2012-03 マインドフロー:見やすく、試しやすく、選びやすい売り場作り

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.159 2012/04/02
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●「売り物」に差がなくても、「売り方」「売り場」で差をつけられ
 る。魅力的な「売り方」「売り場」を考えよう!

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◆売多真子 & 売多勝 + 松井恵利
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●「新人OLシリーズ」のヒロイン・売多真子とメンター・売多勝

今回は「新人OL~」シリーズのヒロイン「売多真子」(うれた・ま
こ)と、その親戚にしてメンター「売多勝」(うれた・まさる)の2
人にご登場いただきます!

○「新人OL、つぶれかけの会社をまかされる」 佐藤義典著

売多真子が、勝の助力を得てイタリアンレストランの新企画に奮闘!
マーケティングを学ぶ最初の1冊としてオススメ。

*「ドリルを売るには穴を売れ」とほぼ同じ内容です。ご購入の際は
 ご注意ください。

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○「新人OL、社長になって会社を立て直す」 佐藤義典著

上の本の続編。真子が社長になり、ライバルと戦っていく! 戦略構
築から実行プロセスまで、社長の視点を物語で体感!
http://ow.ly/6s63d

*「売れる会社のすごい仕組み」とほぼ同じ内容です。ご購入の際は
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●特別ゲスト:松井恵利

特別ゲストは、松井恵利(まつい・えり)ちゃん。真子の大学時代の
同級生であり、CD「経営戦略虎の巻」の特典小説のヒロイン。

http://sandt.co.jp/keieitoranomaki.htm

売れたま!初登場。OL勤めをやめ、現在は果物を主軸にした
M’sジューシーヘルシーの経営陣として頑張っています。

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◆久しぶり? に集まった真子、勝、恵利
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4月の始め、平日の午後2時。東京S区のイタリアンレストラン、
「そーれ・しちりあーの」に、カジュアルな服装の男性がふらりと訪
れた。そーれ・しちりあーのの実質的なアドバイザー、売多勝(うれ
た・まさる)だ。

勝は店員に案内され、席について注文をするやいなやノートパソコン
を立ち上げる。店員は男性をみて何かに気づき、店の電話をとり、何
かを報告する。

1分もしないうちに、20代半ばの女性が入店し、パタパタと勝の方
へと駆け寄る。女性は、売多真子(うれた・まこ)。このレストラン
チェーン、そーれ・しちりあーのの社長だ。

真子:勝さん!!!

勝 :うわあ!

いきなり肩をつかまれ、大声で呼ばれた勝の上体は、ばねじかけの機
械人形のごとく勢いよく反応する。

勝 :なんだ、真子か……人が集中してるときに話しかけるなよ……

真子:なんだ真子かよ、じゃないですよ! いらっしゃるんだったら
   私に連絡してくださいよ!

勝 :連絡したら、オマエが来て、仕事の邪魔するだろうが。まさに
   今みたいにだな……

真子:そんなこと言ってぇ……真子に会いたくなった、く、せ、に♪
   真子のカワイイ顔が見たくなったんでしょ?

勝 :うるせーよ、この近くのクライアントの帰りに通りかかっただ
   けだ。エスプレッソ飲みながら仕事したかったの!

真子:またまた照れちゃってぇ……ねーねー、勝さん、聞いてくださ
   いよ! あのね、こないだね、広岡会長が……

勝は真子を無視して、パソコンのキーを叩き始める。真子は、「ねー
ねー、勝さん! 聞いて」と言いながら、勝の両肩をつかんで強引に
自分の方へと向ける。

勝 :何なんだよ、オマエは……

真子:だって聞いてくれないんだもん! 真子のこと無視するなんて
   ひどい!

勝 :はあ……大体どうやってオレが来てること知ったんだよ。オマ
   エの机はこの上の階だろうが。バレねーと思ったのに……

真子:スタッフが気を利かせて私に電話くれたんだもん♪ うちのス
   タッフはお客様の顔、覚えてますからねー。密・着・軸♪

勝 :お客様であるオレの都合を全く無視してるじゃねーか。そのス
   タッフに余計なコトするな、って言っとけ。

真子:あとですっごくホメておきますよーだ。そうしなかったら、勝
   さん、真子に声かけずに帰っちゃったんでしょ。

真子が「ね、勝さん、何してたんですか?」と言いながら、勝のノー
トパソコンを覗き込む。「こら、勝手に見るな」という勝を無視し、
真子がモニタに表示されている文字を読み始める。

真子:なにこれ? 「京王百貨店のウォーキングパンプス」?

勝 :……

真子:な、何、勝さん、女の子のパンプスなんて興味あるの? あ、
   もしかして真子に買ってくれるのー?

勝 :ち、が、う! 今、ちょっと考えをまとめてたんだ。

真子:パンプスの?

勝 :違う。BASiCSのSm、メッセージについて。

真子:へー、面白そう! 私にも教えてよ! あ、そうだ、真子がそ
   の話相手になってあげる!

勝 :遠慮する。

真子:遠慮しないでいーよー、なってあげるからぁ。真子を相手に話
   すと考えがまとまるって前言ってたじゃないですかー。

勝 :いいよ、一人でやるから。

真子:だってー、真子は勝さんの独自資源だって言ってくれたのに!
   アレはウソだったの? 純情な女の子を弄ぶなんて……

勝 :誰が弄んだよ……人聞きの悪い。わかった! 降参! この店
   に来たオレがバカだったよ。

真子:やったあ!

勝 :確かに、真子が質問するこの形式は、読者さんに「わかりやす
   い」って好評なんだよな。

真子:うふふ、真子のみ、りょ、く、はーと♪

勝 :でも条件がある。恵利ちゃん呼んで。

真子:えー、何で恵利なのよー。せっかくこんなにカワイイ女の子が
   いるっていうのにー。

勝 :このトピックに合ってるから。あと、真子は右脳型だろ? 左
   脳型の恵利ちゃんがいた方がまとまる。いいから電話しろ。

真子:ちぇっ、わかったわよ。でも、恵利だって忙しいから、きっと
   来れないよ。うん、きっとそうだ。

ぶつぶつ言いながら真子が携帯電話から恵利に電話をかける。

「あ、恵利? 今忙しいよね。じゃあいいから……え? いや、実は
今、勝さんが店に来てて、恵利にも来て欲しいって……でも忙しいで
しょ? ムリしなくていいから……え? 来たいの? でも時間かか
るでしょ? え? すぐ来れる? そうなんだ……じゃ待ってる」

真子:恵利、来れるって……

勝 :何でそんなにイヤそうなんだよ。じゃあ恵利ちゃんが来るまで
   こないだの初詣の続き、あれ、どうなった?

真子:あ、そうそう、結局、広岡会長に報告して、褒められました!
   勝さんのおかげです!

勝 :オマエ、報告くらいしろよ。気になってたんだから。

真子:えーやだー、真子のこと、心配してくれてたんだー。もう、勝
   さんは真子に、む、ちゅ、う、はーと♪

勝 :いいから、広岡会長に何を報告したんだ?

真子:そうそう、これですこれです。

真子が、手書きのプレゼン資料を、勝に見せて説明し始める。勝がす
かさずツッコミを入れると、真子が「何で広岡会長と同じこと言うの
よー」と返し、にぎやかな議論が始まった。

小一時間がすぎたころ、20代半ばの女性が店を訪れた。彼女が松井
恵利(まつい・えり)。勝と真子がぎゃあぎゃあ騒いでいるテーブル
を見つけると、小走りで駆け寄った。「すみませーん、遅くなって」
と声を掛けた。

勝は「おー、恵利ちゃん待ってたよ」と言いながら、勝の対面に陣取
る真子の隣に座るように恵利に促す。3人が注文を済ませるとすぐに
会話が始まる

勝 :恵利ちゃん、ごめんね、急に呼び出して

恵利:いえ、大丈夫です。というか、声をかけていただいて、とって
   も嬉しいです。真子も久しぶりだね。

真子:恵利、元気そうだねー。うんうん、おねーさんは嬉しいよ。

恵利:何言ってるのよ。でも、お陰様で充実してるわ。勝さん、急に
   どうされたんですか?

勝 :実は、カクカクシカジカで、真子につかまってさ。せっかくな
   ら、恵利ちゃんにも加わってもらおうと思って。

真子:なんかねー、左脳型の人に加わってほしかったんだって?

恵利:え……私を呼んだ理由はそれだけなんですか……?

勝 :ううん、ホントはオレが恵利ちゃんに会いたかったんだ、あは
   はは。

真子:出た出た、このオヤジ……。恵利も何嬉しそうな顔してんのよ

恵利:そ、そそ、そ、そんなことないわよ……じゃあ私はノート係を
   期待されてるみたいなので……

恵利がA4サイズのノートをバッグから取り出す。

真子:やったあ、恵利ノートだ。見やすさとわかりやすさで有名な
   「恵利ノート」。

勝 :じゃあ、レッスン開始な。

真子・恵利:はい、お願いします!

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◆「売り物」が同じなら「売り方」「売り場」で差別化しよう!
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勝 :ね、恵利ちゃん、恵利ちゃんのところは果物屋さんだよね?
   最近どう?

恵利:ええ、果物を使ったジュースの販売はそれなりに順調なんです
   が、本業の果物の販売がまだ苦戦してて……

勝 :何で?

恵利:果物そのものでは差別化しにくいような気がして……結局スー
   パーで売ってる果物とそれほど違いが大きいわけでもなく……

勝 :ははは、狙い通りの答え。だから呼んだの。

恵利:そ、そうなんですか?

勝 :「売り物が競合と同じだから差別化できない」っていうのは、
   よく聞く「自縛」文句だな。自分を縛っちゃってる。

真子:自爆?

勝 :違う、自縛。まあ結果として自爆するけど。特に小売の人とか
   保険・金融サービスの人がそれを言うね。

真子:あーそうか、保険も「売り物」では差別化しにくいもんね。

恵利:え? え?

勝 :恵利ちゃん、「売り物」「売り値」が競合と同じでも、「売り
   方」と「売り場」で差別化できるでしょ?

恵利:で、できるんですか?

勝 :当たり前じゃん。「売り物」は大事。でも、売り物、売り方、
   売り場、売り値の4P全体でみると、全体の一部でしかない。

真子:あーなるほど、だから今回は「メッセージ」のレッスンなんだ

勝 :そういうこと。「売り物」が同じだからこそ、「売り方」「売
   り場」での差別化に注力しないとね。

恵利:はい……でも、例えばどうやって……

勝 :じゃあ、2人でこの記事読んで。

勝がノートパソコンのモニタを真子と恵利に向ける。勝は、「ふう、
やっとエネルギー補充できるか……」と言いながら、タイミング良く
運ばれてきたエスプレッソに口をつけ、ドルチェに手を伸ばした。

-----------< 記事要約 >------------

○京王百貨店新宿店(東京・新宿)の「ウォーキングパンプスコーナ
 ー」が好調。昨年3月12日から今年2月末までの売上高は前年同
 期比43・7%増。ミセス向けの一般のパンプスが同15・7%減
 だったのに対し、好調ぶりが際立つ。

○婦人靴売場内の機能性商品専用コーナーだが、32種類のサイズの
 靴を店員に気兼ねなく試し履きできる。

○ワコールの「サクセスウォーク」は、足長が0・5センチ刻みで8
 種(21・5~25センチ)、足囲が4種(D~3E)の計32点
 を展示。店員に断りなく自由に試せ、「心理的な負担なく、合う靴
 を見つけ」られる(同店)

○さらに、足に関する基礎知識とサイズ合わせの技能を持つ「シュー
 フィッター」資格を持つ社員も配置。「外反母趾(ぼし)で合う靴
 が見つからない」などの要望に対応。靴売り場全体で40人の社員
 のうち、17人が有資格者で、「将来的に全社員が取得する方針」
 (同社)という。

2012/03/14 日経MJ P.5

-----------< 記事要約 >------------

真子:あ、さっきのはこの記事だったんだね-。これいいね。選びや
   すそうなお店だ。靴が合わないと大変なんだよねー。

恵利:うん、わかるわかる。合わないと痛くなっちゃうもんね。

勝 :だったらさ、靴が、見やすくて、試しやすくて、選びやすい店
   に行くよな?

真子:当たり前じゃないですか。

勝 :たとえ「売り物は同じでも」、だぞ。繰り返す。「売り物が同
   じでも」、この店に行くよな?

恵利:あ! な、なるほど……勝さんのおっしゃりたいことがわかり
   ました。「売り物」が同じでも「売り方」で差別化できる!

勝 :そう、そういうこと。「靴」っていう「売り物」が同じでも、
   見やすさ、試しやすさ、選びやすさで差別化できる。

真子:そりゃあそうだよねー。自分で試せるなんて結構大事だよね。

恵利:真子、意外に足おっきいもんね、ふふふ。

真子:うっさいわねー。でもそうなんだよね……。サイズを店員さん
   に言うの、ちょっとハズカシーのよ。

勝 :そう! 女性向けの商品でサイズが絡むモノには、そういう
   「オトメゴコロ」もあるよな。

恵利:そっかあ……売り物が同じなら、売り方で差別化、かあ……

勝 :大体、小売店とか、保険の営業担当なんて、「売り物が同じ」
   ってことはわかってるわけだから……

真子:「売り場」とか「売り方」で差別化して当たり前、ってことな
   のね……

勝 :そういうこと。真子のこの店、そーれ・しちりあーのだって同
   じだぞ。料理だけが差別化ポイントじゃないぞ。

真子:うん、わかってる。いくら料理が違うって行っても、何倍も違
   うってわけじゃないからね……注文しやすい店の方がいいよね

恵利が会話の内容を整理しながら、キレイにノートに取っていく。こ
れが真子が大学時代にお世話になった「恵利ノート」だ。

勝 :恵利ちゃんのノートだってそうでしょ? 真子が授業のノート
   をコピーするとき、どうせなら見やすいのがいいだろ?

真子:うん! だから恵利ノートにはお世話になったのよ。

勝 :だから、「魅せ方」、「み」は魅力の「魅」だぞ、も大事なん
   だよな。

恵利:それが、BASiCSの最後が「メッセージ」になってる理由
   なんですね。

勝 :それだけが理由じゃないけど、それも理由の1つ。メッセージ
   を伝える「売り方」「売り場」でも差別化できるぞから。

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◆理想的な「靴売り場」は?
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真子:同じ靴売り場でも、色々工夫できそうだよねー。

勝 :ちょっと練習代わりにやってみよう。男性用のビジネスシュー
   ズ売り場、行ったことあるか?

真子:ありませーん。

勝 :そりゃそうか。男性用の靴も、選びにくいんだよ。

真子:へー、そうなんですね。どう選びにくいんですか?

勝 :まず、メーカー別になってるから、同じようなデザインのもの
   が欲しい場合は、メーカーのタナをまたがって探すのが面倒。

真子:なるほど……

勝 :それから、メーカーによって同じ25cmとか同じ3Eでも、
   サイズが違う。だから何回も試し履きしないといけない。

恵利:それは確かに面倒ですね……

勝 :ちなみに、胸囲とかと同じで「足囲」っていうのがあるらしい
   ぞ。JIS規格になってて、それがEEとかのサイズになる。

真子:へー、そうなんだ! でも測ったことなーい!

勝 :だろだろ? 靴売り場で「足囲を測りませんか?」とか聞かれ
   たことすら、オレはないぞ。

恵利:だったら、売り場にメジャー置いておけばいいですよね。

勝 :そうなんだよ。あと、靴底もぱっと見だとわかりづらいから、
   オレいちいちひっくり返して調べる。

真子:靴底って?

勝 :靴底が革底なのかゴム底なのか。歩き心地が全然違う。

恵利:なるほど……靴屋さんでも考えるべきことって結構あるんです
   ね……

勝 :そう。靴を並べて売ってるだけじゃ、差別化できなくって当た
   り前。

恵利:うわあ……果物屋として、耳が痛いです、ふふふ。だから私を
   呼んで下さったんですよね。

真子:でも、店員さんに聞けばいいんじゃないですか?

勝 :真子はそれでいいけど、オレはシャイだから、何か「買わなき
   ゃいけない」って感じがして、店員さんに聞きづらい。

真子:何がシャイよ……じゃあ、こんな感じの店はどう? 恵利、ノ
   ート貸して。

真子が、恵利のノートにさらさらと図を書いていく。

             ヨコのサイズ
タテのサイズ   E   EE   EEE   EEEE
24.0
24.5
25.0
25.5
26.0
26.5
27.0

真子:こんな感じでね、タナをサイズ別にするの。24.0cmのタ
   ナ、24.5cmのタナ……

勝 :それで?

真子:例えば、タテのサイズが25.0cmのタナには、25.0
   cmの靴しか無いから、そこだけを見ればいい。

恵利:なるほど、25.0cmの人は、そこだけを見ればよくて、他
   の売り場は見なくていいのね。

勝 :そりゃそうだよな。お客様にしてみれば、自分のサイズ以外の
   靴は全く不要だからな。

真子:うん! それで、後はそのタナの中で、ヨコのサイズを選んで
   いけば、自分のサイズに合った靴が見つかる!

勝 :ちなみにヨコのサイズはEだけじゃなくて、AからGまである
   らしいが、それはいいや。それで?

