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SWOT分析とは? SWOT分析が使えない3つの理由
この記事の目次
SWOT分析とは
戦略を考えるときに、最初に出てくる「分析手法」「戦略フレームワーク」の1つが、SWOT分析です。
Strength:強み
Weakness:弱み
Opportunity:機会
Threat:脅威
の、4つの視点から環境分析をしよう、戦略を作ろう、というものです。それぞれの英語の頭文字をとってSWOT分析、ですね。「すうぉっと」と読まれることが多いです。
私は「中小企業診断士」というコンサルタント唯一の国家資格を持っています。その中小企業診断士の受験の際にも、ほぼ「必ず」と言ってよいほど習います。
さて……これは本当に使えるのでしょうか?
結論は、穏当に言えば「ごく限定的に使える」、はっきり言えば「やめた方がよい」となります。
理由1:「分析」が恣意的になりすぎる
おそらく、SWOT分析をされた方であれば、誰でも経験されたことがあるのが、その「分類」について、です。
・「これは強みなのか? 弱みなのか? どちらでもあり得るのでは……」
・「これは機会なのか? 脅威なのか? どちらに分類すべきか……」
という「どちらにするのか問題」には、誰しも悩んだことがあるはずです。
例えば、自社の企業規模が小さいとしましょう。仮に、10名規模の会社としましょうか。
これは「強み」なのでしょうか? 「弱み」なのでしょうか?
他の前提や条件なし(それについては次の理由2でお話します)には、そんなことが決まるはずはありません。強みになる場合もあれば、弱みになる場合もあります。
例えば、「小さい」と、「動きが速い」ということにはなるかもしれません。ではそれは「強み」でしょうか? お客様がそれを望んでいれば「強み」になります。しかし、それを望んでいないのであれば、「どうでもいい」となります。お客様が「大きい」ことを望んでいれば、「弱み」になります。
ですので、「小さいことは、強みか弱みか?」に対しては、「場合による」が正確な回答です。当たり前の話です。
であるにも関わらず、「SWOT分析だけ」をすると、「強み」か「弱み」か、をムリヤリ分類することになります。
結果として、「自分が思ったようにテキトーに分類する」となってしまいがちなわけです。
そして……SWOT分析を会議で発表すると、
・違う! それは「弱みだ」!
・いや違う! それややっぱり「強みだ!}
という水掛け論が起きるわけですね。基準がないので、それはそうなりますよね。時間のムダです。この時間のムダも使わない方が良い理由になります。
そして、「強み」と「弱み」の間違いが命取りになることは容易に想像できます。「強み」だと思っていた(本当は)「弱み」を中心に据えた戦略で、勝てるはずがありません。
恣意的(つまりはテキトー)に分類した「強み」で、会社の命運を左右する「戦略」を決めていいのでしょうか?
理由2:戦略が変われば強みが変わる
競合が変われば強みが変わる
SWOT分析は、「強み」を考える手法です。
しかし、「強み」はそれ単独で考えてはいけません。
「強み」というのは、あくまで「競合と比べて」、です。「競合」が変われば「強み」が変わるんです。
例えば、マクドナルドについて考えてみましょう。なぜ「マクドナルド」かというと、誰しもがご存じで、1回くらいは行かれたことがあるだろうからです。
マクドナルドの競合が「ファミレス」という場合であれば、マクドナルドの強みは「提供の早さ」になるかもしれません。
しかしマクドナルドの競合が「吉野家」という場合は、マクドナルドの方が「早い」とは言いにくいです。むしろ吉野家の方が早そうです。
となると、マクドナルドの強みは「スピードだ!」とは断言できません。競合がファミレスであれば、「早さ」が強みになり、競合が吉野家であれば、むしろそれは「弱み」(競合の方が早い)となります。
マクドナルドの「スピード」は、競合次第で「強み」にも「弱み」にもなるんです。
ですから、「強み」だけを取り出して考えてはいけないのです。必ず競合とセットで考える必要があります。
この当たり前のポイントが、多くのSWOT分析の説明ではされていないんです。
そして説明されない理由を邪推してしまいます。この「本当のこと」を言うと、「SWOT分析が使えない」ことがわかってしまう(=アクセスを稼げなくなる)からだったりしないですかね……違ったら申し訳ありませんが。
強みと弱みに限らず、「機会」と「脅威」についても同様です。
例えば、自社はSNSを使った販促が「そこそこ」得意だったとしましょう。そして、これからSNSがさらに伸びていくとします。これは「機会」ですか? 「脅威」ですか?
