2011-07 成熟・多様化時代への対応

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.148 2010/07/01
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●90年頃に時代が変わり、ほぼ全ての産業がその影響を受けている
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◆アツギのソックスがリニューアル
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●アツギのソックスが、白から多様化!
インナーウェアのアツギが、ソックスの品揃えを変えてきています。
どう変えているかというと……

-----------< 記事要約 >------------

○アツギは2010年秋冬物で、主力商品の一つであるリブ編みソッ
 クスの品ぞろえを強化。
○アツギは白無地のソックスを「フルサポーティ」ブランドで展開し
 学生やスポーツ用を中心に長年高いシェアを誇ってきた。だが、最
 近はこうした用途でも黒や柄物が好まれる。
○長さの好みも代わり、スニーカーの中に収まる足首までのタイプな
 ども登場した。
○このため今秋にフルサポーティの商品構成をビジネスとカジュアル
 に兼用できる「デイリータイム」、ランニングやジム、体育用の
 「スポーツタイム」、小学生から中高生向けの「スクールタイム」
 と、目的別の3タイプに再編。従来の白リブは丈夫さを追求した作
 業着や制服用として位置づける。
○3タイプとも黒やグレー、紺などの色やチェック、花柄、ショート
 ロング丈などをそろえ、商品の選択肢を増やす。用途に合わせ、遠
 赤素材による発熱効果や底のクッション性、ずり落ちにくい着圧
 といった機能性も盛り込む。
○帯パッケージもデイリーは家でくつろぐ様子、スポーツはランニン
 グ、スクールは制服を着ているイラストを紳士、婦人、子供別に分
 かりやすく示し、店頭での訴求力を高める。デイリータイムなど刷
 新後の3タイプは同じ用途の現行品の約6倍の23型に拡大。

2010/05/24, 日経MJ(流通新聞), 6ページ

-----------< 記事要約 >------------
さすがに、国民全員が「白のソックス」をはく時代ではなくなった、
ということですよね。その変化に対応した打ち手だと思います。

 

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◆「人の多様化」と「好みの多様化」
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●白いソックスが「万人受け」する時代の終焉

そういえば、私が中学生・高校生だった時代(80年代前半)は、靴
下はみんな白だったように思います。みんなが同じような靴下をはい
ていたわけです。スーツ姿のビジネスマンですら、白い靴下をはいて
いる方もいらっしゃいました(スーツに白ソックスは、今はまず見か
けません)。

今は、みんな足下のおしゃれにも使うようになったわけですね。

靴下の長さも多様化しました。足首までしかない靴下なんか、(少な
くとも私は)学生時代に履いたことがありません(今でも履きません
けど。私、寒がりなので(笑))。
一言で言ってしまえば、「好みの多様化」ということかと思います。

だからそれに合わせよう、というのがアツギの戦略ですね。

この「好みの多様化」は、靴下に限った話ではなく、まさに時代を象
徴する話なんですよね。

肌感覚で言えば、90年頃に転換点があったように思います。

 

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◆「人の多様化」
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●人の多様化:マスから「個」へ

まず、「人」が多様化しています。

「巨人、大鵬、卵焼き」と言うのが子供みんなが好きだったもの、と
いうのが1960年代ですね。大鵬関の黄金時代が1960年代、我
らが(笑)巨人のV9が65年~73年です。夜は家に帰って家族み
んなで夕食を囲み、お父さんは枝豆とビールで、巨人戦を見る、とい
うのが定番の「ライフスタイル」だったわけですね。ドラえもんの、
のび太くんのパパさんがそんなライフスタイルでしたし、漫画サザエ
さんの連載(1974年まで)もそんな世界でしたね。要はみんなが
好きなモノが同じだったわけです。
80年代、バブルの時代までは、おおよそみな同じような価値観で動
いていました。社会人のスーツも、紺かグレーと相場が決まっていて
「日本のビジネスマンはおしゃれじゃない」などとよく言われていた
ように思います。バブルにみんながこぞって「踊り狂えた」(色々な
意味で、ですよ)のは近い価値観を持っていたからこそですよね。

みんなが「紅白歌合戦」を見て、みんながDCブランドに押しかけ、
みんながスキーに行き、というのは、おおよそ80年代後半~90年
代前半までの話です。

そして、90年代前半のバブル崩壊を経て、好みの多様化へと時代が
切り替わっていきます。
一気に好みが変わった、と言うわけではなく、変化は徐々に徐々に起
きたわけですが、方向の転換点は90年代の前半にあるように思いま
す。

バブル崩壊が色々な意味で日本社会の転換点になっていると私は思っ
ています。バブル崩壊が「原因」と言っているわけではありません。
「現象」を観察するに、あの頃が「転換点のように見える」と言って
いるだけです。
今の時代に長谷川町子さん(サザエさんの作者)が生きていらしたら
どんな漫画を書かれるのか、非常に興味深いです。

 

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◆80年代後半~90年代前半に起きた「構造変化」
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●80年代後半~90年代に起き始めた変化

ここで、80年代後半~90年代に起きた「構造変化」を見てみまし
ょう。手近に調べられるデータから見てみましょう。

ここでは、起きたことを客観的に見ているだけで、起きたことに対し
て良い悪い、という論評をする気はありません。

 

○90年以降のGDP成長率の低下

まず、わかりやすいのがGDPで、実質GDPの成長率が3%を超え
た年は、1991年を最後に、その後ありません(2000年のIT
景気の頃に2.9%を記録しました)。

91年以降、日本はいわゆる「低成長」の時代に入りました。

 

○世帯人員の減少は90年代前半から

70年ごろまで世帯人員は急激に減り続けますが、が、70年頃で一
旦落ち着きます。約3人強です。その数字で落ち着きます。そして、
90年代前半に3人を切って行きます。

www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa06/1-1.html

 

○高齢化が顕著になるのは80年代後半から

80年代半ばに65歳以上の方が人口に占める率が10%を超えてき
ます。その後は、ご存じのように急激に高齢化していきます。

http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/sokuhou/01.htm

 

