まずはこれから! マーケティングを初めて学ぶ方のためのマーケティング入門ガイド

はじめに

このページは、初めてマーケティングに触れる方のために、マーケティングの基本的な考えをまとめた「ガイドブック」のようなものです。「入門」ですので、身近な事例を使いながら、平易な言葉でマーケティングの「本質」を考えていきます。

マーケティングの「本質」は「お客様の立場に立って考える」という単純なことです。

何より、私たちが何かを買う、というときに「買い手」としてマーケティングに参加しています。あなたが今日ハーゲンダッツのアイスクリーム(でもビールでもお菓子でも何でもいいです)を買ったとき、それは「買い手」として、ハーゲンダッツのマーケティングに賛同した、ということです。その結果として、ハーゲンダッツが「売上」を得るわけです。

「買い手」としては、無意識にマーケティングに参加できます。あなたがアイスクリームを買うときに「買い手のマーケティングを評価している」という明確な意識はありませんよね?

が、「売り手」になるときには「無意識」に、なんとなく「マーケティング」はできません。「無意識」になんとなくアイスクリームを作るわけにはいかず、そこにはしっかりした「論理」が必要です。

それを支えるのが「マーケティング理論」です。本ガイドでは、いわゆるマーケティングの基本理論を絞りに絞り、たった5つの要素にまとめました。この5つの要素をおさえておけば、まずは「マーケティングに触ったことがある」と言えると思います。

マーケティングとは、要は「売れるようにするための体系的な方法論」です。

マーケティングは「机上の小難しい学問」ではありません。私たちの買い物そのもので、非常に身近な存在です。

そんなマーケティングの世界を一緒に楽しんでまいりましょう!

マーケティングとは

マーケティングとは、お客様の「買いたい」を作ること

マーケティングをあらっぽく定義すれば、

「自社の商品・サービスを売れるようにする全てのこと」

となるでしょう。となりますと、ここに入るのは

・製品開発
・仕入れ
・生産管理(不良品が多いとお客様の不満足を招く)
・市場調査
・広告・販促(狭い意味でのマーケティングとして使われることが多いです)
・営業や代理店管理
・物流(納期遅れなどはお客様の不満足を招く)
・アフターサービス

など、全てです。

自社の商品・サービスを売れるようにする「マーケティング」は「マーケティング部門」だけの仕事ではない、ということがわかります。

ここでの主体は「お客様」です。「自社の商品・サービスを選ぶ」というのは、要は「お客様に買っていただく」ことです(リピート購買ももちろん含みます)。「買う」という意思決定をするのは「お客様」です。

ですからお客様視点で言えば、マーケティングとは

「お客様の買いたいを作ること」

となります。お客様の買いたいを作るための方法論の体系がマーケティングです。

お客様の「買いたい」を作れば、売上が上がります。

マーケティングの最終ゴールの1つが「売上」です。ただ、重要なのは

「売上」はお客様の「買いたい」の結果

ということです。ですから、「売上を上げようとする」のではなく(売上を上げたいのはもちろんです)、「買いたい」を作ることで、結果として売上が上がるわけです。

このあたりは、全て「当たり前」の単純な話です。ただ、それが「カンタン」かというと、全くカンタンではありません。「カンタン」と「単純」は全く違う概念です。

「買いたい」を作ることがカンタンでないのは、やってみればわかります。買いたいを作ることがカンタンであれば、企業の倒産の多くの部分が救われます。売上を無限に上げられ、多分株価も無限に上げられます。カンタンに世界有数の資産家になれますね。カンタンだ、というのなら、それは超スーパーウルトラ天才エクセレントマーケターか、もしくは単なる勘違いです。

「マーケティングコンサルは当たり前のことしか言わない」と言われることもありますが、逆に、当たり前でなかったら何かがおかしいです。

その「当たり前のこと」をいかに実戦するか、というのは非常に難しいことです。特に、自社にとっての当たり前は、お客様にとって当たり前ではないんです。

業界の常識=お客様の非常識

というようなことは無数にあります。

お客様にとっての「当たり前」(例えば、メールにはすぐ返信する、きちんとした敬語を使う、製品説明がしっかりできる、お客様の気持ちを察する、などなど)を当たり前のように実行するのは大変なことです。

マーケティングの本質:お客様の立場に立って考える

お客様に選んでいただくために、すなわちお客様の「買いたい」を作るために決定的に重要なことが

・お客様の立場に立って考える
・お客様の視点でモノを見る(=顧客視点)

という考え方です。

これがマーケティングの本質であり、かつ一番難しいことと言ってもよいでしょう。

一口に「お客様」と言っても、それは一体誰のことでしょう?

BtoC(個人顧客対象のビジネス)の場合、お客様は数多くいらっしゃいます。場合によっては数百万人以上にもなります。その中の一体誰のことでしょう?

BtoB(法人顧客対象のビジネス)の場合、例えばメーカーの場合は、卸会社、販売店、エンドユーザー、など色々と関係者がいます。その中で「お客様」とは誰なのでしょう? 本当に「自社を選ぶ」という決定権を持っている方は誰なのでしょう?

