スーパーのドライブスルー:独自資源の短期的活用
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■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.192 2011/06/02
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
●短期的には、既存の独自資源をうまく活用して、「新たな強み」を
作ろう!
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◆スーパーの「ドライブスルー」
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●スーパー「オークワ」のドライブスルー
和歌山県を中心に、関西・中部でスーパーマーケットを展開するオー
クワが、「ドライブスルー」を始めました。
-----------< 記事要約 >------------
○食品スーパーのオークワが「ドライブスルー」サービスを開始。買
い物を手早く済ませたいニーズを取り込み、利用客を増やしている
○オークワのドライブスルーは来店前にネット上で注文し、顧客はあ
らかじめ指定した時間に来店。専用インターホンで名前を告げると
店員が商品を車に積み込む。店側は事前に注文商品を用意しておく
ので、インターホンを押してから商品を受け取るまでの時間はわず
かに1分程度という。
○ドライブスルーの仕組み自体はネットスーパーとほぼ同じで、商品
の受取が、配達されるか、店に自分で取りに行くかの違い。
○ドライブスルーは06年に開始したネットスーパーの利用者の不満
点を解消するために誕生。同社によるとネットスーパーに対する不
満は、大きく3つある
・配達予定時間に家にいなければならず、待ち時間がある
・配達エリアが限定される
・一定金額以上購入しないと配達料金がかかる
この3つを解消した。
○みえ朝日インター店では、ネット経由の注文件数のうち、約2割が
ドライブスルーの利用を選択するという。同社のネットスーパーの
実施店は現在12店。中期的に30店程度まで拡大する予定。
2011/05/25, 日経MJ(流通新聞), 5ページ
-----------< 記事要約 >------------
ドライブスルーのスーパーは珍しいなあ、と思っていたら、オークワ
によると「日本初上陸」だそうです。
http://www.okuwa.net/kouhou/izumi-oda.htm
確かに、宅配便なんかだと、時間指定ができるにしても、1~2時間
は「家にいなければいけない」という拘束時間が発生します。
「取りに行く」というのは、面倒かもしれませんが、どうせ外に出る
方にとっては、「待たされなくていい」というメリットがあります。
実は「弱み」ではなく「強み」だったわけですね。
ただ、今日は「弱みで勝つ」話ではなく、戦略BASiCSの使い方
の話です。
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◆復習:戦略BASiCS
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●戦略BASiCS 戦略の5つのチェックポイント
一応復習しておきましょう。
経営戦略・マーケティング戦略で考えるべきポイントは5つです。そ
の5つは……
Battlefield:戦場・競合
Asset:独自資源
Strength:強み
i
Customer:顧客
Selling message:メッセージ
です。
戦略BASiCSは、この5つのチェックポイントでマーケティング
戦略を考えていく、経営・マーケティング戦略の統合フレームワーク
です。
戦略BASiCSの詳細は、「経営戦略立案シナリオ」(かんき出版
刊)で!
http://www.sandt.co.jp/scenario.htm
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◆ネットスーパーの仕組みを活用し、あらたなサービスを展開
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●新たな「強み」で、新たな「顧客」を獲得
オークワのドライブスルーのHPでは、こんな「メッセージ」が踊っ
ています。
-----------< HP引用 >------------
○ムダな待ち時間がゼロ!
○配達料金も当然タダ!
○配達エリアの制限ナシ!
○車から降りないから楽ラク!
眠っているお子様をベビーシートから下ろす必要も無く、車に乗った
ままお受け取り!
https://www.netsuper-okuwa.jp/shop/drive2.html
-----------< HP引用 >------------
特に、最後の、「眠っているお子様を……」なんていうのは、非常に
具体的で「刺さる」メッセージになっていますね。おそらくは社員の
方の実体験に基づいたものかもしれません。
先ほどの記事の、
・配達予定時間に家にいなければならず、待ち時間がある
・配達エリアが限定される
・一定金額以上購入しないと配達料金がかかる
というネットスーパーへの「不満点」の裏返しになっていることがわ
かります。
これは「良いメッセージ」の見本でもあります。
本題に戻りましょう。
ネットスーパーは、ずっと家にいる人には便利かもしれませんが、家
にあまりいない人には、不向きですよね。届くのを待っている間には
出かけられませんので、かえって不便だったりします。
例えば、
・車で通勤するビジネスパーソンが帰りに寄る
・子供の送り迎えをする主夫・主婦がついでに寄る
などの場合には便利です。
都心に住んでいらっしゃる方々にはピンと来ないかもしれませんが、
車で通勤し、車で買い物に行く、というのが普通の生活、という地域
も結構あります。