○晩婚化・未婚化が顕著になるのは80年代後半から

80年代半ば頃から、それまでのいわゆる結婚年齢(女性では20代
後半、男性では30代前半)での「未婚率」が大幅に高まります。

その結婚年齢での未婚率が、80年代半ばには男女ともに、30%く
らいになってきて、それ以降は急激に上昇します。

80年代半ばくらいまでは、男性で30代前半、女性では20代後半
になると、結婚している方が多数派だったのですが、今や逆転するよ
うな状況になっています。

ちなみに男性の生涯未婚率も、0年頃から一気に上がってきます。

http://www.ipss.go.jp/syoushika/seisaku/html/112a2.htm

 

○80年代を通じて高まる女性の社会「進出」

晩婚化・未婚化と合わせて進むのが、女性の社会進出です。

女性25~29歳の就業率が50%を超えるのが1983年です。そ
して、男女雇用機会均等法が制定されるのが1985年です。この層
の就業率は今まで一貫して高まっており、2009年で72%になっ
ています。20年前と様相は一変しています。

女性30~34歳の就業率が50%を超えるのは、1990年です。
90年代半ばから急激に伸び始め、今は63%です。

総務省労働力調査
http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.htm

 

○紅白の視聴率が6割を切るのが86年

紅白の視聴率は、80年代前半までは7割で推移します。大晦日の夜
は、本当に「みんなが紅白を見ていた」わけです。

それが、86年に初めて6割を切ります。以降下がり続け、今は4割
前後です(それでも高い数字だと思います)。

http://ja.wikipedia.org/wiki/NHK紅白歌合戦

 

別に意図的では無いのですが、調べれば調べるほど、80年代後半~
90年頃が色々な意味で転換点になっていることがわかります。

ただ、90年頃に一気に変わったように見えるのは、恐らくはバブル
で隠れていたから、とも思えます。80年代に徐々に進行していたの
ですが、あのバブルの狂乱があったので、その「徐々に進行」してい
たのが、見えなくなったんですよね、多分。
マーケティングは実学とは言え、こういう事実関係をおさえておくの
も大事だと思いますので、リンク先はクリックしてみてくださいね。

「今」は、「昔」の延長です。変わった、と言う場合に、何と比べて
というと、「昔」と比べて、です。でしたら、「昔」を知らなければ
「今」がどういう変化の時代なのか、わからないはずです。

 

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◆「人」が多様化したので、性別・年代だけでは切れなくなった
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●80年代までは性別・年代のセグメンテーションが通用した

ということで、肌感覚としての「90年ごろが転換点」というのは、
データ的にも裏付けられそうだ、ということがわかりました。

このような変化は、「顧客の変化」ですから、当然マーケティングに
も変化をもたらします。

ここから先は、あくまで私の意見であり、マーケティング理論の定説
かどうかは存じません。
粗っぽく言うと、80年代までは、ライフスタイルの違いの幅がそれ
ほど大きく無かったので、顧客が読みやすかったんです。

「30代女性」というと、「結婚されていて、小学生くらいのお子さ
んが1~2人いる主婦」というのは、もちろんそうでは無い方が
多くいるにしても、70年代では7~8割、80年代前半でも6~7
割は正しい、と言えたことが上記のデータからわかります。
この時代は、「たまたま」「偶然に」、性別・年齢と、ライフスタイ
ル・価値観が一致した時代だったんですね。ですから、

「30代女性を狙おう」

というターゲティングをすると、多くが子供のいる専業主婦ですから

「子供の食事の用意や洗濯、ダンナのアイロンがけが大変」
という、ニーズの絞り込みがある程度、「たまたま」「偶然に」一致
していたんです。

人=ニーズ

だったわけです。

 

●90年代以降、性別・年代「だけ」ではニーズを捉えられない

しかし現在においては、「30代女性を狙おう」と言うと、

・専業主婦
・バリバリのシングルキャリアウーマン
・DINKS
・派遣社員

など色々といますから、ニーズが括れません。

つまり、「性別・年代」のセグメンテーション「だけ」では、分けに
くい時代になったんです。

TVCMの凋落が叫ばれて久しいですが、TVで使われるF1、M1
(それぞれ20歳~34歳の女性、男性)というようなセグメンテー
ションでは、もはやニーズと一致しない、ということもあると思いま
す。みんなが「8時だよ、全員集合!」を見る時代ではないわけです
からね……
逆に、

・バリバリのシングルキャリアウーマン

であれば、

・バリバリの既婚キャリア男性

と、ニーズはそれほど違わないですよね。着る服にしても、男性用か
女性用かという違いは当然あるにしても、服に求めるニーズは、

・お客様のところに着ていっても恥ずかしくない

など、共通するでしょう。
もちろん、性別・年齢はライフスタイルに一定の影響をもたらします
から、意味はあります。が、それ「だけ」では不十分だということで
すね。

 

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◆「人」が多様化し、「好み」が多様化
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●一人十色の時代へ

「人の多様化」は、「大衆から分衆」、「十人一色から十人十色」な
どと言われますね。私は「マスから個へ」と読んでいます。
そして、それと合わせて、「好みの多様化」が進んできました。消費
者の選択肢が増え、目が肥えてきたこともあり、同じ人でも、色々な
「好み」を持つようになってきました。

「同じ人」の中でも、ですよ。「一人十色」ですね。

あなたの今日の昼食、昨日の昼食、一昨日の昼食は、同じところで同
じモノを食べていますか? きっと違いますよね?

・さっぱりしたものが食べたいから冷やし中華
・同僚とゆっくり話をしたいから、静かなイタリアン
・時間がないから吉野家

などですね。

当たり前ですが、あなた、という同じ人の中でも、ニーズが違うわけ
です。

腕時計だって着替える時代で、時間に厳しい1日は正確な電波時計を
ちょっとカジュアルな1日にはカルティエのパシャを、のような使い
方もしますよね。

このあたりは、「人の多様化」により、それに対応する「選択肢」が
増えたことと一緒に進んで来たように思います。

例えば、昔は出前と言えば「ソバ屋」か「寿司屋」くらいでした。そ
こにピザ、中華、イタリアン、などの「選択肢」が増えました。その
ようななかで、「好み」が多様化したのでは、と考えています。

「味を知ってしまった」がゆえに、そのような「好み」を持ってしま
ったのではないでしょうか?

