2011-03 マクドナルドの戦略指標

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.179 2011/03/10
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●分析の際には、基礎的なデータを、時間を長期的にさかのぼり、き
 ちんと洗いだそう
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◆戦略指標と勝利の方程式
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●戦略指標:それをおいかければ戦略が実行される指標

売れたま!の最近のメインテーマの一つ、戦略指標。

戦略指標とは、

「その数字を追いかければ、戦略が組織で自律的に実行される指標」

です。

戦略指標とは、戦略を数値化したもの、です。戦略は組織全体で同じ
方向を向いて実行していくものですから、戦略指標も組織全体として
追いかけていくものになります。
詳細は、拙著「売れる数字」*でどうぞ!

*「売れる数字 ~組織を動かすマーケティング~」 
佐藤義典著 朝日新聞出版

http://ow.ly/32zKP

 

●マクドナルドの戦略指標

今回は、マクドナルドの戦略指標を考えてみましょう。

なお、データは私が調べたものです。正確なデータを心がけてはいま
すが、色々なデータソースを使っているので、間違いがあった場合に
はご了承ください。

データの引用などをされる場合には、ご自分でお調べくださいね。
まずは、マクドナルドの歴史を見ていきましょう。

マクドナルドは1971年、日本に上陸しました。さすがにそこまで
は戻れないので、読者さんも記憶がある、90年代くらいから見てい
きましょう。

 

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◆黄金時代:出店による売上増加の時代
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●出店で売上が伸びた1990年代

マクドナルドは、2004年くらいまでは、客数と客単価をHPで公
開していたんですね。

もう公開は止めているようですが、私はそのデータを保存して残して
いたんですよ。超貴重なデータを一挙大公開! こういうところはマ
メなのが(私生活はともかくとして)私の「独自資源」だったりしま
す。

とはいえ、これは現時点でのマクドナルド「公式」データではありま
せんので、参考データですね。

繰り返しますが、数字に正確は期しますが、引用されたりする場合に
は必ずご自身で調査し直してくださいね。打ち間違いなどもあるかも
しれませんので。
では、まずは売上高から見ていきましょう。

ここでいう「売上高」は、日本マクドナルドの売上、です。その意味
は、マクドナルドはフランチャイズですので、フランチャイズの分は
「小売の売上」ではなく、素材などの「卸売上」になるからです。

「マクドナルドという店が消費者に売った売上」は、マクドナルドで
は「全店売上高」「システムワイドセールス」と呼ばれています。

 

      売上高    営業利益

1994 1,732   118
1995 1,971   187
1996 2,479   205
1997 2,763   225
1998 3,144   256
1999 3,285   307
2000 3,579   294
2001 3,617   193
2002 3,207    39
2003 2,998    28
2004 3,081    72

(等幅フォントでご覧下さい)
2000年頃のピークまで売上も営業利益も順調にというか劇的に伸
びているのがわかります。2000年過ぎに失速しますが、それにつ
いては後で見ていくことにして、この売上・利益の伸びを引っ張った
要因は何かというと……

 

      客数     客単価    店舗数   店舗数増分
     (百万人)

1994   477   717   1,169    -
1995   585   679   1,482   313
1996   743   650   2,004   522
1997   826   653   2,437   433
1998   986   647   2,852   415
1999 1,167   635   3,258   406
2000 1,318   615   3,598   340
2001 1,259   599   3,822   224
2002 1,183   585   3,891    69
2003 1,157   598   3,773  -118
2004 1,175   600   3,774     1
1990年代後半にすさまじい店舗数を出しています。

ロッテリアの店舗数が、現在500店前後ですから、90年代後半に
毎年ロッテリアを作るくらいの勢いで、出していたわけですね。

1994~2000年で……

・売上:  2.1倍
・客数:  2.8倍
・店舗数: 3.1倍
・営業利益:2.5倍

と、すさまじい伸びですね。

つまり、先ほどの伸びは、「店舗数の伸び」が引っ張った売上です。

今は、マクドナルドはどこにでもありますが、そういう時代になった
のは、2000年頃という、意外に最近のことなんですね。

70~80年代くらいまでは、マックがある場所はオシャレな場所、
という感じで、地元の駅にできたときもちょっとした騒ぎになったこ
とを覚えています。

つまり……「店を出せば売れる」という状態だったので、ガンガン出
店した、というのが90年代後半の成長の要因です。
これが、後で規模の経済として効いてくる一方で、膨大な負の資産も
作り出すことになります。
そして、この勢いを駆って、2001年7月にJASDAQに上場し
ます。上場も結構話題になりましたよね。

 

●店を出せば、お客様が来てくれた90年代

店舗数が伸びれば、客数が増えるのは当たり前です。客単価は若干落
ちていますが、客数が上がれば客単価が下がるのは当然なので、それ
はしょうがないですね。

上の数字から、前年比の伸び率を計算してみましょう。数字を色々と
加工して、数字からわかることを探っていくわけです。
      客数伸び率  店舗数伸び率
1995   23%    27% 
1996   27%    35% 
1997   11%    22% 
1998   19%    17% *
1999   18%    14% *
2000   13%    10% *
2001   -4%     6%
2002   -6%     2%
2003   -2%    -3%
2004    2%     0%

 

*をつけた年は、客数伸び率>店舗数伸び率、となっている年です。
店を出した以上に客数が増えた、という絶好調のときです。

90年代は、いわゆる「失われた10年」ですが、マクドナルドはそ
れをものともせず、拡大していきます。

1998年、1999年は、GDPがマイナス成長の年です。それに
も関わらず、なのか、それだから、なのかはわかりませんが、店舗数
以上の客数の伸びを記録しています。

ちなみに、1985年から、210円で据え置かれていたハンバーガ
ー1個の値段を、130円に値下げしたのが1995年でした。そし
て、平日半額(65円)を始めたのが2000年です。

このあたりまでは、マクドナルドは「価格戦争の覇者」として称賛さ
れる存在でした。

 

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◆苦難の時代:2000年~
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●2001年ショック:限界に達した出店増戦略

順調だったマクドナルドに、異変が起きたのが2001年。私は、マ
クドナルド2001年ショック、と勝手に呼んでいます。
      客数伸び率  店舗数伸び率  店舗数増
2001   -4%     6%    224店
2002   -6%     2%     69店
224店という出店をしたのに、客数が減ったのです。店を出しても
客数が伸びなくなったんですね。2001年、2002年は、店は増
えているのに客数が減っているんです。

なぜでしょうか?

2001年はITバブル崩壊の年であり、景気の影響を受けたのかも
しれませんが、もし景気の影響ならば、1998年、1999年の経
済マイナス成長の時のマクドナルドの伸びが説明できません。

何かが起きたのです。
おそらく、その理由は……
はい、「店の出しすぎ」でしょうね。いわゆる「飽和状態」に達した
のです。

ファストフードチェーンとして、3,800店というのは当然当時は
日本一であり、圧倒的な規模です。

現在、ドトールが1,119店、スターバックスが877店です*。

*ドトールは2010年12月末、スタバは2010年3月末、両社
 HPより

ドトールとスタバを足してざっくり2千店、それに比べると、マクド
ナルドの店舗数がいかに多かったか、よくわかります。2倍弱ですか
らね……
語学教室のNOVA倒産の原因の一端が、教室の出し過ぎによる、自
社内競合と言われていますが、同じような状況に陥ったのでしょう。
私の言葉でいうところの「手軽軸のワナ」ですね。

 

●問題には「前兆」がある

この問題は、実は2001年に突然起きた問題ではありません。こう
いう「突発的」な減少は、「突発的」に見えて、実は、どこかに兆候
が出ているものです。
90年代後半の急激な成長は、やはり歪みを生んでいたようで、既存
店の売上げ高が足下で落ちていたのです。
      既存店売上高(対前年比)

1997  -2.3%
1998  -0.3%
1999  -6.3%
2000  -0.7%
2001  -6.5%
2002 -12.1%
2003  -4.4%

2010年 決算説明会資料
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2010/2010_result.pdf
我が世の春を謳歌していた90年代後半、既存店売上高は既に落ちて
いました。

にも関わらず、すさまじい勢いで出店し、売上自体が伸びていたので
この既存店売上高の落ちはそれほど問題視されていなかったのでしょ
うね。

 

●2002年:価格戦略による迷走

2002年は、創業以来初めての赤字決算を記録します。2002年
2月、平日半額セールをとりやめ、ハンバーガーを1個80円としま
すが、客数がさらに減少、-6%を記録します。

そこで、半年後の2002年8月、59円にまで再値下げ、11ヶ月
後の2003年7月、低価格イメージを刷新すべく、再び80円に戻
します。

私の目から見る限りは、「迷走」しているように見えました。お客様
からみると恐らく「何やってるの? いくらなの?」という感じだっ
たのではないでしょうか?