そういう地域では便利でしょうね。
ネットスーパーの「届けてくれる」という強みが「家にいる人」とい
うお客様には便利なように、ドライブスルーの「取りに行ける」とい
う「強み」が、「よく出かける人」には便利なのですね。
●「仕組み」自体は、ネットスーパーと同じ
ポイントはここからです。
この「ドライブスルー」の仕組みは、「ネットスーパー」と同じ、と
いうことがポイントです。
○お客様からネットで注文を受ける
↓
○店員が店内で注文品をピックアップし、梱包する
↓
○料金をクレジットカードなどで支払う
↓ ↓
●ネットスーパー ●ドライブスルー
自社が届ける 顧客が取りに来る
違うのは、最後の「受取方法だけ」ということですね。
つまり、ネットスーパーの仕組みなどの「既存の独自資源」を使って
いる、というのがポイントです。
既存の「A:独自資源」(ネットスーパーの仕組み)は、ネットスー
パーとして「だけ」使われていたわけですが、その独自資源を、新た
に「ドライブスルー」という「S:強み」として展開したわけです。
そして、その「S:新たな強み」は、「C:新たな顧客」を獲得した
わけですね。
つまり、図にすると、以下のようになります(等幅フォントだと読み
やすいです)。
A:独自資源 S:強み C:顧客
ネットスーパー → ネットスーパー:
の仕組み 自宅に届けてくれる 家にいる人
A:既存独自資源 S:新たな強み C:新たな顧客
同上 → ドライブスルー: 良く出かける人
好きな時間に
取りに行ける
「既存の独自資源を、新たな強みとして活用し、新たな顧客を獲得」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
したわけですね。
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◆戦略BASiCSの短期的活用
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●時間的ボトルネックは「A:独自資源」
戦略BASiCSの5要素の中で、時間という意味で制約要因(ボト
ルネック)になるのは、A:独自資源です。
独自資源の蓄積は、数年がかりになります。
例えば、新工場を建設する、というと、計画から稼働までは数年かか
るでしょう。
優秀な人材を採用・育成する、となると、十年単位になるかもしれま
せん。
すると、「自社を戦略BASiCSで一貫性を取る」と言っても、独
自資源を新たに育成・蓄積する場合には、時間がかかるのです。
長期的な戦略(ここでいう「長期」とは、5~10年がかり)を描い
てそれに向かって行く、というのが戦略BASiCSの「長期的な活
用方法」です。
が、それには当然時間がかかります。
その間の売上・利益も当然必要ですから、そんな悠長なこと「だけ」
を言っているわけにもいきません。
短期的な策(ここで言う短期的、とは、業種業態にもよりますが、3
年以内くらいです)も必要になりますね。
短期的な戦略BASiCSの活用方法は、
「今ある独自資源をどう活用するか」
ということになります。
オークワも、「ネットスーパー」という仕組みを大幅に変えず、微修
正しただけで、今ある独自資源を「新たな強み」にした、ということ
です。
●持っている独自資源の活用方法は、BASiCSの「上から下」
「今ある独自資源をどう活用するか」
は、
「A:独自資源」 → 「S:強み・差別化」
という方向になります。
BASiCSを上から書くと、
B:戦場・競合
A:独自資源
S:強み・差別化
C:顧客像
Sm:メッセージ
となります。
今持っている「独自資源」を、下の方向に展開していく、という流れ
になります。
A→S「今持っている独自資源はどういう強みになるのか」
S→C「その強みを評価してくれるお客様はどんな方なのか」
C→Sm「それをどう伝えるか」
という、A→S→C→Smという、上から下へ、という見え方になり
ます。
長期的な理想像を描く場合には、この「時間」という制約要因が外れ
ますので、どこから初めても構いません。
むしろ、理想的な顧客像を描く、つまり「C:顧客像」から初めてい
き、そのために必要な「S:強み・差別化」は何か、そしてそれを支
える「A:独自資源」は何か、という、下から上へ、という流れにな
ることが多いように思います。
●BASiCSを縦横無尽に使いこなそう!
BASiCSで一番重要なポイントは、5要素間の一貫性です。「一
貫性」とは、各要素間の「つながり」「関連性」です。
「各要素間のつながり」とは、強みを考えたら、次に顧客を考える、
などの「各要素を考える順番」のことでもあります。
B→A→と、上から下に考えて行くのが、「白いネコは何をくれた」
でも使っている、セオリー通りの使い方ですが、5要素を考える順番
を色々変えてみると、発想の幅が広がります。
BASiCSは顧客→強み、と発想したり、メッセージ→顧客、と発
想したり、使い方次第で色々な考え方ができるんです。
BASiCSは、上→下(独自資源→強み)、下→上(顧客→強み→
独自資源)へと縦横無尽に使えます。
BASiCSにはこのような「柔軟性」がありますので、色々な「使
い方」を知っておくと、活用の幅がグンと広がります。
BASiCSのようなフレームワークは、発想の幅を狭めるのではな
く、むしろ発想を広げてくれるのです。
今回は、「A:独自資源」→「S:強み・差別化」→「C:顧客」と
いう順番で考える「使い方」ですね。
あなたも、もう一度、自分の「独自資源」を見直してみて、「新たな
強み」として、「新たな顧客」を取れないか、考えてみませんか?
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◆今日のまとめ
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●既存の独自資源をうまく活用して、「新たな強み」として展開すれ
ば、「新たな顧客」が取れる!