 

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◆90年代以降、80年代の手法が使いにくくなった
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●80年代以前の経営理論・手法が使えない理由

このような「人の多様化」「好みの多様化」により、80年代以前の
経営理論・手法が非常に使いにくくなりました。

例えば、ポーター先生の5 Forcesでは、5つの要素の1つが「顧客」
です。しかし、その「顧客」の分析に、このような重層的な顧客心理
が反映されているかというと、疑問です。このような状況下では、
「顧客」などとひとくくりにできません。一人十色、なのですから。
少なくとも、ポーター理論で、5 Forcesを顧客セグメントごとに作ろ
う、などという話は、あまり耳にしたことがありませんし、その成り
立ちからして、そういう議論に適したフレームワークではありません
よね。
さらに言えば、70年代~80年代の成功体験は、全て考え直す必要
があります。捨てる必要はありませんが、「これは、この時代だから
成功したのではないか?」と、疑ってかかる必要がありますね。

往年の名経営者が、90年代以降、打ち手が裏目に出るケースがあり
ますが、それは、このような変化に対応できなかったからだと私は考
えています。

 

●性別・年代のセグメンテーションだけでは不十分になった

性別・年代のセグメンテーションも、このような変化によって、それ
だけでは不十分になりました。

セグメンテーションは、もともとは、「ニーズが違うから分ける」わ
けです。

・性別・年代が同じでも、ニーズが違う
・同じ人でも、時と場合によってニーズが違う

ということを考えると、となると、「性別・年代」で括るセグメンテ
ーションだけではニーズの違いを反映できない、ということがわかる
かと思います。
ではどうすればいいのか……

 

●人で切れないならニーズで括ろう!

もともとセグメンテーションは、「人によってニーズが違うから」、
そのニーズに合わせて対応するためのものでした。

しかし、伝統的な性別・年代のセグメンテーションだけでは、ニーズ
の違いに対応できなくなったのです。

であれば、「ニーズ」で括ればいいわけです。
いつの間にかすごく長くなってしまいました。ソックスの話はどこへ
行ったのか……(笑)
ということで、続きは次号へ!

 

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◆今日のまとめ
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●90年頃を境に、日本の市場は激変。マーケティングの考え方も変
 えなければいけない!

 

 

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.149 2010/07/05
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●消費の場面を知り、人×TPOで用途提案をしよう!
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◆前号の復習
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「アツギのソックス」の号だったのですが、前号はそこまで行けずに
終わってしまいました……

ということで、復習しておきましょう。
●90年頃に構造変化が起きた

80年代後半~90年頃の日本の社会が転換期を迎えました。どのよ
うな変化かというと……
○景気動向・人口統計的要因

・91年以降、日本は「売れない時代」に突入
・女性の社会進出による女性のライフスタイルの多様化
・晩婚化・未婚化の進展
・世帯人員の減少
70年代~80年代前半にかけての、サザエさん家族的「わかりやす
い」安定したライフスタイルの前提条件が、崩れ始めたわけです。
その「典型的」ライフスタイルが崩れ、「好みの多様化」の時代に入
りました。

 

○「人」だけではニーズが括れない時代に

同じ30代でも、

・結婚か未婚
・働くか働かないか
・親と同居するかしないか

などの選択肢があり、それによってニーズが違うため、性別・年代な
どで括るのが難しくなりました。

さらに、社会の色々な選択肢の増大に連れて、「同じ人でも時と場合
(TPO)によってニーズが違う」という状況も頻繁にみられるよう
になりました。

今までよく使われてきた、「性別・年代」によるセグメンテーション
では不十分な時代になったのです。

 

○ニーズによるセグメンテーションの時代に

人で括れなければ、ニーズで括ることになります。いわゆる「ベネフ
ィット・セグメンテーション」です。

 

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◆価値は使い方に現れる
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●靴下の価値は??

ベネフィット、というのは、「お客様にとっての価値」です。お客様
にとってどう嬉しいのか、良いのか、ですね。

ただ、これを把握するのは意外に難しいです。

「靴下の価値って何ですか?」

と聞くと、きっと

・足の保護
・足の保温
・デザイン・おしゃれ

というような答えが返ってくるでしょう。それはそれで間違ってはい
ませんが、「売れる」答えではないですよね。

「靴下で足の保護をしよう!」と言っても、「当たり前じゃん」と言
われて見向きもされないでしょう。

 

●価値は使い方に現れる

価値を具体化する方法の1つが、お客様の「使い方」を知る、考える
ことです。

サービス業の場合は、消費はその場で行われますので、使い方は見れ
ばわかります。

だから、「ドリルを売るには穴を売れ」でも、売多勝は、真子に

・どれくらいイタリアンレストランに行った?
・どれくらい自分の店にいた?
・イタリアに行け

という「現場を見ろ」という指示を徹底的にしたわけですね。
○「ドリルを売るには穴を売れ」 佐藤義典著 青春出版社
http://www.sandt.co.jp/drill.htm
(2011-09-04 補足:「新人OL、つぶれかけの会社をまかされる」
としてリニューアルされています)。

 

●使い方=TPO

使い方は、TPOに分解できます。売れたま!でも何回か提唱してい
ますが、あのTPOです。
Time:いつ

Place:どこで

Occasion:誰と、どのように

ですね。
いつどこでどう使うか、に価値は現れます。

何かを買ったら使います。その「使うとき」がわかれば、価値が具体
的に推測しやすくなるんですね。
昨日、あるカフェで執筆していました。執筆している私(中年男性)
の左では、白髪の年配男性が英語の勉強らしきことをしていました。
私の右では、制服を着た女子高生が、受験勉強らしきことをしていま
した。みんな、性別・年代が違います。性別・年代が違っても、「静
かに集中したい」というニーズは同じだったわけです。

ニーズが同じだから、同じカフェで、同じ時間に(Time)、同じ
場所で(Place)、同じような使い方(Occassion)を
していたわけですね。

 

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◆人×TPOで考えて、伝えよう!
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●人×TPOで考えよう!

前号では、「多様化」を、

○人の多様化
○好みの多様化

という2つの切り口で考えてきました。

ということは、価値の多様化、と言った場合、両面から見ることにな
ります。

好みの多様化=価値の多様化=使い方・TPOの多様化

です。
ということは、

○人×TPO

の組み合わせで考えればいい、ということになります。

80年代からの構造変化、などとマクロなことを言い出しておいて、
これか、と思われるかもしれませんが(笑)、そうです。結局、こう
いう「ミクロ」なところに落ち着くんですよ。

 

●アツギの人×TPOは?

