メーカーの密着軸 後編:売りモノの個別化

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.194 2011/06/09
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●メーカーが密着軸戦略を実行するときは、売り方・売りモノを、お
 客様に合わせて「個別化」しよう!

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◆メーカーの密着軸:「売りモノ」の個別化
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●「カスタムオーダーシューズ」

密着軸は「個別化」で差別化します。ここまでは「売り方」の個別化
を見てきました。
今日は、「売りモノ」の個別化について考えていきましょう。

密着軸は、

「人による個別の違いを重視する」

という発想です。

メーカーの密着軸は、「個別生産」、つまりオーダーメード生産、受
注生産というのが「売りモノの個別化」の基本になります。

靴なんかはまさにその典型で、人により

・大きさ
・長さ
・固さ
・求める踏みごこち

などが違いますよね。足の長さも通常は左右で違うので、本来的には
底の高さもそれに合わせて変えた方が良い、ということになります。

その「個別の違い」に合わせていく、オーダーメードが密着軸の基本
になります。
靴に限らず、衣料品はみなそうですね。カラダのサイズが違います。

いわゆる「標準体型」というものはありますが、標準体型に近い人は
いても「標準」の人はむしろ少ないわけですよね。
ワイシャツも、MサイズやLサイズで合う人はいいのですが、私は首
が太くて腕が短いため、標準品の場合、首に合わせるとソデが足りず
ソデに合わせると首が締められる、ということになります。
このような「個別の違い」が大きい人にとっては、お金をかけても

「自分だけのために、お金を払ってでも個別化しよう」

となります。これが「オーダーメード」ですね。

 

●アシックスのオーダーメードシューズ

アシックスは、オーダーメードのシューズも用意しています。

-----------< HP引用 >------------

3次元足型計測機でパーソナルデータを収集し、そのデータから理想
の靴型(ラスト)を採用。web上の簡単操作で好みのデザインに仕上
げ、本当の意味での「世界で一足」のシューズに作り上げます。

足の長さや幅などに合わせてシューズをカスタムオーダーできます。

アシックスHP
http://www.asics.co.jp/running/store/tokyo/service/

-----------< HP引用 >------------

まさに「自分のための一足」ができるわけですね。

税込2万1千円~、とのことです。

微妙なフィット感などを要求するアスリートの方などには、ニーズが
ありそうですね。

 

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◆「売りモノ」を個別化する「仕組み」を作ろう!
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●個別生産はムリでも、チューンナップはできるはず

製品を生産するプロセス(工場など)に、個別化の仕組みを組み込め
ないことは少なくないでしょう。工場の生産プロセスをいじるのは、
結構大変ですから。

そのような場合は、製品を生産した「後」で、個別化プロセスを別に
設けることも可能です。

要は「作った後で、お客様に合わせてチューンナップ」する、という
ことです。

生産工程をまるごと変えるのではなく、現在の生産工程の後工程に、

「個別化プロセス」

を1つ加える、ということです。

 

私ごとで恐縮ですが、私の趣味はスキー(下手の横好きです)なんで
すね(最近全然行けていませんが)。

スキーブーツは、合う合わないが非常に重要です。ブーツはプラスチ
ックですから、合わなければ痛いですし、最悪の場合はケガにつなが
ります。

きちんと足にあっていないと、スキーヤーの動きがスキーにきちんと
伝わりません。むしろ、私のようにヘタな人ほど、しっかり「個別
化」して、靴を足に合わせてあげる必要があるように思います。

この、「靴を足に合わせる」というのが密着軸の発想です(当たり前
のように見えて、チューンナップできる革靴とかが存在しないのは不
思議です)。
ということで……私は、自分の足に合わせて、スキーブーツを「個別
化」しています。もちろん自分ではできませんから、そのようなプロ
に10万円以上払って、チューンしてもらってるんですね。ブーツ代
(7万円くらい)よりも、チューン代の方が高価だったりします。

このような、「チューンナップ」する仕組み・工程を、工場内・社内
に持っておけば、個別化ができるはずです。

革靴なんかは、やはり最初は固いですから、慣れるまで大変です。ム
リヤリ横幅を広げたり、甲を高くしたりされる方も少なくないのでは
ないでしょうか? 革靴を、個別に「チューン」する工程があれば、
人気になるかもしれません。

革靴のオーダーメードは、1足20万円などの「ケタ違い」の金額に
なります。

しかし、3万円の革靴+2万円のチューンナップ(個別化)で5万円
の「自分だけの1足」を作ってくれる靴屋さんなんかがあれば、人気
になるように思います。

 

●自社でできなければ、パートナーを探そう

このような「チューンナップ」工程まで、全てを自社で持つ必要は必
ずしもありません。協力してくれる会社やパートナーを探して、そこ
と組めばいいですよね。
差別化軸が同じであれば、補完性が高い(=お客様にとって、組み合
わせとしての価値を提供できる)ので、お客様を紹介しあえるような
関係になれることもあるでしょう。

 

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◆売り方の個別化→売りモノの個別化、という流れを作ろう
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●売り方の個別化→売りモノの個別化、という流れを作ろう

アシックスですごいところは、

「足形測定機」 → 「オーダーメードシューズ」

という、

個別化された売り方 → 個別化された売りモノ

という、売り方の個別化→売りモノの個別化 という、「流れ」がで
きていることです。

個別のニーズを聞き出し、その個別のニーズにあった製品を提供する
という、メーカーの密着軸のセオリー通りの戦略です。

 

●「売りモノ」の個別化の前に、「売り方の個別化」から始めよう!