真子:それで、メーカーは全部バラして、全メーカーの靴を単純にサ
   イズだけで分類するわけ。

勝 :なるほど。それなら、違うメーカーのタナを渡り歩く必要はな
   くなるな。

真子:あと革底の靴とゴム底の靴を分けて陳列したほうがいいよね。
   同じサイズの中で、革底コーナーとゴム底コーナーを作る。

恵利:なるほどねー。自分のサイズに合った靴の中から、違うメーカ
   ーとかデザインの靴を選ぶってことかぁ。

勝 :お、恵利ちゃん、いいポイント。それってどういうこと?

恵利:え? え? 自分のサイズに合った靴の中から、違うデザイン
   の靴を選ぶって……どういうこと、ですか?

真子:え? 私もわかんなーい。

勝 :今の順番が大事だよね? 始めにサイズありき。

恵利:えっと……あ! お客様が「その順番で選ぶ」からだ!

勝 :そう! どんなにデザインが良くても、自分の足のサイズに合
   わないものは買わない。だから、最初にサイズ。

真子:あ、そっか! だからサイズ別のタナにしたんだ!

勝 :なんだよ、自分で気づいてなかったのかよ。「お客様の意思決
   定プロセス」に合わせて売り場を作っていくわけだ。

恵利:はい、そうすると、選びやすい売り場ができるんですね!

勝 :うん。靴の場合は「始めにサイズありき」だけど、違う場合も
   ある。だから「お客様の意思決定プロセス」次第。

恵利:そうなると、その「お客様の意思決定プロセス」を知らないと
   売り場が作れない、ということになりますよね?

勝 :そりゃそうだよ。

恵利:そんなこと考えないで売り場作ってました……売れないわけで
   すね……

真子:でねでね、ポイントは「実測値」で分けること。メーカーによ
   って実際のサイズが違うんでしょ、勝さん?

勝 :ああ、微妙に違う。

真子:だったら、靴のサイズを実際に測ってみればいいのよ。メーカ
   ーの表示サイズじゃなくて、実測サイズで分類するの。

恵利:なるほど……じゃあ、自分の足のサイズを測るコーナーもある
   といいね。定規とか巻き尺で自分の足を測るの。

真子:あ、それいい! じゃあ、何か足形のテンプレートっていうか
   型紙置いておけばいいよね。

勝 :なるほどな。「これくらいの大きさの足の方はこちら」ってい
   う目安にするのか。

真子:そう! こんな売り場があったら、選びやすいよね? どう?

恵利:真子、すごーい! これなら私も行きたいわ。同じ「靴」でも
   「魅せ方」を変えられるものなのね……

勝 :ここまで「選びやすい売り場」を作れば、「実際に履いて試せ
   る」っていうリアル店舗の意味があるよな。

真子:取引先メーカーの人には嫌われそうだけどね、きゃははは。

勝 :でも、メーカーだって売れた方がいいだろうからな。

恵利:勝さん、何でこういう靴屋さんって無いんですか?

勝 :さあ? うちの近くのスーパーでも、パスタの隣にパスタソー
   スが置かれるようになったのは、この1~2年だからな。

恵利:あ……確かにそうですね。それまでは、パスタ、そば、うどん
   がヨコに並んでましたよね。

勝 :選びやすい売り場を作るっていうのは、難しいことだよな。ど
   うしても「管理しやすい方法で」とか、考えちゃう。

真子:そうなんだよね……「お客様の立場に立つ」ことって、すっご
   く難しいのよね……

恵利:そっか……だからなかんかできないんですね……ということは
   うちの店もまだまだやりようがあるってことですね!

勝 :そう! だから恵利ちゃんも頑張って、魅力的な「売り方」
   「売り場」を考えてね。

恵利:はい!

勝 :ノートもキレイにとってね。後でそれをオレが本にさせてもら
   うよ、あははは。

恵利:そ、そんな、私のノートなんか……で、でも、勝さんのお役に
   立てるのでしたら嬉しいです……

勝 :うん、じゃあノート頼むね。

真子:な、何よ何よ、2人で盛り上がっちゃって……

勝 :もちろん真子の仕事もあるぞ。

真子:やったあ、なになに?

勝 :エスプレッソとドルチェのお代わり。両方とも大盛りで。

真子:な、何よそれ……はいはい、わかりましたよ、注文しておきま
   すよーだ。

勝 :じゃあ、次回はこの「魅せ方」をもっと深めていこうか。

真子・恵利:はい!

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◆今日のまとめ
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●「売り物」は全体の一部でしかない。魅力的な「売り方」「売り
 場」を考えて、「売り物」が同じでも差別化できるようにしよう!

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.160 2012/04/05
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●魅せ方その1は「見やすさ」。マインドフローの「認知・興味」関
 門を通過しよう!

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◆前号の復習
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勝 :じゃあ恵利ちゃん、前号の復習を頼むよ。

真子:えー、それ私の役なのにー。

勝 :年末年始特別号で散々やったんだからたまにはいーだろ。

恵利:はい、前号は「売り物は同じでも、売り方で差別化できる」と
   いうのがテーマでした。

真子:やっぱりさー、靴なんかでも「選びやすい」お店の方がいーよ
   ねー。

恵利:うん。前号では、京王百貨店の「選びやすいパンプス」売り場
   の例を取り上げました。

勝 :どう「選びやすい」かっていうと?

恵利:はい、32種類のサイズの靴が陳列され、自由に試し履きでき
   るので、自分にあった靴が選べます。試しやすいんですね。

勝 :靴だと何でそういう「試しやすさ」が大事なの?

恵利:足の形が人によって結構違うから、まずは自分に合った靴を履
   きたい、というのがお客様の最初の意思決定基準だからです。

勝 :OK。

真子:なによ恵利、「意思決定基準」なんてムズカしい言葉、勝さん
   は使ってないわよ。

恵利:え? そう? 昔の売れたま!で見たわよ。

勝 :何でそんなケンカ腰なんだよ。真子に対しては「選び方」とか
   ていう言葉にしてるからな。真子にもわかるように。あはは。

真子:ずっるーい! いつも恵利ばっかりお利口さんに見えちゃって
   さあ……

勝 :「見えちゃって」じゃなくて実際にそうなんだろ。それで?

恵利:はい、ですから、まずは「自分に合った靴」を探すので「試し
   やすい」っていうのが大事になるんですよね?

勝 :そうだね。「魅せ方」によって売り物の「輝き」が全然違う。

恵利:私たちの果物屋も、その「魅せ方」を考えないとダメだなあ、
   って……

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◆魅せ方は「1.見やすさ」「2.試しやすさ」「3.選びやすさ」
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真子:でも勝さん、「魅せ方」って言っても色々あるよね? 「試し
   やすい」のと「選びやすい」のって何か違う気がするし……

勝 :お、鋭いじゃないか。

真子:へっへー。恵利に負けてらんないからねー。

勝 :結論から言うと、特に「小売店」なんかの場合は、この3つが
   大事になる。

勝は「恵利ちゃん、ノート貸して」と言うと、勝は恵利のノートに

「魅せ方」のポイント
 1.見やすさ
 2.試しやすさ
 3.選びやすさ

と書いた。

真子:えっと……見やすさ、試しやすさ、選びやすさ……か。なるほ
   どねー。

恵利:えっと……1,2,3,と番号が振ってあるということは……
   きっとその順番に意味があるということですよね。

勝 :そうそう。さすが恵利ちゃん。何の順番だと思う?

真子:私わかった! お客様の行動する順番! 売り場を見て、商品
   を試して、それで商品を選んで決める!

勝 :せーかい!! 真子、すげーじゃん。恵利ちゃんがいると、真
   子も真剣に考えるようになるんだな。何でだ?

真子:そ、そそ、そんなことないってば……いつも真剣じゃん。

勝 :で、「お客様の行動する順番」って言えば、何だ、真子?

真子:え? 何だ、真子って言われても……何??

恵利:勝さん、マインドフロー* ですよね……?

*顧客がファンになるまでの7つの関門。
 認知→興味→行動→比較→購買→利用→愛情
 の7つの関門を順番に越えて、顧客が自社の「ファン」になる

勝 :!! すげー! さすが恵利ちゃん! せーかい!

真子:う……そうか、それかぁ。また恵利に負けたぁ……

恵利:勝ち負けなんてないわよ、そんなの……

そういうそばから、恵利がノートに書き始めている。

「勝さん、こんな感じですよね?」と言いながら、恵利が「恵利ノー
ト」を勝と真子に向ける。勝の汚い字に寄り添うように、恵利の美し
い文字が並ぶ。

         マインドフローの関門

1.見やすさ   認知→興味→行動
2.試しやすさ  行動→比較
3.選びやすさ  比較→購買

勝 :おおっ! その通り! まさにこういうこと。

真子:そうかあ……結局「魅せ方」って言っても、マインドフローを
   どう「売り場」とか「売り方」に落とし込むかってことかぁ。

勝 :そういうことだ。今日はこの「1.見やすさ」について考えて
   いこうか。

真子:うん!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「認知」関門を突破する「魅せ方」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :じゃあまずはこの記事から。

勝が、ノートパソコンをいじったかと思うと、すぐさまそのモニタを
真子と恵利の側に向ける。

恵利は「え、何、何?」と慣れずに驚いているが、真子は「この記事
を読めってことなの」と顔色一つ変えずに真剣にモニタを見つめる。
恵利も気を取り直して真子に習い、モニタの中の記事を読み始めた。

-----------< 記事要約 >------------

○イトーヨーカ堂が生活雑貨の拡販で「みせる売り場作り」に注力、
 苦手としていた若年層の来店を促す。新たな取組の効果もあり、生
 活雑貨売り場の坪効率は改装前より「3割上昇」(同社)

○「新生活雑貨館」が津田沼店(千葉県)の4階に2011年11月
 に誕生。「来店客を立ち止まらせる売り場」をコンセプトとする実
 験的な売り場だ。従来あまり見かけなかった学生の姿も目立つ。

○若年層を意識し、ファンシー文具などを拡充。陳列方法も商品自体
 のデザイン性などを強調。例えば文具コーナーでは表紙が風景画な
 どのノートを販売。壁際の高さ2.1mの什器に陳列、遠目にも見
 え「売り場のビジュアルを向上させる効果が期待できる」(同社)

○季節ごとのテーマで展開する「特設コーナー」も設置。受験シーズ
 ンには「受験生応援グッズ」として文具に加え、ダルマのぬいぐる
 みなどを集合陳列した。どう商品を並べれば来店客の関心を引ける
 か、部門の垣根を越えて「約1カ月をかけて」(同社)考える。

○売り場の各所に「ビジュアルポイント(VP)」と呼ぶ仕掛けもあ
 る。販促用ボードを設置し、手書きでコーナーの特徴や売り場の案
 内図などを書いて情報発信力を高め、来店客を飽きさせない。VP
 は季節イベントなどを勘案しつつ1~2週間ごとに変える。

2012/03/21 日経MJ P.5

-----------< 記事要約 >------------

真子:へー、魅せ方を変えて坪効率3割アップってすごいよねー。

勝 :売り方・売り場だけじゃなくて売り物も変えてるみたいだから
   魅せ方「だけ」の効果じゃないけどな。

恵利:「来店客を立ち止まらせる売り場」って言い切ってるのがスゴ
    イと思いました。

勝 :そうなんだよね。フツー「売り場」っていうと「売り物を並べ
   る」場所だと勘違いしちゃうけど……

恵利:まずは「認知関門」を越えないと、商品が良いも悪いもないで
   すもんね。

真子:あと、「商品のデザインそのもの」をビジュアルに使ってるの
   がいいよね。「売り物」を「売り場」でどう目立たせるか。

恵利:逆に、「注意を惹きつけられるデザイン」を持ってる商品を選
   んでる、っていう言い方もできますよね。

勝 :うん。「認知」「興味」関門で大事なのは「変化」。いっつも
   同じだと「飽き」が来るからさ。この売り場では何してる?

恵利:あ、だから「特設コーナー」は「季節ごとのテーマで展開」な
   んですね。

勝 :そう! 受験シーズンには「だるまのぬいぐるみ」なんて面白
   いよな。

恵利:こないだGoogle Mapsがドラクエになってましたよ
   ね? エイプリルフールで。あれも1つの「変化」ですね。

勝 :あ、そうそう。モンスター探しちゃったよ。そういう「変化」
   を作ると継続して「興味」を持っていただきやすい。

真子:ね……勝さん、真子も髪型変えた方がいいかな?

勝 :はあ?

真子:だ、だって……いっつも同じだと、飽きちゃうんでしょ? だ
   から、真子もたまにはショートにしたりとか……

勝 :知るかそんなの。オレじゃなくてオマエの「顧客ターゲット」
   に聞けよ。

真子:だ、だから……も、もう……

恵利:真子がショートにしたら、「何だ真子、振られたのか?」って
   聞かれるだけじゃないかな、ふふふ。

真子:何よ恵利、こ、この恩知らず!

勝 :でも真子のその指摘って意外に鋭い。髪型変えたり、普段着な
   い服を着ると「興味」をひくよな。売り場もそれと同じ。

真子:そっかあ……じゃあ髪、染めてみようかなあ……

勝 :でも本人に似合わないのは、「強み」を消すからダメ。真子は
   長い黒髪がトレードマークだから、それでいいんじゃないか?

真子:きゃあ、真子の美しさを引き立たせる黒髪だなんて……もう、
   勝さんは真子にむ、ちゅ、う、なんだからぁ♪

恵利:勝さん、じゃあ次に行きましょうよ。

勝 :そうだな。

真子:あ、もう!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「客視線」と「客動線」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :で、この「新生活雑貨館」の売り場って、「客視線」と「客動
   線」のことを考えてるのはわかるよな?

真子:へ? 「客動線」っていうのはわかるけど「客視線」って何?
   初めて聞くけど……

勝 :その言葉を使うのは今が初めてかも。っていうか、例によって
   オレが作った言葉。

真子:じゃあ知らなくて当たり前だぁ。それで「客視線」っていうの
   は、何ですか?

勝 :「客動線」は、お客様の「カラダ」がどう動くか、っていう
   「足の動き」の線、足跡だろ?

真子:うん。

勝 :それに対して「客視線」は、お客様の「目」がどう動くか、っ
   ていう、視線の動きの跡。

真子:あ! TV番組なんかである、人間が画面のどこを見てるかっ
   ていう線みたいなヤツのこと?

勝 :あ、そうそう。それ。

恵利:な、なるほど……カラダが動く「動線」と、「視線」はまた別
   のものってことですよね……

恵利が、勝の話したことを高速でノートにまとめていく。

勝 :お客様はどこをどのような順番で見るのか。「見やすさ」って
   言った場合、そこまで考える必要がある。

真子:このイトーヨーカ堂の「新生活雑貨館」ではどうなってるの?

勝 :だからそれを真子たちが考えるの! まず、この「新生活雑貨
   館」の「存在」に気がつかないと、売り場に行かないよな?

恵利:わかりました! まずは遠くからでも気づくように、2.1m
   の高さの什器で目立たせてる!

真子:あ、なるほどぉ。それで売り場の存在に気づくんだ! で、そ
   れに気づいたら、次は売り場に行くんだね!

勝 :すると、何がある?

真子:「ビジュアルポイント」!

勝 :そこには何が書いてある?

恵利:はい、「コーナーの特徴や売り場の案内図」ですよね。つまり
   売り場を回遊する仕掛けです。

勝 :そういうこと。

恵利:つまり「客視線」とは、遠くから「売り場の存在」に 気づい
   て、近くに来て何を見て、という「お客様の目線の動き」。

勝 :そうそう。恵利ちゃんは「言語化」してくれるから助かるな。

恵利がサラサラとノートにまとめていく。

  お客様の位置   メッセージ       媒体

  店の入り口   「売り場はここ!」   2.1mの高い什器
  などの遠方               と目立つ商品

  売り場     「この売り場は     ビジュアルポイント
           ここがポイント!」

恵利:これでいいですか?

真子:わあ、恵利、すっごーい!

勝 :OK。「客動線」っていうのは、この「客視線」の結果だろ?
   「動線」の前に「視線」があるんだよ。

真子:そっか! 「カラダ」が動くより前に「目」が動くんだ!

勝 :そうそう。スキーだと「視線の先行動作」なんて言うけどな。

真子:うっわ。そういえばそれスノーボードでも習った気がする。何
   でもマーケティングと結びつけるのね……

勝 :「人間のカラダは、自分の見ている方向に進む」っていうのは
   真理みたいだぞ。

真子:そっか……だから「どこを見ているか」が大事なのね……

恵利:お客様には、「どこを見ていただくか」っていう、視線の動き
   を意識した媒体とかメッセージを出さないといけないんですね

勝 :うん。ね、恵利ちゃん、これ、思い出さない?

真子:勝さん、何で私に聞かないのよ……いっつも恵利ばっかりに聞
   いてさあ……

勝 :じゃあ聞いてやる。ね、真子ちゃん、これ、思い出さない?

真子:ううん、何にも思い出しませーん!

勝が「あーあ」とため息をつくと、恵利が「もう、真子ったら……」
と言い、ノートをめくり戻しながら言った。

恵利:これって前にもやった「マインドフローのマインドフロー」っ
   ていうアレですよね?

勝 :そう! それ!

真子:え? 何だっけ? そんなのやった?

恵利:もう……去年の11月の話じゃない。ほら、真子と望ちゃんが
   クチコ買って、私もおみやげもらったじゃない?

