戦略BASiCS

 

戦略立案・実行のための考える枠組み(フレームワーク)で、売れたま!「戦略編」の中核をなす考え方です。経営戦略の要素を5つに分類し、要素間での一貫性・具体性を確保することにより、成果の出る戦略立案ができるように考えられたものです。

基本的には、佐藤義典がその経験・知識をもとに、3C(Customer, Company, Competitorという3つの要素で考えるフレームワーク)を改良・発展させたものです。初めて公にされたのは、2005年に発売され、未だにアマゾンのマーケティング・セールス部門で上位にランクされるロングセラー「図解 実戦マーケティング戦略」です。
5つの経営戦略要素とは、以下の5つです。

1)Battlefield(戦場・競合)
2)Asset(独自資源)
3)Strength(強み・差別化)
4)Customer(顧客)
  i
5)Selling message(メッセージ)

それぞれの要素の頭文字をとって、BASiCS(ベーシックス)と名付けました。要素の意味は、それぞれの日本語の言葉通りです。

戦略の基本、という意味と、覚えやすさ(=実戦しやすさ)という観点からこのように名付けました。

iは? と聞かれると、integration(統合)のiなどとお答えしていますが、基本的には語呂合わせです。「いや、きっと「愛」ですよ」という素晴らしいお答えをした方もいらっしゃいました。

ではBASiCSを以下、簡潔に説明いたします。

 

1)Battlefield(戦場・競合)

「戦場・競合」とは、自社が戦っている場所です。そして、競合はその戦う相手のことです。

しかし、戦争などと違い、物理的な存在としての「陣地」のようなものがあるわけではありません(ある場合もあります)。

●勝敗を決めるのはお客様

戦う、と言っても、それには「審判」がいます。その審判は、「どちらを買おうか」と決める「お客様」です。

お客様が、「この商品と、あの商品の、どれを買おうかなあ。よし、決めた。こっちにしよう!」という瞬間が経営における「戦い」ですね。そしてお客様が「買う」と決めた方が「勝つ」すなわち「売れる」ということです。

したがって、「戦い」と言っても、血なまぐさいようなものというよりは、「お客様に選んでもらうため」というものですね。

●戦場は「お客様にとっての価値」

「競合」というと、同業他社のようなイメージを持たれるかもしれませんね。そういう場合もあります。

が、必ずしもそうだとは限りません。

経営・マーケティングにおける「戦い」は、お客様が、「この商品と、あの商品の、どれを買おうかなあ。よし、決めた。こっちにしよう!」という瞬間のことだ、と申し上げました。

戦場は、戦いが起きている場所のことです。この場合は……お客様のアタマの中なんです! そして、競合とは、その際にお客様のアタマの中に浮かんだ「選択肢の集合」です。

例えば、マクドナルドに行くとしましょう。

マクドナルドの競合は何ですか?

そう聞くと、「モスバーガー、ロッテリア、フレッシュネス……」という答えが返ってきます。

が……お客様は「マックにしようか、モスにしようか……」と考えるでしょうか? 

「それはマックに行く目的による」とお答えになったかた、素晴らしいです。

そうですね、例えば「お客様のところに伺う前に資料整理をしたい」という「目的」であれば、その際の「他の選択肢」(=競合)は、ドトールコーヒーだったりスターバックスだったりしますよね。

この場合のマクドナルドの競合は、ドトールやスタバであり、戦場は「お客様のところに伺う前の資料整理をする場所」となります。

お客様がマクドナルドに行く目的であるところの「お客様のところに伺う前の資料整理」が本来の「戦場」なのです。

マクドナルドに行く「目的」が戦場で、いわば「価値戦場」ですね。お客様が「価値」を求めてマクドナルドに行くわけです。そしてそこで「競合」(お客様がどちらにしようか迷う)が起きるわけです(ここでいう「目的」「価値」は、いわゆる「ニーズ」のことです)。

なぜかというと、答えは単純で

「お客様がそう考えるから」

です。

あくまで「勝敗を決めるのはお客様」なのです。

同じ理由で、駅前にある「吉野家」と「マクドナルド」が、業種業態が全く違うのにも関わらず競合するわけです。その場合の「価値戦場」は恐らく「低価格な昼食」などでしょうね。
私の本なんかでも、たまに「この類の本で一番良かった」とおっしゃっていただくこともあります。その場合「この類の本」が「戦場・競合」ですね。「この類の本」が何かは、私が決めることではなく、読者さんが決めることです。

2)Asset(独自資源)
3)Strength(強み・差別化)
Asset(独自資源)とStrength(強み・差別化)は一緒に説明いたします。

ではまず、「強み・差別化」からです。

●強み・差別化=お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由

「強み・差別化」とは、要は「お客様が、競合ではなく自社を選ぶ理由」です。

強み・差別化の「実体」としては、4P(売り物・売り方・売り場・売り値)として現れることになるでしょう。

が、「お客様が、競合ではなく自社を選ぶ理由」ですから、基本的はお客様のアタマの中にあるものです。

いくら性能的に素晴らしくても、それがお客様にとって「選ぶ理由」とならなければ、意味がありません。

●「強み」は、「誰と比べて?」

ここで質問です!

