- Home
- BtoBマーケティング
- BtoBとBtoCの3つの違い-違いがわかれば相互に学べる
BtoBとBtoCの3つの違い-違いがわかれば相互に学べる
この記事の目次
BtoB(法人顧客対象のビジネス)とBtoC(個人顧客対象のビジネス)
ビジネスの分け方として、大きく2つに分けられます。
1)BtoC(Business to Consumer):個人顧客対象のビジネス
2)BtoB(Business to Business):法人顧客対象のビジネス
の2つです。よく使われる言葉ですので、ご存じなかったら、この言葉は知っておいた方が良いと思います。それぞれBtoC(びーとぅしー)、BtoB(びーとぅびー)と読みます。B2C、B2Bと書かれることも多いですが、ここではBtoC、BtoBという表記で統一します。
BtoCは、個人消費者対象のビジネスです。
典型例は、個人顧客を対象とする店舗です。例えばラーメン店などがそうです。お客様は「会社」ではなく「個人」です。お金を払うのは「個人としての消費者」ですね。
旅行代理店などもBtoCが多いと思います。個人顧客の個人旅行を売る、受け付ける、という場合はBtoCとなります。
それに対して、BtoBは法人顧客、すなわち「会社」をお客様とするビジネスです。
例えば、私は経営コンサルタントですが、BtoBです。お客様は「会社」で、その「会社」に対してコンサルティングサービスを提供します。
また、トヨタ自動車(でも日産でもホンダでも)に部品を納める、素材を販売する、というような会社もBtoBですね。
商社などもBtoBですね。顧客企業に対して色々なものを販売するわけです。
私の家の近くに建築資材店があります。売り物はホームセンターで売っているようなものも含めて建築関係のものです。が、お客様は工務店などで、「一般のお客様お断り」という貼り紙がしてあります。私が買いに行っても、「取引口座」(アカウント)を持っていないと買えないわけです。「うちはBtoB専業です」と言っているわけです。
BtoC、BtoBの区分けは業種業態ではなく対象顧客
このように、主に対象とする顧客が「個人消費者」であれば、BtoCと呼ばれます。主に「会社」を相手に商売をする会社がBtoBです。
が、この区分けは結構難しかったりします。
先ほど例にあげた旅行代理店でも、BtoBの会社はあります。私が前にいた会社で海外出張をするときは、会社と契約している旅行代理店から航空チケットを買いました。その場合、その旅行代理店はビジネスとしてはBtoB、ということになります。
飲食店は多くの場合BtoCです。吉野家やスターバックスはBtoCでしょう。一方で、接待需要あどを狙う、主に法人顧客を狙うような高級飲食店もあります。その場合はBtoBとなります。
逆に、飲食店をお客様とする(=BtoB)ような食品卸会社が、直接個人顧客に「も」販売するような場合は、BtoCでもある、ということになります。
BtoC、BtoBは「業種業態」ではなく「対象顧客」で分けられるために、同じ会社がBtoCでありBtoBでもあり、ということが起きうるわけです。
難しいのが、食品メーカー、飲料メーカー、電機メーカーなどです。
コカ・コーラはBtoC? BtoB?
例えばコカ・コーラ(三ツ矢サイダーでも同じですが)は一般的にはBtoCと呼ばれます。
実際、コカ・コーラが自社の自販機(正確にはコカ・コーラボトラーズジャパンの自販機)でコカ・コーラを売る場合、最終消費者に直接届ける「直販」です。これはまさにBtoCです。
しかし、飲食店やホテルに卸す場合は、会社相手となりますからBtoBです。コーラを仕入れるか、あるいはその競合の商品(ペプシコーラでも何でも)を仕入れるかどうかを決めるのは、飲食店やホテルです。
さらに、コンビニやスーパーで売る場合はどうでしょう? これも厳密にはBtoBです。なぜならコカ・コーラをコンビニやスーパーで売るかどうかを決めるのは、そのコンビニやスーパーのバイヤー(仕入担当者)だからです。そして最終的に消費者の手に届きます。
このような、コカ・コーラ→コンビニやスーパー→最終消費者、のような流れは「BtoBtoC」と呼ばれることもあります。
コカ・コーラ(自社)が最初のB(会社)、コンビニやスーパーが中間のB(会社)、最終消費者がC(消費者)、ですね。
前半がBtoB(会社→会社)で、後半がBtoC(会社→消費者)です。両方くっつけて、BtoBtoCです。
正確に言えば、コンビニやスーパーの前に食品卸会社が入ります(入らないこともあるかもしれませんが、入る方が圧倒的に多いと思います)。が、説明の簡易化のためにここでは省略します。
この項目の「コカコーラは、BtoC? BtoB?」ですが、その答えは「両方」ということになります。
一番上の飲食店やホテルは、比較的典型的な「BtoB」に近い流れだと思います。意思決定者は飲食店のオーナーや、大手チェーンの場合はバイヤーなどですね。そちらに営業担当車が営業に行く、ということになります。
2番目の流れ、コンビニやスーパーがBtoBtoCです。BtoCというと一般的にはこの流れを指すことが多いと思います。