真子:あ、ああ! アレか! この記事の! ↓↓↓

http://archive.mag2.com/0000111700/20110930010000000.html

勝 :そうそう。「売り場」っていうのは、商品自体を売る「マイン
   ドフロー」の一部だけど……

真子:「売り場」自体の「認知」とか「興味」っていう、「売り場の
    マインドフロー」も考えるんだ!

勝 :そうだな。その「売り場のマインドフロー」に基づいて、「客
   視線」を計算して売り場を作っていくわけだ。

恵利:うわあ……何か恐くなってきました……私、今まで何にも考え
   てなかったんだあ……

真子:まあ、今それに気づいたんだからいーじゃん。って私もそこま
   で考えてなかったけどさ、あははは!

勝 :「1ヶ月かけて」売り場の魅せ方を考える、って記事にもあっ
   たけど、そこまで時間をかけて真剣にやるべきなんだよ。

恵利:ホント反省です……うちの店は、「売り物を並べるだけ」の
   「売り場」になっちゃってて……そりゃ売れませんね。

勝 :店舗に限らない。商品カタログとかでも、「売り物を並べるだ
   け」のカタログなんて一杯ある。

真子:あ、それなら、うちの店の昔の「メニュー」もそうだった。
   「食べ物を並べてるだけ」だった……

勝 :せっかく心を込めて作ったり仕入れた「売り物」なんだから、
   それを「売り場」「売り方」で輝かせないとな。

恵利:はい。農家の方々が一生懸命作られた果物が「輝く」ような
   「魅せ方」を考えます。

勝 :で、まだこれが続くんだなあ……3、4回で終えるつもりだっ
   たけど、まだ「1.見やすさ」さえ終わってないからな……

真子:出たあ! お得意の「無計画な連載シリーズ」だぁ!

恵利:いえ、私はすっごく楽しみですよ、ふふふ。よろしくお願いし
   ます。

勝 :ほら、真子もこれくらいのこと言ってみろ。大体オマエがオレ
   の仕事中に乱入してきたんだからな。

真子:はい、私も楽しみです、うふふ、はーと。これ恵利のマネ。

恵利:な、何それ……真子の方がブリッコじゃないの。

真子:うっわあ、ブリッコなんて死語だよ。アンタ年いくつよ。

恵利:い、いいじゃない……そんなこというと、ノート見せない。真
   子も自分でノートとってね、はーと。

真子:そ、そう来るか……お、お願い、それは勘弁して……

(次号に続きます!)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●「魅せ方」は1.見やすさ、2.試しやすさ、3.選びやすさ。ま
 ずは「見やすさ」で「認知」「興味」関門を越えよう!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.161 2012/04/09
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●マインドフローの「興味」「行動」関門を通過するためには、「目
 を引く」「足を止める」工夫をしよう!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆前号の復習
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

真子:はいはーい、せんせー、今日は私が復習やりまーす!

勝 :はいマコちゃん、やってみてねー。

真子:はーい! 「売り場の魅せ方」は「見やすさ」「試しやすさ」
   「選びやすさ」の3つでーす!

勝 :はい、それで?

真子:前回はそのうち「見やすさ」をやりましたぁ。おわり!

勝 :はあい、マコちゃんにしてはよくできたねー。全然足りないか
   ら、じゃあ学級委員の恵利ちゃん、補足して。

真子:ぶー。

恵利:はい、マインドフローとの関連で見るとこうなります。

         マインドフローの関門

1.見やすさ   認知→興味→行動
2.試しやすさ  行動→比較
3.選びやすさ  比較→購買

勝 :そうだな。

恵利:さらに、「売り場」は「商品を買う」というマインドフロー全
   体の一部ですが、「売り場」のマインドフローも必要です。

真子:うん、売り場があること自体に気がついてもらわないといけな
   いから、「売り場」の「認知」も必要だよね。

勝 :そうだな。お客様を売り場から離れた位置から「動かす」こと
   になるけど、そのときに大事なことは?

恵利:はい、「客動線」は、「客視線」の「結果」です。「カラダ」
   を動かす前に「視線」を動かしますから。

真子:そこってまさに「盲点」だった。動線の前に視線なんだね。

勝 :そう。HPという「売り場」でも、マウスをクリックする「ペ
   ージ遷移」の前に「視線遷移」がある。

真子:あ、そうか! じゃあ店のメニューを作るときもそうだ!

勝 :そうそう。お客様の眼球をどう動かしたいのか、というところ
   まで考える。恵利ちゃん、前号の例では?

恵利:はい、イトーヨーカドーの売り場はこんな工夫をしていました

  お客様の位置   メッセージ       媒体

  店の入り口   「売り場はここ!」   2.1mの高い什器
  などの遠方               と目立つ商品

  売り場     「この売り場は     ビジュアルポイント
           ここがポイント!」

真子:売り場に来てもらうためには、遠くからでも見えるようにして
   売り場に来たら、売り場を回遊してもらうんだよね。

恵利:これ、理に適ってるわ。お客様の動線・視線と、メッセージ・
   媒体が一致してる。

真子:はいはーい、せんせー、売り場の「変化」をつけることも大事
   ですよね! じゃないと飽きちゃうから。

勝 :マコちゃん、それはいーポイントだねー。よく気づいたねー。

真子:わーい。

勝 :前号のイトーヨーカドーの例は、マインドフローの「認知」→
   「興味」関門の話だったけど、今回はその次、な。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「興味」→「行動」関門を突破する「魅せ方」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

恵利:では今回は、マインドフローの「興味」→「行動」ですね。

勝 :うん。「見やすさ」「試しやすさ」「選びやすさ」の、「見や
   すさ」の続きね。

真子:はーい。

勝 :じゃあまたこれ読んで。

勝が、マウスのカーソルを何回か回したかと思うと、モニタを真子と
恵利に向けた。真子と恵利がモニタを熱心に見つめる間、勝はドルチ
ェを口にし、エスプレッソを一口飲むと、この世で最高の瞬間とでも
言いたげな笑顔を見せた。

-----------< 記事要約 >------------

○鉄道玩具「プラレール」製造元のタカラトミーは、プラレール専門
 の1号店「プラレールショップ東京店」を東京駅地下街に開店。ジ
 オラマの青いレール上を、車両の玩具が音を立てて走る。子供だけ
 でなくスーツ姿の会社員らも吸い寄せられる。

○店の取扱商品数は500品目強、そのうち車両は約100品目を占
 めるが商品の箱を積む展示では魅力が伝わらない。レールを走る姿
 を見せ購買意欲をかき立てる。

○こうした「行動展示」は販売にも効果的。最近の売れ筋は4月発売
 の「連結!E5系『はやぶさ』&トミカ駅前ロータリーセット」
 (5250円)で、週に15~20個を売り上げる。同セットは入
 り口近くのジオラマ内で展示。

○当初の年商目標は約1.5億円を掲げていたが、これまでの売上高
 は計画を2割上回るペース。

2011/08/08, 日経MJ P.5

-----------< 記事要約 >------------

真子:すごいねー。店先でプラレールが走ってるんだねー。男子って
   こういうの好きだよねー。

恵利:これなら、確かに足を止めちゃうわね。楽しそうよ。

勝 :商品を積んどくだけじゃ、「興味」がわかないから注意を引か
   ないんだよな。

真子:そうだねー。ハコが積んであるだけのと、プラレールが動いて
   るのとじゃ、えらい違いだよ。

勝 :子供はもちろん、大人も足を止めるよな。懐かしいから。

恵利:これが「興味」関門から「行動」関門の仕掛けなんですねー。

勝 :そうそう。これなら、店頭で目を引くし、ついつい近寄って見
   ちゃうよな。

真子:うん!

恵利:今の、「店頭で目を引く」っていうのが「興味」関門で、「近
   寄って見ちゃう」っていうのが「行動」関門ですよね。

恵利がノートにペンを走らせ、顔をあげた。

勝 :そう! 恵利ちゃん、すげー。何気なく言った一言を、注意深
   く、よく聞いてるよな。

恵利:い、いえ……勝さんこそ、そういう「何気ない一言」がきちん
   とマインドフローの順番になっていて……

勝 :いや、でも恵利ちゃんはそれにちゃんと気づくのがすげー。だ
   ろ、真子?

真子:はいはい、どーせ私は気づきませんでしたよーだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「行動」関門の抵抗は大きい
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :つまり、「目を止める」のが「興味」関門で、「カラダを動か
   す」のが「行動」関門。この順番の意味は何だ?

真子:あ! 私わかった! 前号の「カラダの動き」の前に「目の動
   き」ってヤツだ! 客動線と客視線!

勝 :ぴんぽーん! 「興味」関門までは目とかアタマの中で起きる
   ことで、「行動」関門は「カラダ」の「動き」。

恵利:となると、実際に「カラダ」を動かしてもらう「行動」関門の
   壁っていうか抵抗が大きいわけですよね?

勝 :そうなるね。な、真子?

メモを取っていた真子が「ん?」と言いながら顔を上げ、「何です
か?」と聞いた。

勝 :エスプレッソのお代わり持ってきて。

真子:えー……

勝 :イヤなのか?

真子:イヤじゃないですけどー。もう、わかりましたよー。

勝 :いや、予想通りの行動をありがと。真子はホントわかりやすく
   ていいな。

真子:わーい、褒められた! って今の褒めてるの?

勝 :今のが「興味」関門と「行動」関門の「壁」なんだよな。

真子:ど、どういうこと?

勝 :いや、人間は「カラダを動かすのは面倒」ってこと。今「真
   子」って呼んで、顔をこちらに向けるのは抵抗なかったよな?

真子:そりゃそうですけど……それが???

恵利:あ! でも、「エスプレッソ持って来て」って言われると、す
   っごくめんどくさそうだった……

勝 :そうそう。コイツはそういうヤツだ。人の仕事は平気でジャマ
   するくせに、自分は動かねー。

真子:そ、そんなことないもん! わかりましたよ、持って来ますか
   ら、もう……

恵利:ふふ、そうじゃないのよ、真子。「行動」関門の「カラダを動
   かす」ことへの抵抗の大きさを真子が教えてくれたの。

勝 :それそれ。さすが恵利ちゃん。

真子:え? どういうこと? また何よ、2人して……

恵利:あのね、「興味」関門は、「真子」って呼ばれて、顔を動かす
   こと。特に抵抗はないでしょ? 「行動」関門は?

真子:えっと……あ! そうか! カラダを動かす「行動」関門は、
   顔を動かす「興味」関門より抵抗が大きい!

勝 :そう。だから真子はエスプレッソを持ってくるのをイヤがった
   んだろ。この不精者が。

真子:違うもーん。1秒でも長く勝さんのソバにいたかったの、はー
   と♪

勝 :オレへの感謝と愛情が少しでもあったら、喜んで持ってくるは
   ずだけどな。

真子:ぐ……

恵利:あ、はい、じゃ、勝さん、私が注文してきますから……

恵利が腰を浮かすと、真子は「ちょ、ちょっとちょっと、いいわよ、
私やるわよ。恵利はノートまとめといて」と言って、席を立った。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「目」を引き、「足」を止めさせる工夫を!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

真子が戻り、程なくして運ばれてきたエスプレッソを勝が嬉しそうに
一口飲むと続ける。

勝 :だから「興味」関門では「目を引く」工夫を、「行動」関門で
   は「足を止める」工夫をさせないとな。

恵利:なるほど、その2つは違うことなんですね。

勝 :うん。例えば「目を引く」工夫が、さっきのプラレールの「行
   動展示」。動いているモノは「目を引くからさ。

勝が、ちょっとこっち見てと言い、両手を前に出した。左手はその位
置で止めたまま、右手をくるくると回す。

勝 :ほら、どっちの手に意識が行った?

真子:くるくる回ってた右手! ホントだあ……

勝 :だろ?

恵利:へー、動いているモノは「目を引く」んですね……

真子:あ! そういえばさ、海外の空港免税店だと、動く垂れ幕みた
   いのがあるよね! グルグルと回ってるの!

恵利:そうなの?

真子:うん。サランラップの芯みたいのが上下に2つあって、それを
   一周する垂れ幕がグルグル回ってる。

勝 :そう、そういうの。あれも動いているから「目を引く」よな。

恵利:勝さん、HPでもそうですよね? 動いている部分には目がい
   っちゃいますから。

勝 :うん。パワーポイントでも、目を引きたい場合には「アニメー
   ション」を使うでしょ。みんな同じ。

真子:あーそっかぁ。「目を引く」工夫って、結構色々あるね-。

勝 :「足を止める」にはさらに工夫が必要。例えばどんな工夫を見
   たことある?

真子:はいはーい! せんせーはーい!

勝 :はいマコちゃん、わかったかなー?

真子:スーパーの焼き肉のサンプリングなんかがそうでーす! 焼き
   肉をもらうためには足を止めまーす!

恵利:なるほどー、真子、すごーい! そういえば、スタバとかタリ
   ーズが店外でコーヒー配るのも同じですよね?

勝 :そうそう。そういうこと。「目を引く」には看板とか置いてお
   けばいいけど、「足を止める」には労力が必要。

真子:でもそれだと、人手がかかるよなあ……ウチの店だと、店頭に
   人をはり付ける余裕はないし……

勝 :何だ、真子らしくもない発言だな。そんなの仕掛け次第だぞ。

真子:え? 「仕掛け」って?

勝 :例えば、でっかいモニタとか店頭に出して、抽選とかゲームと
   かすればいいじゃん。

真子:え? た、例えばどういう抽選?

勝 :例えば「次の数字が携帯電話番号の末尾2ケタと同じなら、ラ
   ンチグレードアップ!」って表示すれば、足を止めて見るよな

真子:な、なるほど……それなら足を止めてくれるかも。空いてる時
   間帯にはいいかもしれない。

勝 :でさ、その2ケタ抽選番号を出す前に、店の売りたいメニュー
   を何秒か表示するワケ。そうすりゃ印象に残るだろ?

真子:勝さん、よくそういうの思いつくよねぇ。それなら、そのモニ
   でクイズとか出してもいいよね!

勝 :そうそう。クイズの答えがわかったら、デザートプレゼント、
   とかってやればいい。どんなデザートをプレゼントする?

真子:えっと……おいしいデザート?

勝 :当たり前だ。単にあげるだけじゃ意味がないだろ? 次にはそ
   のお客様にどうして欲しい?

真子:次には? そのデザートを食べに来てほしい……そうか! リ
   ピートがつくようなデザート!

勝 :そう! そうやって、連動させていく!

恵利:あ……勝さん、それって「プロダクトフロー」ですよね。

勝 :さすが。恵利ちゃんなら気づいてくれるかなって思ってた。プ
   ロダクトフローって何だっけ?

恵利:はい、このような「商品・サービスの流れ」です。

 プロダクトフロー

 ・あげる商品   試供品・サンプルなど
 ・売れる商品   低単価で買いやすい商品
 ・売りたい商品  高単価で利益を稼ぐ商品

真子:なるほど! あげる商品が「抽選であげるデザート」で「売り
   たい商品」は「次にそのデザートを注文」ってことだ!

勝 :例えば、だけどな。こんなやり方なら、1回仕掛けを作りさえ
   すれば、人手はかからないだろ?

恵利:こうやって考えて行くと、モレなく考えられますね。

真子:うん! なるほどねー。うちの店もまだまだやれることは一杯
   あるんだなー。反省。

勝 :「今はうまく行ってるから」なんて油断してると、進歩が止ま
   って競合に追いつかれるぞ。考えるのを止めるなよ。

真子:はい!

勝 :じゃあこれで「見やすさ」「試しやすさ」「選びやすさ」の、
   「見やすさ」がやっと終わり。

恵利:じゃあ、次は「試しやすさ」ですね!

(次号に続きます)

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◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●マインドフローの「興味」「行動」関門を突破するためには「目を
 引く」「足を止める」ための工夫をしよう!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.162 2012/04/12
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●マインドフローの「行動」「比較」関門を突破するためには、「試
 しやすく」して、「足を止め」「手を動かして」いただこう!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆まずは、前号の復習から!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

恵利:せんせー、前号の復習は私にやらせてください!

勝 :はい、クラス委員のエリちゃん、頼むね-。

恵利:はい! 今は「魅せ方」の3つのポイント、「1.見やすさ」
   「2.試しやすさ」「3.選びやすさ」をやっています。

勝 :前号は「見やすさ」の2回目でしたねー。何をやったのかな、
   エリちゃん?

恵利:はい、お客様の「目を引く」ことと「足を止める」方法を考え
   ました。マインドフローで言うとこうなります!

  認知関門

 ○興味関門  店頭などでお客様の 「目を引く」
  ↓
 ○行動関門  売り場などでお客様が「足を止める」

  比較関門

勝 :はい、よくできましたー。

恵利:それで、「行動」関門は「カラダの動き」を伴うので、お客様
   の「抵抗」が大きいです!

真子:せんせー、はい! そうなると、その「抵抗」を上回る、すっ
   ごく魅力的な何かが必要になりまーす。

勝 :はいそうですねー。マコちゃん、どうすればいいかなー?

真子:はい、マコみたいなとってもカワイー女の子がお店にいればい
   いんだと思いまーす!

恵利:プラレールショップでは、プラレールを実際に走らせて、それ
   でお客様の足を止めました。っていうことは……

勝 :はい、マコちゃんよりプラレールの方が魅力的っていうことみ
   たいですよー。どうかなぁ、マコちゃん?

真子:そんなことを言う人は見る目が無い人だと思いまーす!