 

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◆復活の刻:2004年~
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●2004年、原田社長就任

2002年、伝説の経営者である藤田社長が引退、八木社長を経て、
2004年、現社長である原田氏が社長になります。
      システムワイドセールス  営業利益・億円
     (全店売上高・億円)

2000  4,311        294
2001  4,389        193
2002  4,027         39
2003  3,867 ※       28
2004  3,959         72
2005  4,118         32
2006  4,415         74
2007  4,941        167
2008  5,183        195
2009  5,319        242
2010  5,427        281

(マクドナルド決算短信より抽出)

システムワイドセールスは、先ほどの「売上高」の数字とは違い、言
わばマクドナルドの「総末端売上」のような数字です。

FC店売上+直営店売上、です。

全店売上高は、営業利益、ともに2003年をボトムに底打ちし、見
事な復活を果たします。

これは、MBAのケースはもちろん、小説や映画にもなりそうな、見
事な復活劇ですね。相当な苦難があったであろうことは想像に難くあ
りません。

既存店売上高も、原田社長が就任された2004年から回復を果たし
ます。

      既存店売上高対前年比

1997  -2.3%
1998  -0.3%
1999  -6.3%
2000  -0.7%
2001  -6.5%
2002 -12.1%
2003  -4.4%
2004   3.4%
2005   3.3%
2006   5.5%
2007  10.2%
2008   4.0%
2009   1.1%
2010   4.5%
2010年 決算説明会資料
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2010/2010_result.pdf

 

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◆マクドナルドの戦略指標は?
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ということで……

今回は終了です!

まずはデータを色々と出してみました。実は一番時間がかかるのは、
こういうところだったりします。

こんなまとまった形のデータがあるわけではないですから。

分析の際には、長期的に見ることも大事です。今回はデータがある範
囲で15年くらい戻りました。できれば20年くらい見ておきたかっ
たのですが、やむを得ないですね。もちろんマクドナルド社内にはあ
るでしょうが、公開されているデータの中で頑張ってみました。

私はマクドナルド研究家なので(冗談ですよ)、色々とデータは日頃
から集めていますが、それでもここまでデータをこの形で揃えるのは
結構時間がかかりました……

 

●マクドナルドの戦略指標は?

さて、ここまでのデータや、今マクドナルドが実施している施策から
考えて、マクドナルドの戦略指標は何だと思われますか?

恐らくここまでのデータの中にある項目から導き出せると思います。
考えてみてください!

 

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◆今日のまとめ
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●分析のときには、まずは基礎的なデータをきちんと洗いだそう!
 長期的に、昔のデータも見てみよう!

 

 

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.180 2011/03/14
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●戦略指標がもたらす「最終成果」の分析をきっちりと行おう!
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◆被害にあわれた方のためにお祈りをしたいと思います
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●売れたま!からの「メッセージ」

この度の震災で被害にあわれた方のご無事と、一刻も早い復興をお祈
りしております。

売れたま!として、何ができるか……そもそも、この売れたま!を発
行すべきなのか……それより節電した方がいいのではないか……

そんなことも考えましたが、

「自分のできることを自分なりに精一杯やろう」

という結論に思い至り、売れたま!を通常通り出すことにいたしまし
た。

被災地でこれをお読みの方、こんなときに長いメールを送ってしまっ
て申し訳ございません。一刻も早い復興をお祈りしております。
今も大変ですが、この後も大変です。この後、少しでも復興に協力す
るためには、復興を支援する体制を一刻も早く作った方がいい、すな
わち、直接の被害に遭ってない人が、ムリのない範囲で平常通りに戻
ることが、復興の協力になると思います。募金するにしても、自分が
利益をしっかり出していなければ募金もできないんですよね。

何より、平常通りの活動をすることが「日本は大丈夫だ」というメッ
セージの発信になるかと思い、今日の売れたま!も「平常通り」に出
すことにいたしました。

被災地の方が、復興を終えて一段落し、これから立て直して行こう、
「マーケティングどうしようか」というときのために少しでも良い記
事を残しておく、それが売れたま!のできる「使命」なのかな、と思
います。BASiCS的に言えば、私達1人1人が、それぞれの強み
を活かした復興活動・復興支援をしよう、となります。私は、私ので
きることを頑張って行く所存です。
日本は、色々な苦難を乗り越えて、今日の発展を迎えてきました。そ
れも、ご先祖様のお陰です。今度は、私達の番です。私達が、自分た
ちにできる限りのことをして、後生によりよい日本を残す、そのため
に少しでも頑張っていきたいと思います。
個人の力でできることは限られています。でも、その限られたことを
しっかりとやっていきたいと思います。この後は、恐らく財政出動と
それに伴う増税があるでしょう。復興に使われるのなら、喜んで税金
を払います。東海村の事故では干しいもの風評被害が起きてしまいま
した。消費者として、そのような風評に惑わされないようにしたいで
す。あと、今できる大きな貢献は「節電」、ですね。こんなときです
から少しのガマンには喜んで耐えたいと思います。
私達マーケターは、恐らく日本で一番「メッセージの重要性」を理解
している人達です。しっかりしたメッセージを、周囲に発信していき
ましょう。

ある方が「コンビニの空いたタナに、応援メッセージを記入するコー
ナーでも作ればいいよね」とおっしゃっていました。そういうちょっ
としたアイディアで世の中は元気になっていくと思います。
では、今日の売れたま!です!
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◆復習:戦略指標と勝利の方程式
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●戦略指標:それをおいかければ戦略が実行される指標

売れたま!の最近のメインテーマの一つ、戦略指標。

戦略指標とは、

「その数字を追いかければ、戦略が組織で自律的に実行される指標」

です。

戦略指標とは、戦略を数値化したもの、です。戦略は組織全体で同じ
方向を向いて実行していくものですから、戦略指標も組織全体として
追いかけていくものになります。
戦略指標の詳細は……
「売れる数字 ~組織を動かすマーケティング~」で!
佐藤義典著 朝日新聞出版
http://ow.ly/32zKP

戦略BASiCSをアップグレードする1冊!

 

●マクドナルドの戦略指標

前回から、マクドナルドの戦略指標を考えてきています。今日は、そ
の2回目です。

なお、データは私が調べたものです。正確なデータを心がけてはいま
すが、色々なデータソースを使っているので、間違いがあった場合に
はご了承ください。

データの引用などをされる場合には、ご自分でお調べくださいね。

 

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◆営業利益率が大幅に改善
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●営業利益率の大幅な改善

今回は、戦略指標の本丸につっこんでいく前に、周辺の数字を見てい
きます。もったいぶっているわけではなく(笑)、もちろん戦略指標
に関係ある数字として、です。
戦略指標の「最終成果」は売上や利益、です。

今回は、その「最終成果」である「利益」を見ていきましょう。
2007年~2010年の間に、営業利益率が大幅に改善されていま
す。

          2007    2010

全店売上高   4,941億  5,427億
(システムワイドセールス)

売上高     3,951億  3,238億
売上原価    3,310億  2,561億

売上総利益     640億    677億
(粗利)

売上総利益率*  16.2%   20.9%
(粗利率=売上高/売上原価)
販管費       473億    396億
営業利益      167億    281億
営業利益率     4.2%    8.7%

(各年の決算短信より、粗利は筆者計算)
○全店売上高(システムワイドセールス)=直営店売上+FC店売上

です。つまり、マクドナルド全体での小売売上、ですね。

2007年と2010年を比べてみると、不思議なことに気づきます
ね。

「全店売上高」は上がっていますが、「売上高」は下がっています。

にも関わらず、営業利益額は、大幅に増額、営業利益率が2倍以上に
改善されています。

これは、一体何が起きているのでしょうか?

 

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◆フランチャイズ店の急激な増大
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●ここ数年で急激に増えるフランチャイズ店

ちょっと興味深い数字を見てみましょう。例によって、データは私の
手計算(Excelですけどね)の部分もありますし、2000年以前の
数字は、現在は公開されていないようですので、保証はいたしかねま
す。
     FC店比率
1994  25%
1995  25%
1996  23%
1997  22%
1998  21%
1999  20%
2000  21%
2001  24%
2002  28%
2003  30%
2004  29%
2005  27%
2006  26%
2007  29%
2008  42% *
2009  54% *
2010  60% *

FC店比率は、全店にしめる、フランチャイズ店の比率です。逆に、

直営店比率 = 1-FC店比率

となります。

ここ十数年来、FC店比率は2~3割でした。7~8割が直営店だっ
たわけですね。

それを、2008年から、この数年で一気にFC化を実現しました。
すごい力業、と言えそうです。正直、「すごい、よくやったな」とい
う印象です。
2010年の決算説明会資料によれば、2011年以降のFC店比率
の目標は「70%」とのことです。

http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2010/2010_result.pdf
P.32

 

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◆FC化がもたらした営業利益率の増加
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●FC化の意味

マクドナルドの売上の内訳は……

○売上高=直営店売上高+FC収入+その他売上

です。FC「収入」であって、FC「売上」ではありません。FC収
入は、FC店に対する売上(ロイヤルティや、原材料の卸売など)で
あって、末端の小売売上とは違います。FC化すると、直営店だった
ときの「売上」が、ロイヤルティ収入などになるわけです。ですから
会社としての会計上の売上は下がります。
FC店から見ると、ざっくりこうなります。