密着軸の「個別化」をこれからきちんと行っていく、という場合、ま
ずは「売り方」の個別化から始めましょう。

理由は2つあります。
1)売りモノの個別化は大変

まず、売りモノの個別化は、相当の時間・手間・お金がかかります。

徹底的にやろうとすると、工場の設備や生産工程をいじる必要が出て
くることが多いのです。

売りモノの個別化には、どかん、といっぺんに作る大量生産設備は向
きません。

「セル生産システム」など、個別に生産できる設備・工程が必要にな
ることが多いです。

生産工程をいじるのが大がかりな作業になることは、言うまでもあり
ません。

 

2)何をどう個別化すればいいのかを最初に把握する

売りモノの個別化をするための「個別化生産」をする前に、

「そもそも何をどう個別化するのか?」

を把握していなければ、設備の設計も改変もできませんよね。

ですから、まずは「どんな個別化ニーズがあるのか?」を把握する必
要があります。

そのためにも、「売り方の個別化」を優先しましょう。

 

●「測定・診断サービス」で個別ニーズを探ろう!

ですから、まずは「測定・診断サービス」の仕組みを作るのがオスス
メです。

「測定・診断」をして、お客様の「個別」のデータが集まると、どの
部分でお客様の「個別の違い」が出るかわかりますよね。

靴の場合、一口に足形を計測すると言っても、

・幅の広さ
・甲の高さ
・足首の位置
・足の前とカカトの幅の広さの違い
・土踏まずのカタチ
・指の長さ

などなど、色々な計測ポイントがありますよね。

どの部分に個別の「差」があり、どの部分に「差」が無いのか、がわ
かれば、その「個別の違いがある部分」を重点的に可変的に生産でき
ればいいか、がわかるはずです。

 

前号で、個別の違いを「記録する」ことが重要、と申し上げたのは、
このときに「データの蓄積」が重要になるからです。
「売り方の個別化を推進する」という意味でも、「測定・診断サービ
ス」の果たす役割は大きい、ということになります。
ここまで考えてくると、アシックスの「足形測定機」は、実は非常に
大きな意味を持ってくる、ということがわかりますね。

 

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◆メーカーの密着軸:「個別化サイクル」を回そう!
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●メーカーの「個別化サイクル」

前回考えた「売り方の個別化」のサイクルに、今回の「売りモノの個
別化」を加えてみましょう。

すると、以下のようなサイクルが回ることになります。

1)個別の違いを計測する「計測器」
2)個別の違いを記録・蓄積・共有する「データベース」
3)個別の違いに基づきお客様に提案する「個別提案ノウハウ」
4)個別の違いに基づき生産する「個別生産設備」

ですね。

通常は、「生産」→「提案」、という、「製品を作ってから提案営
業」

となることが多いかと思います。

ですが、これでは真の意味での「提案営業」になりません。作った後
に提案する場合には、

「作ってしまったものを何とか相手に合わせる」

という、「結局は自分の商品に落ち込んでくる」という、「落としど
ころが決まった営業」になってしまいます。
が、密着軸の場合は、「相手に合わせる」わけですから、オーダーメ
ードの「受注生産」になることが多いです。

すると、「作る前にお客様のニーズを聞き、聞いてから作る」という
「提案→生産」という流れになります。したがって、「提案」(お客
様のニーズを聞くプロセス)が「生産」の前に来ることになります。

 

組織において必要な「スキル」という意味では、
1)個別の違いを計測する   「計測」スキル
2)個別の違いを蓄積・共有する「蓄積」スキル
3)個別の違いのお客様への  「提案」スキル
4)個別の違いに基づき生産する「生産」スキル

という4つのスキルが必要になります。
密着軸を志向する場合、上の1)~3)の「売り方の個別化」スキル
を蓄積し、その後で4)の「売りモノのの個別化」スキルを蓄積する
ということになります。
メーカーの密着軸は、「お客様に密着しよう」という単純な標語で終
わるようなものではなく、このような「スキル」を「独自資源」とし
て、計画的に蓄積していく、ということなのです。
今回のアシックスは、「メーカーの密着軸」のセオリー通りというか
「王道」を行く展開例でした。

学ぶところは多いと思います。

 

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◆今日のまとめ
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●密着軸戦略では、お客様の「個別ニーズ」「個別の違い」を把握し
 「個別化」された、「売り方」「売りモノ」を提供しよう!

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