなたは何屋か? 何を売っているのか?」ということが明確になります。

前に紹介した「バナナ」について考えてみましょう。

バナナを売るのは果物屋さんです。果物屋さんは、何屋さんでしょうか?

売り物はバナナです。果物屋さんが売っているのは、「果物」で良いのでしょうか?

「朝食にバナナを食べる」という「使い方・TPO」を考えてみるとわかりやすくなります。

(再掲)
・課題:それなりに健康的な朝ご飯が食べたいけど、朝は忙しくて朝食を用意する時間がとれない

・解決策:バナナなら、調理不要ですぐに食べられるし、着替えながらでも食べられる。包丁も食器も不要なので片付ける時間も不要。適度に栄養があり、昼食まではなんとかもたせられる

これは、「忙しい朝の健康的な朝食」戦場と言えるでしょう。

そしてこの場合の果物屋さんは、

「調理不要ですぐに食べられ、包丁も食器も不要なので片付ける時間も不要。適度に栄養があり、昼食まではなんとかもたせられる」健康的な朝食屋さん

となります。

なぜなら、お客様が買っているものがまさにそれだからです。

物体として買っているのはバナナです。

が、本当に買っているのは

「調理不要ですぐに食べられ、包丁も食器も不要なので片付ける時間も不要。適度に栄養があり、昼食まではなんとかもたせられる」健康的な朝食

なんです。

それがそのまま「自社の事業領域」となります。カッコつけて言えば「自社の事業領域の顧客視点での再定義」ということです。

この場合の「競合」は、おそらく「コンビニの野菜サンド」などになるでしょう。

「調理不要ですぐに食べられ、包丁も食器も不要なので片付ける時間も不要。適度に栄養があり、昼食まではなんとかもたせられる」健康的な朝食

というベネフィットが全く同じだからです。

さて、あなたは「何屋」さんですか? これは非常に重みのある問いです。

特に経営者の方にとっては、この「事業領域の顧客視点での再定義」は、一番重要な経営的意思決定と言って良いでしょう。これによって、事業のとらえ方、そしてその結果としてやるべきことが全く変わるからです。

Strength:強み お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由は?

強み=お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由

ここまで、「C:顧客」「B:戦場・競合」と見てきました。

次は「S:強み」です。

「S:強み」は、「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」

となります。ビジネスは

「お客様に自社の商品・サービスを選んでいただく」という競争

です。そしてその「お客様を自社が選ぶ理由」こそが「強み」です。

「強み」を考えるにあたっては、「C:顧客」「B:戦場・競合」を同時に考える必要があります。

というのも、「S:強み」=「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」ですから、

・C:顧客 顧客ターゲットによって、選び方・選ぶものが変わる
・B:戦場・競合 競合が変われば、強みが変わるからです。

ハーゲンダッツのアイスクリームで考えてみます。その競合は「ケーキや果物」でした。

「ケーキや果物」と比べると、アイスクリームは、なんと「冷たい」ことが強みとなります! そして「保存性」もあります!

アイスクリーム同士で比べると、みんな「冷たく」「保存性がある」んです。

が、「ケーキや果物」と比べると、「冷たく」「保存性がある」ことが、ハーゲンダッツのアイスクリームの際だった「強み」となるんです。

3つの差別化軸

強み=お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由、ですが、その「選ぶ理由」というのはそれほど多くありません。

あなたが前回行かれた理容院・美容院を思い出してみてください。その理容院・美容院を選ばれた理由はなんですか?

「あなたが、数ある他の理美容院ではなく、その理美容院を選んだ理由」

こそが、その理美容院の(あなたにとっての)「強み」となります。

おそらく以下の3つのうちのどれか、ではありませんか?