マクドナルドの強みは何でしょうか?

こう聞くと、「安い、早い」という答えが返ってくることが多いです。

確かに「安い、早い」は、「お客様がマクドナルドを選ぶ理由」かもしれません。
が……誰と比べて、でしょうか?

確かに、モスバーガーやロッテリアと比べると早い、安い、かもしれません。

が……吉野家と比べて安い、早い、と言えますか?

良くて同等、くらいではないでしょうか?
「強み」は、「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」です。

ですから、そもそも「競合が誰か」がわからなければ、強みが何かは定義できません。当たり前のように見えて、案外そう認識されていないので注意しましょう。

その最たるものが「SWOT分析」ですね。「強み、弱み、機会、脅威を分析しましょう」というフレームワークですが、SWOT分析の本では、「強みは競合によって違う」とは書かれていませんよね。

強み分析をやるのは構いませんが、競合ごとに強み分析が必要になります。

競合(お客様が比較している相手)が吉野家であれば、「コーヒーが飲める」ことは強みになるかもしれませんが、競合がドトールの場合、「コーヒーが飲める」ことは強みにはなりませんよね。ドトールでもコーヒーは飲めますから(当たり前ですね)。

するとSWOT分析は、「競合ごと」に必要になります。が、残念ながらそういう記述があるSWOT分析の解説本は私は今のところ知りません。

ある研修で、私の受講生さんが、SWOT分析を教えている講師に「でもその強みって競合によって変わりますよね」と聞いたところ、完全に無視されたそうです。そりゃそうですよね。その質問に対して答えを持っていないでしょうから。

ともかく、「強み」を考える前に、「競合」を考えておく必要があるのです。
強みに限らない話ですが、「強み」などの要素を、他の要素と切り離して単独で考えてはいけないのです。

●独自資源=競合が強みをマネできない理由

「強み」は、「お客様が競合ではなく自社を選ぶ理由」です(大事なので何回も繰り返しています)。

例えば、「低価格」というのはマクドナルドにとっての1つの強みですよね。お客様が「マックのほうが安いから」という理由でマクドナルドに入ることがあるでしょう。

では、なぜそれを競合はマネしないのでしょうか?

さて……「低価格」ということ自体は、競合にもすぐにマネできます。極端な話、私が「売れたま!バーガー」を開いて、手作りハンバーガーを30円という「低価格」で提供することは、短期的には可能です。2日間くらいならできるでしょうか。

しかし、長期的にはムリです。マクドナルドの強みであるところの「低価格」は、短期的にはマネできても、長期的にはできません。

この、「自社の強みを競合が長期的にマネできない理由」が「独自資源」です。

例えば、マクドナルドには3千店以上の店舗が国内にあり、規模の経済が効きます。また、優れたマニュアルやハンバーガー製造マシンがあり、誰でもハンバーガーを素早く作れますから人件費を抑えられます。

このような「規模の経済」「マニュアル」「設備」が「独自資源」です。

独自資源は、大きく「ハード資源」と「ソフト資源」に分けられます。言葉通りの意味で、「ハード資源」は設備などです。「ソフト資源」はノウハウなどですね。

このような強力な「独自資源」がマクドナルドにはあるからこそ、「低価格」という「強み」が競合にはそう簡単にはマネできないわけです。
「当たり前だろ、そんなの」と言われるかもしれませんね。でも、そのような区分けは「3C」(Customer, Company, Competitorという3つで戦略を考えるフレームワーク)にはありません。「強み」も「独自資源」も”Company”で一緒くたにされてしまっています。

3CではなくBASiCSというフレームワークをわざわざ提唱しているのは、3Cにはそのような弱点があるからなのです。

●「強み」と「独自資源」の一貫性

「独自資源」に支えられた「強み」はそう簡単にはマネできないことが、ここまでの説明上おわかりいただけますよね。

逆に、マクドナルドの「強み」が「赤い看板」だとすると、それは「独自資源」に支えられていないので簡単にマネされてしまいますね。そのような「強み」は、意味が無いとはいいませんが、マネされてしまいます。もちろん、あのゴールデンアーチと呼ばれる黄色いMと、下地の赤、という組み合わせは、おそらく「意匠登録」などの「独自資源」によって守られているでしょうね。