    FCの売上=小売売上  ←マックの全店売上高
  -)マック本体への支払い  ←マック本体のFC収入
  -)その他費用
  ――――――――
   FC店の利益

 

●FC化による大幅な利益増

この営業利益率の改善をもたらした、1つの要因がFC化と言えそう
です。

直営店売上高とFC収入について、詳しく見ていきましょう。
          2007    2010

売上高     3,951億  3,238億 (-713億)
売上総利益     640億    677億  (+37億)
(粗利)
直営店売上   3,620億  2,556億
直営店売上原価 3,094億  2,124億
直営店粗利     526億    432億  (-94億)
FC収入      326億    677億
FC収入原価    213億    432億
FC粗利      113億    245億 (+132億)

(各年の決算短信より、粗利は筆者計算)
直営店売上+FC収入を足しても、売上高とピッタリ一致しない理由
は「その他」という項目があるからです。が、割合としては小さく、
要は

○売上高=直営店売上+FC収入

ですね。
先ほどの理由で、FC化すると「売上高」は減ります。ここでは、
713億円減、と大幅に減っています。が、粗利は37億円増えてい
います。

それが、このFC化による粗利増なわけで、直営店減少による粗利減
と、FC店増加による粗利増で、差し引き

-94+132=+38億円

のプラス、ということですね。
営業利益率増加の大きな要因の1つが、この「FC化」と言えそうで
すね。

では、FC化とは、この「利益率改善」だけのために行ったのでしょ
うか?

 

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◆差別化軸と店舗運営形態
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●差別化軸と、直営vsFC

店舗運営に限りませんが、基本的には何事も「戦略次第」です。

直営店方式を選ぶか、FC方式を選ぶか、も戦略次第です。
ここで、ドトールコーヒーの店舗を見てみましょう。

              FC    直営    計
ドトールコーヒーショップ 974  145  1,119店
エクセルシオール・カフェ  39  134    173店

http://www.doutor.co.jp/ir/jp/report/fcinfo.html
(2010年12月末現在)
比率を計算しますと、以下のようになります。
          FC店比率  直営店比率
ドトールコーヒー  87%    13%
エクセルシオール  23%    77%
同じ「ドトールグループ」なのに、このように、運営形態を極端に変
えているのは、なぜでしょうか?

 

●復習:3つの差別化軸とは?

売れたま!でも何度となく紹介している3つの差別化軸。差別化戦略
は大きく分けて3つしかありません。

1)手軽軸:早い、安い、便利
2)商品軸:商品・サービスが良い
3)密着軸:個別具体的ニーズに応える

となります。

これは私のオリジナルではなく、元ネタは、マイケル・トレーシー、
フレッド・ウィアセーマ両氏のValue Disciplinesを解釈・再定義し
たものです。

 

●手軽軸→FC

手軽軸は、早い、安い、便利、で差別化します。すると、大量出店に
よる利便性、さらには規模の経済による低価格、を志向することにな
ります。

こう言っては何ですが、ある程度のバラツキ(従業員の質など)を覚
悟した上で、多く店を出したい、ということです。また、大量出店す
る際に、その資金を全て自社で負担するのは限界があります。

すると、FCという運営形態を志向することになります。

 

●商品軸・密着軸→直営店

エクセルシオールが商品軸か密着軸かは難しいところですが、そのど
ちらか、ではあるでしょう。エクセルシオールはスターバックスのフ
ォロワーと言って良いかと思いますが、スタバは「密着軸」を志向し
ているように見えます。
商品軸の場合は商品・サービスの質、密着軸の場合は顧客応対の個別
性の高さ・愛想の良さ、などで差別化します。

すると、従業員の質を相当程度以上のレベルに保つことが極めて重要
になります。店舗設計などにも、ある程度のコントロールを効かせた
いでしょう。

すると、直営店を志向することになります。
ですから、「ドトール」はFCをメイン、「エクセルシオール」は直
営をメイン、ということにしているのでしょうね。
ちなみにスタバも直営店です。スタバのHPの記載を見てみます。

―――――――――――< HP引用 >――――――――――――

*ライセンス店舗について

スターバックス コーヒー ジャパンは、直営店舗を軸に展開しており
FC(フランチャイズ)ビジネスは行っておりません。特定商圏等の出
店について、価値観・マインドを共有でき、商品とサービスのクオリ
ティに強い拘りを持つ企業とライセンス契約を締結した上での店舗展
開し、2004年12月に1店舗目をオープン、現在4社との契約において
15店舗の出店を行っております。

http://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2007_0918.php

―――――――――――< HP引用 >――――――――――――

セオリー通り、ですね。「商品とサービスのクオリティに強い拘り」
を実現したいから、コントロールの効く直営店をメインにし、FCは
やらない、ということです。

スタバはANAなんかともライセンス契約しています。羽田空港の
ANAのゲートのところにスタバがありますが、恐らく、あの店が、
この「ライセンス店舗」なのでしょう。

それでも、ライセンス店舗は877店中32店、と、5%もありませ
ん(2010年3月現在)。

http://www.starbucks.co.jp/company/index.html

 

こう考えてくると、恐らくは手軽軸を志向しているマクドナルドが、
FCに舵を切るのは自然ですね。

マクドナルドは、基本的には手軽軸志向の会社です。本来的に、FC
形式で良かったのですが、今まで直営店でやってきました。それを、
セオリー通りの「手軽軸=FC店」に「戻った」と言えそうです。し
かも利益率も高まる、というわけです。

戦略との一貫性、という意味でもマクドナルドのFC化は理解できる
ところです。
次回は、このFC化がもたらした、もう1つの経営指標の改善を見て
いきましょう。

ある財務指標が改善されました。それは、果たして……?

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●戦略指標を考えるにあたっては、「最終成果」の分析もきちんと行
 おう!

 

 

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.181 2011/03/17
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●経営指標の改善のためには、やるべきことを徹底してやるしかない
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆前回のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●FC化による、営業利益率の改善

前回は、2007年→2010年に、マクドナルドの営業利益率が劇
的に改善されたことの1つの要因が、FC店比率の増加にあることを
見てきました。

まとめの表は、以下です。毎度のことですが、私の計算も含まれてい
ますので、引用される場合は、ご自分でお調べになられてください。
          2007    2010

全店売上高   4,941億  5,427億
(システムワイドセールス)

売上高     3,951億  3,238億
売上原価    3,310億  2,561億

売上総利益     640億    677億
(粗利=売上高-売上原価)

売上総利益率   16.2%   20.9%
(粗利率=売上総利益/売上高)

FC店比率      29%     60%

直営店売上   3,620億  2,556億
直営店売上原価 3,094億  2,124億
直営店粗利     526億    432億  (-94億)
FC収入      326億    677億
FC収入原価    213億    432億
FC粗利      113億    245億 (+132億)

(各年の決算短信より、粗利は筆者計算)

 

*お詫びと訂正

前号で、

売上総利益率*  16.2%   20.9%
(粗利率=売上高/売上原価)

という表記がありました。

正しくは、粗利率=売上総利益/売上高 です。ここに訂正するとと
もに、お詫び申し上げます。

 

今回は、FC化に関連する数字として、営業利益率に加えて、もう1
つの財務指標を見ていきましょう。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆総資産経常利益率
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●総資産経常利益率(ROTA)の大幅な改善

さて、FC化に関係しそうな、もう1つの指標を見てみましょう。

2009年の決算説明会資料*に出てくる項目の1つに、「総資産経
常利益率」があります。資料にはROTAと標記されていますが、一
般にはROA(Return On Asset)と呼ばれるものです。

*2009年の決算説明会資料
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2009/2009_result.pdf
総資産経常利益率 = 経常利益/総資産

で、持っている「資産」の収益性・効率性、を見る経営指標ですね。

その数字も、営業利益率同様、劇的に改善されています。
       総資産*   経常利益  総資産経常利益率**
2007  1893億   156億    8.4%
2008  1902億   182億    9.6%
2009  1807億   233億   12.5%
2010  1743億   272億   15.6%

*決算短信の期末の数字を基に計算
ここに記載の「総資産」の数字は、期末の数字です。

右にある「総資産経常利益率」**は、マクドナルド発表の数字です。
それは「期中平均」*の数字を基に計算されているとのことです。

*「総資産-現預金」の期中平均
www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2010/2010half_financialdata.pdf
従って、上の数字で「経常利益/総資産」を計算しても、その右にあ
るマクドナルド発表の総資産経常利益率と若干のズレが生じます。そ
れは、ベースとする総資産が「期末」か、「期中平均」かの違いかと
推測されます。が、それほど大きな差はありません。
ともかく、

総資産=流動資産+固定資産

ですよね。

で、マクドナルドの決算書(貸借対照表)の「資産」項目を見てみま
しょう。目をひくのが、「建物及び構築物」という資産項目の減少で
す。
      建物及び構築物    直営店舗数 
   (減価償却を引いた純額)

 2003  401億    2,637店
 2004  384億    2,686店
 2005  389億    2,785店
 2006  424億    2,832店
 2007  446億    2,674店
 2008  400億*   2,166店*
 2009  341億*   1,705店*
 2010  311億*   1,337店*
総資産は、2007→2010年で、約150億円減っています。そ
して、この「建物及び構築物」が約135億円減っています。

この、「建物及び構築物」の金額は2008年から一貫して減り続け
ていますから、恐らく明確な意図の下に行われているのでしょう。

そして、その右につけた「直営店舗数」をいう数字を見てみると、ほ
ぼその数字と連動していることがわかりますよね。

2003~2009年にかけては、総店舗数は3700~3800店
くらいですから、大幅な変動はありません。

ですから、「建物及び構築物」項目の減少は、直営店のFC化がその
要因と言えそうです。

実際、2010年の決算短信の貸借対照表の「(9)連結財務諸表に
関する注記事項」に、「フランチャイズ契約の締結に伴う店舗運営事
業の売却により他勘定へ振り替えた固定資産の帳簿価額」として、
「建物及び構築物 6,071(百万円)」という記載があります。
61億円の「建物及び構築物」が、別の勘定になったわけですね。

FC化して「店舗運営事業を売却」し、「建物及び構築物」という項
目の数字を減らしたわけです。

 

●黙っていても指標は改善されない。すべきことをしよう!