さらに、「他人の立場に立つ」こと自体、極めて難しいものです。私事で恐縮ですが、私(佐藤義典)は、20年連れ添った妻がいます(ありがたいことです)。が、「妻の立場に立つ」ということが未だに難しく感じます。それがカンタンであれば夫婦ゲンカなどは起きません。また、小学生の娘がいますが、数年間ずっと一緒にいるにもかかわらず、「小学生の娘の立場に立つ」ことは、もはや不可能なことのようにすら思います。私と娘とでは、見ている景色や前提となる知識が全く違うのです。

まして、お客様は「赤の他人」です。家族の立場に立って考えることすら難しいのに、会ったことすらない「赤の他人」の立場に立つことがいかに難しいか、おわかりいただけるでしょう。

そして、その「お客様の立場に立つ」ことの難しさを知るのが、マーケティングの最初のステップです。

「お客様の立場に立つ」ということは難しいことです。「お客様の立場に立て!」と叫んだところで何も起きません。

何をすればいいのでしょうか? 小学生の娘の立場に立つためには、いくつか方法があります。

まず、「見ているもの」が違う、ということがあります。実際、娘の身長と私の身長は違いますので「見える景色」が物理的に違います。ですので、しゃがんで娘の視点の高さに合わせると、娘に見えているもの・見えていないものがわかります。

それから「前提となる知識の違い」を考えます。前提となる知識が欠落しているのであれば、それを補完してあげる(教えてあげる)ことが必要になります。

そして、おそらく一番重要かつ効果的なのが……尋ねてみる、観察する、ということです。娘の話を辛抱強く聞いてあげることで、その考え方に近づいていけるように思います。また、考え方は「行動」に現れますので、行動を観察することで、何がしたいのかもわかりやすくなります。

方法はいろいろあると思いますが、このように、

・お客様のことをひたすらによく知ろうとする

ということがマーケティングで一番大事なことになります。これらはすごく当たり前のことです。そして、その「当たり前のこと」が極めて難しいのです。

なぜマーケティングか:マーケティングの重要性

では、なぜその「マーケティング」が大事なのでしょうか?

それは、現在の企業活動の中核課題がマーケティングだからです。一橋大学の調査によれば、

経営環境が厳しい場合、「事業成果」の4割以上*をマーケティング戦略の質が説明する

「日本企業のマーケティング力」 P.99 日本企業の国内157事業、海外91事業(計248事業)の統計分析結果
*事業成果:売上高成長率、収益性、高品質、新技術・市場創造、新規顧客、既存顧客、リピート購買、値崩れ防止の8因子  **決定係数R2=0.42

という調査結果が出ています。

粗っぽくまとめれば、

・売上、利益、その成長率の4割はマーケティング戦略で決まる

ということです。

ポイントは、「経営環境が厳しい場合」ということです。「経営環境が厳しい場合」とは、つまりは「売れないとき」ということです。

そして、前述のように、マーケティングとは

「お客様に自社の商品・サービスを選んでいただくための全てのこと」
「自社の商品・サービスを売れるようにする全てのこと」

です。

ですから、「売れないとき」には「売れるようにする」ための考え方であるマーケティングが極めて重要、ということですね。当たり前と言えば当たり前のことです。

逆に言えば、「作れば売れる」ようなときには、マーケティングは不要、とも言えます。

そして現在は「作れば売れる」ようなことは希なため、マーケティングが現在の企業の中核課題になっている、ということです。

「『事業成果』の4割以上をマーケティング戦略の質が説明する」のですから、企業のエネルギーの4割以上をマーケティング戦略に割くべき、というのが自然な発想だと思います。

BtoC と BtoB 

「マーケティング」のお話をするときに、考えておくべきことがもう1つあります。それは、

・BtoC(Business to Consumer):個人顧客対象のビジネス
・BtoB(Business to Business):法人顧客対象のビジネス

です。

なぜこの話をさせていただくかというと、「うちはBtoBだから特殊だ、他社の事例なんかあてはまらない」「うちはBtoCだから違う」というような話が出てくることが多いからです。

BtoCは、個人相手のビジネスです。私たちがアイスクリームを買うようなときの意思決定は、

・店頭で瞬間的に決める
・主な販売チャネル・販促媒体は店頭やTVCM
・支払いは現金払い

となります。こちらはわかりやすいですね。マーケティングの説明は、BtoCの例を使って説明されることが多いです。

BtoBは、企業相手のビジネスです。企業が生産を委託する工場を選ぶときのような意思決定は、

・アイミツを取り、企画・価格で時間をかけて比較する
・主な販売チャネル・販促媒体は営業パーソンや展示会
・支払いは請求書

となります。

このように、BtoBとBtoCで「見え方」は変わります。

が、本質的には変わりません。例えば、「商品・サービスを選ぶ理由」を突き詰めて考えると、

・(他よりも)手軽・便利・低価格(後ほど説明する「手軽軸」)
・(他よりも)品質・技術などに優れる(後ほど説明する「商品軸」)
・(他よりも)自分・自社向けになっている(後ほど説明する「密着軸)

というようなことになります。これは、部品の供給会社を選ぶ場合も、あなたが今日のお昼ご飯を選ぶ場合も、ほぼ共通します。

さらに言えば、BtoBだから、BtoCだから、ということで違う、ということではありません。

お客様の「決め方」が違うのです。

例えば、住むところを決める(家を買う、賃貸マンションを決める)という場合は、「BtoC」です。

が……アイスクリームを買うように、

・店頭で瞬間的に決める
・主な販売チャネル・販促媒体は店頭やTVCM
・支払いは現金払い

とは な り ま せ ん 。

・アイミツを取り、時間をかけて比較する
・主な販売チャネル・販促媒体は営業パーソンや展示会
・支払いは請求書

と、「BtoB」的な意思決定方法となります。

ポイントはBtoBかBtoCかではなく、

・お客様はどのように選ぶのか・決めるのかという意思決定方法の違い

だけです。

そうは言っても、BtoBでは少し「見え方」が変わります。このガイドの後半に「補足」として載せておきますので、BtoBの方はご参照いただければと思います。

マーケティングの基本理論

では、マーケティングの基本理論を解説してまいります。以下の5つが、マーケティングの基本的な考え方を集約したものです。

細かい理論や手法は無限にありますが、まずはこの5つの要素をおさえるのが重要です。

重要ポイント!