そして一番下の自動販売機は消費者への「直販」です。まさに「BtoC」です。厳密な意味でのBtoCはこの流れだけですが、コンビニやスーパーでの販売もBtoCに入ると言われます。自動販売機がコカ・コーラにとって重要な理由の1つは、利益率です。自社チャネルですので、乱売競争・価格競争になったりしないわけです。自動販売機は非常に多くありますが、実際あまり価格競争にはなっていませんよね。
多くのBtoCは、実際にはBtoBtoC
コンビニやスーパーで売られる商品は、「BtoBtoC」です。そしてこれが「典型的なBtoC」とされることが多いと思います。コカ・コーラなどの飲料、アイスクリーム、食品、などがここにあてはまります。
この流れは厳密にはBtoBなのに、なぜこれがBtoCと呼ばれるかというと、その理由は、最終消費者(エンドユーザー)の影響力・介在度合いが非常に大きいからです。コンビニやスーパーでコカ・コーラが売られていなかったどうでしょう? コカ・コーラが飲みたい消費者は、他のコンビニやスーパーに行ってしまうかもしれません。そうなると、コンビニやスーパーが困ります。
逆に言えば、「最終消費者が欲しい」と言えば、コンビニやスーパーはそれに逆らうことはできないのです(逆らっても構いませんが、消費者が来店しなくなります)。
その意味で、最終消費者の影響力が非常に大きいので、コカ・コーラなどの飲料メーカーや食品・菓子メーカーは、TVCMで最終消費者に直接訴えかけるわけです。そして最終消費者が、コンビニやスーパーに対して「コカ・コーラが欲しい!」と言えば、コンビニやスーパーは自分の意見(例えばコンビニやスーパーの利益率)にかかわらず、仕入れざるを得ません。なぜなら最終消費者の支持が得られなければコンビニやスーパーが来店客に来店していただけないからです。
図のような右から左すなわち「最終消費者からの流れ」を作ることを「プルマーケティング」と呼んだりします。最終消費者を「プル」(pull)、引き寄せる、ということですね。
このように、コカ・コーラ→コンビニ・スーパー→最終消費者 のような流れは、厳密にはBtoBですが、最終消費者(C)の影響力が大きいので、一般的にはBtoCと呼ばれるわけです。
BtoCと言われる会社(最終消費者を顧客とする飲料メーカー、食品メーカー、菓子メーカーなど)は、実際にはBtoBtoCです。
そう申し上げた上で、やはりこの流れでも「BtoB」であることに違いはありません。どういうことかというと、コンビニやスーパーのバイヤーの力は非常に強い、ということです。例えばセブン-イレブンで2万店以上あります。セブン-イレブン(ローソンでもファミリーマートでも)のバイヤーに「御社の商品は扱いません」と言われると、ビジネスとして、大打撃を被ってしまうのです。
ただ、バイヤーの基本的なニーズは「売れるものを仕入れたい」ということですので、コンビニやスーパーも「売れるもの」(=消費者に人気のある商品)は仕入れる、ということになります。その意味では、このBtoBtoCの流れはやはり「BtoC」に近い、となるでしょう。
D2Cが一般的になるなど、垣根は曖昧になりつつある
しかし、最近は食品メーカーや菓子メーカーが本当にBtoCをやろうとしたりしています。
例えば、菓子メーカーのロッテは、自社の直販サイトを持っており、そこで最終消費者に直接販売しています。まさにメーカー直販であり、BtoCです。
また、私はこの記事を書いているパナソニックのノートパソコン「レッツ・ノート」を、パナソニックの直販サイト「パナソニックストア」で買いました。
ノートパソコンも、通常はヤマダ電機(テックランド)やビックカメラなどの家電量販店を通して販売するBtoBtoCです。
しかし、パナソニックはかなり前からこのパナソニックストアでの直販を強化しています。パナソニックストア限定の超高性能(&高価格)モデルがあり、レッツノートマニア(私もその1人)はそれを買いたいわけです。
このような、「消費者直販」のことを最近は「D2C」(Direct to Consumer)と呼びます。「D2C」というと最近のトレンドでカッコイイですが、つまりは昔から言われる「消費者直販」です(ただ、D2Cというと多分に「ネット」のニュアンスが強く出るようです)。日本文化センターさんなどは70年代から消費者直販をやっていたと思いますが、昔からある業態です。
そしてD2Cの流れが決定的になったのが、2020年初頭頃からのコロナウイルスです。
消費者が家にいるようになり、お店にあまり行かなくなりました。典型例が飲食店です。
飲食店が打撃を受けると、飲食店相手にビジネスをしていた会社(例えば食品会社、食品卸会社、水産会社、などなど)も打撃を受けます。
すると、そのような飲食店相手にビジネスをしていた会社が、消費者直販へと進出するわけです。
体感では、2020年後半にはこの流れがかなり強くなったように感じています。
ここまでが前段です。
単純にBtoCとBtoBを分けるのは難しい、というお話でした。
そう申し上げた上で、BtoCとBtoBはどう違うのでしょうか?