総資産経常利益率を上げる方法は、2つあります。

総資産経常利益率 = 経常利益/総資産*

ですから、

1)経常利益を上げる か
2)総資産を減らす か、です。

FC化は、特に「2)総資産を減らす」ことによる総資産経常利益率
の改善も狙いの1つだったのでしょうね。
この総資産経常利益率いう指標が改善された理由は、そのためにすべ
きこと(この場合はFC化)を徹底的に推進・実行したからですね。

黙っていても、経営はよくなりません。すべきことをする、それに尽
きると思います。

 

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◆「負の資産の整理」
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●「負の資産の整理 ~フランチャイズ改革~」

さて、2009年の決算説明会資料*には、刺激的な言葉があるんで
す。それは……

「負の資産の整理 ~フランチャイズ改革~」

です。

*2009年の決算説明会資料 P.33
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2009/2009_result.pdf

「負の資産の整理」と書かれたデータを抜粋してみましょう。
          2006   2009

FCオーナー数   367人   265人
CF/オーナー   100%   336%
オーナー満足度   100%   129%

この傾向は、2010年にはさらに強まっています。
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2010/2010_result.pdf

オーナー数を減らし、オーナーあたりのキャッシュフロー(CF)を
増やしているわけですね。結果、オーナー満足度も高まっている、と
言うことです。
これだけだと、なぜ「それが負の資産の整理」なのか、わからないで
すよね?
ここから先は、推測も含めて、考えて見ましょう。ここからは推測で
すので、もし間違っていたら、ぜひ教えてください。

 

●原田社長が対峙した「負の資産」
現社長の原田氏が社長に就任したのは、2004年です。日経ビジネ
ス2010年2月22日号の記事から要約します。
―――――――――――< 記事要約 >――――――――――――

○原田社長が就任し、「この会社は米国籍のグローバル企業だ。意識
 を変えてほしい」と檄を飛ばした。
○藤田氏(元社長)の子飼いの関係者は反発。その多くは、藤田氏時
代に独立し、FC加盟店主となっている。「米国の手先、原田の横暴
を許すな」という怪文書も舞った。
○それに対し、原田氏は、2006年のFCオーナーを集めた会合で
 「ブランドを毀損するようなFC店には辞めていただく」と宣言。
○FC戦略も変更。個人が独立する仕組みではなく、地域の企業が一
 定の営業範囲内の店舗をすべて運営する「エリアFC」を導入。
日経ビジネス2010年2月22日号 P.14

―――――――――――< 記事要約 >――――――――――――
原田氏が新社長になって、それまでのやり方に慣れ親しんだ人達とぶ
つかったわけですね。これはどちらがいい悪いというよりは、新しい
ことをする、何かを変えようとするときには、もうやむを得ない対立
かと思います。
FCオーナー数は2006年の367人から、2010年には223
人となっています。CF/オーナーは、5.7倍です(!)。

http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2010/2010_result.pdf
ここまで、マクドナルドがFC店比率を高めてきたことは、論証した
通りです。そしてそれは2008年から実際に数字として顕著に出て
きています。

上の記事によると、「ブランドを毀損するようなFC店には辞めてい
ただく」と「宣言」したのが2006年。それが、FC方式へと舵を
切ていく際に必要な「宣言」だったのでしょう。
FC方式のリスクが、「バラツキ」ですよね。FCオーナーは「オー
ナー」ですから、自分の企業について裁量権を持ちます。しかし、そ
の裁量権が強いと、チェーンとしての統一性・一貫性が保てなくなる
というリスクが生じます。

そのリスクをコントロールし、全FC店舗での統一性・一貫性を保と
うとしたときに(それは、FC本部としては当然の方針です)、「藤
田氏子飼い」のFCオーナーとぶつかったのではないでしょうか?
恐らくは、FCオーナーの相当部分が入れ替わったのではないでしょ
うか? 「怪文書が舞った」と記事にありますが、そこには、表に出
てこない摩擦もあったかもしれません。

それらを「負の資産」と表現したのではないか、と思います。それを
乗り越えて、「FC化」を進めてきたわけですね。
経営指標をよくするためには、すべきことをするしかありません。そ
して時にはそれには困難がつきまとうこともあります。それをどう乗
り越えるか、というのも経営者の腕の見せ所ですね。

この壁を乗り越えて、すべきこと(この場合はFC化)を徹底したか
らこそ、総資産経常利益率が上がったわけです。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆総資産経常利益率は戦略指標になりえるか?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●総資産経常利益率は戦略指標の条件を満たすか?

では、この「総資産経常利益率」を戦略指標にすれば良いか、と思わ
れるかもしれません。

しかし、私は「総資産経常利益率」は、戦略指標としては適さないと
思います。

 

戦略指標の3つのポイント*は、以下です。

1)カンタンに計測・数値化できる指標
2)逃げ道が無い指標
3)「勝利の方程式」につなげる指標

*それぞれの詳細は、拙著「売れる数字 ~組織を動かすマーケティ
 ング~」でどうぞ。メルマガではさすがに説明しきれません……本
 書をお読みいただくと、この戦略指標シリーズの本当の意味がおわ
 かりいただけるかと思います。

http://ow.ly/32zKP

 
総資産経常利益率は、このうちの2)と3)の条件を満たさないと考
えられます。
2)逃げ道が無い指標

この数字は、「逃げ道」のある指標です。「誤った行動」を引き起こ
す余地を残します。

例えば、「不採算店舗」をひたすら閉店していく、というような行動
を促進します。それ自体は悪いことではない、というかやるべきこと
の1つ、ですが、それだけだと、縮小均衡に陥ります。売上を上げる
ような行動をせずに、縮小均衡だけでも褒められる、ということにな
ります。
3)「勝利の方程式」につなげる指標

「総資産経常利益率」は、「結果」の数字であり、プロセス指標では
ありません。戦略指標は、プロセス指標です。勝利の方程式につなげ
る、というよりは、勝利の方程式が達成することを目指す数字、に近
いように思います。
結論として、総資産経常利益率は、重要な財務指標の1つ、ではあり
ますが、「組織全体を引っ張る戦略指標」としての役目は果たさない
と思います。

 

●FC化の効果は短期的

ここまで見てきた通り、営業利益率、総資産経常利益率の両方の経営
指標を改善した1つの要因がFC化と言えそうです。

ですが、それに頼るわけにもいきません。

FC化による改善は、FC化が一通り終わってしまえば、それで終わ
ります。

実際、FC店比率は既に60%に達し、目標値が70%ですから、こ
れからの影響は限定的です。

ですので、その意味でもFC化による「総資産経常利益率」はこれか
らは難しいでしょう。
そもそも、この「FC化」の推進については、「前提条件」があるは
ずです。それも戦略指標を考える際の1つのポイントです。

 

もちろん、FCオーナーだって経営者ですから、黙って原田社長の指
示には従わないでしょう。

このFC方式を遂行するにあたっては、ある前提があるんです。

そして、それは「戦略指標」と密接に関連します。

マクドナルドの戦略指標は何でしょうか? 次回、本論に入ります。
今回の売れたま!が、1つのヒントになるはずです。考えてみてくだ
さい!

しかし、決算説明会資料や、決算短信という公表資料から、実に色々
なことがわかる(推測できる)ものですね。戦略は数字に表れるんで
すよね。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●経営指標を改善するには、すべきことをするしかない。そのために
 は、抵抗も乗り越えて進もう!

 

 

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.182 2011/03/21
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●マクドナルドの近年の取り組みから、戦略指標を類推してみよう!