1)ベネフィット: お客様にどんなうれしさを提供するのか?
2)セグメンテーションとターゲット: どんなお客様に買っていただきたいのか?
3)強み: 競合ではなく自社を選んでいただく理由は?
4)4P: どんな売り物・売り方・売り場・売り値にする?
5)想い: 社会的な存在意義は何か? どんな幸せな世界を実現したいのか?

要素1)ベネフィット:お客様にどんなうれしさを提供するのか?

ベネフィット=顧客価値=お客様のうれしさ

マーケティングで必須となる考え方が、

・ベネフィット=顧客価値=お客様のうれしさ

です。

マーケティングとは、お客様の「買いたい」を作ること。その結果として「売れる」ということになります。

そして私たちが何かを買う、というとき、商品・サービスそのものというよりも、その「商品・サービスがもたらしてくれるうれしさ」にお金を払っているのです。

その「うれしさ」のことを「ベネフィット」と呼びます。日本語にすると「顧客価値」でしょうか。

例えば、私たちが「ハーゲンダッツのアイスクリーム」を買うとき、実際に手に入れるものは「紙パックに入った白くて冷たい乳製品」という物体です。

が……本当に「価値」を感じてお金を払っているのは、

・甘くておいしく、ひとときの幸福感をもたらしてくれるもの

に対して、ですよね? それが「ハーゲンダッツのアイスクリームがもたらす顧客価値」です。

BtoBでは、例えば企業が「IT投資」をする場合、「コンピューターとソフト」という物体に対してではなく

・今まで3日かかっていたことが3時間でできるようになる

という、「効率化(およびそれがもたらす利益)」にお金を払っているわけですよね? それが「IT投資がもたらす顧客価値」です。

売り手は、自社の商品・サービス「それ自体」を売っている気になりがちですが、お客様は、商品・サービスがもたす「うれしさ」(=ベネフィット)にお金を払っているんです。

これは、「手段と目的」とも言い換えられます。

お客様にとっては、商品・サービスは何かの「目的」を達成する「手段」なんです。

ここは、売り手と買い手の「乖離」が起きやすいところです。

売り手はどうしても自分たちが提供する「商品・サービス」にとらわれてしまいます。が、お客様はそれがもたらす「価値」を考えるのです。

マーケティングは「お客様の立場に立つ」ことですが、その重要なポイントの1つが、この売り手と買い手の「乖離」を減らすことです。

そして、この「ベネフィット」がこの後で説明する「戦略」の中核的な概念となります。

ベネフィットを考える方法その1:課題解決としてのベネフィット

ベネフィットを考える、というのは単純ですが非常に難しいことです(繰り返しますが、「単純」と「カンタン」は全く異なる概念です。本ガイドでは明確に区別して使われています)。

その「非常に難しいこと」を考えるときのポイントは2つあります。

1つは「お客様はどんな課題を解決しようとしているのか」と考えることです。

ベネフィットは、「課題解決」という形を取ることが多いです。平たく言えば「ビフォー・アフター」ですね。「ビフォー」が課題で、「アフター」が解決、です。

例えば、「朝食にバナナを食べる」という場合がそれにあたります。

課題(ビフォー)
それなりに健康的な朝ご飯が食べたいけど、朝は忙しくて朝食を用意する時間がとれない

解決策(アフター)
バナナなら、調理不要ですぐに食べられるし、着替えながらでも食べられる。包丁も食器も不要なので片付ける時間も不要。適度に栄養があり、昼食まではなんとかもたせられる

バナナが見事に「課題解決」になっていることがわかります。これが「顧客価値」でありベネフィットです。バナナですら(というとバナナに失礼ですが)課題解決となるのです。

この場合、例えばバナナ売り場で「明日の朝食に、食器いらずで着替えながら食べられるバナナを」という「課題解決」をPOPなどで訴求すればお客様に刺さる、ということになります。

そして、「課題」が変われば、「解決策」も全く変わります。「子どもとのおやつにチョコバナナ」ということであれば、バナナのビフォー・アフターは、先ほどと違い、こうなります。

課題(ビフォー)
子どもにおやつを食べさせたいが、できればカラダに良いものがいい。できれば一緒に作ったりして楽しめればなお良い

解決策(アフター)
チョコバナナなら、いわゆる菓子よりも健康的のような感じがする。それに、チョコを溶かしてかけるだけだからカンタンで子どもにもできるし、ちょっとしたイベント的な楽しさもある

ということになります。

この場合、バナナ売り場でチョコバナナのチョコレートソースと一緒に陳列し、「明日のおやつにお子さんとチョコバナナを」という訴求をすればお客様に刺さりやすくなりますね。

お客様の「課題」を知ることで、「価値提案」がやりやすくなるのです。

ベネフィットを考える方法その2:価値は使い方に現れる

ベネフィットを考えるもう1つの方法は、お客様の「使い方」を考えることです。商品・サービスの「利用場面」と呼ばれるものです。

売り手にとっては、商品・サービスが「売れたら終わり」かもしれませんが、お客様にとってはそれは「始まり」です。

お客様は「使うために買う」のです。ですから、価値は使い方に現れます。

重要ですので繰り返します。

お客様は「使うために買う」のです。ですから、価値は使い方に現れます。

先ほどの「バナナ」の例であれば、その価値は「使い方」に現れます。

先ほどバナナの2つの利用場面をあげました

1)着替えながら食べられる、食器不要の忙しい朝の朝食
2)イベント的に楽しめる、子どもの健康的なおやつ

同じバナナでも「使い方」が違うために、求めるベネフィットが違うわけです。

その「使い方」を考えるときに使いやすい考え方が「TPO」です。はい、TPOを考えよう、というあのTPOです。

重要ポイント!