この記事では、BtoBがBtoCとどう違うのか、BtoBの視点から見ていきます。
BtoBの3つの特徴
私は、BtoBの経験が多くかつ長いです。私は「ドリルを売るには穴を売れ」(青春出版社)などの本の印象が強いためか、「BtoCの人」と思われがちです。実際BtoCの経験もかなりありますが、それでもBtoBの経験の方が多いです。
その経験則から、私はBtoBとBtoCには大別して3つの違いがあると感じています。
BtoBの3つの特徴
BtoBの3つの特徴
1)ベネフィット=企業としての利益
2)顧客ターゲットは「流れ」で考える
3)顧客企業は「組織」で動く
細かい違いは色々とあるかと思いますが、大きく違うのはこの3つだと思います。
以下、1つ1つ見ていきましょう。
BtoBの特徴1:ベネフィット=企業としての利益
まずは、ベネフィットからです。
ベネフィットとは、お客様に提供する価値・うれしさです。BtoBでもBtoCでもその部分は同じです。
ただ、見え方が変わります。
BtoCの場合、例えばハーゲンダッツが提供するベネフィットは「至福の時間」のようなうれしさとなるでしょう。
BtoBの場合、お客様は「会社」です。「会社」が最重視するのは企業としての生存でしょう。すなわち「利益」を出すことです。
「利益」は会社にとっての最終目標ではないかもしれませんが、利益が出なければ生存できません。
人間で言えば「水」でしょうか。人間は水を飲むために生きているのではないかもしれませんが、しかし水がなければ生きていけません。例えば災害時などに「水の確保」というのは、最優先課題になります。同様に企業でも「利益の確保」は最優先課題になります。
すなわち、自社の商品・サービスが顧客企業にどのように「顧客企業の利益」を提供するのかを考える必要があります。
利益=売上-費用
ですから、顧客企業が利益を上げるには、顧客企業の売上を上げるか、顧客企業の費用を下げるか、です。
自社商品・サービスが、顧客企業のどちらかあるいは両方に貢献できると、それは顧客企業に「価値」「うれしさ」を提供できるということになります。ちなみのその提供価値が競合と同じであれば、それは価格競争になります。なぜなら顧客企業が「利益」を求めるために安い方を選ぶからです。
BtoBでは自社の商品・サービスが
・顧客企業の売上向上にどう貢献するのか
・顧客企業の費用削減にどう貢献するのか
を考えよう!