ということで、やっとアツギのソックスを見るてみましょう。
○スクールタイム:小・中・高生 × 通学

○デイリータイム:紳士・婦人 × 通勤・カジュアル

○スポーツタイム:色々な人 × スポーツ・体育

○白リブ:色々な人 × 作業
今現存しているのは、スクールタイムだけのようですね。スクールタ
イムは、32cm、38cmなどと丈が長いので、着圧ずり落ち防止
機能などがついているようです。

「色々な人」は、まだ商品が出てきてないのでわかりませんが、おそ
らくそこに「紳士、婦人、子供」などが入ってきて、「人×TPO」
の組み合わせを構成すると思われます。
スクールタイムは、学生、という人で切っていいですよね。もちろん
TPOは「通学」です。
スポーツは、学生×体育、社会人×ジム、という「人×TPO」が同
じニーズとして括れますね。サイズやデザインは違っても、求められ
る「機能」は同じですね。
デイリータイムは、一般用なのでしょうが、デザインやサイズの違い
は「人」によって違います。
このように、人×TPOの組み合わせできると、どちらの軸がメイン
になるにせよ、意外に切りやすいんです。

 

●分解すると、開発がしやすくなる

こう見てくると、ソックスの 人×TPOは、

○デザイン・丈 × 機能

と置き換えて良さそうなことがわかります。こう分解できればしめた
もので、商品展開が一気にラクになりますね。

例えば、「主婦 × ジム」 なら(平日の昼間のジムは、マダムば
かりですからニーズはあるでしょう)
○主婦向けのデザイン
   ×
○スポーツ向け機能(底のクッション性)など

と分けて考えればいいわけです。

これが、「ビジネスマン × ジム」(例えば私)の場合、スポーツ
向けの機能、という部分は人によらず同じです。ですから、デザイン
だけ男性用にすればいい、ということになります。
23タイプに増える、というと考えるのが大変なように見えて、実は
組み合わせの問題であって、意外にシンプルなように思えます。

 

●人×TPOをわかりやすく伝える

あとは、この人×TPOをわかりやすく伝えることが大事になってき
ます。

○スクールタイム
○デイリータイム
○スポーツタイム

と分けることによって、「伝えやすさ」も向上しそうです。

記事によると、帯のパッケージで、

人  :紳士、婦人、子供別に
 ×
TPO:
・デイリーは家でくつろぐ様子、
・スポーツはランニング
・スクールは制服を着ているイラスト

をわかりやすく伝える、ということです。

 

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◆「自分向け」のものが欲しい!
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●人は「自分向け」のものが欲しい!

なぜここまでしなければならないかと言うと……

「人は自分向けのものが欲しい!」

からです。

学生は学生向けのものが、スポーツするときはスポーツ向けのソック
スが欲しいからですね。

すると、「万人向け」の白ソックスよりも、「自分向け」になります
から、より欲しい、ということになります。

さらに、同じ「人」でも、「TPO」によってニーズが違います。

私が買うとすれば、通勤用に「デイリータイム」、ジムに行くとき用
に「スポーツタイム」を買うことになります。すると、今まで1足で
すませていたときよりも、使い分けのために、より多く買うかもしれ
ないですよね。また、今まで「スポーツ用ソックス」を別のブランド
で買っていたところから、こちらに変えるかもしれません。

「万人向け」よりも、むしろ「人×TPO」で分けて、それぞれに特
化させることにより、売上は高めやすくなるわけです。

 

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◆消費の現場をみよう!
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●人×TPOを知るには、消費の現場をみよう!

では、どうやって、「人×TPO」を知ればいいのか、という疑問が
わきますよね。

人×TPO、すなわち「利用場面」を知るには、「消費の現場」を見
ることが大切です。

当たり前じゃん、と言われるかもしれませんが、よく社長が「オレは
現場を見てるよ」と言うときの現場は「購買の現場」なんですよね。
店を回ってるよ、ということなんですよ。百貨店の社長が、「オレは
現場を見てるよ」というと、百貨店を回ってる、ということを意味す
るでしょう。
しかししかし、「購買の現場」と「消費の現場」は違います。

人×TPOは、購買ではなく、「消費の現場」です。

ソックスを売ってるなら、その現場は、「売り場を回る」ことではな
くて、ソックスを履いている場面(通勤、通学、家の中など)を見る
ことです。

洗剤なら、「お客さんが洗濯しているところ」を見ることです。

カメラを売ってるなら、その現場はビックカメラなどの量販店ではな
くて、「写真を撮ってる場面」です。富士山の頂上かもしれませんし
卒業旅行かもしれません。

 

●消費の現場を見て、人×TPOを知ろう!

店頭の、「購買の現場」に行くことが無意味とは言いません。誰が買
っているか(買っていないか)などがわかります。社員や取引先への
激励にもなるでしょう。

しかし、購買の現場に行っても、「人×TPO」はわかりません。本
当の顧客ニーズはわからないわけです。価値は使い方に現れます。だ
から、「使い方」=TPOを見ないといけないわけです。
単純な話、カレー売り場を見ても、カレーの「人×TPO」はわかり
ません。1人で食べるのか、子供と食べるのか、夫婦・子供で食べる
のか、などはわからないですよね? 実際にカレーを食べている場面
を見ないとわからないんですよ。

お酒売り場に行っても、お酒の「人×TPO」はわかりません。代理
購買で、ママがパパのためにビールを買っているかもしれないからで
す。代理購買である、ということを知るためには、購買の現場と消費
の現場の両方を知る必要がありますよね?

 

最近「エスノグラフィ」という手法が盛んに取りざたされていますが
要はこの「消費の現場」を見よう、ということです。別に新しい手法
ではなく、気の利いたマーケターが昔からやっていたことです。

拙著、「実戦マーケティング思考」では、「静止画イメージ」「動画
イメージ」という言い方でこの「消費の現場」をイメージする、とい
うことを薦めています。

○「実戦マーケティング思考」 佐藤義典著
http://www.sandt.co.jp/shiko.htm

 

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◆人×TPOで、用途提案をしよう!
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●人×TPOで、「用途提案」をしよう!

消費の現場を見て、「人×TPO」がわかれば、その「利用場面」を
お客様に提案していくことができます。いわゆる用途提案です。

アツギのソックスも、広い意味では用途提案ですよね。「スポーツタ
イム」は、「スポーツに使おう」という用途提案です。

レンタルビデオの場合も、購買の現場(借りる時間)と、消費の現場
(人×TPO)がうまくつなげられれば、平日・休日×時間帯、によ
って、販促の方法を変える、などのこともできます。
・日曜日の昼下がりに、彼・彼女と見るのか? その場合は前日の夜
 に借りに来るのか?