1)近くて便利、安く、待たず、早い

2)カット・パーマの技術力が高く、最新のトレンドに詳しい

3)顔なじみで自分の好みをよく知っており、気安く話せる

これが「強み」の3パターンです。私は「3つの差別化軸」と呼んでいます。もう少し普遍的にしますと、

1)手軽軸:他社より「簡便性」に優れる
2)商品軸:他社より「品質・技術」に優れる
3)密着軸:他社より「個別化」に優れる

となります。私のオリジナルではなく、マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアセーマ氏の「3つの価値基準」(ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング)を基にし、意訳したものです。

BtoCでもBtoBでも、「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」はこの3つのどこかに入ることが多いです。

この3つの全てで勝つことはできません。短期的には可能かもしれませんが、長期的には不可能です。3つの全てで勝てるのであれば戦略は不要です。市場シェア100%取れることになります。

それがムリなので、どれか1つを選んで、その「強み」を磨く、ということになります。

この3つの差別化軸は、非常にわかりやすいのですが、注意点が2つあります。

1つは、「自社も密着軸、他社も密着軸」というようなことが多くあります。そうなると、またその「密着軸」の中で、どのように「自社を選んでいただく理由」を作っていくか、となります。

もう1つは、「我が社の戦略は〇〇軸」で思考停止してしまうことです。あくまでも3つの差別化軸は「強みを考える出発点」にすぎません。

Asset:独自資源 強みを競合がマネできない理由は何か?

「強み」と「独自資源」

先ほどまで

「強み」=「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」

ということを見てきました。

次は「独自資源」です。「強み」と似ているようですが、似て非なる概念です。むしろ似てすらいないと個人的には思っています。

「独自資源」=「強みを競合がマネできない理由」

です。

例えば、ハーゲンダッツの強み(=お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由)は「コクのあるおいしさ」だとしましょう。

この「強み」と競合他社(ここではアイスクリームの競合他社とします)にマネされたら、ハーゲンダッツを選ぶ理由がなくなってしまいます(=売れなくなります)。

逆に言えば、この「強み」が他社にマネされない限り、ハーゲンダッツが選ばれ続ける(=売れ続ける)ということになります。

ハーゲンダッツの「コクのあるおいしさ」のヒミツは、どうやら「製法」にあるようです。ハーゲンダッツのアイスは「オーバーラン」(=アイスクリームに混入した空気の割合)が非常に低い(=密度が高く、重い)のです。

実際、私はアイスクリームの密度を実測したことがありますが、ハーゲンダッツはトップクラスに重いです。

これが「マネされない」技術なのかどうかまではわかりませんが、

・強み  =コクのあるおいしさ
・独自資源=オーバーランを低くする製造技術

ということになります。他にも、原材料の選択などの独自資源はあるようですが、ここでは説明をわかりやすくするために、このように簡略化しておきます。

お客様にとっての「魅力」となっているのは、あくまで「強み」(=コクのあるおいしさ)です。

お客様にとっては独自資源である「オーバーランを低くする製造技術」は特に関係ありません。「オーバーランが低い」からハーゲンダッツを買うのではなく「コクのあるおいしさ」という「強み」があるから買うわけです。

が、「競合」から見ると、これは大きな問題です。「オーバーランを低くする製造技術」がカンタンにマネできれば、「コクのあるおいしさ」もカンタンにマネできます。「オーバーランを低くする製造技術」がマネできないのであれば、「コクのあるおいしさ」もマネできない、ということになります。

独自資源である「製造技術」はお客様にはあまり関係がありませんが、それが他社の「マネ」を防ぐ「防波堤」のような役割をしていることがわかります。

ハード資源とソフト資源

独自資源は、大きく2種類に分けられます。「ハード資源」と「ソフト資源」です。

1)ハード資源:目に見えて、お金で買えるもの

・技術や特許
・生産や配送などの設備
・ITなどのシステム
・立地
・資金力

2)ソフト資源:目に見えず、お金で買いにくいもの

・Skill:企業内にある知識・経験・ノウハウ
・Human resources:人材・組織
・Outside relation:外部との関係(仕入れ先や顧客からの信頼など)
・Philosophy:企業理念・文化・歴史
(頭文字を取ると、SHOP(お店)になります。お店で買えないものがソフト資源、ですね)