例えば、自社が企業にITシステムを販売しているという場合を考えます。顧客企業が必要としているのは「ITシステム」ではなく、
・早いコミュニケーションによる製品開発強化(→売上向上)
・省力化・省人化(人が〇〇人減らせる→人件費削減)
などのように考えていきます。自社のITシステムがどのように
・顧客企業の売上向上にどう貢献するのか
・顧客企業の費用削減にどう貢献するのか
と考えると、それは顧客企業に対して刺さりやすくなります。
すさまじく平たく申し上げると、こうなります。
・うちの商品・サービスを使うと、このように儲かります
と説得力を持って言い切れれば、おそらく顧客企業に話を聞いていただる、ということです。
TCO:Total Cost of Ownership
ここで重要になるのが「TCO」という考え方です。
Total Cost of Ownership の略です。BtoBでは非常に重要な考え方ですが、意外に広まっていないように思います。
「総所有コスト」のように訳されますが、少々微妙な訳語ですので、TCOと呼ぶことにします。
自動車で考えるとわかりやすいです。
・初期費用(イニシャルコスト) 車体価格、税金など
・運用費用(ランニングコスト) ガソリン代、駐車場、車検、保険、など
初期費用は、車を最初に持つために必要なコストです。車で言えば、車体価格と消費税などですね。
しかし、それで終わりではありません。買った「後」にかかるのが運用費用です。使えば当然ガソリン代がかかります。使わなくても維持費、例えば駐車場、車検、保険などがかかります。
車の場合、長期保有すると、ほぼ間違いなく
「運用費用>初期費用」
となります。
私の自宅(都心部)近くでは駐車場が月2万円くらいです。これだけで年間24万円、5年間で120万円になります。低価格な車なら買えてしまいそうなくらいかかるんです。駐車場代だけで、です。
ここで、「燃費の良い車」に意味が出てくるわけです。
トヨタのヤリスハイブリッドで35.8km/Lです(WLTCモード、2021年5月現在)。
燃費は1ケタだった時代に車に乗っていた世代の私から比べると、信じがたい数字です。
計算を簡略化するために30km/Lとします。
そしてガソリンを1L=140円とします(2021年5月時点でのおおよその市場価格)。
あなたが今乗っている車の燃費が10km/Lだとします。すると燃費の「差」は20km/Lです。
あなたが年間3万km乗るときのガソリン代を考えてみます。
・燃費10km/L :140円×3000L=420,000円
・燃費30km/L :140円×1000L=140,000円
その「差」は年間なんと28万円! あなたが5年間乗るとすると、140万円の「差」になります!
ガソリン代は「運用費用」(ランニングコスト)です。
車の初期費用は本体価格です。ヤリスのハイブリッド車が213万円(税込)です。
TCO(=初期費用+運用費用)で考えると、5年間で140万円の差があるわけですから、初期費用だけを見てみると
・ヤリス ハイブリッド 213万円
・燃費10km/L 73万円 (213-140)
となって初めて等しくなる、ということですね(説明がややこしくなるので、下取り価格の差などは無視します)。
要は、「初期費用だけで考えてはいけない」ということです。
さて、ここでBtoBの事例として、工場で使う生産機械について考えてみましょう。
A社:初期費用 3億円 運用費用:年間5000万円
B社 初期費用 4億円 運用費用:年間3000万円
だったとします。
それぞれに、顧客企業に対する売り方がかなり違うことになりますね。
初期費用の安いA社は、「うちの機械は1億円安い!」という売り方をするでしょう。運用費用については、「聞かれたらやむをえず答える」という感じでしょうか。
初期費用が高いですが、運用費用が年間2000万円も安いB社は、もちろん運用費用を前面に出します。
「確かに当社の初期費用は、1億円高いです。が、5年間使えば、同じになります。なぜなら運用費用が年間2000万円安いからです。10年間使えば、我が社の方が1億円も安くなります!」という売り方をするでしょう。
この場合、B社の方が売るのは少し難しくなることが多いと思います。運用費用が安いことの信頼性の高い証拠・データをきちんと揃える必要があります。その上で「このデータが御社にも当てはまります」ということを顧客企業に納得していただく必要があるからです。
また、それぞれに「売りに行く部門」が違うことが考えられます。後述しますが、BtoBにおける顧客セグメンテーションでは、「部署」が極めて重要な役割を果たします。経験則としては「最重要」と言っても良いくらいです。
なぜなら、顧客企業の「部署」によってニーズが全く違うからです。
A社の「初期費用」を高く評価するのは、おそらく「調達部門」です。調達部門は「運用費用」までは勘案しないことが多いでしょう。「私はなんとA社の1億円も安い機械を調達しました!」ということが調達部門の手柄になります。