・Time:時間
・Place:場所
・Occasion:状況・加工方法

例えばあなたが「カバン」のマーケティングをしたいとして、お客様の「カバン」の選び方を考えてみましょう。

あなたがお使いのカバンを思い浮かべてください。なぜそのカバンを選んだのでしょうか? あなたのカバンの「選び方」を考えてみてください。

まず、いつ(T)、どこに(P)持っていくかを考えますよね。

・T:平日
・P:会社に

ということであれば、それで既にかなりの部分が決まります。会社に持っていくカバンであれば、「派手なピンク」よりは「落ち着いた黒・茶」になるでしょう。

そして、もちろん「カバンに入れる」ものです。それが「O」になります。カバンに何を入れるか、によってカバンの選択が異なります。

・O:パソコンを入れる→クッションが入っているもの
・O:A4の書類を入れる→A4の書類が入れられるサイズ

となります。

そして、TPOが変わればまた選ぶカバンが変わります。

・T:休暇に旅行するときに
・P:旅先に持っていく

となると、大型の旅行カバンになります。何泊かによってもサイズが変わりますね。

さらに、カバンの「デザイン」も重要になります。カバンは、服に合わせます。服をカバンに合わせるのではなく、服を先に選び、あとでカバンを選びますよね?

そうなると、カバンの「デザイン」を決める際には、お客様がどんな服を着ているか、という「お客様が持っている服」を考える必要も出てくるのです。

TPOの「O:状況」とは、「周囲にあるもの」です。カバンの意思決定には、「服装」が関わるのです。

おそらくこの意思決定の多くの部分が「無意識」に行われます。会社に持っていくカバン、という時点で、色・サイズなどがかなり絞られるわけですね。

このように、カバンを選ぶという意思決定にあたって、カバンの「利用場面」すなわちTPOが決定的に重要な役割を果たしていることがわかります。価値は使い方に現れるのです。

このような意思決定を、お客様は「無意識に」行います。売り手はその「無意識」に合わせて選ばれるように「意識的に」商品を設計し、訴求ポイントを決めていくことでお客様に選ばれるようにするわけです。

BtpBでも基本的な考え方は同じですが、BtoBではお客様が「会社」ですから、その求めるうれしさは基本的には「利益」(=売上-費用)となります。顧客企業の売上を上げるお手伝いをするか、費用削減のお手伝いをするか、ということになります。第三章の補足資料に詳細を載せています。

要素2)セグメンテーションとターゲット:どんなお客様に買っていただく?

ベネフィットは、「お客様のうれしさ」であり、それがマーケティングの中核です。が、「お客様」がどんな方なのか、によって「求めるうれしさ」が違います。「人によって顧客ニーズ」が変わる、ということです。

そこで次に知っていただきたいのが「セグメンテーション」と「ターゲット」という言葉です。どちらもビジネス用語としてかなり一般化した言葉ですので、覚えておくといいですね。

顧客や市場を何らかの「切り口」で分けることを「セグメンテーション」(顧客セグメンテーション)と呼びます。分けられた1つ1つのカタマリを「セグメント」(顧客セグメント)と呼びます。

そして、全ての顧客に売るのは(通常は)ムリですから、どこかのセグメントを狙います。それが「顧客ターゲット」となります。通常は、自社の「強み」が活きるセグメントを顧客ターゲットとする、ということになります。自社の「弱み」があるセグメントだと、競合に負けてしまいます。

なぜセグメンテーションをするかというと、

「顧客によって求めるもの・必要とすることが違うから分ける」

ということです。

例えばノートパソコンを作る・売る場合、

・「大型機」が欲しい顧客(ニーズは見やすさ、打ちやすさ、など)
・「小型機」が欲しい顧客(ニーズは持ち運びのしやすさ、など)

では、ニーズが異なります。

となると、「大型機」が欲しい顧客と「小型機」が欲しい顧客には、それぞれ分けて対応する必要がある、ということです。

だから市場には「大型機」もあれば「小型機」もあります。それぞれに「顧客ターゲット」が違うわけです。

BtoCの顧客セグメンテーションの「切り口」としては、例えば以下のものがあります。

・性別:男女
・年齢・年代:10代、20代、30代……
・家族:未婚・既婚、子どもの有無、世帯人数、など
・居住地:大都市、地方都市、郊外……
・世帯年収

などです。

適切なセグメンテーションの切り口を選ぶことが重要

セグメンテーションでよみ見るのが性別と年代で「20代女性」(例えば、です)を顧客ターゲットとして設定する、というような方法です。

が……同じ「20代女性」と言っても、職業(20歳だと学生かもしれませんが、29歳だとキャリア女性かもしれません)、未婚・既婚、子どもの有無(子どもが生まれると生活は激変します)、住んでいる家(一軒家かマンションか)、読む雑誌、などによってニーズは全く変わります。

セグメンテーションは「分ければいい」というものではありません。ニーズが違うからお客様を分ける、というのがセグメンテーションの目的です。

ですから、「自社商品・サービスに対するニーズや選び方」で分けるのが良いです。

「ニーズで分ける」ときに重要になるのが先ほど見た、「TPO」です。価値は使い方に現れます。

例えば、「パソコンの選び方」は、パソコンを使うTPOで説明できます。

まず、「どこで使うか」、という「P:場所」です。

P:パソコンを使う場所=持ち運ぶのかどうか

・机の上・持ち運ばない → デスクトップまたは大型ノートを選ぶ
・会議室などにたまに持ち運ぶ → 大型ノートまたはモバイルノートを選ぶ
・新幹線で使うなどよく持ち運ぶ → モバイルノートを選ぶ