恵利:「目を引く」には動きのある展示など、「足を止める」には、
   サンプリングなどの仕掛けが向いてまーす。

勝 :はい、さすがエリちゃん、よくできましたー。

真子:しかし、「見せ方」一つとっても色々やることがあるよねー。
   テキトーに考えてちゃダメなんだねー。

勝 :考えるときはバラバラと考えてもいいけど、後で体系的・論理
   的に整理しないと「モレ」が出るから、気を付けよう。

恵利:その「モレ」をチェックするために、マインドフローを使おう
   ということですよね?

勝 :はい、さすがクラス委員の恵利ちゃん、その通り!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「試しやすさ」は「行動」関門→「比較」関門の施策
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

恵利:今号からは、「1.見やすさ」「2.試しやすさ」「3.選び
   やすさ」の、「2.試しやすさ」ですよね。

勝 :うん。「2.試しやすさ」の最初はコレから。じゃあ読んで。
   真子、ドルチェお代わり。

真子:はいはい、そろそろ言う頃だと思ってたので、もう注文してあ
   りますよーだ。

勝 :お、さすが密着軸のレストラン。

恵利:え? まだ召し上がるんですか? もう2つ食べたのに……

勝 :むしろセーブしてる方だけどな、ははは。じゃ、これが「試し
   やすさ」の例ね。

真子と恵利が、自分たちに向けられた勝のノートパソコンのモニタを
再び注視する。

-----------< 記事要約 >------------

○花王は2012年4月に開業する渋谷ヒカリエ(東京)に、百貨店
 ブランド「エスト」の化粧品を気軽に試せる売り場を開く。主力客
 層30~40代に加え、立ち寄りやすい売り場づくりで20代にも
 売り込む。

○新しい売り場は「トライコスメティクス エストカフェ」。1つの
 テーブルを囲むように席を配置、棚からスキンケアやメーキャップ
 商品を自由に持ってきて自由に試せる。ヘアアイロンなども貸し出
 し、客の要望に応じて販売員が美容相談に乗る。

○百貨店の化粧品売り場は対面式が主体。気軽に立ち寄ったりブラン
 ドを比較しながら買い回ったりしにくいとの指摘が多かった。「百
 貨店ブランドの化粧品売り場でも商品をもっと自由に試したい」と
 いう顧客の声に応え、通常の百貨店売り場の2倍の集客を目指す。

2012/04/02 日経MJ P.6

-----------< 記事要約 >------------

真子:あ、これいー! 百貨店のコスメってさ、うちらみたいな若い
   世代にはちょっとハードルが高いよね。高級そうで。

恵利:うん。ちょっと買うと、すぐ万単位のお金になっちゃう。

勝 :いや、そこは解決しないだろ。商品単価を下げてるわけじゃな
   いからさ。

恵利:え? あ、確かにそうですね。「試しやすさ」ですから……

勝 :だから、解決してるのは?

恵利:あ、さっき真子が言った「ハードルの高さ」ですね。

勝 :そういうこと。マインドフローでは? 真子?

真子:うん、ハードルが高いと通り過ぎちゃうけど、これなら「試せ
   る」から「足を止める」、つまり「行動」関門だよね。

恵利:あと、色々なブランドの製品を比べられるから「比較」関門の
   施策でもありますよね。

勝 :そういうこと。恵利ちゃん、シリーズ2回目のノート出して。

恵利:え? ど、どれですか?

勝 :真子ふうに言うと、「オレと恵利ちゃんの2人での初めての、
   共・同・作・業♪ はーと」のヤツ

真子:な、何よそれ。そんなのあった?

恵利:え、あ、はい。わかりました。えっと……これですよね。勝さ
   んのメモ書きに私が書き足したこれ。

         マインドフローの関門

1.見やすさ   認知→興味→行動
2.試しやすさ  行動→比較
3.選びやすさ  比較→購買

真子:何だ、このことか……って、何だ、さっきの質問の答え、書い
   てあるじゃん。

勝 :段々と、マインドフローの下の方の関門に移ってきてるのがわ
   かるだろ。

恵利:あ、はい、確かにそうですね。

勝 :記事中の「気軽に立ち寄ったり」「ブランドを比較しながら買
   い回ったりしにくい」ってどういう順番?

恵利:あ……それぞれ「行動」関門と「比較」関門ですね。

真子:へー、まさにマインドフローのこの関門を突破するための施策
   なんだね。まあ、だからこの記事を選んだんだろうけど。

勝 :目を止め、足を止めるのが「見やすさ」、だったよな。今回の
   「試しやすさ」はその意味では、どうなる?

真子:実際にメークしてみたりするから……「手を動かす!」

勝 :お! 真子、いいぞ。「試す」ってそんな感じだよな。

恵利:あれ、ということは、「手を動かす」のは「足を動かす」後、
   つまり、抵抗がさらに大きい……ということ?

勝 :さすが恵利ちゃん! 実際さ、スーパーで買い物するときを考
   えてみて。どういう順番で商品を手に取る?

真子:タナを見て、足を止めてから、商品を手に取るから……確かに
   目→足→手、の順だ! 勝さん、よく見てるねー、きゃはは!

勝 :きゃはは、じゃねーよ。マインドフローってそこまで精密に考
   えるんだよ。

恵利:売り場では目→足→手、と言われると、確かにその通りです。
   そうかあ……動かすカラダの「部位」まで考えるなんて……

真子:あとさ、コスメの場合は、自分の肌で試せる、っていうのは大
   事だよね。自分の肌に合うかどうかとか、実際にわかるしー。

恵利:そうよね。でも、1ブランドだけ試せても「比較」って言える
   のかなあ?

勝 :え? だって、このカフェコーナーでエストを「試した」ら、
   何かと比べるでしょ? 無意識に。

真子:え? 何と比べるの?

恵利:無意識に……あ! 今使ってる製品と比べます!

真子:あ、確かに! そりゃそうだ、初めてコスメ買うわけじゃない
   もんね! 今使ってる製品と比べるのかぁ。なるほどぉ。

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◆「誰にとって」試しやすくするのか?
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勝 :でさ、これ、エストの「ブランドとしての課題解決」にもなっ
   ているのがポイントな。

真子:ど、どういうこと?

勝 :「試しやすくする」のはいいとしてさ、なんで「カフェ風」に
   したんだと思う?

真子:だから「足を止めやすい」ように、じゃないの?

勝 :それなら別に「和室」風だって「ガンダム」風でもいいだろ?

恵利:なるほど……なんで「カフェ」ってそういう意味ですか……

勝 :今のエストの「課題」は何だと推測できる?

真子:「試しやすく」して、集客力アップ!

勝 :そりゃそうだけどさ、「どんな人」を集客したいんだと思う?
   実は、真子は既にその質問に答えてる。

真子:さっすがは真子ちゃん! ……って何だっけ?

恵利:わかりました。「20代にも売り込む」という部分ですね。真
   子、最初に「うちらにはハードル高い」って言ったじゃない?

真子:ああ、それかあ! 20代に広げたいんだ! そうか、それが
   「ブランドとしての課題」なんだ!

恵利:だから、「カフェ」なんですね。20代の女性が立ち寄りやす
   いように。

真子:もっと上の世代を狙うなら、同じ「試しやすい」場づくりでも
   カフェじゃなくて「健康」とかの切り口になるかな?

勝 :そう! 「誰にとって」試しやすいのか、っていう「ターゲッ
   ト」も考えてる。だから「課題解決」になってる。

真子:なあるほどねー。ただ試しやすくすればいいってわけじゃなく
   て、ターゲットも考えて、かあ。当たり前なんだけど……

恵利:なかなか気づかないわよね。

勝 :ただ、もちろんリスクはある。あんまりカジュアルっぽくする
   と、商品の価格帯との一貫性がなくなる。高級化粧品だしな。

真子:そうだよねえ。それこそまさに「見せ方」次第だよね。高級感
   のある「カフェ」にすればいいんだよね。

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◆BtoBの「試しやすさ」
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勝 :ちなみに、「試しやすさ」はBtoBでも同じ。こっちを読ん
   で見ろ。

恵利:うわあ、次から次へとよく出てきますねぇ……

真子:きゃあははは、そうだよねー。そっか、恵利はまだこれに慣れ
   てないんだ。

恵利:え? 真子、いつもこんなのやってもらってるの?

真子:そうだよ。年末年始特別号なんて、このパターンばっか。

恵利:えー、真子、いいなあ……ずるい!! 勝さん、こういうとき
   には私も呼んでください!

勝 :だから今回呼んだじゃん。恵利ちゃんも真子みたいになってき
   たな……まあとにかく読んで。

恵利が「真子、いーなぁ」と真子の方を見ながら、珍しく気持ちを表
情に出してつぶやくと、真子は「わかったからぁ、ほら、読もうよ」
となだめるように言いながら2人でモニタに向かった。

-----------< 記事要約 >------------

○オフィス通販のアスクルは、机や椅子などのオフィス家具の販売を
 強化。

○東京・江東の本社内にオフィス家具のショールーム「アスクルオフ
 ィスづくりスタジオ」を開設。机や椅子、収納棚など約130品目
 の商品を組み合わせて紹介。顧客は直接商品に触れてデザインや椅
 子の座り心地などを確認できる。

○ショールームには1級建築士などの資格を持つスタッフを配置。顧
 客の要望に応じて商品の説明をしたり、オフィスのレイアウト設計
 などの相談にも応じる。見るだけでなく契約もできる。利用には予
 約が必要。

○個人向け通販では実店舗を展開する動きが広がるが、オフィス通販
 の分野では珍しい。売上に占めるオフィス家具の構成比は1割弱。
 全国の販売店との連携も強化、売上2桁増を目指す。

2012/03/30 日経MJ P.7

-----------< 記事要約 >------------

恵利:オフィス家具の「試しやすさ」っていうと、こういう形になる
   んですね。

真子:確かに、ショールームって「試せる」場所だもんね。「試しや
   すさ」って言っても、色々やりかたはあるんだ!

恵利:オフィスの家具はずっと使うものですから、実際に目で見て、
   触ったり座ったりして「試して」から買いたいですよね。

真子:うん。長く使うモノの場合は「試したい」よね。

勝 :まさにそういうこと。そう言った「決め方」の場合、BtoB
   もBtoCも同じ。化粧品でも、オフィス家具でも。

恵利:あ、いつも勝さんが「意思決定プロセスが重要」っておっしゃ
   ってる、アレですね。「決め方」

勝 :その意味での「化粧品」と「オフィス家具」の共通点は?

真子:わかってます! 化粧品も、オフィス家具も、1回試しに使っ
   てから、買いたいです!

勝 :それは何で?

真子:試さないと不安だから!

勝 :もう一声。

恵利:はい、化粧品もオフィス家具もそれなりに高価ですので、失敗
   すると後悔が大きいからです。

勝 :お、さすが。1つの要因はそれ。

恵利:他にもあるんですか?

勝 :ある。例えば、レーザープリンタなんかは、高価だけどネット
   で買うのにそんなに不安じゃないよな?

真子:あ、うん、うちのレーザープリンタ、ネットで買った。まあ、
   レーザーならそんなに差は無いかな、と思って。

勝が「そうだよな」と言いながらこくりとうなずき、恵利に目線でそ
の先を促す。

恵利:あ……はい、変動が大きいからですね。化粧品やオフィス家具
   は、試してみないとわからない部分が大きいから、ですか?

真子:なるほど、レーザープリンタならみんなそれなりに大丈夫だろ
   うけど、コスメはそうじゃないからか!

勝 :そう! 「カフェ」とか「ショールーム」とか、見え方は違う
   けど「試す」ということでの狙いは同じ。

恵利:両方とも、「お客様の不安を解消する」ということですよね。
   試してみないとわからない、から……

真子:なあるほどー。BtoBとかBtoCとかじゃなくって、そう
   いう「決め方」が大事ってことかあ。

恵利:それが同時に「行動」「比較」関門の突破策になっているって
   いうことなんですね……

勝 :うん。でさ、目→足→手、の話だけど、化粧品でもオフィス家
   具でも、「手」を使って試してるよな?

真子:えっと……あ、ホントだ! 化粧品はもちろん、オフィス家具
   も「触って」試したりするよね!

勝 :だから、目→足→手、という順番も意外に普遍的だったりする
   んだよな。

真子:へー、そうだねー。おもしろーい!

勝 :じゃあ、次もまたこの「試しやすさ」を見ていくか。

恵利:はい!

(次号に続きます)

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◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●「試しやすさ」はマインドフローの「行動」「比較」関門を通過す
 る策。お客様が「足」を止めて「手」を動かす工夫をしよう!

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.163 2012/04/16
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●マインドフローの「行動」「比較」関門を突破するには「客視線」
 と「客動線」を考えて、試しやすく」しよう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆まずは前号の復習から!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :じゃあ恵利ちゃん、前号の復習をお願いね。

恵利:はい! 今は「魅せ方」の3つのポイント、「1.見やすさ」
   「2.試しやすさ」「3.選びやすさ」をやっています。

勝 :前号は「2.試しやすさ」をやったんだよね。どんな事例だっ
   たかな?

真子:先生、はいはーい! 化粧品の事例でした! 「エスト」がカ
   フェ風の売り場を作ったんです!

勝 :はーい、よくできましたねー。その狙いは?

恵利:はい、デパートの対面式の売り場とは違う売り場で、気兼ねな
   く立ち寄って、化粧品を試せるようにしたんです。

真子:それで、もっと多くの人にマインドフローの「行動」関門と
   「比較」関門を通過して欲しかったんだと思いまーす。

勝 :それで「カフェ」という形態を選んだ理由は?

恵利:はい、「20代を獲得したい」というエストの課題を解決する
   ためでした。20代が立ち寄りやすい形態にしたんです。

勝 :OK。あと、アスクルの「オフィス家具のショールーム」って
   いう事例の意味は?

真子:BtoCでもBtoBでも、考え方は同じだっていうことでー
   す!

勝 :そうだな。他には?

恵利:あと、「試しやすさ」という意味で、「カフェ」形式や「ショ
   ールーム」形式など、色々やり方があるんだな、って。

勝 :うん。「試しやすさ」が「特に」重要、という意味で、化粧品
   とオフィス家具の共通点は?

恵利:化粧品もオフィス家具も、高価だから失敗したくないですし、
   実際に触ってみないとわかりにくいからです。

勝 :OK。じゃあ今号は、「試しやすさ」をさらに詳しく見ていこ
   うか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「試して」「比べやすく」した、LEDボックス
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :早速だけど、これね。

恵利:はい、読めばいいんですよね。もう慣れてきました。

自分たちに向けられたパソコンのモニタを、真子と恵利が食い入るよ
うに見つめた。

-----------< 記事要約 >------------

○ビックカメラが始めたLED電球売り場が人気。色や明るさなどが
 異なるLEDを、一つ一つ小枠に入れて点灯。実際に部屋で使った
 ときの雰囲気を一目で確認できる。

○10年交換不要をうたうLEDだが、価格は白熱電球の数倍。ビッ
 クカメラ有楽町店は「1年前は多くの消費者が購入に不安を感じて
 いた」と話す。「普通の電球より暗いと聞いた」という人も多かっ
 たという。

○「LEDボックス」と呼ぶ40cm×30cm位の枠で細かく区切
 られた陳列棚をメーカーの協力を得て作成。枠の天井部分に電球を
 設置、点灯して光の雰囲気を確認でき、初めてLED電球を買う人
 の不安を和らげた。枠の中にベッドなどの模型を置いて演出。

○小枠の中に点灯中製品の空箱を置き、積まれている製品との結びつ
 きも高めた。

○2010年11月に初めて売り場が正式採用されると効果は大きく
 「非導入店舗と比べ明らかに売り上げは上がった」(同社)。ビッ
 クのほぼ全店に「LEDボックス」が導入され、ヤマダ電機など多
 くの競合店舗にも採用されている。

2011/12/16 日経MJ P.3

-----------< 記事要約 >------------

真子:これ、おもしろーい! LED電球を「試しやすく」する、っ
   てこういうことになるんだー! 点けてみせるんだ!

恵利:あ……私、これ見たことあります。ビックカメラで。白い箱が
   いくつも横に並んでて、その中で電球が点いてるんです。

真子:へー、そうなんだ!

恵利:うん。うちの店の電球をLEDに変えたんだけど、そのときに
   これ見たのを今思い出したの。

真子:でさ、どうだったの?

恵利:LED電球って言っても、光の色が結構違うの。それがカンタ
   ンに比べられるから、わかりやすくて助かったわ。

真子:確かに、LED電球が実際についているところって、見てみな
   いとわからないよね。使ったことないわけだから。

恵利:そうなの。点いてる電球が見られるのも良かったけど、白い箱
   に当たってる光が比べられるから、見やすかったわよ。

勝 :なるほどね。電球の色じゃなくて、「当たった光」を比べられ
   るっていうのが「試しやすさ」ってことか。

恵利:そうなんですよ。だからこういう形にしてるんだと思います。

勝 :あ、じゃあさ、恵利ちゃんの店の果物を持って行って、それを
   LEDボックスに置いて光をあてて見比べればいいんだね。

恵利:あ……確かにそうすれば良かったです。そうすればもっと比べ
   やすくなりました。

真子:なーるほどぉ! おいしく見える電球がどれか、比べやすくな
   るよね。

勝 :「使ったことがない」商品は、「試せる」ことが大事だな。も
   し試せなかったら、どうする?