B社の「運用費用」を高く評価するのは、運用費用を予算に持つエンドユーザー部門(この場合は工場の生産部門)でしょう。
初期費用・運用費用の違いで、営業に行くべき部門が全く変わることがわかると思います。
なお、BtoCでもこのようなTCOを考えたマーケティングというか販売戦略を行っている例はあります。
最近だと「冷蔵庫」がTCOのロジックを使った販促をしています。最近の冷蔵庫は節電性能が良いようで、10年前のものと比べると、電気消費量が半分程度になっている場合もあるようです。
最新モデルにすると、場合によっては年間1万円近く電気代が下がる場合もある、というようなことも言われます。
冷蔵庫が10年使えるとすると、それで10万円の「コスト削減」になるわけです。モノによっては新しい冷蔵庫がそれで買えてしまうくらいです。家電量販店の店頭で、このようなロジッで販促を展開していることがあります。
これはまさにTCOの考え方を使った売り方ですが、このような販促はお客様に刺さりますよね。
QCDバランス
特に顧客企業がメーカーの場合に重要になるのがQCDという考え方です。メーカーでは非常によく使われる言葉です。
QCD
Q Quality 品質 →高い方がよい
C Cost コスト →安い方が良い
D Delivery 納期 →早いほうが良い・希望の納期通りが良い
の3つです。
自社が例えば自動車の部品メーカーだとします。顧客は完成品の自動車メーカーだとします。
顧客企業である自動社メーカーが、自社に求めるのがこの3つだということです。
が、お気づきの通り、
・Q:品質が高く
・C:コストが安く
・D:納期が早い
などというのは不可能です。もしできるのであれば、シェアのほとんどを取れるはずです(もっともその場合は値段を下げる必要がありませんので、Cはむしろ上げて良いでしょう)。
このQCDの三つは、相反する関係にあります。単純に、品質を上げるためにはコストがかかります。コストがかからずに品質が上げられるのであれば、競合を含めて全員がやります。そうなると結局はコストがかからずに品質が上げられるところまでみんなが品質を上げることになります。そして、品質を上げるためにはコストがかかる、というところまで品質が上がることになります。
お客様が求めるものはQCDのどれで、自社が強いのはQCDのどれか、というのを考えておくのが大事です。
顧客企業のニーズは、いつもいつも一緒ではありません。TPO(時・場所・場合)によってニーズが違います。
例えば……
・Q重視のとき:超高級製品を作りたいから、高くても良いから高品質なものを
・C重視のとき:納期も品質もそれなりでいいからとにかくコストを下げたい
・D重視のとき:在庫が切れたから早く欲しい。お金に糸目はつけない
など、TPOによってニーズが違うでしょう。
例えば、「この部品がないと製造ラインが止まる」などというときはお金に糸目はつけないでしょう。製造ラインが止まる、というのは工場としては「安全性」の次に大事なことです。なぜなら製造ラインが止まると莫大な損害が出ることが多いからです。
極端な話、100万円の部品の在庫がないために製造ラインが止まって100億円の損害が出る、ということもあり得るわけです。そのような場合、100万円の部品に1億円出しても手に入れたい、ということはあるかもしれません。
ラインの立ち上げ時と、立ち上げが軌道にのったときでニーズが変わる、というのもあるかもしれません。
ラインの立ち上げ時には、安定性を確保するために高品質(=高価)な部品を使っておきます。そしてラインが安定してきたら、徐々に部品のコストを下げるために、品質に若干妥協してもコストを下げていく、というようなこともあるかと思います。
顧客企業は、「今QCDのどれを重視しているのか」と考えると、ニーズがつかみやすくなります。
SDGs
ここまで、BtoBのベネフィットは「利益」ということを見てきました。平たく申し上げれば「お金儲け」ですね。「うちの商品・サービスを使えば御社が儲かる」と言い切れれば、お客様は聞く耳を持ちます。
しかし、企業はお金のために存在しているわけではありません。先ほども申し上げましたが、水は人間にとって一番必要なものの1つですが、人間は水を飲むために生きているわけではありません。
例えば企業理念の実現なども重要な場合があります。近年で言えばSDGsのようなものです(ここではSDGsの詳細な説明は避けますが、まあ「社会貢献」のようなものかと思います)。
例えば、自社の商品・サービスが、顧客企業の利益にあまり影響を与えずに、「環境への負荷」を減らせるのであれば、それは顧客企業によっては刺さるでしょう。
ただ、企業がSDGsに投資する本当の理由は、
・SDGsを推進していないと、投資家に投資してもらえない
・SDGsを頑張っているというと、お客様(顧客企業のお客様)の共感