ということになります。よく持ち運ぶ人が「デスクトップパソコン」を選ぶことはあり得ません。

次に、「どう使うか」、という「O:状況」ですね。

・ゲームやグラフィック・動画作成 → 高性能機+グラフィックボード
・パワーポイント・資料作成 → 通常の性能
・メールやHPを見るくらい → もはやパソコンではなくスマホ・タブレットに

という感じでしょうか。カバンの場合は「入れるもの」にニーズが現れます。パソコンの場合は「使うソフト」にニーズが現れます。

TPO(=利用場面)が変わればニーズが変わります。

逆に言えば、「ニーズを把握する」ためには、TPO(=利用場面)」を考えれば良い、ということになります。それが「価値は使い方に現れる」の意味です。

セグメンテーションは基本的な考え方で、どのマーケティング本にも載っています。が、実戦という意味では、セグメンテーションはマーケティングの中で最も難しいものの1つだと思います。なぜなら、セグメンテーションは「ニーズで分ける」というもので、顧客およびそのニーズをよく知らないと、適切なセグメンテーションはできないからです。

分けるだけなら誰でもできますが、適切なセグメンテーションは非常に難しいものです。そもそもそのセグメンテーションが「適切かどうか」という判断も難しいです。

適切なセグメンテーションができるようになると、マーケターとして一流と言えますね。

具体的な顧客ターゲットを描写する

セグメンテーションを繰り返してニーズを具体化していくと、顧客ターゲットが詳細に描けるようになっていきます。

理想的な顧客ターゲットの描写は、セグメンテーションの結果得られた「セグメント」の中から「典型的な1人」を選んで、その「1人」を具体的に描写することです。「仮想的な人」(最近は、「ペルソナ」などと呼ばれます)よりも、「実在の人物」が望ましいです。なぜなら、その人の考え方や行動を実際に検証できるからです(「仮想的な人」だと検証ができません)。

そのセグメントを代表するような「具体的な顧客像」が描ければ、TPOも具体化できます。それに基づいてマーケティング全体を考えていけば、「刺さるマーケティング」ができますね。

要素3)強み:競合ではなく自社を選んでいただく理由は?

(ほぼ)全ての商品・サービスに「競合」がいる

ここまで、ベネフィット、セグメンテーションとターゲット、とお客様周りのことを見てきました。

意外と忘れがちになるのが、「自分だけがビジネスをしているわけではない」ということです。ほぼ全ての商品・サービスにライバルすなわち「競合」がいます。

あなたがハーゲンダッツのアイスクリームを買うとき、「他の選択肢」(代替選択肢)があるかもしれません。買い手にとっての「他の選択肢」は、売り手からみると「競合」となります。

誰が「競合」となるかというと、「同じベネフィット(=うれしさ)を提供する相手」です。

ハーゲンダッツの競合は、例えば……

・他の競合のアイスクリーム
・ケーキなどのいわゆるスイーツ
・果物

などになるかもしれません。

ポイントは「同じような商品・サービス」が競合となるのではなく、「自分と同じベネフィットを提供する商品・サービス」が競合となる、ということです。「価値は使い方に現れる」ので、同じTPOで使われるものが競合となります。

だから「食後のデザート」というTPOで、アイスクリームとケーキと果物という、物的特性としては全く違うものが競合するわけです。

なぜアイスクリームとケーキと果物が競合するかというと、お客様がそう考えるからです。

お客様が「食後にデザートが欲しいな」と考えたときに、「アタマの中に浮かぶ選択肢」が競合となるわけです。マーケティングの「戦い」は、お客様のアタマの中で起きるのです。

強み=お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由

そしてその「競合」に勝たなければ、自社が選んでいただけません。

「強み」とは、「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」です。そしてそれは「競合とのうれしさの差」です。

お客様は、自社と競合で、自分(お客様)をよりうれしくさせてくれるものを選びます(うれしさが同じなら、価格が安い方を選びます。安い方がうれしいですよね)。

「うれしさの差」であり、性能や性能の差ではありません。

ビジネスは、「お客様に自社の商品・サービスを選んでいただく」という、うれしさ提供競争です。そしてその「お客様を自社が選ぶ理由」こそが「強み」です。

「強み」を考えるにあたっては、「顧客ターゲット」を同時に考える必要があります。というのも、「強み」=「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」ですから、

・顧客ターゲットによって選び方・選ぶ理由が変わる
・戦場・競合 競合が変われば、強みが変わる

からです。

ハーゲンダッツのアイスクリームで考えてみます。その競合は「ケーキや果物」でした。

「ケーキや果物」と比べると、アイスクリームは、なんと「冷たい」ことが強みとなります! そして「保存性」もあります!

アイスクリーム同士で比べると、みんな「冷たく」「保存性がある」ので、それは強みにはなりません。

が、「ケーキや果物」と比べると、「冷たく」「保存性がある」ことが、ハーゲンダッツのアイスクリームの際だった「強み」となるんです。

強み=お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由、ですが、実はその「選ぶ理由」というのはそれほど多くありません。

3つの差別化軸:強みの3つのパターン

あなたが前回行かれた理容院・美容院を思い出してみてください。その理容院・美容院を選ばれた理由はなんですか?

「あなたが、数ある他の理美容院ではなく、その理美容院を選んだ理由」こそが、その理美容院の(あなたにとっての)「強み」となります。

おそらく以下の3つのうちのどれか、ではありませんか?