真子:なんとなく不安だから、「やっぱりやーめた」ってなるかも。
   だって、普通の電球の数倍の値段なんだから、さ。

勝 :そうだよな。実際に、点灯しているのを見ると、「暗いって聞
   くけど、実際どのくらい?」っていうのがわかるからな。

真子:恵利、これって電球点けっぱなしで展示してるの?

恵利:そうみたいよ。すごく明るい売り場だったの。何十個も電球が
   点けっぱなしで、壮観だったわ。

真子:きゃははは、そりゃそうだよね!

勝 :何でLED電球だとそういう「点けっぱなし展示」ができるん
   だと思う?

真子:そりゃ、ずっと見せておきたいからじゃないの?

恵利:あ……LED電球は寿命が長いからですね。点けっぱなしにし
   ても、それほど寿命は減らないから……

真子:あ、そういうことか。じゃあ、もう1つ、電気代が安いから、
   点けっぱなしにしても電気代がそれほどかからないからだ!

勝 :そうそう。白熱電球だと、こういう展示方法はやりづらいな。
   LED電球だからこその陳列方法だな。

真子:なーるほどねー。製品特徴を活かした「試しかた」なんだね。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆客視線と客動線の連動
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :ボックスのアイディアもすごいけど、実はオレが「すげー」と
   思ったのは実はこの部分

○小枠の中に点灯中製品の空箱を置き、積まれている製品との結びつ
 きも高めた。

真子:えっと……LEDボックスの中に、点灯している電球の空箱を
   置いた、っていうこと? 恵利、覚えてる?

恵利:あ、そういえばそうでした。LEDボックスの隅に、展示され
   ている電球の外箱が置いてありました。

勝 :電球を見比べて、気に入った電球を見つけたらどうする?

真子:買いたい電球の入ったハコをレジに持って行く、ですよね?

勝 :売り物の電球の入った「ハコ」はさ、LEDボックスとは別の
   ところに置いてあるんじゃない、恵利ちゃん?

恵利:はい。私が行った店では、確かLEDボックスの下に在庫スペ
   ースみたいなのがあって、そこから自分で探すんです。

勝 :買いたい電球のハコを自分で探さないといけないんだよね。と
   いうことは?

真子:ということは……探しやすいんだ! LEDボックスに置かれ
   た外箱を同じものを探せば、欲しいものが買える!

勝 :そう。「つぶやきイメージ」と「動画イメージ」*しようぜ。
   LEDボックスで、買いたい電球見つけたら、どうする?

*アタマの中で顧客などを動画のようにイメージする方法。
具体的なやり方は「実戦マーケティング思考」 P.131
http://www.sandt.co.jp/shiko.htm

恵利:うーんと……「この電球にしよう! どうやって買うんだ?」
   って「つぶやき」ますよね。

真子:きっと視線もキョロキョロ動いてると思うよ。「どこに売って
   るんだろう?」って探しながら。

恵利:そのときに、製品の空箱があれば、それを見て、「これか!」
   とか言いながら、売り場に向かいますよね。

真子:確かに、空箱が無かったら「えー、どれ買えばいーのよー!」
   とか「つぶやき」しながら、売り場で迷いそうだ。

恵利:っていうかさ、真子ならきっと「もーいーや、メンドくさい」
   とか言って、帰るよね。

真子:きゃーははは、確かにそうだぁ!

勝 :まさにそういうこと。流れに「モレ」があると、そこでお客様
   が止まる。つまり、「買わない理由」ができる。

恵利:それがマインドフローの本質ですもんね。

真子:なーるほどぉ。その「空箱」のアイディアってってよく思いつ
   いたよねー。

勝 :オレもそれがすごいと思う。なかなかこういうのって気づかな
   いもんだからな。まさにコロンブスの卵。

真子:こうやって、「動画イメージ」とかしてみると、モレに気づき
   やすいよね!

勝 :そう。「動画イメージ」の主要な要素が、今の「つぶやき」
  「客視線」「客動線」な。

恵利:あ、そうやって分解すると、動画イメージもやりやすくなりそ
   うです。

勝 :特に、「客動線」の前に「客視線」。これはすっごい大事。カ
   ラダが動く前に視線が動く。その理由はわかるね?

恵利:はい、前にやった通り、カラダを動かす方が抵抗が大きいから
   です。

勝 :じゃあ、大事だから繰り返す。「客動線」の前に「客視線」。
   はい、Repeat after me, please!

真子・恵利:「客動線」の前に「客視線」!

勝 :OK。よくできましたー、ぱちぱち。

真子:いえーい。お客様の「視線」をどう動かすか、っていうのも計
   算しないといけないんだねー。

勝 :今回のLEDボックスもそうだけど、うまくいってる売り場は
   そういう「計算」ができていて、かつ「モレ」がない。

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◆必要なのは「課題解決」であり「突飛なアイディア」ではない!
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恵利:これ、まさに「マインドフロー」的問題解決の典型的な例です
   よね、勝さん。

勝 :ホントそう。LED電球って「節電」とか「電気代安くなる」
   って一時期ニュースになってたよね。

恵利:はい、よく聞くから「認知」「興味」はありましたけど、同時
   に「暗い」とかって言われて、「購買」は不安だったんです。

勝 :だから「LEDボックス」っていう「試しやすさ」の施策で、
   「非導入店舗と比べ明らかに売り上げは上がった」んだよな。

恵利:まさに、「試しやすさ」は「行動」関門→「比較」関門の施策
   っていう通りでした。

真子:あ、実際に店に来て「展示品を見る」っていう「行動」をして
   LED電球を「比較」してから買ったんだもんね。

恵利:言われてみれば「なーんだ」っていうアイディアのようで、実
   はよく、考えられてますよね。

勝 :そう! ビジネスに必要なのは「課題解決」のアイディアであ
   って、「突飛なアイディア」じゃない。

真子:そうだよねー。奇をてらって「ボックス」にしたんじゃないん
   だよね。

勝 :マインドフローで、「問題を特定」したからこそ、それに対す
   る「適切な解決策」が浮かぶんだよ。

恵利:ですから、「非導入店舗と比べ明らかに売り上げは上がった」
   っていうのは当たり前ですよね。

勝 :そういうこと。そこが「ボトルネック」になってたわけだから
   そこをつぶせば、水が流れる、つまり「売れる」

真子:そっか。アイディアを出すのって結構理詰めなんだ……

勝 :ここまで「見やすさ」「試しやすさ」ときて、次回は最後の
   「選びやすさ」な。

真子:うん!

(次号に続きます)

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◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●ビジネスに必要なアイディアは「課題解決」。「行動」「比較」関
 門は「試しやすさ」の課題を解決しよう!

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.164 2012/04/19
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●「選びやすく」して、「比較」関門と「購買」関門でのモレを最小
 化しよう!

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◆まずは前号の復習から!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

真子:せんせー、真子も前号の復習やるー!

勝 :じゃあマコちゃん、やってみてねー。まず、このシリーズは何
   をやっているのかなあ?

真子:はーい! 「魅せ方」の3つのポイント、「1.見やすさ」
   「2.試しやすさ」「3.選びやすさ」をやっています。

勝 :前号は「2.試しやすさ」をやったんだよね。どんな事例だっ
   たかなー?

真子:前回は、LED電球のうまい「魅せ方」、LEDボックスを取
   り上げましたぁ!

勝 :はい、そのときのポイントは何だったかなぁ?

真子:LED電球は、認知・興味はあるけど、あんまり見たことがな
   いから不安! その不安を実際に見ることで解消しましたぁ!

勝 :そうだねー。じゃあ、なんで「ボックス」に入れたのかなぁ?

真子:はいはーい! お客様が見たいのは「電球の光」じゃなくって
   「光があたったモノ」だからでーす!

勝 :よくできましたぁ!

真子:あとねー、LEDボックスの中に、製品の外箱が置いてあるこ
   とも大事なの!

勝 :それはなんでかなー?

真子:買いたいと思った電球を見つけやすくするためでーす! 買い
   たいと思っても商品を探せなかったら買えませーん!

勝 :その背後にあるロジックは? 2人で一緒に、せーの、はい!

真子:え? え?

恵利:客動線の前に客視線!

真子:あー、それかあ……やられたあ……

勝 :じゃあこれが大事なので、2人で一緒に、はい!

真子・恵利:客動線の前に客視線!

勝 :じゃああとは、エリちゃん、補足をお願いねー。

恵利:あと、「点けっぱなし展示」は、耐久性が高く、電気代も安い
   というLED電球の強みを活かしているのも大事ですよね。

勝 :さすがエリちゃんだねー。

恵利:はーい! 私には、必要なのは「課題解決」であり「突飛なア
   イディア」じゃないっていうのが救われた感じでしたぁ!

真子:え? 何で?

恵利:だって、真子はアイディアがわき出してくるからいいけど、私
   はそうじゃないから……

勝 :売れるアイディアは「思いつき」じゃない。「体系的な課題解
   決」だから、誰にでも出せるんだ。

恵利:はい、マインドフローなんかはそのためのツールなんですよね

勝 :そういうこと。

真子:えー、じゃあアイディア出せる人はー? 私、いらないのー?

勝 :いた方がいいに決まってるだろ。ただ、後で「検証」する必要
   はあるけどな。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「選びやすさ」は「比較」関門→「購買」関門の施策
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

恵利:今は「魅せ方」の3つのポイント、「1.見やすさ」「2.試
   しやすさ」「3.選びやすさ」をやっていますが……

勝 :恵利ちゃん、魅せ方の3つのポイントと、マインドフローの関
   連図を見せて。前に書いたヤツ。

恵利:はい、これですよね。

恵利が美しく取っているノート、通称「恵利ノート」をパラパラとめ
くり、あるページを開く。

         マインドフローの関門

1.見やすさ   認知→興味→行動
2.試しやすさ  行動→比較
3.選びやすさ  比較→購買

真子:前回で「2.試しやすさ」が終わって、今回から「3.選びや
   すさ」に入っていくんだよね?

勝 :そう。

真子:「選びやすさ」っていうのは、「買う」前の最後のカベだね。

勝 :そうそう。小売店なんかだと、「選んだ」あとは、もう「その
   商品を持ってレジに行く」つまり「買う」ってことだからな。

恵利:マインドフローでいうと、「比較」関門、「購買」関門、とい
   うことですね。

真子:勝さん、今回のネタはなーに?

恵利:またそのノートパソコンに入ってるんですよね?

勝 :はは、わかってきたね。今回はこれ。じゃあ読んで。

-----------< 記事要約 >------------

○家電量販最大手のヤマダ電機が2月に開設したインターネットの家
 電口コミ情報サイト「ピーチクパーク」の投稿数が伸びている。開
 始2カ月たらずで投稿数は25万件超。「店舗の販売力というヤマ
 ダの強みが、口コミサイトでも生きた」(同社)と言う。

○日本最大の家電製品口コミサイトは「価格.com」。日本最大の
 店舗網などのリアルの強みをどう活用して差別化するかを議論。携
 帯電話をポイントカード代わりに使う1千万人以上のモバイル会員
 を活用、「実際に購入した人の口コミに限定」し、ネット専業サイ
 トにはない「真に迫った口コミ」(同社)を得た。

○もう一つが「店頭との連動」だ。値札にQRコードを付け、来店者
 が携帯電話をかざすと、その製品のピーチクパーク上での評価を簡
 単に確認できる。同サイトを訪れる人のうち30%以上が店頭から
 アクセスしているという。

○ネットに疎い人でもこのサービスの一端に触れられるよう、主力商
 材は、サイト上のランキングを店頭で掲示している。

○ヤマダは購入2週間後に口コミ投稿依頼メールを送信、投稿者に最
 大30ポイントを付与して、口コミする動機づけにしている。

2012/04/13 日経MJ P.3

-----------< 記事要約 >------------

勝 :ヤマダは最近渋谷とか池袋の都心部にもあるから、行ったこと
   あるだろ。池袋なんか、ビックカメラのすぐ近くだしな。

真子:うん! ピーチクパーチク、っていうんだ。面白い名前だね。

勝 :ピーチクパーチクはオマエだろ。ピーチクパーク、だ。まあ名
   前はそのあたりから取ったんだろうけど。サイトはこれ↓

http://pi-chiku-park.com/

真子:あ、いわゆる口コミサイト、って感じだね!

恵利:これ、確かに「選びやすく」なる工夫ですよね。店頭で、同じ
   ような家電製品を見ても、決めづらいですよね……

真子:私は「一番カワイーやつ」とかで選んじゃうけど、きゃははは

恵利:高い買い物だと、実際に買った人の意見とか見てみたいから、
   30%の人が店頭からアクセスするというのは、私はわかるわ

勝 :オレは買う前にアマゾンとか価格.comとかで口コミを見て
   いくけど、店頭で違う機種を見たりしたら調べられないしな。

恵利:そうですよね。ですから、この「店頭で選びやすくする」工夫
   としてはよくできてますよね。

勝 :ああ。QRコードで店頭で調べられる、というのは、お客様の
   購買現場でのココロを考えた、いい施策だよな。

真子:まさに、マインドフローの「比較」関門だねー。色々な機種を
   「比較」して、選びやすくする!

勝 :恵利ちゃんが、どれを買うか決めるのに迷ったら、どうする?

恵利:カタログもらって、値段を書いておいて、帰ってまた調べます
   けど……

勝 :このピーチクパークがあったら、その場で決められるかもしれ
   ないよね?

恵利:ええ、そうですね。

勝 :ほら。するとどうなる? 店にとっては?

恵利:え? ああ! 売り逃しが減りますね!

勝 :そういうこと。ヤマダから見ると、機会損失が減らせる。「後
   で検討」となると、他の店で買っちゃうかもしれないからさ。

真子:なーるほどぉ。

勝 :店頭で「選びやすくする」ことは、そういう「機会損失」を減
   らすという意味でも大事。

真子:あ、それが「比較」「購買」関門で発生する「モレ」かあ……

恵利:だから、この「選びやすさ」は、「比較」関門の施策であると
   同時に、「購買」関門の施策なんですね。機会損失を減らす。

勝 :うん。「選びやすく」すると、「比べやすく」なるのはもちろ
   んのこと、「決めやすく」なるからね。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆自社の「独自資源」を活かした「選びやすさ」を提供しよう!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :でさ、このピーチクパークのポイントは何? まずは、競合は
   「価格.com」とした場合。

真子:だから店頭で使えることじゃないの?

恵利:それと、実際に買った人に限定しているから、信頼度が高い、
   と記事にありますね。

勝 :そう。じゃあ、競合を他の電機店とすると? 別に、店頭で使
   えるようにすればいいなら、ヨドバシカメラにもできるだろ?

恵利:そ、そうですね……他の電機店が競合ですよね……

真子:勝さん、ヒント!

勝 :ヒントは「独自資源」

恵利:独自資源……あ、ヤマダ電機って、売上が業界1位ですよね?

勝 :そうそう。2011年3月期の家電量販店1位、2位の売上は
   それぞれこうなってる。

 ヤマダ電機:  21,532 億円
 エディオン:   9,010 億円

 ヤマダ電機 http://www.yamada-denki.jp/ir/data.html
 エディオン http://www.edion.co.jp/ir/highlights.html#Anc01

真子:へー、ヤマダがダントツなんだ! 2位の2倍以上!

恵利:すると来店客数が多い分、必然的に口コミも増えますよね? 
   記事にもモバイル会員が1千万人、とありますし……

真子:あー、だから口コミ数が短期間で急激に増えたんだ!

勝 :そうだな。つまり、「客数が多い」っていう独自資源を活かし
   てるのがこのピーチクパーク、と言えるな。

真子:よく考えてるね-。

勝 :口コミが多いとどうなる?

真子:お客様がもっとピーチクパークを見る! 口コミが多いから、
   信用できるから。

勝 :その通り! そこで正の循環が生まれるよな。

真子:口コミが増えるから多くの人が見るようになって、また口コミ
   が増える、ってことかぁ。

勝 :そういうこと。価格.comに対しても、競合電機店に対して
   も、「独自資源」を活かしてマネできないようにしてる。

真子:「強者の戦い方」だね。

勝 :そう言ってもいいな。

恵利:じゃあ、そういう「強者の戦い方」ができない場合は、できな
   いっていうことですか?

勝 :同じやり方はできないよな。真子、そーれ・しちりあーのでは
   口コミサイトなんか作れないだろ? どうしてる?

真子:うちは、全スタッフが、全料理を食べてるから、きちんと説明
   できるもん。自分の体験で説明できるから大丈夫。

恵利:あ、なるほど! それで「選びやすく」してるんだ!

勝 :その場合の独自資源は何だ、真子?

真子:教育と採用方法、かな。人数少ないから、教育しやすいしね。

勝 :ほら、これは逆に大手にはできないよね?

恵利:なーるほどぉ。自分の会社にあった「選びやすさ」強化方法を
   考えればいいんだ!