を呼んで、自社の売上が上がる
・SDGsをきちんとやっていないとメディアやお客様に叩かれる(=売上が減る)
というような実利的なメリットであることも少なからずあると思います。
どの企業もそんなことをあからさまに言うはずがありませんし、聞いても否定するでしょうから、その証明はできません。しかしホンネがそのあたりの「現世メリット」(要は「利益」)にある、ということは多いと思います。
その場合は、そのような「現世メリット」を「さりげなく」アピールするといいですね。
例えば、
「弊社の〇〇を使うと、御社の環境報告書でこんなアピールができますよ。投資家やお客様に褒めてもらえますよ」
というような感じです。
イヤらしい感じもしますが、これがお客様の「ホンネ」のベネフィットなのかもしれません。
BtoBの特徴2:顧客ターゲットは「流れ」で考える
BtoBの2つめの特徴に行きましょう。
それは、顧客ターゲットについては「流れ」で考える、ということです。「流れ」が何を意味するかは、下の図をご覧ください。
通常のBtoBでは、このような「流れ」をつたってエンドユーザーまで商品・サービスが「流れて」いきます。
特に、原材料や素材などでは、流通が長いことが多いです。建材メーカーなどでは特に顕著です。
タイル、壁紙、サッシ、窓枠、など、今あなたがいらっしゃる部屋の周りにあるものをご覧になってみてください。全てにメーカーがいるわけです。
このような商材の流通は、通常とても長いです。メーカーさんが、まずは商社さんに販売します。その商社さんから例えばゼネコンなどに行き、そしてエンドユーザー(建材を使う人)である工務店へ……と流れていくわけです。最終的には「施主」という建物を作る人のところへ行くわけです。
なぜこのような「長い流れ」になるかというと、1つの家を建てるのに、すさまじい数の「部品」が必要になるからです。
まず、建物を作るお金を払う人(施主)はよほどのことでなければ建材そのものにはこだわりません。例えば「トイレはTOTOがいい」などの完成品レベルでの指定はあるかもしれません(それはTOTOにとっての理想的なスペックイン営業でしょう)。が、「サッシの窓枠に使われる部品の原材料は〇〇社のものがいい」というようなことは言いませんよね。
では建物を作る人(ゼネコンでも工務店でも)が全ての部品を指定して買い集める、というのも現実的ではありません。
すさまじい数の部品を作るメーカーを集約する存在が「商社」だったり「卸」などの「中間流通」です。中間流通という存在が、何万、何百万、という建築素材・部品を集約して買いやすく、選びやすくしてくれるわけです。
「流れ」の中でのキーマンを把握しよう
あなたが川上にいるメーカーだとします。この「流れ」の中で、あなたとその競合でどちらを選ぶか、というのを決めるのは誰でしょうか?
流れが長かったとしても、「選ぶ」キーマンはたくさんはいないはずです。
わかりやすいのは……例えばそうですね、あなたの会社で使う「文房具」などはどうでしょうか。総務部のキャビネットにボールペンなどの文房具がまとめて置いてあるかもしれません。
文房具の意思決定者は総務部門かもしれません。しかし、総務部の文房具担当車がボールペンや消しゴムのメーカーを指定するでしょうか?
「ボールペンはどうしてもジェットストリームがいい!」のような好みはBtoCではあるかもしれませんが、BtoBでは単価などの方が重視されるでしょう。
おそらくは中間の卸会社などが「日本の中にすさまじくたくさんあるあまたの文房具」の中から、「何らかの理由」でどこかのメーカーの「ボールペン」を選んで、顧客企業の総務部に「これでいいですか?」というような形で了承を得ているのではないでしょうか?
となると、「流れ」の中での実質的な意思決定者は「卸会社の仕入担当者」かもしれません。
であれば、その人のところに営業に行かなければ、意味がないわけですね。
もちろんボールペンの営業担当者が全ての企業を訪ねて営業することは可能にしても、それはあまりに効率が悪いです。
その「卸会社の仕入担当者」のところに営業に行って、何らかの理由で自社のボールペンを優先して取り扱ってもらえれば、その卸会社の先にいる「全ての顧客企業」のところに自社のボールペンが行きます。
これはあくまでも例ですが、このように、「流れ」の中でのキーマンを把握することが大事です。
建材などでは、卸会社などに「業界の元締め」とも言うような存在の方がいらっしゃることがあると聞きます。業界に長くいて、オモテもウラも知り尽くしており、その方が「仕切っている」ような場合です。そのような場合、いかにその「業界の元締め」に気に入られるか、というようなことが大事、という場合もあるようです。嫌われてしまったら、いかにその「業界の元締め」の対抗勢力を作るか、というような対抗策をとったりするわけですね。