・平日の夕方に、子供と一緒に見るのか? その場合は、平日の朝か
 昼に借りに来るのか?

・平日の夜に、一人でビールを飲みながら見るのか? その場合は、
 平日の夜に借りて、すぐ見るのか?
など、「購買の現場」と「消費の現場」をつなげていき、「消費の現
場」に合わせた提案を、「購買の現場」で行えばいいんです。

平日の夜に借りる場合は1人でビデオを見るなら、それに適したビデ
オをお勧めすればいいわけですね。

あ、「ビデオ」と言ってますが、DVDとかBDに置き換えてくださ
いね。うちはまだ「ビデオ」プレーヤーでアナログTVを見てますの
で、つい……(DVDプレーヤーもありますけどね、さすがに)。
(2011-09-04 補足:さすがに地デジにしました)
こういうと、

「個別具体的な用途提案をしたって大きな市場は産まれないよ」

という反論が来そうですね。
それはやり方のうまいヘタの問題であって、用途提案というやり方自
体の問題ではありません。
例えば、ソニーのハンディカムは、市場導入期にある非常に個別具体
的な用途提案をしましたが、覚えていらっしゃいますか?

そうです、「運動会」です。

ハンディカムは、「運動会をビデオに撮ろう!」という提案をしまし
た。

・運動会なんて、年2回しかありませんよ?
・子供が幼稚園や小学校低学年じゃないとやりませんよ?
用途=TPOをものすごく「絞って」いますよね?
それでも、あの提案は、「なるほど!」と多くの人に刺さったわけで
す。それは、「記念の瞬間をビデオに撮ろう!」という普遍的なニー
ズがあったからですね。

まさにこれは、人ではなく、「ニーズ」を訴求したCMだったわけで
す。「運動会」は、「記念の瞬間を撮ろう」というメッセージが、刺
さりやすいTPOなんですよね。
逆に、これが「記念の瞬間を記録しよう」というような、曖昧なメッ
セージだったら、お客様に刺さらない、と思います。

「運動会を撮ろう!」という、ピンポイントの用途提案だったとして
も、運動会にしか使わない、ということではありませんよね? 子供
が始めてハイハイから立った、という記念の瞬間を撮ることにも使わ
れますよね。

要は「記念の瞬間をビデオに撮る」ニーズに刺さればいいわけです。

その、「人×TPO」の選び方のうまさですね。
今では、ビデオカメラの用途(=人×TPO)が無限に広く使われて
いることはご存じの通りです。

いかに「価値」が共有できるTPOを選ぶか、そしてどんなTPOを
選べば「刺さる」か、という「やり方」がよければ、用途提案で、大
きな市場も生み出せます。

 

で……意外なことに、このシリーズ、まだ続きます(笑)。

実は、「人×TPO」に加えて、売れるためには、もう1つ要素があ
るといいんです。

それは、一体……??

 

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◆今日のまとめ
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●「消費の現場」を見て、人×TPOを把握し、具体的な用途提案を
しよう!

 

 
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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.150 2010/07/08
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●3T:Target×TPO×Trendで、タイムリーな用途提
 案をします。
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◆ここまでのまとめ
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●ニーズが多様化し、「人」だけではニーズが括れない時代に

90年代以降、消費者ニーズが多様化しました。
・違う「人」がTPOによっては同じ「ニーズ」を、
・同じ「人」がTPOによっては違う「ニーズ」を

持つようになりました。

そのため、

○ニーズによるセグメンテーションの時代に

人で括れなければ、ニーズで括ることになります。いわゆる「ベネフ
ィット・セグメンテーション」です。

 

●価値は使い方に現れる。使い方は=「TPO」

価値を具体化する方法の1つが、お客様の「使い方」を知る、考える
ことです。

サービス業の場合は、消費はその場で行われますので、使い方は見れ
ばわかります。モノの場合は、買ったら使います。

使い方は、TPOに分解できます。売れたま!でも何回か提唱してい
ますが、あのTPOです。

Time:いつ
Place:どこで
Occasion:誰と、どのように

ですね。ここに価値が現れます。
ノートパソコンの「価値」は、

Time: 夜、仕事から帰ってから
Place: 家の書斎の机で
Occasion: 友人とゆっくりメール

なら、「省スペースで使いやすい、デスクトップPC代替」という価
値でしょうし、
Time: 昼、
Place: お客様先に行く前のマクドナルドで
Occasion: プレゼン資料の確認理

なら、「持ち運べるプレゼンマシン」という価値でしょう。

何かを買ったら使います。その「使うとき」がわかれば、価値が具体
的に推測しやすくなるんですね。

 

●人×TPOの用途提案をしよう!

ニーズの多様化、とは、人×TPOの組み合わせの多様化、というこ
とになります。

「こういう『モノ』があるから使ってよ」

では、刺さらない時代になった、ということです。
「こういう人が」

「こういうニーズのときに」

使って下さい、という、人×TPOに合わせた、キメ細かい用途提案
が必要な時代になりました。
「この白のソックスは、どんな人にもどんなときでも使えます」

は、確かに事実です。使えます。ただ、それでは「刺さらない」とい
うことです。
ただ、用途提案をするときに、人×TPOに加えて、もう1要素を加
えると、さらに効果的になります。

果たしてそれは……?
ここで、1つの例を見ていきましょう。

 

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◆京王プラザホテルの女子会プラン
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●京王プラホテルの「オシャベリーゼ」プラン