1)近くて便利、安く、待たず、早い
2)カット・パーマの技術力が高く、最新のトレンドに詳しい
3)顔なじみで自分の好みをよく知っており、気安く話せる

これが「強み」の3パターンです。私は「3つの差別化軸」と呼んでいます。もう少し普遍的にしますと、以下のようになります。

重要ポイント!

強みの3パターン:3つの差別化軸
1)手軽軸:他社より「簡便性」に優れる
2)商品軸:他社より「品質・技術」に優れる
3)密着軸:他社より「個別化」に優れる

恐縮ですが、私のオリジナルではなく、マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアセーマ氏の「3つの価値基準」(ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング)を基にし、意訳したものです。

BtoCでもBtoBでも、「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」はこの3つのどこかに入ることが多いです。絶対とは申し上げませんが、ほぼほぼこの3つのどれかに入ります。

2つの軸しか満たされていないこともあります。例えば、シャンプーなどは、「手軽軸:低価格の日用品」と「商品軸:高価格な高級商品」しかありませんでした。「密着軸」の商品がありませんでした。このような「空白の軸」があるときはチャンスです。実際、最近「密着軸:あなたの髪質に合わせて配合されるオーダーメイド品」というものも人気になってきています。

この3つの全てで競合に勝つことはできません。短期的には可能かもしれませんが、長期的には不可能です。3つの全てで勝てるのであれば戦略は不要です。市場シェアを全て、100%取れるはずです。

それがムリなので、どれか1つを選んで、その「強み」を磨く、ということになります。

この3つの差別化軸は、非常にわかりやすいのですが、注意点が2つあります。

1つは、「自社も密着軸、他社も密着軸」というようなことが多くあります。そうなると、またその「密着軸」の中で、どのように「自社を選んでいただく理由」を作っていくか、となります。

もう1つは、「我が社の戦略は〇〇軸」で思考停止してしまうことです。あくまでも3つの差別化軸は「強みを考える出発点」にすぎません。

要素4)4P どんな売り物・売り方・売り場・売り値にする?

ここまでベネフィット、セグメンテーション・ターゲット、強み、と見てきました。

「顧客ターゲット」は実在しますが、ベネフィットや強みはどちらもです。ベネフィットは「うれしさ」ですし強みは「選ぶ理由」ですから、実体があるものではありません。

ベネフィットや強みを「現実化」するのが4Pと呼ばれるものです。

重要ポイント!

マーケティングの4P
・Product:売り物(商品・サービス)
・Promotoin:売り方(広告・販促)
・Place:売り場(販路・チャネル)
・Price:売り値(価格設定)

の4つです。全てPで始まりますので、4P(正確には4Ps)と呼ばれます。非常に使いやすい考え方ですので、マーケティングの現場でも使われます。

なお、4Pを英語で覚えると大変覚えにくく、マーケティングを30年くらい勉強していても未だに忘れますので、私は売り物・売り方・売り場・売り値、と呼ぶようにしています。こうしたら、忘れなくなりました!

「うれしさ」や「強み」は、商品・サービスという「売り物」として実体化されます。そのうれしさや強みを伝えるのが「売り方」である広告・販促です。そのうれしさを届けるのが「売り場」である販路・チャネルです。そして「うれしさ」の対価が「売り値」という価格になるわけですね。

そして、マーケティングの「打ち手」は、通常はこの4Pのどれかに入ります。その意味では「打ち手」をモレなく考えるときに使いやすい考え方です。

例えば、「顧客ターゲットの設定」自体は、概念です。それを決めたとしても何も起きません。「顧客ターゲット」の設定は、結局、「売り物」という商品・サービスやそのパッケージ、または「売り方」という広告・販促の仕方などに反映されて、初めてお客様に意味があるものになります。

例えばハーゲンダッツのアイスクリームの強みは「コクのあるおいしさ」ですが、それは概念です。「アイスクリーム」という実体を持つ製品として初めて強みが実体化されるわけです。

ハーゲンダッツの場合の4Pは……
・売り物(商品・サービス)   ミルクやクリームを原材料とする乳脂肪分の高いアイスクリーム
・売り方(広告・販促)     コクのあるおいしさを感じさせる官能的なテレビCM
・売り場(販路・チャネル)   コンビニやスーパーの高級アイスクリームコーナー
・売り値(価格設定)      200円~300円前後の「プレミアムアイス」とされる価格

となりますね。これがもたらす「うれしさ」が「顧客ターゲット」に伝わることで商品・サービスが売れ、そして実際に食べてうれしさを実感することで、リピート購買につながるわけです。

店舗ビジネスの場合は、以下のようになることが多いと思います。多くの商品を売ることになりますので、その商品の組み合わせや価格帯がポイントになります。

・売り物(商品・サービス)   売り物の組み合わせ(いわゆるMD)
・売り方(広告・販促)     お店自体の販促(例えば特定日の割引、チラシの配布など)
・売り場(販路・チャネル)  店舗の立地・ネット販売をしている場合はネットが売り場
・売り値(価格設定)     主力となる価格帯や、同じものでも競合店に対しての価格差

店舗の場合は「接客」や「設備」(清潔なトイレなど)も、ある意味での「売り物」に入るかもしれません。何が「売り物」で何が「売り方」か、という判断に迷うこともあるかもしれませんが、そのあたりの厳密な区別はあまり意味がありませんので、実戦という意味では、正直どちらでも構いません。