このように、BtoBでは、「営業」の存在が非常に大きくなります。BtoBマーケティングでは「営業」の果たす役割が非常に大きいため、マーケティングと営業を切り離して考えるのはあまり現実的ではありません。
なお、これも経験則なのですが、「流れ」の「上流」で勝負するか、「下流」で勝負するか、で競争ポイントが違ってきます。
流れの「上流」で決まる場合は、「価格勝負」になります。というのも、場合によっては数百万店もの商品を扱う商社などの場合は、1つ1つの商品の吟味をすることは難しいからです。難しいので「安いよ」という価格勝負に走りやすくなるわけです。
流れの「下流」で決まる場合は、エンドユーザーの「価値」勝負になることが多いです。例えばパソコンなどがそうです。ユーザー企業が「パナソニックのレッツノートが良い。なぜなら頑丈、軽量、長時間、高性能、を満たしているのがレッツノートだけだからだ」(例えばの例ですが、実際にそうだと思います)というようなメーカー指定が入ったりするわけです。
パソコン同様に同じIT系の商品でも、ネットワークケーブルなどは、そこまでのメーカー指定は入らないことが多いと思います。ユーザー企業が「ネットワークケーブルは〇〇社がいい」とは言わないわけです。そうなると、その前の段階、例えば商社が「多くのメーカーから安いものを選ぶ」ということで、価格勝負になりやすい、ということですね。
「上流」で価格勝負をする場合と、「下流」で価値勝負をする場合では、やり方が全く違ってきます。どちらで勝負するのかを考えるのも良いと思います。
BtoBの特徴3:顧客企業は「組織」で動く
顧客企業は「組織」で動く
そしてBtoBの3つ目の特徴は、BtoBは「法人顧客」対象のビジネスですから、お客様が会社である、ということです。
そしてそれは、ほぼそのまま「会社組織」が顧客になる、ということです。BtoCの場合、多くは「個人」すなわち「1人」が顧客ですが、BtoBでは「多くの人で構成される組織」がお客様になります。
すなわち、意思決定に携わる人が多数いる、ということになります。
部署によるニーズの違い
BtoBのセグメンテーションで一番影響力を与える要素は「部署」によるニーズの違いだと思います。
会社は違っても、「部署」のニーズは極めて似通っているのです。データはありませんが、私の経験からこれはほぼ断言できます。
部署によるニーズの違い
・経営者・経営部門:利益・株価、会社の存続
・営業部門:売上、顧客満足
・生産部門:安全性、生産性
・調達部門:コスト削減、納期短縮
・人事部門:良い人材の採用・育成、従業員満足
このように、各部署で優先事項が違うのです。
このような不思議なことが起きる理由は、各部署の社内の「評価指標」が違うからです。
営業部門は、「売上」で評価されることが多いです。しかし生産部門は、「売上」ではまず評価されません。例えば「生産コストの低下」などで評価されます。
各部門によってニーズが違うのです。だからこそ部門間の対立のようなことが起きるのですが、それは本論ではないのでここでは触れません。
ここで、先ほどのTCOの話を思い出していただきたいのです。
先ほどの例のように、工場に生産機械を売るというような場合、
「初期費用」を気にするのは、おそらく調達部門です。
「運用費用」を気にするのは、おそらく生産部門です。
自社の強みを評価してもらえる部署はどこなのか、ということを考える必要があるわけです。
BtoBのセグメンテーションでは、「会社」に加えて「どの部署をターゲットとするか」ということを考えることが非常に重要になるのです。
ユーザーとバイヤーのニーズのかい離
BtoBの営業でよく起きるのが、顧客企業内での部署間のニーズのかい離です。
非常に多いのが「ユーザーとバイヤーのニーズのかい離」です。
例えばメーカーに何かを売りに行く場合、まずは「調達」に話を通しにいくことが多いと思います。
調達部門のニーズは、先ほどのように「コスト削減」「納期短縮」です。安いモノが欲しいわけです。なぜならそれが彼らの手柄になるからです。
しかし、開発部門のニーズは、必ずしも「コスト削減」とは限りません。むしろ「開発期間の短縮」だったりするわけです。
ここで、調達部門は「バイヤー」すなわち「買う人」です。開発部門は「ユーザー」すなわち「使う」人です。バイヤーとユーザーでニーズがかい離していることがわかります。
自社の強みが「低価格」であれば、調達部門に営業に行けばいいです。
しかし、自社の強みが「技術力が高く、顧客企業の製品開発を手伝える。しかし結果として製品は高価になる」というような場合、調達部門に行っても門前払いになります。なぜなら「高い」からです。そして「製品開発を手伝える」というのは、調達部門にとっては関係ないことです。
このような場合は、開発部門に営業に行く必要があります。そして開発部門から調達部門に対して、「ここは高いけど必要だからここから買って」とおっしゃっていただくわけです。
企業にITシステムを売る、という場合は、顧客企業の担当部門は「情報システム部門」です。ここが「バイヤー」になります。