私、年間数回は必ず京王プラザ(新宿ではありませんが)に泊まるん
ですよね。結構優良なメンバーのはずです。

その京プラが「女子会」向けの宿泊プランを打ち出しました。
-----------< 記事要約 >------------

○京王プラザホテルの客室稼働率は金融危機以降もほぼ80%以上を
 維持する。その要因の1つが、時流をとらえた宿泊商品を他社に先
 駆けて打ち出す機動力だ。
○今年2月、京王プラザホテルに客室で3~4人に“女子会”を開い
 てもらう宿泊プラン「オシャベリーゼ」が登場。「はやりの『女子
 会』を前面に出すことで、ネットの検索でもひっかかりやすい」
 (同社)という。深夜まで会話のネタが尽きぬよう、テーマを書き
 込んだサイコロまで準備。4人利用の場合、1人7500円と手ご
 ろだ。月間20件以上の利用があるヒット商品に育ち、今や多くの
 ホテルが類似のプランを販売する。
○2月には近隣の工学院大学と協力して受験生向けプラン(2人利用
 で1人1万1750円から)を発売。大学との協力は珍しく、同大
 学を受験しなくても図書館が使える特典つきで、約300室の利用
 があった。
○「失敗は責めない。挑戦しないことには怒る」(浦辺総支配人)。
 そんな方針を反映し、京王プラザが2009年度に企画したプラン
 は302種類に達した。06年度比約1・4倍で、今年度もさらに
 増やす考え。

2010/07/05, 日経MJ(流通新聞), 1ページ

-----------< 記事要約 >------------
受験生向けプラン、というのは、

「受験生」 × 「受験のとき」

という、わかりやすい 人×TPOの用途提案ですね。
しかし、「オシャベリーゼ」には、

「20~40代女性」 × 「女性同士でおしゃべり」

という人×TPOに加えて、もう1つ要素が入っています。

それが、

「女子会」

というトレンドワードです。

 

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◆3T: Target × TPO × Trend
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●3つめの要素:Trend

刺さる用途提案、売れる提案の要素は、3つです。

人(Target)、TPO、に続く用途提案3つ目の要素は、

Trend
です。

トレンド、ですね。日本語で「トレンド」というと、「今現在はやっ
ている」というような、短期的な意味ですが、英語でTrendとい
うと、「潮流」というような、大きな潮の流れ、を意味するように思
います。メガトレンド、などは大きな流れのことですね。

ここでは、長期・短期両方含ませています。
長期トレンドで言えば、高齢化、などの流れに乗った用途提案の方が
ラクです。晩婚化などの長期トレンドは、このシリーズの最初の号で
ご紹介しました。
短期トレンド(Timeliness)で言えば、今話題のキーワー
ド、「トレンドワード」(英語的には違和感は感じますが)に乗った
用途提案ですね。

そして、人×TPO、という具体的な用途提案と相性がいいのは、こ
のTimeliness、その提案がタイムリーかどうか、です。
○Target
○TPO
○Trend・Timeliness
の3つを満たすと、お客様に受け入れていただきやすい提案になりま
す。

Timelinessとは、具体的には

「トレンドワード」に乗った提案

ということです。
「そのときにはやっている話題」を、人×TPOに加える、というこ
とです。

 

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◆トレンドワードに乗った提案をしよう!
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●トレンドワードを使った「タイムリー」な提案をしよう!

トレンドワードを使うと、お客様に対しては、まさに「タイムリー」
な提案になります。記事にあるように、ネットで検索されやすくも
なります。

副次的な効果として、メディアで取り上げられやすくなります。最近
のトレンドワードには、次のようなものがあります。

 

○女子会

「女子会」は、最近のトレンドワードですね。体感的には2008年
くらいから「女子」で使われるように思います。京王プラザの「オシ
ャベリーゼ」はこれに乗った提案です。
Target:30~40代女性
TPO:お泊まりしておしゃべり
という用途提案を、「女子会」というトレンドワードに乗せたわけで
すね。

Target:30~40代女性
TPO:お泊まりしておしゃべり
Trend:女子会
という3Tになります。
今、居酒屋でも「女子会プラン」流行中のようです。モンテローザの
「笑笑」でもやってます。

www.monteroza.co.jp/monte/gyotai/sweets_girls/index.html

笑笑の運営会社、モンテローザのニュースリリースによると、
「平成21年11月1日から平成22年4月末までの間、関東と九州の笑笑約
240店舗で、合計150,000人以上の女性のお客様にご利用いただき
ました」
とのことです。

1人3300円で、食べ放題飲み放題(当然女性限定ですが)のプラ
ンです。「女子会」は、私の肌感覚では、2008年くらいから出て
きたTrendワードのように思います。

単純計算すると、毎日3.5人の利用があったことになります。この
プランでは、4人以上の予約が必要ですので、ざっくり全店で1日に
1組、毎日利用があった、ということですね。

1人3300円ですので、単純に15万人を掛けると、半年で5億円
の売上という計算ですね。
http://www.monteroza.co.jp/pdf/100524mrnews.pdf
*PDFファイルですのでご注意ください9
ちなみに「女子会」でGoogleで検索すると、笑笑のページがトップに
来ます。

http://ow.ly/28cV7

ネットで検索される効果もあるかもしれません。

 

○婚活

また、「婚活」もトレンドワードです。

プロ野球チームの日本ハムが始めたとされる「婚活シート」は昨年、
話題になりました。
Target:結婚願望のある、独身の野球ファン
×
TPO:異性との出会い

ですから、人×TPOは、すさまじく絞っています。

が、トレンドワードに乗り、すごい倍率の抽選になりました。

この提案は「婚活」という言葉がなければ、「ハムが出会い系始めた
ぞ」と、冷笑されて終わってしまったかもしれません。「出会い系」
なんて言われてしまうと、応募もしにくいし、行きづらいですよね。
堂々と「私、婚活してるの♪」と言えるようになったのは、「婚活」
というトレンドワードの影響でしょう。この「トレンドワード」が無
ければ「異性との出会いシート」にはおおっぴらには行きにくいので
はないでしょうか。
売れたま!2009年12月14日号で紹介した、「婚活カット」も
トレンドワードを見事に活かした用途提案ですね。

http://craft-works.org/topics/konkatsu-cut/index.html

 

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◆「トレンド」は読めるのか?
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●長期トレンドは読める!