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆前回のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ここまでの2号で、マクドナルドはFC(フランチャイズ)化を進め
て、営業利益率・総資産経常利益率を上げたことを論証しました。
数字をまとめておきますね。
          2007    2010

FC店比率      29%     60%

全店売上高   4,941億  5,427億
売上高     3,951億  3,238億
売上原価    3,310億  2,561億

売上総利益     640億    677億
(粗利=売上高-売上原価)

売上総利益率   16.2%   20.9%
(粗利率=売上総利益/売上高)
直営店売上   3,620億  2,556億
直営店売上原価 3,094億  2,124億
直営店粗利     526億    432億  (-94億)

FC収入      326億    677億
FC収入原価    213億    432億
FC粗利      113億    245億 (+132億)

総資産     1,893億  1,743億 (-

総資産       8.4%   15.6%
経常利益率
(各年の決算短信より、粗利は筆者計算。総資産経常利益率は、
 2009年決算説明会資料*)

http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2009/2009_result.pdf
しかし、これらのいずれの数字も、戦略指標とはなりません。

戦略指標はプロセス指標*であり、総資産経常利益率はどは、むしろ
「最終成果」*に近い

*詳細は、拙著「売れる数字 ~組織を動かすマーケティング~」で
 どうぞ!

http://ow.ly/32zKP

 

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◆営業時間延長の取り組み
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

今回は、マクドナルドの近年の主要な取り組みを見ていきましょう。
これらから、戦略指標を類推するわけです。

まず、マクドナルドは、ここ数年間で、営業時間延長に取り組んで来
ています。
●朝マックの強化

まずは朝マックの強化です。

2004の決算説明会資料に、

「営業時間延長 6:30am開店にチャレンジ 現在約1,600
店舗で実施」

とあります(この資料は、HPにはもう無さそうです。私は保存して
いました)。

朝マックがいつ始まったかはちょっと調べきれなかったのですが、手
許の資料では、2002年には既に「朝マック」という言葉が読売新
聞に載っています。

それを強化しているわけです。

朝食限定メニュー(ハッシュポテトなど)などは、相当昔から提供し
ていた記憶はあります。ホットケーキなんかは比較的最近ですよね。
―――――――――――< 記事要約 >――――――――――――

原田永幸マクドナルド社長兼CEOは、全国約3800店のうち2千
店以上で開店時間を午前6時半などの早朝に早める方針を明らかにし

読売新聞2005.02.25 東京朝刊 B経 10頁

―――――――――――< 記事要約 >――――――――――――

 

●深夜営業→24時間営業の強化

朝マックの強化から、さらに一歩進み、「24時間営業」も近年強化
してきています。
2005年の決算説明会資料(これも、もうHPでは公開していない
ようです)に「成長の機会点」として

 ・朝食
 ・昼食
 ・スナック
 ・夕食
 ・深夜

と時間帯別に分け、2005年は「早朝営業」、2006年以降は
「深夜営業」を「成長の機会点」としています。

既にこのときに、「24時間営業にむけて」という言葉が登場して
います。

 

24時間営業が実質的に始まったのが、2006年のようです。
―――――――――――< 記事要約 >――――――――――――

日本マクドナルドは、5月から24時間営業の店舗を拡大し、今夏ま
でに約200店で実施すると発表。将来的には全店の約4分の1に当
たる約900店舗まで広げる。

同社は2005年から、開店を原則午前6時半からとするなど、営業
時間の拡大を進めており、24時間営業も現在数店舗ある。

読売新聞 2006.04.20 東京朝刊 B経 08頁
―――――――――――< 記事要約 >――――――――――――

 

2008年の決算報告資料*から、その取り組みを見てみると……

 2006年  466店
 2007年 1312店
 2008年 1632店

「深夜時間帯 年間売上25%アップ」

とのことです。

*2008年決算報告会資料
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2008/2008_result.pdf

2009年には、1813店まで増えています(決算短信)。ざっく
り半分が24時間店になりました。
マクドナルドの決算報告会資料を見ると、3年後くらいの姿がある程
度描かれ、そちらに向かって、きっちりと計画的に物事が進められて
いるのがわかります。

「将来はこうなるべき。だから今こうする」

という方向と施策にブレがないんですよね。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆デイパート戦略
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●時間帯別戦略「デイパート戦略」

営業時間延長が、1つの柱ですが、まだあります。

2006年の決算説明会資料*で「2007年 戦略的フォーカス」
として、強く打ち出されているのが、

「メニュー戦略・デイパート戦略」

という言葉です。

2006年決算説明会資料
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2006/2006result.pdf

「デイパート」とは、恐らく、1日を時間帯別に分ける、といった意
味だと思われます。

決算説明会資料では……

○ブレックファスト マックグリドル
○ランチタイム メガマック、チキンフィレオ
○スナックタイム 三角チョコパイ、マックフルーリーなど
○ベバレッジ コーヒー

が説明されています。

要は、1日(デイ)を、時間帯別に分ける(パート)ことによって、
それぞれの時間帯のニーズに適したメニューを展開していこう、とい
うことだと思われます。
その成果を、2007年の決算説明会資料*からピックアップしてみ
ましょう。
・ブレックファスト マックグリドル:13%の新規顧客獲得
・ランチタイム メガマック:10%の新規顧客獲得

と、それなりの成果があったようですね。
*2007年決算説明会資料
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2007/2007_result.pdf
マクドナルドは、おそらく「戦場」の定義を「時間帯」にしていると
思います。

 ・朝食
 ・昼食
 ・スナック
 ・夕食
 ・深夜

それぞれに強化メニューを出しているわけです

さらに言えば、平日と休日だって違いますよね?

曜日・時間帯が違えば、顧客が違い、それによって競合が変わり、戦
い方が変わるわけです。
それをここまで明確に出し、徹底している小売は珍しいですよ。大抵
の小売は、平日と土日で同じモノを同じ売り方で売ってますよね。

ここでは本論から離れるのでやりませんが、それぞれの「戦場」での
競合を考えて見るのも面白いですよ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆店舗のリモデルと戦略的閉店
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ここまで、マクドナルドの

・長時間営業
・時間帯別戦略

について見てきました。
●店舗のリモデル

さらにマクドナルドは継続して店舗の「リモデル」を行っています。

2007年の決算説明会資料からピックアップしてみましょう。
     リモデル店数
2003  128
2004  158
2005  241
2006  365
2007  280

と、5年間で1,172店をリモデルしています。2005年以降あ
あたりから強化しているのがわかりますね。
店舗改装、という意味では、2008年以降も続けています。

     店舗改装
2008 232
2009 178
2010 171

(各年の決算短信より)

ちなみに、決算説明会の「リモデル」と決算短信の「改装」では、数
字に若干の違いがあります。恐らくは「リモデル」と「改装」は、意
味が少し違うようなのですが、そこまではわかりませんでした。

 

●2010年、433店を一気に戦略的閉店

そして、2010年、マクドナルドは……

3,715店(2009年期末)→3,302店(2010年末)」

と、1割以上店舗を閉めます。

 出店: 73店
 閉店:486店
 ―――――――
 純減:413店
      閉店    開店    店舗数
2003  182   64   3,773
2004   40   41   3,774
2005   47   75   3,802
2006   64   90   3,828
2007  169   87   3,746
2008   88   80   3,754
2009  109   70   3,715
2010  486   73   3,302

(数字は各年の決算短信より)
それまで、3700~3800店で推移していましたが、2010年
に、一気に減らしたわけです。
うち、閉店486店のうち、433店は「戦略的閉店」だそうです。

2009年決算説明会資料*では、「負の資産の整理」として、戦略
的閉店店舗の選定基準が明らかにされています。

 ・キッチンキャパシティに拡大可能性がない店舗
 ・ブランドを毀損する店舗
 ・不適切なロケーションにある店舗
 ・新店舗デザインコンセプトに対応できない店舗
 ・リモデルの投資効果が得られない店舗

だそうです。要は、改善しようがない店、ということのようですね。

*2009年決算説明会資料
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2009/2009_result.pdf
店舗を出し過ぎると、どこかで飽和に達します(手軽軸のワナ)ので
どこかで修正しないといけません。しかし、それを時以降する、とい
うのはなかなか難しいモノです。

それでもやる、というのがすごいところです。

で、当然これだけ店を閉めれば、売上は下がると思われますね? と
ころが……

全店売上高(システムワイドセールス)は、下がるどころか上がって
います。
2009年 5,319億円
2010年 5,427億円
店舗を1割以上閉めて、それでも売上高を上げる、という離れ業をや
ってのけました。
もともと、「戦略的閉店」した店は、売上貢献度が低かった、という
こともあるでしょうね。他の店の売上アップで、閉店店舗の売上をカ
バーできると読んだのでしょう。

2009年は、2010年の全店売上高を5,340億円、と読んで
います。2009年の5,319億円から、戦略的閉店による売上減
と、既存店の売上アップで、「行って来い」ということですね。

2010年は、それよりも100億円近い積み上げをしたわけです。
そして、2011年には、3,278店と、さらに減らすようですが
全店売上高は、5,462億円という若干の上積みを狙っています。

店舗数を減らして、売上高を増やす方法は、1つしか方法がありませ
ん。

もう、おわかりでしょう、そうです。マクドナルドの戦略指標は……

ついに次号で!

 

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◆今日のまとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●マクドナルドの近年の取り組みは、「営業時間の延長」「デイパー
 ト戦略」「店舗のリモデルと戦略的閉店」。ここから導き出される
 戦略指標は?