「おいしい」と「おいしそう」は全く違う

飲食店などでよく耳にするのが

「おいしいものを作ればお客様はいらしてくれる」

というような言葉です。メーカーですと「良いものを作れば売れる」というような言い方になるでしょうか。

果たしてこれは本当でしょうか? 実際には、非常においしい料理を出す店が「閑古鳥が鳴く」というようなことが少なくありません。

その理由が……

「おいしい」と「おいしそう」は全く違う

ということです。

飲食店に初めて入るとき、「おいしいかどうか」は全く関係ありません。初めて入るときには食べたことがないわけですから、「おいしいかどうか」はわからないのです

ではどうやって決めるかというと……「おいしそうかどうか」で決めるわけです。例えば、HPのメニューの写真が「おいしそう」かどうか、などです。飲食店評価サイトの書き込みなども参考にするかもしれませんが、それも自分が食べているわけではなく、「他人が食べた感想からおいしそうに感じた」ということですね。

ですから、「おいしいものを作ればお客様はいらしてくれる」というのは、論理的に「間違い」です。おいしいものを作れば、「リピート」にはつながります。感激すればお客様は再来店してくれるでしょう。

が、それはあくまでも「入って、食べた後」の話です。入る「前」の食べていない状態では「おいしいかどうか」は関係ないんです。「おいしそうかどうか」が重要です。

重要ポイント!

・飲食店に入る「前」に重要なのは、おいしそうかどうか→「売り方」(広告・販促)
・飲食店に入った「後」に重要なのが、おいしいかどうか→「売り物」(商品・サービス)

という関係ですね。

これは飲食店に限ったことではありません。買う「前」には、「良さそう」に魅せること(=売り方)が、そして買った「後」には実際に「良い」こと(=売り物)が重要なんです。「売り物」も「売り方」も、どちらも重要なんですね。

「良いものを作っているのに売れない……」と嘆く前に、その「良さ」をきちんと伝えているのかどうかを確認する、というのは非常に大切なことです。

ちなみに……「良いものを作っているのに売れない……」という場合、もう1つ考えられるのは、「良いと思っているのは自分だけであり、お客様はそう感じていない」ということもあります。自分にとっては「良いもの」でも、お客様にとって「良いもの」でなければ、それは売れませんよね……それも合わせて確認した方がいいですね。

要素5)想い:どんな幸せな世界を実現したいのか?

いよいよ5つめの、最後のマーケティングの要素です。それは……「想い」です。

・どんな社会的な存在意義を持ちたいのか?
・その商品・サービスが広がることで、どんな幸せな世界が実現されるのか?

という問いですね。これは、ベネフィット(=うれしさ)よりももう少し広い「世界観」のようなものです。理念やビジョンと呼ばれるものに近いかもしれません。

これは私見ですが、ハーゲンダッツが描く世界観は「自分が祝福されている世界」だと思います。「仕事であったイヤなことを忘れる」「頑張った自分へのご褒美」というような「ベネフィット」は、この「世界」の中にあるものですね。アイスクリームで「祝福」という世界観が出せているのは現在ハーゲンダッツだけのように思います。

コンビニエンスストアのセブン-イレブンが掲げるのが

「近くて便利」

という「想い」です。

端的にわかりやすいのが銀行の「ATM」でしょう。今やコンビニにあって当たり前のATMですが、ATMは昔は「銀行にあるもの」でした。数十年前は、ATMの数が銀行の「強み」(銀行を選ぶ理由)として使われたこともあったくらいです(そういう戦略を掲げた都銀があったんです)。

が……ATMは「近くて便利」な場所にあった方がいいですよね。セブン-イレブンはそこでATMを導入したわけです。当時、相当な異論が出たことを記憶しています。お客様からすればコンビニにあった方が便利に決まっていますが、業界(銀行業界にしてもコンビニ業界にしても)常識はそうではなかったわけです。「業界の常識はお客様の非常識」というのは、どの業界でもありますね。

コンビニ市場が未だに成長を続けているのは、自社の事業を「モノ」ではなく「近くて便利」のような顧客に価値を提供する世界観で定義しているから、とも言えます。お客様が「近くて便利」に買いたいものであれば、「モノ」は関係ありません。

・お弁当・飲料
・冷凍食品
・新聞・雑誌・書籍
・ATM、エンタメのチケット
・肌着(靴下や下着)
・文房具
・コスメ

などは「近くて便利」に買いたいものですよね。だからコンビニで売れるわけです。

なお、日常的に使う下着は売っていますが、数千円~数万円の「高級下着」は売っていません。それは「近くて便利」に買いたいものでは「ない」からです。きちんと選んで買いたいんです。「下着」という「モノ」ではなく、「近くて便利に買いたいかどうか」で、取扱商品を決めているわけです。

商品・サービスのレベルでも「想い」すなわち「実現したい幸せな世界」というのはあります。例えばiPadが提供する世界観は、「生活を便利にする情報をとにかく使いやすく」というようなことだと思います。機能としてはiPadよりもノートパソコンの方が上回るでしょう。しかし、携帯性とインターフェースに関して、iPadは圧倒的です。Siriという音声インターフェースも便利です。

このような「世界観」がきっちりしていれば、ブレが生じにくくなります。

ここで、興味深いデータを1つ紹介いたします。「企業理念」と「株価」の関係について、三井住友DSアセットマネジメント社が調べたものです。

どんな企業理念を持つ会社が、優れた株価リターンをあげているかというと……?

ベスト1)100文字以上      219%
ベスト2)私たちという単語を含む  200%
ベスト3)「客」という単語を含む  189%
---- 日経平均 148% ----
ワースト3)どの項目が最重要か曖昧 123%
ワースト2)英語有         119%
ワースト1)30文字以上50文字以下 118%

三井住友DSアセットマネジメントHPより抜粋
www.daiwasbi.co.jp/market/column/22/backnumber/detail/2240/
(*経営学的に素晴らしい研究成果だと思いますが、残念ながらこのページは消されてしまったようです)

「100文字以上」という具体性をもち、「私たち」という当事者意識があり、そして「客」という顧客志向をもつ企業理念を持つ会社は、日経平均株価より遙かに高いリターンを上げているんです!