ブームのようなものが起きるのは読めませんし、意図的に起こすこと
も大変難しいです。

しかし、長期トレンドは読めます。長期の構造変化は、必ずデータに
出ます。それがシリーズ前編で紹介したような、構造変化です。わか
りやすいところでは少子高齢化です。

そして、短期トレンド(Timeliness)も、長期トレンドと
無縁ではありません。

 

●女子会・婚活の背後にある「長期トレンド」は……
実は、女子会も、婚活も、ある長期トレンドを背景にして起きてい
ます。

そうです、少子化、晩婚化・非婚化、です。

「婚活」の背景にある長期トレンドは、晩婚化・非婚化ですね。

シリーズの1号(前編)で紹介したように、このトレンドは80年代
から起きている構造変化です。
未婚男女が増えている → 婚活
というのは、自然な流れです。「婚活」という「トレンドワード」が
定着するかどうかは私は神様ではないのでわかりませんが、「30代
~40代女性の出会い」ニーズは、長期トレンドに乗って生き続ける
でしょう。
「女子会」は……これは私の仮説ですが、これも少子化・晩婚化に支
えられた短期トレンドだと思います。「女子会」は、子供がいると参
加しにくいですよね。どこかに預けるか、ということになります。
(子供がいる集まりニーズはあるでしょうが、それは両親同伴の普通
の子供会、で昔からあったことです)。
女子会参加者の統計もありませんが、色々な意味で自由度が高い、独
身女性の方が多いと思います。
すると、女子会のメインの参加者は、独身女性か、子供がいない主婦
ということになります。「少子化」「非婚化」という長期トレンドの
上にあります。
「女子会」「婚活」という「短期トレンド」は、
「非婚化・少子化」という「長期トレンド」の上に

乗っている、ということです。
長期トレンドが読めていれば、短期トレンドはある程度は読める、活
かせる、ということです。

長期トレンドは、誰でも知っていることです。が、今のところ、「女
子会」と「少子化・非婚化」を結びつけた分析は私は知りませんので
意外と気づきにくいかもしれないですね。

 

●長期トレンドを知って、短期トレンドを結びつけよう

長期トレンドは、比較的簡単に読めます。

政府のデータは極めて豊富にあります。GDPなどのデータも誰でも
アクセスできます。このようなデータを集めて、シリーズ1号で、
「90年頃に構造変化が起きた」と論証しましたね。経営関連のデー
タは「中小企業白書」などにも豊富に載っています。

新聞なんかでもまとめてくれていますので、大きなトレンドはおさえ
ておいたほうがいいですね。
長期トレンド(と言っても、晩婚化、などのよく知られたこと)をお
さえておくと、トレンドワードや短期ブームが起きたときに、

「これは短期的なブームなのか、それとも社会が求めていることか」

という判別がつきやすくなります。

長い時間軸(いわゆるTrend)と、短い時間軸
(Timeliness)を合わせて考えていくわけです。

そこまで考えて「人×TPO」を提案しようとは言いませんが(むし
ろもう少し気楽に考えて気楽に提案したほうがいいかもしれません)
そのような提案を続けるかどうか、増やすべきか減らすべきか、とい
う目安の1つはなると思います。

 

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◆トレンドに乗るデメリット
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●一時的なものになってしまう恐れ

ただ、トレンドワードに乗るのは、必ずしも良いことでは無い場合も
あります。

戦略BASiCSも、「婚活」というトレンドワードに乗って、「婚
活のための戦略」みたいな方向に持って行く手も当然思いつきました
し、実は非常に相性が良かったりします……が、やりませんでした。

BASiCSが、婚活などのトレンドワードと結びついてしまうと、
「婚活」のイメージが強くついてしまいます。

仮に、戦略BASiCSが、「婚活」と結びついてブームになった場
合、私が「戦略BASiCS」と言うと、「あ、あの婚活の」という
印象をもたれてしまいます。

これは望ましくありません。デメリットは2つあります。
1)戦場がブレる

私の戦場は「マーケティング」コンサルタントであって、「婚活」の
コンサルタントではもちろんありません。自己紹介をしたときに、
「あ、あの婚活の人」と言われるのは望ましくありません。
2)短命になる

さらに、「婚活」が死語になったときに、BASiCSも同様に死語
だと認識されてしまう可能性があります。「あ、あの、昔はやった婚
活の……」と言われるのはまずいです。

ブームは必ず終わります。ブームの後の反動はすさまじく、大抵は、
次のブームが来るのは数十年後です。BASiCSがそれでは困りま
す。

このような理由で、BASiCSを婚活と結びつけることはしません
でした。

ですので、読者さんを通じてご紹介をいただくなど、地道な努力を続
けていくつもりです。ご協力をよろしくお願いします!
京王プラザの場合は、「ホテル」ですから、「あの婚活のホテル」と
は思われないでしょうし、婚活という言葉が消えたら、そのプランを
引っ込めればそれですむ話ですから、それほどのデメリットは無いと
思います。
ですから、ご自分の戦略や商品特性を吟味してから、どんな提案をす
るかしないか、というのを決めてくださいね。

 

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◆トレンドに乗る提案をする「提案力」をするための「Asset」
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●提案には当たり外れや寿命があるので、数を撃つ必要がある

ただ、女子会にしても、婚活にしても、そういう言葉の寿命は長くは
ありません。

それに、こういうブームに乗る提案は当たり外れがあるので、「数を
撃つ」必要があります。

京王プラザでは302種類のプランを開発したとのことですが、当た
らなかった提案の方が多分多いでしょう。
・提案には当たり外れがある
・トレンドはいつかは終わる、
となると、その「数を撃つ」ための「提案力」が必要になります。

組織としての「提案力」がカギになるんですね。

 

●Assetとしての提案力

「人×TPO×トレンド」の3Tで行う「提案」そのものは、
BASiCSで言えば「強み」になります。

京王プラザホテルの場合、「女子会プラン」という「強み・差別化」
のあるプランがある、ということです。

が、「女子会プラン」はカンタンにマネされてしまいます。

マネされたら、次のトレンドに乗った提案をすることになります。他
社が気づかないような提案を先駆けて行う提案力が必要です。それが
京王プラザホテルの高稼働率の源泉、です。

つまり、京王プラザは、「提案力」という「独自資源」を持っている
ということです。
カルビーなんかは、ものすごいスピードでフレーバー(味)の展開を
しますが、それも、「フレーバーの提案」という強みを生み出す、
「提案力」という独自資源を社内に持っているからこそできるわけで
す。
「強み」としての製品・サービス

    ↓↑

製品・サービスを生み出す「独自資源」

 

という、「強み」と「独自資源」の関係です。
京王プラザの場合は、そういう「提案」を促進する「文化」があるこ
とが記事にありますね。
「失敗は責めない。挑戦しないことには怒る」(浦辺総支配人)

という「文化」(文化は強力な独自資源の1つです)があるから、
「302種類」ものプランが出てくるのでしょう。

 

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◆日本は密着軸の時代へ
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●大量生産 → 多品種少量生産の時代へ