この分類はあくまで目安です。自社の独自資源を洗い出していくときの入り口としてお使いください。

ポイントはあくまで「強みを競合がマネできない理由」として機能しているかどうか、です。

旅行会社「てるみくらぶ」の倒産:独自資源を失ったがゆえの倒産劇

2017年に格安旅行会社「てるみくらぶ」が倒産しました。大型倒産で、かなりのニュースとなりました。

その倒産理由をカンタンに説明しますと、こうなります。

昔は、航空会社の空席を安く仕入れて安く売る、という当時としては「画期的な」ビジネスを展開していました。航空会社は固定費が高く、人1人運んでも運ばなくても、コストはそれほど変わりません。となると、空席のまま運航するより、安くてもいいからチケットを売りたかったわけです。そこで「てるみくらぶ」に安くチケットをおろしたわけです。

このときは、「安く売れる理由」(=独自資源)があったわけです。

時代が変わりました。航空会社はHPなどで自分でチケットを売れるようになりました。不採算路線は小型の航空機を飛ばすなどの工夫もするようにしました。

つまり……てるみくらぶに安くおろす必要がなくなりました。てるみくらぶは「安く売れる理由」(=独自資源)を失いました。

にもかかわらず、てるみくらぶは安売りを続けました。

粗っぽくまとめますと、「安く売れる理由」を失ったにもかかわらず、「安売り」を続けた結果、倒産した、ということのようです。

ここでのポイントは、

・強み  :航空チケットが「安い」
・独自資源:安く売れる理由(=航空会社という仕入れ先)

という関係です。

「独自資源」(安く売れる理由)を失うと、強み(安さ)がなくなるわけです。

「安い」(強み)ということと、「安く売れる理由(独自資源)がある」ということは、全く違います。似て非なるものというより、似てすらいません。論理的にも全く違うものです。

多くの戦略フレームワークで、この全く違うものである「強み」と「独自資源」を一緒くたにしてしまっています。3C、SWOT、などの戦略フレームワークの弱点がこれです。そしてこの戦略BASiCSのフレームワークの「強み」が、「独自資源」と「強み」を分けていることです。

「強み」と「独自資源」を分けないフレームワークは、大きな混乱を招きますし、最悪の場合、「誤り」すら招いてしまいます。先ほどのてるみくらぶのような過ちを招きかねないのです。

「強み」と「独自資源」を「分けて考える」ことで、きちんと考えられるようになります。

Selling message:メッセージ 顧客・社内に強みをどう伝えれば刺さる?

強みを顧客に伝える「メッセージ」

いわゆる戦略論としては、ここまでの

・C:顧客
・B:戦場・競合
・S:強み
・A:独自資源

がその主要な要素です。おそらく多くの理論書は、このあたりで終わっているかと思います。

が……これで終わると、戦略が「絵に描いた餅」となります。「戦略」で多い批判の1つがこの「絵に描いた餅」です。「パワーポイントで美しい戦略」を描いても「売上」につながらない、という批判です。

なぜそうなってしまうかというと……

「お客様は伝わったことだけで判断する」

からです。お客様に伝わらないような戦略は成果を出せないのです。

そこで重要なのが、伝え方としての「メッセージ」です。

「強み」を「顧客」に刺さるように伝える「メッセージ」

メッセージの役割は、

・C:顧客 に
・S:強み を

刺さるように伝えることです。

「S:強み」は「概念」ですが、「Sm:メッセージ」は、実体を伴います。TVCM、パンフレット、パッケージ、などですね。

「S:強み」という「概念」を、「Sm:メッセージ」という「実体」まで落とし込んで、始めて戦略が成果を上げるのです。

「強み」は、「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」ですから、それが「C:顧客」に刺さるように伝えることができれば、「お客様に選ばれる」(=売れる)ということになります。

そうならなかったら、何かがおかしい、ということになります。「Sm:メッセージ」ではなく「S:強み」が間違っているのかもしれません。

論理に訴えるか、情緒に訴えるか?