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◆「売り物」が同じでも、「選びやすさ」で差別化できる!
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勝 :でね、ここまで小売店の事例を主に見てきてるけど、業種業態
   関係なく、「選びやすさ」は大事。次はこれ読んで。

勝が「あ、ドルチェなくなったか……」というと、恵利はすかさず、
自分のバッグから紙袋を取り出す。「勝さん、ケーキ作って来ました
のでぜひ召し上がってください」とはにかみながら勝に渡した。

真子は「アンタねー、ここを何屋だと思ってるのよ……」と言いつつ
も、「しょうがない、ここからは恵利のケーキの試食会にするか」と
苦笑いする。

恵利が「これは勝さんのために作って来たの」といたずらっぽく言う
と、「あ、アンタねー! じゃあここで食べるの禁止!」と真子が返
す。

勝が「いいから読め!」と一喝すると、2人とも、「はーい」と勝の
ノートパソコンのモニタを再度注視する。勝は恵利のケーキを適当に
切り分けると、ぱくつき始めた。

-----------< 記事要約 >------------

○タクシー大手の日本交通はスマホ向けに「全国タクシー配車アプ
 リ」の提供を開始。iPhoneやアンドロイド搭載端末などに対
 応。アプリを起動するとスマホのGPSが利用者のおおよその現在
 地を表示。微調整して画面上の地図で場所を指定するだけでタクシ
 ーを呼べる。近づくと地図に表示される。

○利用者には「雪の日にすぐタクシーが来た」「簡単に呼べて便利」
 などと好評という。全国のタクシー会社と連携、13都道府県の約
 8900台を呼べるため、出張や旅行の際にも便利。

○大都市圏ではタクシーの利用が多い朝夕や悪天候の日、公共交通の
 ダイヤが乱れた際に依頼が殺到し、タクシー会社の電話がつながら
 ないことも少なくない。そんな時でもスマホであれば連絡を取りや
 すく、近くの車を見つけられる。

○電話での依頼に比べ、場所を説明する手間を省けるだけでなく、配
 車時間も短縮される。電話を受けてからオペレーターが車を探すの
 ではなく、タクシー会社のシステム上で利用者が指定した場所に一
 番近い空車を自動的に判断し手配できる。

2012/02/09 日本経済新聞 夕刊 P.7

○日本交通は、スマートフォンで配車を頼めるサービスで、同社や全
 国の提携タクシー会社の累計売上高が3億円を超えたと発表。昨年
 1月のサービス開始から約1年2カ月で達成。提携先も5月までに
 22都道府県の約1万1300台に広がる。

○スマホ専用アプリ「日本交通タクシー配車」「全国タクシー配車」
 の導入は累計で35万件を超えた。

2012/03/30 日経MJ P.11

-----------< 記事要約 >------------

恵利:これは便利だよね! スマホでタクシーが呼べる!

真子:まあ、そりゃ、コレはやるよねー。

恵利:確かにこの工夫も「選びやすさ」ですよね。道路で流しのタク
   シー待ってるんじゃなくて、自分から選べる。

真子:あ、そっか、タクシーって今まで選べなかったんだ! それを
   選べるようにしたんだね。

勝 :逆にタクシー会社から見ると、「選んでもらえる」手段ができ
   た、っていうことになるな。

真子:あ、そっか。売り手からみるとそうなるか。

勝 :その意味では、これはタクシー業界からみると、宿年の悲願だ
   った、「選び方」の手段となるな。

恵利:「選ぶ手段」がなければ、選ばれるための差別化もあんまり意
   味がないですもんね。

勝 :そう、これまでは、タクシー業界って差別化しにくかった。差
   別化しても、「選ぶ手段」が無かったから。

真子:そうだよね。駅の待合所では、来たクルマに乗るし、流しのタ
   クシーに乗るときは選んでる余裕はないし。

勝 :もちろんそうだし、ちょっと郊外に出ると、流しのタクシーな
   んかそもそも走ってないからな。

恵利:あ! そうか、地方とかにいくと、そもそもどこでタクシー拾
   えるかがわからない!

真子:それなら、もちろんスマホで呼べるタクシーを「選ぶ」よね。
   まさに「選びやすく」してるんだ!

勝 :「タクシー」っていう、商品自体は同じだったとしても、「選
   びやすさ」で差別化できるっていう典型例。

真子:あー、確かにねー。同じタクシーなら、選びやすい方を選ぶよ
   ねー。

恵利:「選びやすさ」だけでも差別化になるのかあ……

勝 :だから、「売り物」が同じでも、「選びやすさ」っていう「売
   り場」「売り方」での工夫を頑張ればいいんだ。

恵利:これ、ホント「必要なのは「課題解決」であり「突飛なアイデ
   ィア」ではない」という、前号の教え通りですよね。

勝 :そう! ホントいいところついてくるなあ。……さすが恵利ち
   ゃん。

恵利:スマホが新技術だから使うんじゃなくて、「GPS」があって
   地図機能があって、それとタクシーとの相性がいいんですね。

勝 :ホントそう。このアイディアはむしろ極めて「論理的」に導か
   れるアイディア。もちろん思いつくのは大変だろうけどさ。

真子:何で今までなかったの、って感じだよね。

勝 :そう! 「何で今までなかったの?」は、最高のホメ言葉。ニ
   ーズがあるのに、今まで誰もやらなかったってことだから。

恵利:「何でなかったの?」という声が出れば、それがお客様の「課
   題解決」になっている、ということですよね!

勝 :その通り。じゃあ、時間も時間だから、そろそろ終わりかな。
   次回くらいが最終回……かもしれない。

(次号に続きます)

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◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●「選びやすく」すれば「比較」「購買」関門でのモレを減らせる。
 「売り物」が同じでも、「選びやすさ」で差別化できる!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.165 2012/04/23
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●「選び方」はお客様によって違う。「お客様の選び方」を知って、
 それに合わせた「選びやすさ」を提供しよう!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆まずは前号の復習から!
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勝 :今回の復習は2人でやってみようか。

恵利:はい! 「魅せ方」の3つのポイント、「1.見やすさ」
   「2.試しやすさ」「3.選びやすさ」をやっています。

真子:前号から、「3.選びやすさ」に入ったんだよねー。

恵利:うん。「選びやすさ」の施策の事例として、前号ではヤマダ電
   機の口コミサイトの事例をやりました。

真子:店頭で、QRコードで、その製品の口コミが見られるなんて、
   まさに「選びやすくする」工夫だよね。

恵利:はい、選びやすくして、その場で買う確率を高め、機会損失を
   減らすのが狙いの1つかと思われます。

真子:迷ったら、買わないで帰っちゃうよね。だから、背中を押して
   あげる情報提供をしてるんだろうね。

恵利:ポイントは、ヤマダはリアル店舗を持ち、売上最大規模ですの
   で客数が多い、という自社の「独自資源」を活かしていること

真子:だから、他の会社にはマネできないってことだよね。

勝 :OK。事例はもう1つあったよな。

恵利:はい。タクシーをスマホから呼べるアプリ、ですね。GPS機
   能を使って、自分の今いる場所に来てもらうサービス。

真子:これは確かに便利だよねー。

勝 :これの、タクシー会社にとっての意味は? 単なる「利便性」
   の提供、だけじゃなくて?

恵利:お客様に「選ぶ手段」を提供していること、つまり、「差別化
   の手段」を提供していることです。

真子:ね、そういえば、ドミノ・ピザが「花見してるところにピザを
   お届け」ってやってるよ? スマホのアプリで。

http://www.dominos.jp/topics/120305_d.html

勝 :まあ、それもある意味の「選びやすさ」っていえばそうだな。
   今回が、最終回だ。

真子:えー……

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◆「試しやすく」「選びやすい」売り場を作ろう!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :まずはこれ。君らはこの売り場の顧客ターゲットだから、実感
   があるだろうな。

真子:え、なになに??

-----------< 記事要約 >------------

○2012年3月、三越伊勢丹ホールディングスはルミネ新宿店(東
 京・新宿)に高級化粧品を扱う小型専門店「イセタンミラー メイ
 ク&コスメティクス」の1号店を開設。

○エスティローダー、ゲラン、ジバンシィなど、20の高級化粧品ブ
 ランドがずらりと並ぶ。中央にはブランド横断で香水を並べ、カウ
 ンターに7席分の接客スペースを設けた。

○売り場は各ブランドごとにステンレスの枠で分け、その枠内で各ブ
 ランドが独自の陳列棚を作りブランドイメージを訴求。「ブランド
 に対する憧れを壊さない工夫の一つ」(同社)

○最大の特徴が接客なしでブランド横断的に比較して買い回れる店作
 り。百貨店の高級化粧品売り場では通常はブランドごとに販売員が
 接客する。1つのブランドの理解が深まる利点があるが、他ブラン
 ドと比較購買がしにくく、忙しいときは利用しづらい。

○それを解決するのが接客なしで買え、要望応じて美容相談に乗る
 「セミセルフ型」だ。陳列商品には試供品を用意し、気軽に試しな
 がら比較検討できる。買うときは試供品の近くに並ぶ商品を自ら会
 計に持って行って購入。

○接客しないからこそ、選びやすくする工夫を施す。たとえば店の入
 り口の小冊子では、複数のブランドのメーク商品を使って、その化
 粧品を使うとどう変身できるかを具体的に提示する。

○接客する美容部員もブランドからの派遣ではなく、全ブランドで研
 修を積んだ美容部員を14人配置。三越伊勢丹は2000年からブ
 ランドの枠を超えて化粧品選びをアドバイスする社内資格制度を整
 えており、その育成ノウハウの蓄積を活用した。

○開業から1カ月後の登録会員数は約4000人。1日あたりの購入
 客数は150~200人と「売上高は計画通り」という。1割と予
 定した接客販売の割合は、実際には2割程度と予想以上に多い。

2012/04/16 日経MJ P.5

-----------< 記事要約 >------------

真子:へー、こんなのできたんだねー。

勝 :ちなみに、こんな売り場みたいだぞ。

http://www.isetanmirror.com/storeguide/index.html

真子:どれどれ……きゃああ、すっごく楽しそー!!

恵利:コスメのテーマパークって感じ! ありそうでなかったね。

真子:私、ここ、行ってみたい! 色んなブランドのコスメを一カ所
   で「試せる」んだよね!?

勝 :そう。まずは「試しやすく」してる。

恵利:それに、色んなブランドを1つの売り場で比べられるから、選
   びやすいですよね。

勝 :だから、まさに「試しやすく」「選びやすい」売り場だよな。

真子:買うブランドが決まってるときはいいけど、色々見たいときは
   ブランド別売り場だと確かに「選びにくい」よねぇ。

恵利:そうなのよ。ブランドを変えたいときとかは、色々「試して」
   みたいもんね。

勝 :この売り場のキーワードはもちろん「選びやすさ」。記事では
   「比較購買」って言葉使ってたけど、要は「選びやすさ」。

真子:うん、色んなブランドから「選べる」ってことだよね。

勝 :「選ぶ」ってことは、当然比較対象があるってことだ。だから
   その「比較対象」の買い回りをしやすくしてるわけだ

恵利:あ、だから「選びやすさ」が「比較」関門の施策なんですね。

勝 :そういうこと。

真子:「複数のブランドのメーク商品を使ってどう変身できるか」っ
   ていいよね。うちらが使うブランドって1つとは限らないし。

恵利:そうだよね。ブランド別売り場だと、他のブランドと組み合わ
   せて使うときの相談とか、ちょっとしづらいよね……

勝 :見方によってはフードコートみたいだよな。丸亀製麺と銀だこ
   とミスドと31アイスを一度に食べられる。

真子:きゃははは、そうだねー。でも勝さん、それ食べ過ぎぃ!

恵利:あと「全ブランドで研修を積んだ美容部員」さんがいるってい
   うのは「選びやすさ」のポイントですよね。

真子:あー、そうだよね! 普通は自分のブランドのことしかわから
   ないから、どうしても自分のブランドを売りたくなる!

恵利:「このブランドはこうで、あのブランドはああだから、お客様
   にはこちらが」みたいな、客観的なアドバイスもらえそうね。

勝 :そうだな。その意味でも、店員が顧客の「選びやすさ」支援、
   っていう位置づけが明確だ。

恵利:これ、店員さんがブランドからの派遣じゃなくて、三越伊勢丹
   のスタッフなんですよね?

真子:あーそうか、ブランドからの派遣だと、ノルマとかがあって、
   自分のブランドを売りこまざるを得ないから……

勝 :よく気づいたな。「人材」という意味でも、「選びやすい」売
   り場作りに対して一貫性があるんだよな。

恵利:「選びやすく」するための色々な工夫があるんですね。

勝 :あとさ、初めて高級化粧品売り場に行くときって、ちょっと緊
   張しなかったか?

真子:あー、したしたぁ! ドキドキだった!

恵利:図々しい真子ですらそうなんだもんねー。普通の人はハードル
   高いよね。

真子:何よ、恵利。アンタ、ケンカ売ってんの?

勝 :何でオマエがケンカ腰なんだよ。そういう意味では、「試しや
   すさ」も高い売り場になってる。

真子:あ、そっか。シリーズ4号目の「エスト」と同じかぁ。

勝 :色々なブランドを「試して」から「選んで」、それで「買う」
   わけだろ? 行動→比較→購買、というマインドフロー通り。

真子:ほんとだあ。まさに「試しやすさ」「選びやすさ」だねえ。

恵利:セオリー通り、ってことですね。

勝 :でさ、接客販売が想定より多かった、っていうのはわかる気が
   するよな。

真子:あ、私もそう思った。自分で既に「試して」「比べて」ってい
   うのをしてるから、テンション上がってるんだよね。

恵利:自分から店員に聞く、ココロの準備っていうか覚悟がしやすな
   るんでしょうね。

勝 :「セミセルフ」売り場だからこそ、「相談したくなる」ってい
   うのはちょっと皮肉だけどな。

真子:ね、勝さん、今度ここに一緒に行こうよ! カワイイ女の子と
   一緒の方が、勝さんも見学しやすいでしょ?

勝 :オマエ、うまいこと言うな……確かに男1人では行きづらい。

真子:決まり! そのあと勝さんの好きなスイーツバイキングにも行
   こうよ。そこも男1人だと行きにくいよね? ね、行こう?

恵利:な、何それ……私も行きます!

真子:いいわよ、恵利は来なくて。じゃ、勝さん、いつにする?

勝 :いーから先に進むぞ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆お客様の「選び方」にあった「選びやすさ」のある売り場作りを!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

勝 :次はこれ。これも百貨店の例なんだけど、今度は男性の例。ま
   ずは読んでみろ。

真子:はーい。

-----------< 記事要約 >------------

○2011年3月、高島屋東京店6階の紳士服売り場の自主編集コー
 ナーに、ブランド横断型の自主編集コーナーが登場。客が選びやす
 いようジャケットとパンツをデザイン別などに編集。顧客が各ブラ
 ンドを回らずとも短時間で自分に合う商品を探せる。

○同売り場にはジャケット20種、パンツ18種がずらりと並ぶ。ブ
 ランド別の6階の他の売り場との違いは歴然。パンツなら色、タッ
 クの数、涼感などの機能で、ジャケットも色、機能、ポケットの形
 など顧客の好みで商品を選べる。

○同売り場はもともと著名ブランドが入っていたが、自主編集コーナ
 ーに変更。「これまでは各ブランドの中に商品が点在しており、比
 較しやすい売り場とは言い難かった」(同社)。ブランド別売り場
 では、特定ブランド目当ての顧客以外は好みの商品を見つけにくい

○2012年2月期は両商品の売上高を前期比25%伸ばした。同コ
 ーナー目当ての新規客も増えている。

2012/03/28 日経MJ P.5

-----------< 記事要約 >------------

真子:あ、あれ……? これもさっきの例と似てるような……

恵利:コスメがジャケット、ズボンに変わっただけ、かな? ブラン
   ド横断型売り場、っていうのは同じですよね?

勝 :そうだな。ブランドじゃなくて、色とかタックの数で選べる、
   ということだな。

真子:百貨店って、みんなこういう方向に行くのかなぁ?

勝 :百貨店っていうか、小売はみんな同じ課題を抱えてる。「並べ
   とけば売れる」時代の終焉。

恵利:あ……うちの果物屋もそうでした。

勝 :果物屋は果物を並べておくだけじゃダメ。百貨店も、「ブラン
   ド」を並べておくだけじゃ厳しい時代なんだろうな。

真子:あ、そっか。百貨店って「テナント」が売り物だもんね。ブラ
   ンドを並べておくだけのハコじゃダメってことだ。

勝 :そういうこと。

真子:ね、勝さん、「ブランド別」の売り場だって別に選びにくい、
   っていうわけではないよね?

勝 :人による。

真子:そりゃあそうだけど……

勝 :オマエなあ、「人による」ってどういう意味だと思うよ?

恵利:あ、セグメンテーション、ですね。人によって、選びやすいと
   感じる人とそうでない人がいる。

勝 :さすが恵利ちゃん。「ブランド別売り場」で選びやすい、と思
   う人は、どんな人だ?

真子:そりゃ、「お目当てのブランド」がある人だよね。

恵利:なるほど……ということは、お目当てのブランドがない、ふら
   っと来店する「ふらっと客」には選びにくいんだ……

真子:あ、そっか。そもそもどのブランドのショップに入っていいか
   わからないんだもんね。

勝 :ブランドの路面店に来る人はそのブランドのファンだけど、百
   貨店に来る人は、買い回りたい人だっているだろ?

恵利:あ、確かに! 色々比べて買い回れるからデパートに行くのに
   買い回りしにくかったら、「選びにくい」んだ。

真子:忙しい人は、面倒だから来ないよね。

勝 :そういうこと。だから、「売り場を作る」っていうことは、ど
   のお客様のニーズに応えるか、っていうことでもある。

恵利:じゃあ、「ブランド別売り場」にするか「ブランド横断型売り
   場」がセグメンテーションの軸になる、ということですか??