4)Customer(顧客)

顧客が4番目に来ていますが、実際にはBASiCSの中核を為すのは「顧客」、お客様ですね。
「戦場・競合」(=お客様の選択肢の集合)を選ぶのは、お客様です。マクドナルドが、「いくら自分の競合はホテルのカフェだ!」と主張しても(賢いマクドナルドはそんなことは言わないと思いますが)、お客様に同意していただけなければ意味がありません。

「強み」(=お客様が選ぶ理由)を決めるのもお客様です。価格が大事なのか、スピードが大事なのか、はお客様が決めることです。売り手側から提案・お勧めはできるでしょうが、最終決定はお客様の手に委ねられます。

●セグメンテーション:顧客はニーズで切る

ここで、極めて重要な概念を紹介しておきます。「セグメンテーション」です。よく聞く言葉なので、「又か」と思われるかもしれませんが、一応解説します。

セグメンテーションとは、お客様を「分ける」ことです。なぜ「分ける」かというと、人によって「ニーズ」*が違うからですね。

逆に言えば、ニーズが同じであれば、分ける必要が薄れます。。

私は本の執筆をカフェなどで行います。そのときに、左側では50代の男性が資格の勉強をされていました。右側では、高校の制服を着た女の子が教科書を広げて勉強していました。私は、ノートPCで執筆です。

このように、「人」が全く違うのに、同じ場所にいるのは「ニーズが同じ」だからです。「コーヒーなどを飲みながら静かに集中したい」というニーズは同じなのです。であれば、特に分ける必要は無いかも知れませ。

この意味で、よく使われる「性別・年代別のセグメンテーション」はあまり意味がないことが最近は多いです。昔は、性・年代である程度ライフスタイルが読めたので一定の合理性はあったのでしょうが、いわゆる「ニーズの多様化」で、性・年代では見えなくなってしまいました。
*よく、ニーズとウォンツは違う、という意見もありますが、正直その定義・分類は難しいところです。よくあげられる例に「水を飲みたい」はニーズだが、「エビアンを飲みたい」はウォンツだ、というのがあります。ここでいう「水」とは、多分日本の水道水のことでしょう。では、「トイレの水」「泥水」はニーズなのでしょうか? それと比べると「キレイな飲用可能な水道水を飲みたい」はウォンツかもしれません。このように、結構曖昧な概念ですし、そもそもニーズとウォンツを分けて考える意味があまりよくわかりません(実戦的には、ですよ。コンサルタントのプレゼンテーションとしては、美しい表が1枚増えるという「価値」はあるかもしれません)ので、ここでは「ニーズ」「ウォンツ」「価値」は同じ概念として取り扱います。

●同じ人でも、場合によって違う

さらに、同じ人でも、時と場合によってニーズが違います。

例えば、日曜の昼間にマクドナルドにお子さんと行く場合と、平日の15時に資料整理に行く場合では、「同じ人」でもニーズが違いますよね。日曜の昼間にお子さんと行く場合には「子供の笑顔」「家族の団らん」がニーズでしょう。平日15時は、「資料整理」ですね。同じ人でも、ですよ。

すると、同じ人手も「時間、場所、場合」(=TPO)によってニーズが違う、すなわちマーケティング上は「別人」であることになります。別人であれば、「分ける」ことが必要になります。同じ人であっても、です。

これもある意味当たり前の話で、もし人によってニーズが決まっているのなら、昼食・夕食は毎日同じはずですが、そうはならないですよね。みんなで集まって食べる場合もあれば、一人でマクドナルドに行く場合もあるでしょう。同じ人でも、ですよ。

ここにおいて、「人で切る」というセグメンテーションの意味が問われる時代になっています。「人」ではなく「ニーズ」で切るべきなんです(正確に言うとニーズで「括る」イメージ)です)。

だから、「セグメンテーションはニーズで切る」ことが重要です。

そして、それと「戦場・競合」の定義は重なります。ニーズが違えば「顧客セグメント」そして「戦場・競合」が変わります。「休日昼間の家族団らん」戦場の競合はファミレスや回転寿司でしょうし、「資料整理」戦場ではドトールやスタバが競合で、まさか「回転寿司」は競合になりませんよね。

このように、ニーズ・戦場・セグメンテーションは一体的に考えるべきなのです。

ニーズが違えば「戦場・競合」が変わり、そしてそれに応じて「強み・差別化」が変わる、というダイナミックな関係なのですね。

ですから、戦場・競合、強み・差別化、顧客、などは全て一体的に考えるべきで、個々の要素を取り上げた分析(例えばSWOT分析など)は意味が無いどころか、誤った結論を導き出す可能性があります。