競合が、自社よりSNSを「さらにうまく」使えるのであれば、「脅威」になります。
自社の方が、競合よりSNSをうまく使えるのであれば「機会」になります。
結局、「強み」「弱み」「機会」「脅威」などは、「絶対的に」決まるものではなく、あくまで「想定的」に(=競合との比較で)決まるわけです。
これは、理由1の「恣意性」とは違い、SWOT分析の「論理的欠陥」と言ってもいいです。「欠陥」という言葉が強すぎるなら「論理的脆弱性」でしょうか。
もし競合を決めないでSWOT分析をすると、それは上記のように「正反対な、誤った結論」を導きかねません。
ですから、「競合」を決めた上でSWOT分析をする必要があります。つまり、「競合の分だけSWOT分析が必要になる」のです。SWOT分析はかなり「面倒な」分析手法であることがわかります。
顧客が変われば強みが変わる
「競合」が変われば「強み」が変わる、だけではありません。
「顧客」が変われば、強みがまた変わるのです。
またマクドナルドで続けましょう。
「顧客」が、「休日に家族で昼食をとりたい家族」であれば、「ハッピーセット」というおもちゃつきのメニューというマクドナルドのキラーコンテンツが強みになるかもしれません。子どもが大好きなメニューです。
しかし「顧客」が「平日の夜にガッツリ食べたい男子学生」であれば、「倍マック」(100円でパティが2倍になるキャンペーン)が強みになるかもしれません。少なくともハッピーセットは関係ありません。逆に、子どもは「倍マック」に興味はないでしょう。
「顧客」が平日の朝にコーヒーを飲みたいビジネスパーソンであれば、「100円でそれなりにおいしいコーヒー」が強みになるかもしれません。これも「子ども」は興味ないでしょう。そもそも子どもは平日の朝にマクドナルドに行かないでしょう。
このように、「顧客」次第で「強み」は全く変わるのです。
これ、当たり前のことですよね? そうなんです。顧客次第で強みが変わるというのは当たり前なんです。SWOT分析にはそれは考慮されているのでしょうか?
そもそも「強み」というのは、自分ではなく、お客様が決めることです。お客様を決めなければ、強みが決まらないのは当たり前です。
顧客が同じでも、利用場面(TPO)が変われば、強みが変わる
さらにさらに、顧客が同じでも、利用場面(=TPO)が変われば、また変わるのです。
例えば、学生がマクドナルドに行くか、他の店(競合)に行くか、というときを考えてみましょう。
マクドナルドは、結構騒がしいですよね。おそらく意図的なのだと思いますが、大きい音量で音楽をかけていたりします。
「夜にしっかり勉強したい」というTPOでは、マクドナルドのあの騒がしさは、「弱み」になります。勉強に集中できません。
「学校帰りの放課後に友人とおしゃべりしたい」というTPOでは、騒がしさは「強み」になります。静かな店で自分たちだけが騒ぐと、迷惑になりますから引け目を感じますよね。
ココ重要!つまり、「同じ人」(この場合は、勉強したりおしゃべりをしたりする学生。同じ人が勉強もおしゃべりもしますよね)でも、「勉強したいか」「おしゃべりしたいか」で、「マクドナルドが騒がしいこと」が強みになったり、弱みになったりするわけです。
つまり、SWOT分析が(ひょっとして)効果を発揮するというのならば、その前提として、
・競合
・顧客
・顧客の利用場面
が既に決まっている必要があるんです。
競合・顧客・顧客の利用場面が変われば、「強み」が「弱み」になったりするわけですから、それを決めなければSWOT分析はできません。
逆に、顧客・利用場面を決めてしまえば、競合も強みも(ほぼ)自動的に導かれます。なぜなら、それは自社の思惑ではなく、「顧客」が決めるものだからです。「強み」(=お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由)を決めるのは、お客様です。
さそうなると、そもそも「SWOT分析」なんてやる意味があるのでしょうか?
少なくとも、SWOT分析は「戦略立案には使えない」ということは自明です。なぜなら、競合・顧客・顧客の利用場面を決めることが「戦略立案」だからです。
理由3:「弱み」ばかりだとやる気をなくす
そして、無視できない「弊害」があります。それは、「弱み」を見るとやる気をなくしてしまうことです。
特に、中小企業の場合なんですが、「強み」などはあまり(ほとんど)ないケースがあります(というか非常に多いと思います)。
SWOT分析をしても、「なんだ結局弱みばっかりだ……」となってしまうわけです。
そうではなく、中小企業の場合は、「弱み」を「強み」に(ムリヤリにでも)するんです。
しかし「弱み」と分類してしまった瞬間に、諦めモードになってしまいませんか?