 

 

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.183 2011/03/24
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●「戦略指標」は、主要な打ち手を統括し、PDSを回す主要指標
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◆マクドナルドの戦略指標は「1店当たり売上高」
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●マクドナルドの戦略指標は、「1店当たり売上高」

今号は、いよいよマクドナルドの戦略指標です。

ここまで紹介してきた、マクドナルドの主要な取り組みを復習してお
きましょう。
○営業時間延長:24時間営業
○デイパート戦略:時間帯別の売上増加
○店舗のリモデル・戦略的閉店
○FC化推進、オーナー当たりキャッシュフロー増加
これらを一言で言うと……

○1つ1つの店(個店)の競争力強化

ですね。

そして、その取り組みを統合する数字であり、そしておそらくマクド
ナルドの「戦略指標」と言える数字は……
==========
 1店当たり売上高
==========
だと私は思います。

例によって数字で検証してみましょう。

    全店売上高(システム 店舗数   1店当たり
    ワイドセールス)         売上高(億円)
2000  4,311    3598  1.2
2001  4,389    3822  1.1
2002  4,027    3891  1.0
2003  3,867    3773  1.0
2004  3,959    3774  1.0
2005  4,118    3802  1.1
2006  4,415    3828  1.2●
2007  4,941    3746  1.3●
2008  5,183    3754  1.4●
2009  5,319    3715  1.4●
2010  5,427    3302  1.6●
一番右の数字、「1店当たり売上高」は、2006年ごろから急速に
伸びています。
念のため、1店当たり売上高の「伸び率」を見てみましょう。

     1店当たり売上高伸び率(前年比)
2001  -4.3%
2002 -11.0%
2003  -1.0%
2004   2.3%
2005   3.1%
2006   6.1% ●
2007  12.6%
2008   4.5%
2009   3.6%
2010  12.9%

印をつけた2006年から、急上昇しているのがわかります。
ただ、ここで計算している数字は、私の計算です。マクドナルド発表
の数字とは誤差があります。

私の計算は、単純に

1店当たり売上高=全店売上高 / 期末の総店舗数

です。

恐らくですが、マクドナルド発表の数字は、店舗数を期中平均のよう
な形で計算しているのかもしれません。大量閉店した2010年の数
字は、差が大きくなっています。

この計算にしないと、私の方でこの10年間の数字が時系列で追えな
いので、この式を使っています。

 

「店舗ビジネスなんだから、店舗の競争力強化なんて当たり前だ」と
言われるかもしれませんが、そうとは限りません。

店舗ビジネスとしては、「個店の競争力強化」以外にも、

○立地開発による規模拡大・低コスト強化
 ・90年代のマクドナルドがそうであったことは論証したとおりです

○本部のメニュー開発力の強化
 ・ロッテリアがこの方向性のように見えます

などが考えられますね。このような戦略ではなく、「個店の競争力強
化」を選んだわけです。

 

●戦略指標でPDSを回そう!
1店当たり売上高が急上昇するのが、2006年からですね。

打ち手の時間軸を検証してみます

○24時間店 2006年ごろ
○デイパート戦略強化 2007年ごろ
○店舗のリモデル 2005~2007年ごろが最多
○FC化推進 2006年ごろ
これを見る限り、このような打ち手を打ち始めてから、如実に「1店
当たり売上高」という数字が上がっています

と、打ち手と指標(1店当たり売上高)が連動していることがわかり
ます。重要なので繰り返します。打ち手と指標が連動しています。
戦略指標を持つことの1つの大きなメリットが、

○戦略を数値化することで、PDSサイクル*を回せること
です。

*PDS=Plan Do See
このように、打ち手を打ちながら、その効果を検証し、ダメなら次の
手を考える、という仮説検証サイクルが回せるわけですね。

数値化していなければ、このサイクルが回せません。

 

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◆戦略指標を上げるために打ち手が存在する。逆ではない。
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では、ここで、それぞれの施策がどのように戦略指標であるところの
「一店当たり売上高」に貢献するのか、考えてみましょう。
●営業時間延長

これはわかりやすいですね。営業時間を延ばせば、1店当たり売上高
に直結します。

さすがにオフィス街で24時間営業をしても意味が薄いので、24時
間店は、全体のざっくり半数くらいのようです。

売上は間違いなく上がりますが、店の固定費(家賃など)は上がりま
せん。変動費(追加の電気代・人件費)は上がりますが、変動費・
固定費の比率がわからないので、これで利益が上がるかどうかはわか
りません。
ちょうど良い記事が日経MJに載っていましたので、この例で検証し
てみましょう。

―――――――――――< 記事要約 >――――――――――――

○ユナイテッド&コレクティブは、居酒屋の「てけてけ」で朝食の提
 供を開始。10店を運営する「てけてけ」では半数の店舗で昼食も
 提供しているが、朝食時間帯の営業はしていなかった。朝食を提供
 するのは午前7時~午前9時半。
○「てけてけ西新宿店」は4月1日、ビルの地下1階に開店。10日
 から朝食の提供を開始。メニューは、和食を中心とした1000円
 程度のビュッフェにする予定。
○各営業時間帯の間で料理の仕込みをする。運営が他の時間帯に比べ
 て複雑ではない朝食時は基本的にアルバイトだけで対応する。
○月商1200万円と、朝食を提供していない同等の店に比べ1割程
 度増やすことを目指す。
2011/03/14, 日経MJ(流通新聞), 7ページ

―――――――――――< 記事要約 >――――――――――――
この居酒屋「てけてけ」は朝食で売上を1割増やして、月商1200
万円ですから、通常は1200/1.1=1091万円ですね。年商
では1億3千万円です。前も書いたように、外食の店舗は年商は1店
1億円くらいが目安で、この店もそうなってますね。

朝食で、月109万円の売上を見込んでいます。で、「アルバイトだ
けで対応」すれば、人件費は、仮に

 時給千円×3人×3時間×30日

とすると、27万円です。食材原価3割とすると、33万円です。

まとめますと、売上109万円に対して、食材+人件費(FL)は
60万円となり、月の粗利51万円(年間では約600万円)と、利
益も見込めそうです。

後は、客数がその通り見込めるかどうか、ですね。月109万円で、
単価千円であれば、ざっくり月に千人、一日に3~40人の利用があ
ればいい、ということになります。

要は店舗ビジネスは、店を開けていてもいなくてもかかる固定費が大
きいで、そこそこ売れるのなら開けた方がトク、ということです。

 

●デイパート戦略

デイパート戦略は、1日を分けて、それぞれに最適なメニューなどを
投入していくもののようです。

 ・朝食   → 朝マック
 ・昼食
 ・スナック → マックカフェ
 ・夕食
 ・深夜

当然、昼食時や夕食時は混雑します。

が、朝食にはまだ余裕があったのでしょう。それで朝マックを強化し
ているのでしょうね。

そして、昼食後~夕方あたりの時間です。ここは閑散時間ですので、
ここに集客できれば、1店当たり売上高が上がります。

そう考えると、最近強化している「マックカフェ」の一連の取り組み
は、「閑散時間帯強化」のための取り組みとも言えます。

コーヒーの無料サンプリングも、閑散時間帯などを選んで行われてい
るように思います。

 

●店舗のリモデル・戦略的閉店

店舗のリモデル(改装)も、当然店の競争力アップのためですよね。

そして、戦略的閉店も、1店当たり売上高を上げる方法です。

要は、足を引っ張っている店を一気に閉鎖したわけですね。2010
年時点で、店舗間の売上格差は12倍*だったそうです。

*東洋経済オンライン 2010/02/26
http://ow.ly/4hKYh
さすがに1店当たり売上高を10倍にはできないでしょうから、復活
させられない店は閉店したのでしょう。

 

ちなみに、戦略的閉店の対象店舗は、「売上高に占める割合は5%程
度で不採算店が中心」*とのことです。

*東洋経済オンライン 2010/02/26
http://ow.ly/4hKYh

 

もし、「売上」を指標にしてしまうと、この「閉店」ができません。
このような大胆な打ち手を取れなくなるわけです。

これが「売上を追うと売上が減る」という矛盾の1つです。
しかし、「1店当たり売上高の増加」を指標にしていれば、この閉店
が可能です。というか、業績の悪い店は閉店したほうが、1店当たり
売上高が上がります。

もちろん、最終成果としての「売上」の増加は、1店当たり売上高が
増加していれば、可能です。
「そもそもそんなに店を広げるべきではなかった」というのは、さす
がに結果論かと思います。店を一気に広げたメリットは、それなりに
あったと思いますので。ただ、副作用も大きかった、ということです
ね。急成長には歪みが出るものです。

 

●FC化推進・オーナー当たりキャッシュフロー増加

そして、1店当たり売上高の増加は、FC化推進の前提となります。

要は、「店が儲かる」状態にしなければ、FC化の説得は難しいわけ
ですよね。そしてその根拠がオーナー当たりキャッシュフロー増加、
ということでしょう。

そして、FC化が進められれば、第3号で紹介した、総資産経常利益
率という重要な財務指標が改善される、ということです。

そして、さらに店舗の「リモデル・改装」をするための投資が産まれ
てくる、という好循環になるんです!