さて、そろそろ収束していきますね。

シリーズ1号のアツギの事例に戻りましょう。

「全員が白いソックス」を履いていた時代には、白いソックスだけを
大量生産していればよかったわけです。違うのはサイズくらいですよ
ね。

しかし、「人×TPO」で細分化しなければいけない現代では、使い
方に合わせて、デザイン、丈の長さ、などを用意する必要があります
よね。アツギの場合も、アイテム数が6倍になったとのことです。

これは、商品開発や広告・宣伝に留まらない、大きな影響をもたらし
ます。言ってみれば、「産業構造の転換」です。

これが、90年代以上の日本経済の「長期トレンド」です。
「好みの多様化により、生産品種の多様化」が必要とされるようにな
ったわけです。表現としては当たり前なのですが、大事なことです。

すると、生産も在庫管理も一気に大変になりますね。白いソックスと
違って、ファッション品は「生もの」で、腐ります。ですから、生産
と市場動向との間を縮めて、売れるものを早いサイクルで作っていく
というようなことになるわけです。生産、産業が変わっていくわけで
す。

 

●日本国内は、密着軸の時代へ

ここまでの主張には、それほど反対はないでしょう。ここからは私見
で、売れたま!的な主張です。
「画一的大量生産・低価格」は、手軽軸的な手法です。80年代まで
の日本はそれでも良かったわけですね。

「個別生産・それなりの価格」は、密着軸的な手法です。これは、ニ
ーズが多様化した今の時代に合っています。

逆に言えば、今の日本は「密着軸」で戦うのが有利な時代になったわ
けです。
手軽軸は、高度成長期に適した方法です。

商品軸は、好況期期に適した方法です。実際バブルの時代には、高価
格なものから売れていったとよく言われます。

60~70年代 :手軽軸の時代
80年代~バブル:商品軸の時代

を経て、現在は「密着軸の時代」になったと私は考えています。
手軽軸は、「一番安い」というニーズに応えます。
商品軸は、「一番良い」というニーズに応えます。

方向は逆ですが、この2つの共通点は、「トップ一社しか勝ち残れな
い」ということです。一番安い、か、一番良いか、しかないわけです
から。
密着軸は、ニーズが多様化し、そのニーズ(=顧客セグメント)1つ
1つに答えるわけですから、ニーズの分だけやりようがあります。ニ
ーズの分だけ、自社が生き残ることができます。

日本のように、ニーズが多様化したエリアでは、自社が得意とするニ
ーズ(=顧客セグメント)を選び、そこに特化して戦えば、生き残る
余地があります。
中国などは、まだそこまでは来ていないと思われます。日本のコンビ
ニやファストフードでは、おつりの渡し方まで、「両手を添えて、笑
顔でにっこり」と、きちっと教育されています。海外に行くとわかり
ますが、こんなことができている国は日本だけです。

逆に言えば、そこまでできている日本の市場では、コンビニやカフェ
のアルバイトでも非常に優秀なのですから、どこかのニーズに特化し
て強みを磨かないと厳しいです。

そうでなければ、中国に出て行って、手軽軸的な戦い方をするか、と
言うことになります。
ニーズが多様化しているからこそ、どこかにニーズに特化して戦う、
ということがしやすいわけですね。

これは、大企業にとってはむしろ厳しい話です。「強みは弱み、弱み
は強み」ですが、規模が小さいことが有利に働く「戦場」に日本はな
りつつあると考えています。
ニーズの変化 → 有利な差別化軸の変化 → 戦い方の変化

と考えていくと、このような結論に達します。
全てはニーズありき、です。なぜなら、買うか買わないかを決めるの
はお客様だからです。
このような長期トレンドに基づき、「密着軸」の時代だと判断しまし
た。

だから、「白ネコ」「売れる仕組み」は、両方とも密着軸をメインに
しているんです。たまたまではなくて、一応(笑)きちんと考えてい
るんですよ。

 

●「提案力」が今の時代に必要な「独自資源」になる

ここまでをまとめると……

Target(人)
TPO(使い方)
Trend(トレンドワード)

という3Tに基づいた、具体的で、キメ細かい提案をできる力が90
年代以降必要な「経営パワー」であり、独自資源ということになりま
す。

私は、多くの日本企業がつまずいているのがここだと思っています。

手軽軸の「生産力」をコアの独自資源に置くと、中国に負けます。
商品軸の「技術力」をコアの独自資源に置くと、米国に負けます。

「負ける」というと言い過ぎだなのであれば、優位が相当小さくなっ
たと読み替えてください。

どちらにしても今までと同じ戦い方ではダメだ、ということです。

残るは

密着軸の「提案力」

なんですよ。お客様の個別ニーズに合わせて、日本人らしい、相手に
合わせたキメ細かい、気の利いた提案をしていく力、これが日本の生
きる道なんだと思っています。
どうすればいいのかというと単純で、売れたま!で主張しているよう
な「マーケティング脳」を鍛えればいい「だけ」です(カンタンでは
ないですけどね)。

「女子会」などのトレンドも、注意していればわかります。

2年くらい前に、ある女子会に「先生」という立場でご招待されまし
た。持ち回りで誰かの家に、食材やワインを持って集まって、料理作
って食べる、という会です(私はエスプレッソ作りました(笑))。

「へえ、今のアラサー、アラフォーってこんなことしてるんだあ」

というのが率直な感想だったのですが、それは一部ではなく、いつの
まにかメジャーな「トレンド」になっていたんですね。

 

●提案力に必要なのが、「マーケティング思考」

こういう「経験」を蓄積して、「つぶやき」「静止画」「動画」など
のイメージ力を鍛えていくわけです。

すると、3Tに基づいた、「具体的」な「利用場面」に合わせた提案
ができるようになります。

このような問題意識で書いたのが(この意図があまり伝わってないか
もしれませんが)書いたのが、「実戦マーケティング思考」ですね。

*「実戦マーケティング思考」 佐藤義典著
http://www.sandt.co.jp/shiko.htm
マーケティングが企業経営の中核である時代には既になったわけです
が、その意識は必ずしも共有されていません。

逆に、そういう意識を持っている私たちは、圧倒的な優位にたってい
るんですよ。

頑張っていきましょう!

 

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◆今日のまとめ
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●Target×TPO×Trendの3Tで具体的な用途提案をし
 よう!

 

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