例えば、先ほどのマクドナルドが「騒がしい」というのは「1つの事実」でしかありません(それが事実かどうかは、ここではヨコに置きます。私が知る限り、騒がしい店が多いと思います)。それは「強み」にも「弱み」にもなり得るんです。
「騒がしい」という事実が「強み」になるような、顧客とその利用場面を探して、「強みにする」んです。この場合は、「騒ぎたい人」に対して、「マクドナルドであれば、多少騒いでも大丈夫です」ということです。
実際、マクドナルドには、ベビーカーで来る母親・父親をよく見ます。子どもはどうしても騒ぎます。静かな店で子どもがぎゃーと泣くと、周りを気にしてしまうのではないでしょうか?
騒いではいけないとは全く言っていません。私も娘がいますので、そうなってしまうのはしょうがないですし、むしろ「子育て大変だな」と暖かい目で見てあげたいです。そうではなく、両親自らが気にしてしまうのでは、ということです。
平日の夕方、マクドナルドには、
・おしゃべりをする学生たち
・小さな子どもをつれた親
をよく見かけますが、それはお客様が自らそういう判断をされているのでしょうね。
SWOT分析の正しい使い方は何か?
では、SWOT分析は全く使えないのでしょうか?
使えなくもありません。それは、どういう場合かというと……
・自分の恣意的な意見を客観的に見せたい
というときです。結論ありきで何かをプレゼンしたい、というときです。
例えば、上司に「このプロジェクトAについて、分析してくれ」と言われたとします。
そのプロジェクトAを、何らかの理由であなたが「やりたい」と思えば、「強み」にも「弱み」にも取れることを全て「強み」に、「機会」にも「脅威」にも取れることを全て「機会」に(恣意的に)分類して、「やりましょう!」と言えばいいんです。
逆に、あなたが(何となく)そのプロジェクトAを「やりたくない」と思えば、反対に、全て「弱み」「脅威」に分類して、「やめたほうが良いのでは……」と言えばいいわけです。
SWOT分析が「恣意的」であることを利用して「思考誘導」できるわけです。
実際、私がこの話をしたときにある優秀(だと私が感じた)なビジネスパーソンの方が、笑いながら「私、そうやって使ってますよ~」とおっしゃっていました。
逆に言えば、あなたの部下がSWOT分析を出してきたら、それはあなたの思考を恣意的に誘導しようとしているのかもしれません。
ではどうすれば良いのか?
結局、「顧客」とその利用場面、そして「競合」を決めれば、「強み」は論理的に決まってきます。
例えば、マクドナルドの場合、
・顧客:おしゃべりをしに来た学生
・利用場面:4人で(大きな声で)おしゃべり
・競合:(比較的静かな)カフェ
とすれば、強みは「騒いでも大丈夫なこと」「長居できること(よく学生さんは100円で粘れるみたいなことを言います)」と決まってくるわけです。というか、お客様が決めるわけです(強みを決めるのは自分ではなく、お客様です)。
このように、「顧客」「その利用場面」「競合」などと「合わせて」考えていくことになります。
私は、そのためのフレームワークとして「戦略BASiCS」というフレームワークを提唱しています。これを使えば、そもそもSWOT分析は不要になります。
戦略BASiCSについては、こちらの記事をどうぞ↓
ちなみに、私は米国でMBA(マーケティング・経営戦略専攻)を取りましたが、SWOT分析というのは習っていなかったと記憶しています(習っていないから重要ではない、ということにはなりませんが)。
SWOT分析が無害だったとしても、分析にかける時間などを考えれば、使うフレームワークは少ない方が良いと私は考えています。
私が印象的だったのは、広告代理店のような仕事をしていたときに、「SWOT分析はやめた方がいい」というアドバイスをスタッフにしたとき、「はい、SWOT分析を使うとプレゼンの流れがすっごく悪くなるんですよね……使わないようにします」という一言です。私は使いませんのでそういう意識はありませんでしたが、使う人でもやっぱり違和感を感じているものなんですね。
私のこの意見に同意した私の知り合いが、ある研修でSWOT分析を教わったときに講師に質問を投げかけたそうです。「強みっていっても、競合や顧客によって変わりませんか?」と。そうしたところ、見事にスルーされたとのこと。答えをもっていなかった、ということですね。上のような実例はいくらでもありますから、Noとは答えられませんよね……SWOT分析を教えていらっしゃる方は、このような質問に答えられるようにしておいた方が良いかと思います。