企業理念は、企業としての「想い」ですが、きちんとした「想い」を持っている会社は、業績をあげているんですね。「想い」は、建前ではなく、業績に直結する重要な考え方だということがわかるデータです。

以上でマーケティングの各要素の説明はほぼ終了となります。

全体の一貫性と具体性をチェックしよう!

これは当たり前のことばかりですし、私たちが何かを買うときには、自然と考えていることです。が、それを「売り手」として体系的に行うのは難しいのです。だからこそ、このようなチェックポイントが必要になるわけですね。

早速、ご自身の商品・サービスについて、この5つのポイントからお考えいただきたく思います。

そのときに、重要なチェックポイントが2つあります。「一貫性」と「具体性」です。

1)一貫性:全体の論理的整合性

最初のチェックポイントが全体の「一貫性」です。各要素に矛盾があってはいけません。

マーケティングには、やってみないとわからないということが多分にあり、「間違い」というものはあまりありません。が、「一貫性」がなければ、それは「間違い」です。

例えば、

・顧客ターゲット:1人くらしの高齢者
・強み:食べ応えがある、ボリュームたっぷりの総菜

のような内容だと(一般論として)一貫性がありません。「1人くらしの高齢者」であれば、「食べきれる量」を考える必要があります。スーパーでも高齢者向けに「個食対応」をするようになってきましたね。

2)具体性:個別論の鋭さ

もう1つのチェックのポイントが各要素の「具体性」です。

例えば、「顧客ターゲット」の描写で「女性」や「中小企業」というのはNGです。あまりに粗っぽく、具体性がありません。「女性」と言っても、人口の半分は女性です。それではニーズが具体化できません。

また、「強み」として「高品質」といった曖昧な言葉をあげることも具体性がなく、NGです。「高品質」と言っても、「仕上げが良くて見た目がキレイ」も高品質でしょうし、耐久性が高いことも「高品質」です。「製造品質」と「設計品質」の違いなども重要です。

「安心・安全な食品」も同様に粗すぎます。「防腐剤無添加」だから余計なものが入ってなくて安心・安全、と感じる場合(今すぐ食べる、というTPO)もあるでしょうし、「防腐剤たっぷり」だから腐らなくて安心・安全、と感じる場合(数ヶ月後に北極で食べる、というTPO)もあるでしょう。「防腐剤無添加」の安心・安全と、「防腐剤たっぷり」安心・安全は全く違います。そもそも「安心」と「安全」は違う概念、ということもあります。具体的な表現にしていきましょう。

「一貫性」と「具体性」の両方をしっかりチェックしていくのは、マーケティングに限らず大事ですね。

最後に:企業の競争力は「うれしさ」の提供力

最後に……マーケティングを貫くキーワードはお客様の「うれしさ」です。マーケティングの5つの要素を「うれしさ」という言葉を使って説明すると、

重要ポイント!

1)ベネフィット:お客様にどんな「うれしさ」を提供するのか?
2)セグメンテーションとターゲット:その「うれしさ」を求める人は誰か?
セグメンテーションとターゲット:その「うれしさ」を求める人は誰か?
3)強み:競合との「うれしさ」の差は何か?
4)4P:「うれしさ」をどのように現実化するのか?
5)想い:その「うれしさ」で、どのような幸せな世界にしたいのか?

となります。

そしてこの「うれしさ」を提供する能力こそ、企業の「競争力」そのものです。お客様は、競合他社と比べて、より大きな「うれしさ」を提供してくれる方を選びます。つまり、「売上」が上がります。また、競合との「うれしさの差」が大きければ、差別化でき、価格競争になりません。すなわち価格が高くても買っていただけるために「利益」も上がります。

重要ポイント!

企業の「競争力」とは、「うれしさ」提供力であり、企業間競争とは「うれしさ提供競争」なんです。そしてそれは「マーケティング」そのものです。

だからこそ、冒頭で紹介したように、業績の4割はマーケティングで決まるんです。

ここまでくれば、あとは、ここまでの内容をどう自分に落とし込み、どう活用するか、ですね。

あとは、継続的にマーケティングの情報に触れるといいですね。「実際の事例」が、上記のような「体系的な理論」で分析された情報が良いと思います。

そう考えたので、私はこのようなマーケティングおよびマーケティング戦略について、そのときどきの事例を使ってわかりやすく解説する無料メルマガ(売れたま!)を週2回配信しています。2003年より続けており、現在1800号を越えています。2万人以上の方にご愛読いただいています。読むだけでマーケティング力が少しずつついていくような内容にしていますので、マーケティングをしっかりやりたい、という方のお役に立てると思います。

さらに、ここまでお読みいただいたようなマーケティングについて、より深く知りたいという方のための「参考図書」としては、拙著「ドリルを売るには穴を売れ」(青春出版社 佐藤義典著)がお勧めです。ありがたいことにマーケティング入門書のベストセラーになっています。このガイドのかなりの内容がこの本に準拠したものになっています。イタリアンレストランをテーマにした小説形式で、上記の内容を解説しています。よろしければ手に取られてみてください。

お勧めのマーケティング本:ドリルを売るには穴を売れ

ドリルを売るには穴を売れ 青春出版社刊 佐藤義典著 1,572円(税込)

このサイトの管理人&制作者、佐藤義典の著書。9万部を越えるマーケティング入門書のベストセラー。マーケティングの本質を小説形式でわかりやすく、実戦的に解説。マーケティングで最初に読む本です。アマゾンはここをクリック

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では、一緒に頑張ってまいりましょう!

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