勝 :正確に言うと、お客様の「購買意思決定プロセス」つまり「商
   品の選び方の違い」が「セグメンテーションの軸」になる。

真子:え? え? センセー、わかりませーん! 日本語で話してく
   ださーい!

勝 :んーとね、マコちゃんにもわかるように言うと、「お客様の
   「商品の選び方」の違いでお客様を分けよう」ってことだよ

真子:センセー、「お客様の商品の選び方」って何ですかー?

勝 :マコちゃんが、お洋服を買いに行くとするよね?

真子:はーい。勝センセーに買ってもらいまーす。

勝 :イヤでーす。それでね、百貨店の婦人服フロアに行ったら、ど
   んなお洋服を買いたいと思うかなー?

真子:はーい、今なら、ちょっと明るい色のスーツほしいでーす!

勝 :じゃあ、「明るい色のスーツコーナー」があって、そこに色々
   なブランドの「明るい色」のスーツがあったらいーよね?

真子:うん! そこに行って、勝センセーに「これ買ってぇ!」って
   おねだりしまーす!

勝 :自分で買ってくださいねー。それが、マコちゃんの服の「選び
   方」ですよねー? それに売り場を合わせるんでーす!

真子:へ?

恵利:だからさ、真子がどうしても「あのブランドじゃなきゃイヤ」
   って思ったら、まずそのブランド店に行くでしょ?

真子:うん。それで、そのブランドの中で「明るい色」のを選ぶ。

恵利:それでさ、「ブランド」と「明るい色」とどっちが先に来る?

勝 :ある「ブランド」の中で明るい色を選ぶのか、「明るい色」の
   中で、ブランドを選ぶか、ってこと。

真子:「明るい色」が先、かなあ……

勝 :それが真子のスーツの「選び方」だろ?

真子:うん。

勝 :真子が「明るい色のスーツ」っていう「選び方」をするなら、
   色別の売り場の方が「選びやすい」だろ?

恵利:「ブランド別」売り場、より、「色別」売り場、の方が、真子
   には「選びやすい」よね?

勝 :逆に、「ブランド優先」で選ぶ人は、ブランド別売り場の方が
   「選びやすい」よな?

真子:あ! わかった! お客様の「選び方」次第で「選びやすさ」
   が変わるから、それと売り場を合わせるんだ!

勝 :そういうこと。今の場合は「色」だったけど、他に「サイズ」
   とか「形」で選ぶ場合もあるだろうな。

恵利:あ、「ダブルのスーツが欲しい」っていう「形」で選ぶ人には
   「ダブルのコーナー」があった方が「選びやすい」んですね。

勝 :そう。お客様がアタマの中で、どういう「基準」のどういう
   「順番」で買う物を選ぶか、その「選び方」が人によって違う

恵利:「形」で選ぶ人にとっては、「形」で集めた売り場があれば、
   それが「選びやすい」売り場になるから……

真子:「選び方」が人によって違うから、売り場をそれに合わせると
   その人にとっては選びやすい、魅力的な売り場になる

恵利:だから、「どんな選びやすさ」を求めた「売り場」にするかが
   「セグメンテーション」の軸になるんですよね。

勝 :そういうこと。要は、お客様の「アタマの中」にある、「選び
   方」に合わせた売り場にしよう、ってこと。

真子:センセー、はい! お客様のアタマの中が見えませーん! 
   「選び方」はどーやって知ればいいんですかー?

勝 :そうだよねー? マコちゃんどうすればいーかなぁ?

真子:うーん……お客様に聞いてみる、かな?

勝 :そうだねー、それも1つの手だねー。他にないかな?

恵利:実際に売り場を作ってみるとか?

勝 :そうそう、実験する、っていう手もあるよねー。調査してもい
   いかもしれないですねー。

真子:センセー、どんな調査をすればいーんですか!

勝 :例えば、30種類のジャケットをPCの画面に並べて、「この
   中から買ってもいいものを5つ選んでください」って聞くの。

真子:それで?

恵利:あ、その選ばれた「5つのジャケット」の共通点を探すんです
   ね。その「共通点」に、「選び方」が現れるはずだわ。

勝 :その「共通点」が、そのジャケットを「選ぶ基準」。色なのか
   形なのか価格なのか。

真子:あ、そっか。例えば3万円台のものばっかり選んだら、「選び
   方」の最初の基準が「価格」ってことだ!

勝 :そういうこと。

恵利:じゃあ、その次に、「その5つの中から、また2つ選んでくだ
   さい」って聞いて行くと……

勝 :「ジャケットの選び方」がわかるよな?

真子:なーるほどぉ。

勝 :手っ取り早いのは、こういうニーズを言語化できる人をつかま
   えて聞いてみること。

真子:そんな人いるんですか?

勝 :たまにいるな。中級レベル以上のマーケターならできるしな。

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◆「選びやすく」するためには「選び方」を知ろう!
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恵利:じゃあ、ターゲット顧客の「選び方」がわかれば、「選びやす
   い」売り場ができるわけですね。

勝 :そういうこと。で、恵利ちゃんの果物屋では、どういう風に果
   物を並べてるの?

恵利:そ、それが、お恥ずかしい話、「旬の果物」コーナーくらいし
   かなくって……

勝 :それ、お客様の「選び方」と合ってる? お客様は「旬の果物
   買おう」って思って、果物屋に行くの?

恵利:はい……検証できてません……っていうか、違いますよね……

勝 :真子、オマエが果物買う「動機」ってなんだ?

真子:んーとねー、最近ビタミン取れてないから、ビタミンCかなー
   とか思ってこないだイチゴ食べたよ。

勝 :じゃあ、ビタミン含有量で果物を選ぶだろうから、「摂れる栄
   養素」別に果物を並べてもいいでしょ?

恵利:あ、た、確かに……

勝 :他には無いのか、真子? オマエ、果物いつ食べる?

真子:そーねー、朝ご飯がわりかな。

勝 :何で朝ご飯に果物なの? ご飯と納豆じゃダメか?

真子:そんなの食べてるヒマないよ。女の子の朝はいそがしーの!

勝 :じゃあさ、忙しい時向けの「むきやすい」とか「むかなくてい
   い」果物コーナーがあってもいいよな?

真子:あー、そうだねー。バナナとか、イチゴとかね。リンゴは剥く
   のが面倒だから朝はダメ。ブドウも面倒。ミカンはいーよ。

勝 :包丁使うのはイヤだろうから、グレープフルーツもキウィもダ
   メだよな。

真子:そうなの! そもそもまな板使ったら洗わなきゃいけないじゃ
   ん。そんな時間ないよ。

恵利:真子、もっと早く起きなさいよ。

真子:絶対イヤ。そんなことするくらいならリンゴジュースでいい。

勝 :そうなるよな。

恵利:そうかあ……「果物の選び方」を知らないと、「選びやすい」
   売り場が作れないのぁ……当たり前ですよね……

勝 :当たり前、なんだけど、さっきの話の通り、「お客様のアタマ
   の中」をのぞき込むみたいなもんだから、難しいんだよね。

真子:恵利、ガンバレー!

勝 :オマエ、他人事じゃないぞ。

真子:え?

勝 :例えば、そーれ・しちりあーののメニューはよくできてる、と
   か慢心してないだろうな?

真子:え、い、いや、あの……

勝 :飲食店なら、食べ物メニューがある意味「売り場」だからな。
   ちゃんと「選びやすい売り場」になってるメニューを作れよ。

真子:あ、確かにそうだ。

勝 :例えば、メインディッシュってどうやって分けてる? まさか
   肉・魚、とか、牛・豚・鶏とかで分けてないよな?

真子:い、いや、そ、そうしてるけど……ダメなの?

勝 :それでいい、っていう「検証」はしたのか?

真子:へ? あ、当たると百万円、とか?

勝 :そりゃ「懸賞」だ。ごまかすな。

真子:で、でも、みんなそうしてるし……

勝 :オマエ、それ最悪の答えだぞ。他人と同じことやってどうする
   よ。違うことやるから差別化できるんだろうが。

恵利:お客様のメニューの「選び方」を考えればいいんですよね?

勝 :オレがメインディッシュ選ぶときは、まず「量」。足りるか足
   りないか。牛でも豚でも、まず「肉の量が何g」かを知りたい

真子:きゃーははは、勝さんはそうだよねー。そうかぁ、「大食いメ
   ニュー」コーナーを作ればいいのかあ……

勝 :「満腹メニュー」と言え。「肉200g以上」とかっていう切
   り口で分けてもいいよな?

真子:なーるほどぉ。スーツで言えばLLコーナーみたいなもんだ。
   メニューの中に「LLコーナー」かあ……

勝 :そういうこと。それがターゲット顧客のメニューの「選び方」
   なら、だけどな。

恵利:んーと、私は「味」かなあ。クリームベースか、とか、味が濃
   い方がいいか、とか。

勝 :だよな。だったら、「ソース」でメニューを構成する、ってい
   うことは考えたか?

真子:そ、それもアリか……牛とか豚とかより、ソースで分ける……

勝 :牛とか豚とかは「素材の種類」。洋服で言えば、「生地」。お
   客様の選び方は「素材」から、っていう検証はしたのか?

真子:すみませーん、してませんでしたー!

恵利:まだあるよ。2人で分けるのに適してるか、適してないか、と
   か。野菜はたっぷり取れるか、とか。

勝 :ドリンクメニューだってそうだぞ。どう並べてる?

恵利:カクテルなんかも、味で分けるか、アルコールの強さで分ける
   か、とか、ありそうですよね。

勝 :そうだよな。甘いカクテルとドライなカクテルが隣同士に並ん
   でると「選びにくい」よな?

真子:あ、確かに……「アルコール弱い人」向けの「飲みやすいカク
   テル」コーナーがあってもいいか……

勝 :そういうこと。メニューっていう「売り場」でも、できること
   は無限にあるだろ。

真子:……慢心してた。反省。うん、望ちゃんと話してみる。そうか
   あ……お客様の「選び方」を知る、かあ……

恵利:真子、一緒にガンバローね。

勝 :でさ、こう考えてくると、今回の2つの百貨店の事例は、百貨
   店という「業態」の構造的問題に関わってると思う。

真子:へ?? どういうこと?

勝 :百貨店の競合って誰? 他の百貨店か?

恵利:それもあるでしょうけど、専門店ですよね? 服を買う場合、
   百貨店に行くか、ブランド店に行くか、とか……

勝 :そうだよな。百貨店がさ、ブランド別売り場をしてると、ブラ
   ンドの路面店と同じだよな?

真子:うん、百貨店に行くんじゃなくて、その「ブランド」を買いに
   行くなら、別にどこでもいいから。

勝 :そうなると、百貨店が「場所貸し業」になっちゃう。ブランド
   店に場所を貸す「不動産業」ってこと。

恵利:お客様の「選び方」が「ブランド重視」だったら、むしろブラ
   ンドの路面店に行きますよね。

勝 :そうなんだよ。だから「場所貸し業」だと、キツイ。他の百貨
   店とも立地以外の差別化要因がなくなっちゃう。

真子:そうかぁ……「場所貸し業」だと差別化できないんだ……

勝 :そう。だから、「ブランド横断型」の売り場を作る、というの
   は、場所貸し業じゃなくて……何屋さんになる試みだと思う?

恵利:あ、「選びやすい売り場の提案業」になる、ということですね

勝 :そう! ブランドがたくさんあり、それをある「選び方」の下
   で「選びやすい売り場」を提案する、その試みなんだと思う。

恵利:そうなると、その「選び方」の「切り口」のうまいヘタだった
   り、顧客の絞り方がこれからの勝負、ってことですね?

勝 :オレはそう思う。こういうニュースが百貨店から度々出てくる
   ってことは、業界がそういう流れになっているんだと思う

真子:要は、よりお客様の「アタマの中」をうまくのぞき込める人が
   「選ばれる」ってことだね。

勝 :そういうこと。

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◆まとめ:「魅せ方のポイント」の「実現力」が勝負のカギを握る!
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勝 :百貨店に限らないけど、「選び方の提案力」とか、売り場の
   「編集力」がこれからの勝負のカギだと思う。

恵利:売り物を並べておけばいい、っていうだけじゃダメなんですよ
   ね……

勝 :そう。メーカーにとっては「作れば売れる時代の終焉」だし、
   小売にとっては「並べておけば売れる時代の終焉」。

真子:うーん、厳しい時代だなあ……

勝 :むしろやりやすいだろ。さっき真子が言った通り、「お客様の
   アタマの中をうまくのぞき込める人が選ばれる」んだからさ。

真子:あ、そうか。そうだね。それだけ考えていればいいんだもんね

恵利:となると、今回のお話は、メッセージやマインドフローの話で
   あると同時に、もっと大きい話でもあるんですね。

勝 :そう。このシリーズの話は、「魅せ方」という戦術的な話に見
   えて、この数十年の変化を代表する大きなポイントの1つ。

真子:だからシリーズでやったの!?

勝 :そうだよ。

真子:へー、そこまで考えてたんだ。勝さん、アタマいーねー。

勝 :オマエに言われると複雑だな……恵利ちゃん、いつもの「見や
   すさ」とかとマインドフローの関門の関連図を見せて。

恵利:はい。いつものこれですよね。

魅せ方のポイント   マインドフローの関門

1.見やすさ     認知→興味→行動
2.試しやすさ    行動→比較
3.選びやすさ    比較→購買

勝 :これこれ。右側がマインドフローの関門。お客様のココロの流
   れ。とすると、売り手であるオレらができることは?

真子:左側の、「1.見やすさ」「2.試しやすさ」「3.選びやす
   さ」が改善されるように頑張る、っていうことだよね。

勝 :そうだな。組織としては、この「魅せ方のポイント」がうまく
   できるほうが「選ばれる」っていうことになるよな?

恵利:えっと……あ! そうか、この「魅せ方のポイント」をうまく
   やる「能力」が、「独自資源」になるんだ!

勝 :ぴんぽーん。「売り物」だけで差別化できるんならそれでもい
   い。でも、それは今の時代では難しい。

真子:そうなると、「売り物」だけじゃなくて「売り方」「売り場」
   で差別化しないといけない……

恵利:その、「売り方」「売り場」で差別化する方法が「見やすさ」
   「試しやすさ」「選びやすさ」の「魅せ方のポイント」で……

勝 :それを実行して実現する力、「実現力」が強力な「独自資源」
   になる時代なんだよ。

恵利:そうか……それに「どんな魅せ方」をするか、で「顧客」が決
   まるんですから、ターゲティングの話でもある……

真子:BASiCSだ! 「選びやすい売り場作りを!」とかってい
   うのは、顧客サービスだけの話じゃなくて、戦略の話なんだ!

勝 :そう。なぜなら、お客様がそれを基準にして、店を選んだりす
   るわけだからな。結局全てはBASiCSに戻る。

真子:そうかあ……メニュー作りにものすごい力をかけたうちの努力
   はそういうことだったのかあ……

勝 :結局、「戦略」は「戦術」として具現化され、「戦術」は「戦
   略」によって制御される。戦略と戦術は表裏一体。

恵利:こういう「見やすさ」「試しやすさ」「選びやすさ」に戦略が
   現れる、ってことですね。

勝 :その通り。だからこそ、「魅せ方のポイント」は、「組織」と
   してこの「実現力」を真剣に考えるべきだと思う。

恵利:はい……わかりました! うちの店は「組織」ってほどじゃな
   いですけど、徹底的に考えて見ます!

真子:そーれ・しちりあーのも頑張る! まだやれることはいっぱい
   あるなー……大変だ、あははは。

勝 :あ、あれ……こんな時間だ! まずい、次のアポに遅れる!

真子:えー、もう行っちゃうのー? もっとゆっくりしていきなよー

勝 :そうもいかない。恵利ちゃん、今回の内容のノート、コピーし
   て送ってくれるかな?

恵利:はい、帰ってからまた書き直して、勝さんのオフィスにケーキ
   と一緒に持っていきますね。

真子:ちょ、ちょっと、何それ……私も行く!

勝 :じゃあ読者さんにご挨拶。7回にわたってのおつきあい、あり
   がとうございました。

恵利:大変なのはみんな一緒ですよ。頑張っていきましょう!

真子:私達と一緒に頑張ろうね♪ マ・コがついてるよ、はーと♪

これにてシリーズ終了です!

7回に渡ってのおつきあい、ありがとうございました!

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◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●「お客様の選び方」を知って、それに合わせた「選びやすさ」を提
 供しよう! その提供力が「独自資源」となる!

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━特別編Vol.166 2012/04/30
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●製品も「魅せ方」で決まる! 製品自体に「使いやすい」仕掛けを
 組み込み、使いやすくしよう!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆シリーズの復習から!
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メッセージ:魅力は「魅せ方で決まる!」の勝のレッスンが終わり、
勝と恵利は、そーれ・しちりあーのを出て最寄り駅に向かっていた。

これからクライアントとのミーティングだ、と急ぐ勝に合わせて、恵
利も早足でついていく。

そのとき、勝の携帯の着メロがなる。どこかで聞いたことのある80
年代のポップスだ。

「はい、売多です……え? ええ? 大丈夫ですか? あ、それは良
 かった……じゃあ今日のミーティングは延期ですよね? はい、で
 はリスケはまた後ほど……まずはそちらを優先されてください」

勝が「ふう」と息をつきながら携帯電話を切った。

恵利:どうしたんですか? ミーティング、延期ですか?