5)Selling message(メッセージ)

通常の経営戦略論としては、ここまでの「戦場・競合」「独自資源」「強み・差別化」「顧客」で終わってもいいのです。

が、実際に戦略が「成果」を出すためには、「実行」が必要です。実行しなければ成果は出ません。

実行段階ですべきことを統括するのが「メッセージ」です。

「メッセージ」とは、ここまでの「戦場・競合」「独自資源」「強み・差別化」「顧客」を統括し、具体的な4P(売り物・売り方・売り場・売り値)に落とし込むものです。そして、メッセージの下に4Pの一貫性を保ち、戦略を実行していきます。

例えば、2010年11月現在、東京ディズニーリゾート(TDR)のポスターには「夢がかなう場所」というコピーがあります。これが、ある意味の「メッセージ」ですね。

「夢がかなう場所」は空虚なうたい文句ではなく、TDRでは実際に実行されています。例えばディズニーランドでは、シンデレラ城以外の大きな建物は見えません。高速道路などが見えたら、「夢がかなう場所」にはなりませんよね。また、ゴミ一つ落ちておらず、落ちていたらすぐに掃除されます。「夢がかなう場所」にゴミが落ちていてはいけないのです。従業員の接客、制服など、すべて「夢がかなう場所」にふさわしく、全てに一貫性があります。

言葉で言うのは簡単ですが、それを実際に実行に落とし込み、現実に「夢をかなう場所」を実現させているのがTDRのすごさだと個人的には思っています。
以上で、戦略BASiCSの一通りの説明は終了です。さらに詳しくお知りになりたいという方は、拙著

・経営戦略立案シナリオ
・白いネコは何をくれた
・実戦マーケティング戦略

で詳細に説明しておりますので、そちらをどうぞ。

 

●経営戦略理論とBASiCS

最後に、戦略BASiCSと既存の経営戦略論の関係を説明しておきます。

戦略BASiCSは私が開発した物ですが、既存の経営戦略論をベースにしています。そして、既存の経営戦略論は、多くの場合BASiCSのどこかに入ります。

既存の経営戦略論は、以下のどこかに分類されます。

○戦場・競合型
 儲かる戦場にいれば儲かる

○独自資源型
 自社に独自な資源を蓄積すれば儲かる

○強み・差別化型
 差別化された商品を出せば儲かる

○顧客型
 お客様の立場に立って考えれば儲かる

○メッセージ型
 うまく伝えられれば儲かる
粗っぽい分類は承知の上です。学者になろうという場合は別ですが、私たちが実戦で経営戦略理論を使おうというときには、厳密に間違えるよりは粗っぽく合っている方が使いやすいです。

例えば、マイケル・ポーター氏の唱える「5 Forces」「バリューチェーン」などのツールは、「戦場・競合」に分類される理論です。

「コアコンピタンス」「VRIO分析」などは、「独自資源型」に分類されます。

ドラッカー氏は、その著書からは明確に「顧客型」に立っていることが推察されます。

「ポジショニング理論」(これほど誤解されている理論も珍しいですが)などを提唱するアル・ライズ、ジャック・トラウトの両氏は「メッセージ型」です。

経営戦略理論を勉強しようという場合、このBASiCSによる分類をしてみると、非常に整理しやすくなります。私もペンシルベニア大ウォートン校というトップスクールでMBAを取りました。そのときはマーケティングと経営戦略を専攻しました。当時まだBASiCSは完成しておらず、そのときにBASiCSを知っていれば経営戦略理論の勉強は相当ラクになっただろうな、と思います。

上の分類に入らないのが、「では戦略をどうやって作るのか」という、「戦略プランニング」の理論ですね。ミンツバーグ氏などがこの分類に入ります。戦略BASiCSを組織でどう形成していけばいいのか、というのは私の実戦・研究テーマの1つです。

 

●個人にも活かせる戦略BASiCS

戦略BASiCSは、個人のキャリア戦略にも使えます。見え方は若干変わります。

戦場・競合:会社

独自資源:自分の経験・キャリア

強み・差別化:会社の中で自分しかできないこと

顧客:上司、会社の顧客

メッセージ:会社や顧客にどう独自の貢献ができるのか

というようなことになります。

ちなみにスポーツでも使えます。審査員がいるタイプのスポーツは、顧客が「審査員」になりますね。フィギュアスケートはそれにあてはまりますし、審査員がいるディベートもそうですね。

「戦略」の本質は要は「強みを活かして戦う」ことです。戦略BASiCSはそれを精緻に体系化して実戦性を高めただけですから、幅広い分野で応用ができます。