「伝え方」を大別すると、

1)論理的に伝える
2)情緒的に伝える

の2つになります。

BtoBの展示会で、顧客の生産性を上げる機械やシステムであれば、「論理的」に伝えることになるでしょう。「貴社の〇〇にかかっている時間を30%削減し、人件費が〇〇円減らせます」のようなメッセージになります。

対して、ハーゲンダッツは若い女性タレントを使い、おいしさを「官能的」に伝えています。決して「オーバーランを〇%とし……」のようなメッセージにはしません。

どちらが良いか悪いかではなく、

・どちらが顧客ターゲットにより刺さるか

で決まります。結局は「顧客ターゲットに刺さるメッセージ」が良いメッセージなのです。

最後に……

フレームワークを埋めるのではなく、「戦略を何回も練り直す」ことが大事

戦略を考えるというのは、この5つの要素をきちんと一貫性・具体性を確認しながら練っていく、ということです。5つの要素を考えることは、単純ですが、1つ1つの要素が非常に重いため、きちんとやろうとすると大変であることはおわかりいただけるかと思います。が、冒頭でお話したように、事業成果の4割以上を決める重要なことなのです。

大事なのが、戦略を「練る」ということです。

多くの戦略フレームワークが「埋める」ということになってしまっています。

1回考えただけでは、おそらくかなり粗っぽいことになってしまっているはずです。例えば、「強み」を最初に考えていただくと「高品質」「安心・安全」などの粗っぽい言葉が入ることが多いです。

しかし、「高品質」と言っても、例えば「設計品質」と「製造品質」は違います。「設計品質が良いために耐久性が高い」ことも「製造品質が高いために塗装が美しい」ことも、「高品質」です。さらに「耐久性」と言っても、1万時間連続稼働という耐久性と、10tの加重に耐えるという耐久性では全く違います。

数十回と考えていき、練っていく、ということが重要なんです。

BASiCSの5要素で、「差」が一番つきやすいところはどこか?

最後に、質問です。

「新製品開発戦略」に成功した企業と、成功していない企業との「差」ともうしますか「違い」を調べたデータがあります。

新製品開発に成功している企業と失敗している企業では、どこで「差」が出ると思われます?

その答えが……実は「メッセージ」なんです。

以下は、新製品開発に成功している企業と失敗している企業では、どこで「差」がついているのか、その「差」の大きさをランキングしたデータです。

1)自社の製品・サービスの情報発信が不十分である →Sm:メッセージ2)市場ニーズの把握が不十分である →C:顧客
3)販路開拓が難しい
4)必要な技術・ノウハウの取得・構築が困難  →A:独自資源
5)必要な技術・ノウハウを持つ人材が不足している  →A:独自資源
6)自社の強みを活かせる事業の見極めが難しい  →B:戦場・競合

「新製品開発戦略」に成功した企業と成功していない企業との「差」
中小企業白書 2017年版 第2-3-12図を筆者が加工

このデータからわかることは2つです。

1つは、成功・失敗を一番大きく分ける「差」が一番つくのが「自社の製品・サービスの情報発信」すなわち「Sm:メッセージ」です。

このデータの私の解釈ですが、「必要な技術・ノウハウ」などについては、誰しも頑張ります。その結果、差はつきにくいのです。

しかし、「自社の製品・サービスの情報発信」すなわち「メッセージ」については、意識の差が大きい、ということでしょう。そのためにそこで「差」がついてしまうわけです。

もう1つわかることは、新製品開発の成功・失敗を分ける要素のほとんどが戦略BASiCSの5つの要素に入っている、ということです。

このデータは、戦略BASiCSの有用性を証明しているものでもあるのです。

以上で終わりとなります。お疲れ様でした! 

おめでとうございます!これでアナタは、「戦略の基礎」についての理解は得られたことと思います。ぜひご自身の商品・サービスに合わせて考えてみてください。

参考図書

このBASiCSを極めたい、というアナタのために「参考図書」をあげておきます。

「お客さまには「うれしさ」を売りなさい」 青春出版社 佐藤義典著

です。私が書いた本ですが、このページのかなりの内容がこの本に準拠したものになっています。

さらに戦略BASiCSの理解を深めたい方は、拙著2冊

・図解 実戦マーケティング戦略(日本能率協会マネジメントセンター)
・経営戦略立案シナリオ(かんき出版)

がお勧めです。どちらもアマゾンが全てのビジネス書から選んだビジネス書、「オールタイムベスト ビジネス書100」に選ばれたロングセラーです。

よろしければ手に取られてみてください。

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