しかし、ITシステムの「ユーザー」部門すなわち実際にITシステムを使うのは営業部門だったりもします。
ここで「ユーザーとバイヤーのニーズのかい離」が良く起きます。
バイヤー(情報システム部門)
・IT化を進めるのが自分の手柄だからIT化を進めたい
・自分がラクなように保守しやすいシステムが欲しい
ユーザー(営業部門)
・使いにくいシステムは絶対にイヤ。入力に時間をかけるより、1件でも多く訪問したい
・そもそもIT化はしたくない。ヘタにIT化されると、うち(営業部門)の実態が社長にバレてしまう……
というようなときですね。このような場合、ITシステムを入れたい情報システム部門と、入れたくない営業部門のニーズが対立することになります。
このようなときには、営業の腕の見せ所、というところになります。両方の部署をきちんと取り持って、きちんと「使えるITシステム」を提案するわけですね。
最終的には、「利益を生むITシステム」というところがきちんと説得しきれれば、最終的な意思決定者である経営者の支持を得られるはずです。
なお、ユーザーとバイヤーのニーズのかい離、というのはBtoCでもあります。
プレミアムビールなどがそれにあてはまります。
・バイヤー(例えば奥様) 「安いビール、発砲酒にしなさい」
・ユーザー(例えばご主人)「えーたまにはいいビール飲ませてよ」
というような場合です。
バイヤー(例えば奥様)を説得するなら、「たまにはねぎらってあげてください」というようなCMを流してもいいかもしれませんね。
「家族」もある意味で「組織」ですので、このようなことがあり得るわけです。
意思決定者(キーマン)を捉えよう!
BtoBのターゲティングでは、理想は、意思決定者に直接アプローチすることです。営業でも、DMを送るにしても、です。
ただ、それはなかなか難しいです。意思決定者は、組織の上層や経営部門にいることが多いです。
現場の営業担当者は、例えば調達部門の担当者などと日常的に会いますよね。なかなか顧客企業の「経営者」や「役員」とは会えないでしょう。
そうなると、意思決定者に対して、どのように自社のことを伝えていくか、ということを考えるわけです。
自分が営業担当者という場合、まずは日常的に会える顧客企業の担当者はどなたでしょうか? その担当者の方から、顧客企業の意思決定者まで、どのように自社の情報が流れていくでしょうか? その「情報の流れ」を考えるわけです。
例えば、その担当者の方が、自社製品のことを、顧客企業の状況に合わせて説明できるような資料を作ってあげる、というようなことが大事になります。
顧客企業の組織の中での「流れ」を考えていくわけですね。
BtoBの事例とBtoCに事例を相互に学びあおう
ここまで、BtoBとBtoCの「違い」を見てきました。
逆に、これらの違いを考慮すれば、他はそれほど差が無いということでもあります。
例えば、「商品・サービスを選ぶ理由」などは、BtoBでもBtoCでもそれほど変わりません。
差別化には3つのパターンがあります。私はこれを「3つの差別化軸」と呼んでいます。私のオリジナルではなく、マイケル・トレーシー&フレッド・ウィアセーマ両氏のアイディアです。
1)手軽軸:競合より早い、安い、便利
2)商品軸:競合より品質・技術・性能などが高い
3)密着軸:競合より顧客1人1人によりよく合わせられる
このような考え方は、BtoBとBtoCで共通します。
BtoBとBtoCの「違い」よりも、むしろ「共通点」に着目すべきだと思います。
すると何が良いかというと、BtoBのビジネスでもBtoCの事例から学びを得られるのです。
BtoBは企業間取引になりますので、その事例はなかなかオモテに出てきません。
しかし、BtoCの事例は、色々なところであふれています。また、私たちは毎日消費者として生活しているわけですから、私たちの周りにBtoCの事例は溢れています。
BtoBビジネスでは、BtoCの粗っぽいが数を稼げるようなBtoCマーケティングから学ぶことが多いと思います。
BtoCビジネスでは、BtoBの緻密なマーケティングや営業から学ぶことも多いと思います。
BtoBとBtoCの「違い」を踏まえた上で、互いに学び合ってみるというのが理想的ですね。
なお、BtoBマーケティングをさらに突っ込んでお考えになられたい、という方にはこの本がお勧めです。私が書かせていただいた本です。BtoBの実戦的な事例が多く掲載されています。
事例でわかる 実戦BtoBマーケティング 日本能率協会マネジメントセンター刊 佐藤義典著 1,760円(税込)
このサイトの管理人&制作者、佐藤義典の著書。法人顧客向けビジネスの営業・マーケティング・商品開発のガイドブックの決定版。戦略BASiCSをBtoBに適用し、お客様に選ばれ、そして頼られるようになるためのヒントが満載! 営業担当者にも好適 アマゾンはここをクリック