 

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◆戦略と戦略指標の一貫性
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●主要な打ち手が、「戦略指標」によって促進されている

マクドナルドが進めて来た主要な打ち手は、この

「1店当たり売上高の増加」

という指標と、見事に整合することがわかります。
戦略指標の定義をここで再確認しておきましょう。

「その数字を追いかければ、戦略が自律的に実行される数字」

です。
「1店当たり売上高の増加」を戦略指標だと考えると、原田社長就任
以来の一連の打ち手が読み解けるんですよ。

恐らく、明確な意図を持ってやっていると思います。

原田社長は就任前の状態を評して、

「1店当たりの売上高が減る中、店舗数が急速に拡大する悪い流れに
 陥っていた」*

と、逆説的に表現しています。

*東洋経済オンライン 2010/02/26
http://ow.ly/4hKYh
つまり、この「悪い流れ」を逆回転させるためには、1店当たりの売
上高を上げることが必要だ、という結論に至ったのではないでしょう
か?

 

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◆売上と利益は相反しないのか?
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●価格を固定して、利益率を固定する

ここで疑問が出るかもしれません。

「売上を追うと、利益率が悪化するのでは?」

と。

鋭いです。おっしゃるとおりです。利益率が低くても、売上を上げら
れる数字を追う動機が発生します。

この問題は、おそらくマクドナルドは、「価格」で解決していると思
います。
商品の価格は、一元的に決められます(地域別に変えたりはしている
ようですが)。費用もほぼ決まっているでしょう。すると、商品ごと
の利益率がほぼ決まりますよね?

価格を決めれば、商品ごとの利益率が決まります。その調整さえしっ
かりしておけば、「利益率が低い商品で売上を稼ぐ」という、「逃げ
道」*がなくなります。

あとは、広告販促費、ですね。このコントロールができれば、全体と
しての利益率をコントロールできます。

つまり、「売上を追えば利益が出る」体質にできるんです。

恐らく、マクドナルドはこのようにして、売上と利益の二律背反を制
御しているのではないかと思われます。

戦略指標を導入する際に、他の条件を固定することによって、戦略指
標だけを追うように「行動を制限」*することができます。
*「逃げ道」や「行動の制限」*という一言は、実は深い意味を持っ
ています。それを説明するには本一冊かかりますので、この機会に拙
著「売れる数字」をぜひどうぞ。

「売れる数字」 佐藤義典著 朝日新聞出版
http://ow.ly/32zKP

 

今号はここまでにしましょう。

次回は、この「1店当たり売上高」という数字の、より大きな意味・
意義を考察していきます。

 

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◆今日のまとめ
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●マクドナルドの戦略指標を「1店当たり売上高」とすると、マクド
 ナルドの打ち手が読み解ける

 

 

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
 ~MBAの中小企業診断士がそっと教えるパワフルレッスン~
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.184 2011/03/28
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●「戦略指標」は、会社の全てを司る数字。しっかり考えて、組織を
 動かそう!
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◆前回の復習
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●マクドナルドの戦略指標:1店当たり売上高

前回、マクドナルドの「戦略指標」は、1店当たり売上高だと考えら
れる、というのを、打ち手との一貫性を考えながら見てきました。

今回は、「1店当たり売上高」という「戦略指標」の持つ意味につい
てさらに深く考えていきましょう。
今回が、このシリーズ最終回です!
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◆「売上」を追うと「売上」が減る!
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●店を出したほどには売上が伸びなかった「黄金時代」

「1店当たり売上高」という戦略指標は、どのような意味を持つので
しょうか?
ここで、第1号で紹介した、マクドナルドの90年代からの歴史に戻
りましょう。

再掲しておきます。

      客数     客単価    店舗数   店舗数増分
     (百万人)

1994   477   717   1,169    -
1995   585   679   1,482   313
1996   743   650   2,004   522
1997   826   653   2,437   433
1998   986   647   2,852   415
1999 1,167   635   3,258   406
2000 1,318   615   3,598   340
2001 1,259   599   3,822   224
2002 1,183   585   3,891    69
2003 1,157   598   3,773  -118
2004 1,175   600   3,774     1
客数×客単価を「売上」と考えます。売上と考えます、と言うか、売
上になるはずですが、実際には、客数×客単価と売上の数字には差異
があります。

1994年からの全店売上高の数字が入手できないこともあり、ここ
では代替指標として「客数×客単価」を使います。正確な売上高では
なく、インデックスのようなものですね
では、「客数×客単価」を「売上」とみなした上で、1994年から
2002年(この年に店舗数最大)までの数字をまとめてみます。

               1994→2002の変化

客数             :2.5倍
客数×客単価(=売上)    :2.0倍
店舗数            :3.3倍
1店当たり客数×客単価(売上):0.6倍●
90年代は、店を出せば、客数が伸び、売上も伸びた時代でした。

しかし店舗数は3.3倍になっているのに、売上(客数×客単価)は
2倍にしかなっていません。

「店を出したほどには売上が伸びていない」

んですよ。

 

●「売上」を追うと、「売上が減る」というパラドックス

荒っぽく言えば、「店を出せばお客様が来る。だから店を出そう」と
言うのがマクドナルド90年代のロジックでした。

しかし、注目すべきは、1店当たり売上(客数×客単価)は、0.6
倍、正確には61%へと激減しています。つまり、店舗の競争力が激
減しているんです。

この時代の指標は、恐らく「全店売上高」だったのでは無いでしょう
か?

そうでなければ、ここまで店舗競争力を落としてまで、売上向上に走
った理由が説明できません。

要は、「売上」という「最終成果」をひたすら追い続け、ムリを重ね
たわけですね。

「売上」を追い求めた結果、「売上」が減り始めます。
    全店売上高(システム 店舗数   1店当たり
    ワイドセールス)         売上高(億円)
2000  4,311    3598  1.2
2001  4,389    3822  1.1
2002  4,027    3891  1.0
2003  3,867    3773  1.0
2000→2003年にかけて、店舗数は+4.8%、全店売上高は
-10.3%です。店舗数を増やしているのに、売上1割減!

「売上を追うと売上が減る」というのは、拙著「売れる数字」のキャ
ッチコピーですが、これは、煽り文句ではなくて、本当に起きるんで
すよ。

「質より量」を追った「店舗出し過ぎの弊害」が如実に出たのが、
2000年代初頭です。ここは実際に全店売上高が下がっています。

ただ、この問題は2000年代初頭に起きたのではなく、それ以前の
「価格競争の覇者」と呼ばれ、我が世の春を謳歌していた90年代後
半から、実は深刻な歪みが出ていたんです。
これが、売上という「最終成果」を追うと、売上が減ってしまう、と
いう拙著「売れる数字」で提唱した、パラドックスなんですよ。

 

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◆「量から質へ」:戦略の大転換を意味する戦略指標
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●「量から質」へという大転換を意味した「1店当たり売上高」

恐らく、ですが、マクドナルドの新社長に就任した原田社長は、恐ら
くこの数字を見て愕然としたのでしょう。

とにかく「店舗の競争力を高めなければならない」と。

だから「負の資産の整理」と言ったようなキツイ表現になったのでは
ないでしょうか?

それまで:「店を出して客数を増やす」
          ↓
これから:「店舗の数より、店舗の質」

この、「量から質へ」というコペルニクス的転回が、原田社長の改革
の背後にあるロジックなのだと思います。
そして、「個店の競争力を高める」という戦略課題を解決するのが、
「1店当たり売上高」という戦略指標です。

戦略指標は、戦略課題を解決するための道具、ということです。
「1店当たり売上高」も、「売上」という意味では、「最終成果」に
近い性質ではありますが、「量から質へ」という「戦略の大転換」と
いう意味で、戦略指標と言えるかと思います。

 

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◆利益「率」を上げた「1店当たり売上高」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●店を増やさずに売上を上げる「利益を出せる仕組み」

この、1店当たり売上高、は、「利益」という点においても理に適っ
ています。

マクドナルドのような、店舗型のビジネスにおいては、「損益分岐点
の高さ」が避けられません。FC化を進める以前は、7割は直営店だ
ったわけですから、店舗に多額な投資が必要になります。

店を置けば、家賃や常駐する社員・店員という固定費が不可避的にか
かってきます。

この10年間の1店当たり売上高と営業利益を見てみましょう。
    全店売上高(システム 1店当たり    営業利益
    ワイドセールス)   売上高(億円)
2000  4,311    1.2      294
2001  4,389    1.1      193
2002  4,027    1.0       39*
2003  3,867    1.0       28*
2004  3,959    1.0       72*
2005  4,118    1.1       32*
2006  4,415    1.2       74
2007  4,941    1.3      167

(以降の年は、FC化が進展するので参考資料)
2008  5,183    1.4      195
2009  5,319    1.4      242
2010  5,427    1.6      281
2002~2005年くらいが、利益があるか無いかくらいの年です
ね。この頃の店舗数が3800店前後です。