勝 :うん。クライアントにちょっとトラブル発生。ということで、
   ぽっかり時間が空いちゃったなあ……

勝が歩くスピードを緩めた。

恵利:え? 勝さん、そ、それなら……あ、あの……

勝 :??

恵利:あの……よ、良かったら……お茶でも……しませんか?

勝 :え? もしかして、オレに言ってくれてるの?

恵利:え、あ、あの……や、やっぱり……だ、ダメですよね……

勝 :とんでもない。恵利ちゃんから誘ってくれるなんて、嬉しいな
   あ。じゃあ行こうか。あの駅ビルの上にカフェがあったはず。

恵利:はい!

駅ビルに入って行く。駅ビルの化粧品売り場で、勝が足を止めた。

勝 :恵利ちゃん、ちょっといい?

恵利:ど、どうしたんですか? 買いたい物でも……?

勝 :いや、最近アイシャドウの売れ筋が変わったらしくって……

恵利:え? そんなの興味あるんですか? ま、まさか……

勝 :何を想像してるのか知らないけど、これはちょうどいい。前回
   のシリーズの続きっていうか補講しようか。

恵利:ほ、ホントですか? は、はい! ぜひ!

勝 :じゃあ真子も呼ぶか……

恵利:え……ま、真子も……

勝が真子を携帯で呼び出すのを見て、恵利が心なしか残念そうな顔を
し、密かにため息をついた。

勝と恵利はカフェに入ると、4人テーブルを確保し、2人で雑談を始
める。しばらくすると、真子がドタバタと駆け込んできた。

勝 :よう、お疲れ、やけに早かったな。

真子:ど、どういうことよ! 何よこれ、2人でお茶なんかしちゃっ
   て! これからアポがあるとか言ってたじゃないですか!

勝 :カクカクシカジカなんだよ。だからこうやってオマエも呼んで
   るだろうが。

真子:あ、そ、そうだったのね。あははは。ならいいや。

勝 :でさ、せっかくだから「魅せ方」シリーズの補講しようと思っ
   て、それで呼んだんだ。

真子:ほ、補講? イヤな響きだなぁ……

勝 :恵利ちゃんには縁が無い言葉だろうけど、真子にとっては日常
   の一部だからむしろ愛着があるだろ。

真子:ひどーい! 私もそんなに補講ばっかりじゃなかったもん。そ
   りゃ、たまにはあったけど……

恵利:それで、補講というのは、さっきのコスメですか?

勝 :そうなんだけど、その前に、「魅力は「魅せ方」で決まる」シ
   リーズでは、何をやったっけ? 復習してみよう。

恵利:やったばっかりなので覚えてますよ。これですよね?

魅せ方のポイント   マインドフローの関門

1.見やすさ     認知→興味→行動
2.試しやすさ    行動→比較
3.選びやすさ    比較→購買

勝 :そうそう。で、これは主として売り場・売り方の話だよね。製
   品そのものの話はあんまり出てこない。

真子:あ、確かにそうだね。っていうか、「購買」関門で終わっちゃ
   ってるよね。

恵利:あ、そっか。製品の話は、購買関門のあとの「利用」「愛情」
   関門ですね。

勝 :そういうこと。今回はその「製品」の話をしようと思って。だ
   から「補講」なんだよね。

勝が話しながら、ノートパソコンを立ち上げ、いじる始めた。

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◆「使いやすさ」を製品自体に組み込んだ使いやすいアイシャドウ
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恵利:じゃあ、またそのパソコンにデータがあるんですね、ふふふ。

勝 :そうそう。ということで、これ、読んで。

そーれ・しちりあーのでやったのと同様、勝がノートパソコンのキー
ボードを叩いたかと思うと、真子と恵利にモニタを向けた。

-----------< 記事要約 >------------

○日経POSデータ(2012年2月20日~3月18日販売額)に
 基づく、アイシャドウ売れ筋ランキングの1位は、カネボウ化粧品
 の「コフレドール ワイドグラデーションアイズ02」。パレット
 上の色の配置を花びら状にし、上から順に使えばうまくメークでき
 るのが人気という。2011年12月の発売以来、順調に売上増。

○通常のアイシャドーの配置は四角形で「どの色から使ってよいのか
 分からない」との声もあった。「高度なメーク技術を持っている人
 は意外に少ない。『マスブランド』として誰が使っても失敗がない
 ようにしたかった」のが開発意図。コンパクトを開くと、最後に使
 う光沢を出す色を中心に、花びらのように4色が取り巻く。上の薄
 い色から順番に使うと上手にメークできることが、直感的にわかる

○2位の花王「オーブ クチュール デザイニングインプレッション
 アイズ557」も、独特の色の配置が人気、首位のコフレドールと
 接戦を繰り広げる。色の配置は目元をイメージ。どこに塗るべきか
 を説明書を読まなくとも、すぐに分かるようにした。

○従来のアイシャドーは、四角い箱が4~5個並んでいるだけ。でき
 るだけ隙間を作らず多くのアイシャドーを詰め込むには、四角形で
 配置するのが効率的というのが業界の常識だった。

2012/04/06 日経MJ P.3

-----------< 記事要約 >------------

真子:へー、なるほどねー。確かに、アイシャドウの使い方って結構
   難しいよね。

恵利:うん。初めて使うときは「どれをどう塗るんだろう」って思っ
   ちゃうよね。

真子:っていうか、私今でも結構テキトーだよ。きゃははは。ね、勝
   さん?

勝 :なぜオレに同意を求める?

恵利:真子、どうせ勝さんに「真子はお化粧しなくてもキレイだぞ」
   とか言って欲しかったんでしょ。

真子:あー、恵利が言っちゃダメだよー。

勝 :ともかく、この1位のカネボウコフレドールと2位の花王のオ
   ーブはそれぞれこんな感じ。

カネボウ コフレドール アイシャドウ
http://ow.ly/aBu3F

花王 オーブクチュール アイシャドウ
http://www.sofina.co.jp/aube/products/product22.htm

恵利:あ、コレか! そう言えばお店で見たような気がします。

勝 :花王のなんて、目の形そのままシミュレーションだもんな。こ
   れは「使いやすい」でしょ。直感的に使い方がわかる。

恵利:はい。アイシャドウって、色がこんな感じに並んでいるのが多
   いんですけど、この2つの製品はわかりやすいです!

  □■
  ■□

真子:えっと……じゃあ、今回のテーマは「使いやすさ」なの?

勝 :そう! 「見やすさ」「試しやすさ」「選びやすさ」の3つの
   「魅せ方」の次に来るのが「使いやすさ」、だな。

恵利:となると……こんな感じですか?

恵利がさらさらと「恵利ノート」に書き加え、勝と真子に見せた。

魅せ方のポイント   マインドフローの関門

1.見やすさ     認知→興味→行動
2.試しやすさ    行動→比較
3.選びやすさ    比較→購買
4.使いやすさ    購買→利用→愛情

勝 :そうそう。そういうこと。

恵利:この「魅せ方」って、売り場だけの話だけかと思ってました。
   でもこのアイシャドウは製品自体をうまく「魅せて」ますね。

真子:あー、確かにぃ! 製品を見れば、使い方がわかる! 

勝 :さらに言うと「使う方がわかることが、製品を見ればわかる」
   よな?

恵利:ええっと……製品自体に「魅せ方」が組み込まれているから、
   「利用」関門を突破しやすい、ってことですか?

勝 :そう!! 製品自体に、っていうのがポイント。製品に、利用
   関門を通過する仕掛けがあるんだな。

真子:え、なになに? わかんなーい!

勝 :もー、マコちゃんはしょーがないなー。マコちゃんはこのコフ
   レドールとかオーブのアイシャドウ見たらどう思うかな?

真子:使いやすそうだ、って思いまーす!

勝 :ということは、製品を見れば、使い方がわかる、っていうこと
   だよねー?

真子:はいそーでーす! 見ればわかりまーす!

勝 :だから、製品自体に、マインドフローの「利用」関門を突破す
   る仕掛けが入ってる、ってことだよー。

真子:え……あ、そうか! だから「使いやすそうだから買おう」っ
   て思ってもらえる、ってことだ!

勝 :そういうこと。利用関門は購買関門の後に来るけど、それを先
   取りして伝えてる。しかも製品それ自体で。

真子:なーるほどねー。

勝 :そういうのが、製品自体に「魅せ方」が組み込まれている、っ
   ていうことな。

恵利:あ、この「魅せ方」シリーズでいくと、そういう表現になるん
   ですね。製品に「魅せ方」が入ってる……

勝 :そう。「製品自体に」というのがポイント。普通は、マニュア
   ルとかで「使い方」を教えるんだけど……

真子:この製品なら、わかりやすいからマニュアルがいらない!

勝 :いらないかどうかはともかく、製品自体に「使い方」が組み込
   んである。直感的にわかるからな。

恵利:なるほど、説明がいらない、というのはいいですね。お客様か
   ら見ると「見ればわかる」というのは嬉しいです。

勝 :「理想的なマニュアル」っていうのは、「マニュアル不要」っ
   てことじゃないかな。「見ればわかる」

真子:あーそうだねー。マニュアルが必要、っていうことは、製品自
   体がわかりにくい、ってことだもんね。

勝 :iPodなんかも、マニュアルないでしょ? それ自体は賛否ある
   だろうけど、「見ればわかる」っていう痛烈なプライドだな。

恵利:ということは、「直感的にわかる」という「魅せ方」が大事だ
   ということでうすよね?

勝 :その通り! 売り場・売り方だけじゃなく、「売り物」そのも
   のにも「魅せ方」があるといいんだよな。

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◆「使いやすさ」を製品自体に組み込んだ使いやすいチーク
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勝 :まだあるんだ。同じコスメで、やっぱりコフレドールの例なん
   だけど、これを読んで。

真子:ま、まだあるんだ……

-----------< 記事要約 >------------

○カネボウ化粧品が2011年12月に主力ブランド「コフレドー
 ル」から発売したチーク「スマイルアップチークス」が好調。
 発売から1カ月で40万個を突破。売上高は計画比5割増で推移。

○同社のチークに対する調査でわかったのが「きちんと発色して、肌
 になじむ」こと。発色の良いチークは地肌との境目をぼかすことが
 難しく、自然に仕上がりにくい。

○「スマイルアップチークス」は、渦巻き状に配置した2色のチーク
 カラーとぼかしパウダーで構成。模様に沿うようにしてブラシを回
 しながらカラーやパウダーをとり、くるくる回しながらほおに付け
 るだけで簡単に自然な血色の良い肌に仕上げられる。

○容器を開けたときの見た目も、ぼかしパウダーの内側に2色のチー
 クカラーを渦状に配置することで、くるくる回す使い方が直感的に
 わかるようにした。

○コフレドールのチークとして初めてテレビCMを製作。人気モデル
 が同商品をくるくる回してほほに付ける使い方を友人らに教える。

2012/02/29 日経MJ P.6

-----------< 記事要約 >------------

真子:へー、コフレドール、頑張ってるねー!

恵利:これも面白いですね。くるくる回してつけるチークなんて。

勝 :ウェブサイトはこれな。ちょっと見てみ。

http://ow.ly/aBycR

真子:あ! 周りのぼかしパウダーの色が薄いから、肌に自然に馴染
   むんだ!

恵利:そういうことね……なるほど、真子鋭いわね。

勝 :でさ、考え方がさっきと同じ、っていうのはわかるよな?

真子:うん! 製品を見れば使い方がわかりやすい! くるくる回す
   ところとか、直感的にわかる!

勝 :今真子が言ったみたいな、製品の特長も直感的にわかるだろ?
   外周の薄い部分が「なじませる色」だって。

恵利:そうですね。見ればわかりますから。これも、「製品自体」に
   「使いやすさ」を組み込んでるんですね。

勝 :そう。別に2つの色を □■ って並べておいたって、性能的
   には全く同じだよな?

真子:でもそれじゃーダメだよねー。製品特長がうまく伝わらないよ

勝 :そう! このシリーズでオレが何回も言った言葉があるんだけ
   ど、覚えてるかな?

恵利:私が印象に残っているのは「並べておけば売れる時代は終わっ
   た」なんですけど……

勝 :それそれ。それは製品についても同じ。チークの色を「並べて
   おけば売れる」時代は終わったんだよ。

真子:あ、なるほど! チークの色を2つ並べて「薄い方がぼかしパ
   ウダー」です、じゃダメなんだ!

恵利:わかりました! 外周にぼかしパウダーを配置することで「こ
   れを使ってなじませる」という「使い方」がわかりやすい!

勝 :「直感的に」わかるように、製品自体に「使いやすさ」を組み
   込んでいるから「使いやすい」わけだろ。

真子:製品についても「魅せ方」が大事な時代になったんだねー。メ
   ーカーの人なんか、大変だねー。

勝 :オマエ、人ごとみたいに言うなよな。

恵利:でも、お客様の立場に立って、より「使いやすい」ように考え
   ていけばいいんですよね?

勝 :そうそう。逆に言えば、「同じような製品でも、やりようによ
   っては十分に差別化できる」ってことだな。

恵利:はい。同じモノなら、やっぱり使いやすそうな方を選びます。

勝 :実際今回のアイシャドウの売れ筋ランキング1位、2位は、
   「使いやすさ」も貢献しての1位、2位だろうからな。

真子:まあ、やることは「当たり前のこと」なんだけどね。それをや
   るのがまた大変なんだよなあ……

恵利:そうなのよねぇ……

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◆「売り物」が同じでも「魅せ方」で差別化できる!
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勝 :ね、恵利ちゃん、7回のシリーズでオレが一番言いたかったこ
   とって何だと思う?

真子:何で私に聞かないのよー!?

勝 :聞いていいのか? 答え返って来るのか?

真子:うん! 頑張れば何とかなる! でしょ?

勝 :そんなことだと思った。それは一面の真理だけど、一面でしか
   ない。

恵利:「売り物」が同じでも、売り場での「魅せ方」で差別化できる
   ということですよね?

勝 :そう! それが「見やすさ」「試しやすさ」「選びやすさ」だ
   ったんだよね。すると、どうなる、真子?

真子:ど、どうなる、って?

勝 :だから、今回の例は同じロジックで言えばどうなる、って聞い
   てる。

真子:えっと……あ、同じだ! 同じようなアイシャドウとかチーク
   でも、製品の「魅せ方」で差別化できる!

恵利:はい。仮に同じ「5色のアイシャドウ」でも、使いやすそうな
   方を買いますから。

真子:あー、だから製品の場合の「魅せ方」が「使いやすさ」ってこ
   となんだあ!

勝 :そう。アイシャドウでもチークでも同じ。コフレドール、って
   そういう戦略をとっているんだろうな。

真子:なーるほどねー。

勝 :それでさ、恵利ちゃん、例のチャート見せて。

恵利:はい、これですよね。

魅せ方のポイント   マインドフローの関門

1.見やすさ     認知→興味→行動
2.試しやすさ    行動→比較
3.選びやすさ    比較→購買
4.使いやすさ    購買→利用→愛情

勝 :それでさ、このチャートにおいて、こういう「使いやすさ」の
   工夫ってどこに位置づけられる。

真子:そりゃ、最後の「4.使いやすさ」でしょ?「利用」関門の施
   策、だよね?

勝 :もちろんそうだな。他には?

恵利:ええっと……あ、「2.試しやすさ」のところですよね? 化
   粧品売り場で試してみて、「使いやすかった」ら……

真子:あ、そうか! 試してみて、使いやすい方を選ぶんだ!

勝 :そういうこと。製品自体に「使いやすさ」の仕掛けを組み込む
   ことには、そういうメリットもあるよな。

恵利:コフレドールのチークみたいに、「くるくる回して」塗るのを
   試せたら、きっと買いたくなると思います。

真子:確かにそうだねー……。こういう工夫が、複数の関門の突破策
   になるんだね。

勝 :だから、結局はこういう工夫を、「モレなく」考えて行く、っ
   ていう当たり前のことが大事なんだよな。

恵利:今回の補講も勉強になりました!

勝 :うん。じゃあ補講修了。帰るときに、化粧品売り場を見ていこ
   うぜ。

恵利:はい!

真子:ねー、勝さん、ミーティング延期になったんだよね? この後
   ヒマだよね?

勝 :ヒマとは言わないが、カラダはあいたな。

真子:ねー、じゃあそーれ・しちりあーのに来ない? ご飯食べよう
   よ! レッスンのお礼にご馳走してあ、げ、る。

勝 :たまにはいいか……ドルチェ食べ放題ってことか?

真子:別にドルチェでもパスタでもいいよ♪ たくさん食べて♪

恵利:あ、それいいわね。

真子:えー、恵利も来るの-?

恵利:だ、ダメなの?

真子:じゃあ恵利は自腹。

恵利:当たり前じゃない。もちろんそれでいいよ。

真子:ウソウソ、冗談よ。恵利には貸しにしとく。じゃあそーれ・し
   ちりあーの行こう!

勝 :では、本当にこれにてシリーズ終了! ありがとうございまし
   た!

いかがでしたか? 今回は、普通に「戦略編」として書くつもりでし
たが、内容としては「魅せ方」シリーズと非常に近いので、「補講」
という形で、いつものメンバーにご登場いただきました。

今年の初めから、勝と真子は出ずっぱりで、出ていない号が数えるほ
どしかないのですが、気に入っていただけたのであれば嬉しいです。

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◆今日のまとめ
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●「製品」の場合も「魅せ方」は重要! 直感的に使いやすいように
 して、「使いやすく」しよう!

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