この数字を見ると、損益分岐点は、ざっくりと、ですが、1店当たり
売上高が1億円くらいであることがわかります。

マクドナルドの固定費は、3000店を超える店とその人件費、です
よね(この頃はFC化がまだ進んでいません)
ということは、店数を増やさずに、1店当たり売上高を上げていけば
利益が増えていく、ということになります。

例えば、「営業時間の延長」では、「固定費」は増えません。夜間営
業分の人件費、電気代、などは「追加」でかかる、という「変動費」
ですよね。

2007年まではFC店比率が3割以下で安定していましたので、比
較に使えると思います(逆に、2008年以上の利益率の改善には、
急速なFC化の貢献が寄与するので、同じ土俵で比べにくいです)。
ですので、同じ土俵で比べて良いと考えられる2003年と2007
年をまとめて比べてみましょう
         2003    2007

全店売上高    3,959   4,941
営業利益        28     167
営業利益率●    0.7%    3.4%

店舗数      3,773   3,746
直営店      2,637   2,674
FC店      1,136   1,072

1店当たり      1.0     1.3
売上高
営業利益「率」が5倍近く上がっていることに着目してください。売
上が上がれば、営業利益「額」が増えるのは当たり前です。が、ポイ
ントは、「率」が上がっていることです。
この間、店舗数はほぼ変わっていません。

つまり、90年代後半の「店を出して売上を増やす」ではなく、「店
を出さずに売上を上げること」(=1店当たり売上高向上)によって
利益率を上げていることがわかります。
店舗数を増やした場合に起きることは、「利益率」よりも「利益額」
の増大です(もちろん、規模の経済による利益率の改善は、ある程度
はあるでしょうが、規模の経済は、既に十分に効いていると思われま
す)。

この利益「率」の増加には、1店当たり売上高の増加が寄与している
と思われます。
参考までに、外食では、1店1億円、というのは、ある程度の目安に
なります。

例えばスターバックスでは、2010年度は

売上      :971億円
期末店舗数   :891店
1店当たり売上高:1.1億円

と、やはり1店約1億円ですね(全てが直営店としての単純計算)。

 

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◆組織を動かす戦略指標
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●打ち手を変える戦略指標

戦略指標の究極の意味は「組織を動かす」ことです。

「店舗の競争力を高めろ」と、宣言しても社員は、どう動けば良いの
かよくわかりませんし、それが人事評価などに反映されていなければ
社員は動きません。
社員の動きを変えるには、指標を明確化し、人事指標に入れることに
なります*

*この当たりの詳細の解説jは拙著「売れる数字」でどうぞ。
http://ow.ly/32zKP
口だけでは社員は動きません。指標化し、人事評価に入れるのが肝要
です。
仮に、原田社長が、

「これからの戦略指標は、1店当たり売上高とする」

と宣言し、それで人事評価を行うことにしたとしましょう。
すると、「店を出して売上を上げる」というワザが通用しなくなりま
す。むしろ、店を出すほどに自社内競合が起きて1店当たり売上高は
減り、自分の評価が下がります。ですので、社員に店を減らす動機付
けが産まれます。
実際、原田社長の就任以降、店舗数はほとんで増えていません。そし
て2010年に一気に「戦略的閉店」をしたわけです。

      店舗数 

2004  3774
2005  3802
2006  3828
2007  3746
2008  3754
2009  3715
2010  3302  ← 戦略的閉店

このような「荒療治」が可能になるのは、戦略指標が人事評価の指標
となり、「会社としてすべきこと」と「評価指標」が一致するときで
す。

当たり前じゃん、と言われるかもしれませんが、全く当たり前ではあ
りません。というか、そうなっている会社の方が極めて少数です。そ
もそも、自分の評価が、「戦略との関連において」(ここがポイント
です)、数値として明確に出せる会社がどれだけあるでしょうか?
では、「1店舗当たり売上高」という「戦略指標」の、社員への動機
付けを考えてみましょう

マクドナルドの組織構造がわからないため、以下のような「役割」別
に分析してみます。
○店舗開発担当への動機付け

店舗開発担当者は、上記の理由で店舗を増やしたくはないでしょう。
どうするかというと、売れない店を洗い出し、売れる場所へと移動さ
せたくなるでしょう。

実際、2010年の決算説明会資料には、

「リロケーションの加速 633店以上」*

という表現があります。

*2010年決算説明会資料
http://www.mcd-holdings.co.jp/pdf/2010/2010_result.pdf
売れない場所→売れる場所 へと移動すれば、店舗数を増やさずに
「1店舗当たり売上高」が増やせますよね。

 

○店舗運営担当への動機付け

店舗運営者が1店当たり売上高を上げるには、長時間営業・24時間
営業がその手段となります。前号の通りです

 

○商品開発担当への動機付け

商品開発者は、「長時間営業」などの権限は持ちませんので、「メニ
ュー」をどう変えるか、ということになります。

商品開発者に与える動機付けは、客数×客単価で考えて見ましょう。
客数については、食事などの混雑時の受け入れには限界がありますか
ら、「閑散期の集客」を考えるでしょう。それが恐らくは、カプチー
ノなどの一連のカフェメニュー(McCafe)でしょうね。
2010年の決算説明会資料によると、カフェメニューを出す店を
2800店に増やすとのことです。8割方の店で出るわけですね。

客単価については、当然高単価メニューですね。今は「マンハッタン
バーガー」やってますけど、一連のこのメニューは、セットで600
円台だったと思いますが、結構高単価ですね。カフェメニューも、
100円のドリンク1杯から比べれば、2倍近い単価です。
このように、各担当者への動機付けが明確になることがわかります。

そして、その「動機」(=1店当たり売上高の増大)は、組織間で一
致します。指標が共通だからです。

 

●組織共通の指標で、組織間の風通しを良くする

戦略指標は、組織間にヨコグシを通します。指標が共通なのでケンカ
になりません。むしろ、協力を促進します。
例えば、店舗運営担当者と、商品開発担当者は、以下のような話合い
を(売れたま!会議みたいに)行う動機付けが産まれます
店舗運営:ねー、24時間営業やるからさ、深夜用のメニュー考えて

商品開発:あ、それいーね。深夜限定のデザートでもやる?

店舗運営:いや、飲んだ後のつまみみたいな感じでいいんじゃない?
     ターゲットはさ、ちょっとおじさん系な感じで

商品開発:あー、シメのラーメン代わりか。安い方がいいね。ハッシ
     ュドポテトでも出す?

店舗運営:ポテトだけだとさみしいからさ、フィレオフィッシュの、
     魚のフライとかできないの?

商品開発:あー、できるね。タルタルソースつきね。それにチキンで
     もつけるか?

店舗運営:あ、いいかもね。フライコンボか。
みたいな感じですね。
というのは、店舗運営も、商品開発も、担当・役割に関わらず、評価
指標は同じく「1店当たり売上高」です。すると、自分の成績を上げ
るためにも、協力をすることが迫られるんです。
もし、商品開発担当が「1店当たり売上高」ではなく「商品単価」で
評価される場合には、商品開発は「深夜のメニューは単価が低そうだ
からイヤ」と、協力をイヤがるでしょう。

「縦割りの弊害」が産まれる1つの理由が「部署によってモノサシ
(=評価指標)が違う」ことです。

逆に、組織全体に共通指標を使うことで、組織間の風通しが良くなり
ます。

これが拙著「売れる数字」のキモである「組織を動かす戦略指標」な
んです。

「組織が動かない」のは、組織構成に問題がある場合もあるでしょう
が、「評価指標」に問題があるのかもしれません。

そして残念ながら、「戦略実行促進」という切り口での「人事評価」
というのは、あまり見たことがありません。そもそも戦略を「指標」
として定義している会社が少ないからです。
戦略を戦略指標として数値化し、実行し、その結果を評価する、とい
う、せ・す・じ・評価のサイクルを回すことにより、始めて戦略が実
行されるのです。

 せ:戦略
 ↓
 す:数値化
 ↓
 じ:実行
 ↓
 評価

 

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◆会社の状況にあった戦略指標を!
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●戦略指標は会社によって、状況によって変わる

マクドナルドに適した戦略指標が「1店当たり売上高」だったからと
言って、飲食店が全てそうだというわけでは全くありませんよ?

マクドナルドの、この状況だから、「1店当たり売上高」だったわけ
です。

戦略指標は、そう言った意味では、「超長期的な課題解決」なんです
よね。

2004年~今までとして、7~8年は同じ数字を追いかけているこ
とになります。戦略の実行にはそれだけ時間がかかるからですね。

1店当たり売上高を最大化する打ち手が仕組み化され、「個店の競争
力強化」をいう戦略課題が達成された、と判断したら、次の戦略課題
に向けての「戦略指標」が作られることになります。
ですから、戦略指標を作るに当たっては、そもそもの「戦略課題」は
何か、という考察が欠かせません。それは、もちろんBASiCSで
考えていくことになります。
あなたの場合はどうですか?
これにて、「マクドナルドの戦略指標」終了です!

 

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◆今日のまとめ
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●戦略を「戦略指標」として数値化し、組織を動かそう!

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