メーカーの密着軸 前編:売り方の個別化

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 ■売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま!■ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━戦略編Vol.193 2011/06/06
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日のポイント ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

●メーカーが密着軸戦略を実行するときは、まずは売り方を個別化し
 よう。そのためにはお客様の個別の違いを把握しよう!

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◆アシックスの「足形測定機」
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●アシックスが、足形測定機でお客様の足形を計測中!

アシックスが、店舗に「明日が測定機」を導入しています。どのよう
なものかというと……


-----------< 記事要約 >------------

○2002年、アシックスは小型の足形測定装置を開発。片足を入れ
 ると10秒後には足の長さ、足先の周囲、甲の高さ、かかとの角度
 などが測定できる。3次元で足形を測る装置は世界でも珍しく、競
 合メーカーも購入するほど。
○直営店やビジネスシューズ専門店など、装置の設置台数は約170
 台。今ではアシックスの売り物だが、当初は社内でもあまり注目さ
 れなかった。それまではクッション性、安定性などの機能の追求が
 最優先されてきたためだ。
○足形測定装置はもともとトップアスリートのデータを収集するため
 のものだったが、小型化して店頭に置くと、顧客から大好評。特に
 効果が表れたのが子供靴。一般の子供靴は千円程度からあるが、同
 社の製品は4000~5000円。店頭で足形を測定した結果を基
 に靴選びのアドバイスを始めると売れ行きが急上昇したという。
 「情報を組み合わせれば商品の付加価値は高まる」という読みが当
 たった。
2011/05/20, 日経MJ(流通新聞), 6ページ

-----------< 記事要約 >------------
足形って、結構人によって違うんですよね。靴が合わない、という場
合、恐らくは「幅の広さが合わない」か「甲の高さが合わない」か、
ですよね。

2次元計測だと甲の高さまではわかりませんが、3次元であれば、甲
の高さなども計測できるはずです。

きっと「自分に合う1足」が見つけられることでしょう。

私も、左右で足のカタチが違うなどで革靴選びには結構苦労しますの
で、革靴でもやってほしいです……

 

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◆復習:3つの差別化軸
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●復習:3つの差別化軸とは?

売れたま!でも何度となく紹介している3つの差別化軸。差別化戦略
は大きく分けて3つしかありません。

1)手軽軸:早い、安い、便利
2)商品軸:商品・サービスが良い
3)密着軸:個別具体的ニーズに応える

となります。
これは私のオリジナルではなく、元ネタは、マイケル・トレーシー、
フレッド・ウィアセーマ両氏のValue Disciplinesを解釈・再定義し
たものです。
この、どの軸を選ぶかで、自社の戦略の構築はもちろん、戦術・行動
が全く変わって来ます。

軸に善し悪しはなく、「決め」の問題です。「最悪な軸」があるとす
れば、それは「軸を決めないこと」、さらには「決めたのにブレるこ
と」です。

 

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◆密着軸は「個別化」発想
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●密着軸は「個別化」発想

密着軸は、結構誤解されやすいので、ここで説明しておきますね。

密着軸は、お客様に「密着する」ということはもちろんですが、その
こと自体は、手軽軸においても商品軸においても必要です。

どの軸においても「お客様ニーズに応える」ことは必要です。

違うのは、「どのニーズに応えるか」です。

密着軸のポイントは「個別化」です。お客様1人1人の細かい違いに
応えていくことです。

ですから、その必要条件として、お客様の「個別ニーズ」を把握する
必要があります。そのために、他の軸よりも「個別に」密着すること
が重要になるのです。

 

●商品軸と密着軸は、立脚する「信念」が違う

3つの差別化軸において、一番よくいただく質問が

「商品軸と密着時は、両立できるのではないか?」

という質問です。

それに対する私の答えは、「限定された場合を除いて、大変難しい」
です。なぜかというと、立脚する「信念」というか、考え方が違うか
らです。
記事中にあるように、アシックスが「クッション性、安定性などの機
能」の高さを追求する場合は、それは「商品軸」になります。

商品軸の基本的な考え方は……

「唯一最高のモノが存在する」

という発想です。最高のクッション性、最高の安定性、などですね。
それに対して、密着軸の基本的な考え方は……

「唯一最高のモノなど存在しない。お客様に合ったモノが最高だ」

という発想です。靴であれば、「お客様が最高だと思うクッション性
が最高のクッション性だ」ということであり、それは当然人によって
違う、ということになります。

ここの部分の考え方が根本的に異なるために、商品軸と密着軸は、基
本的には相容れないことになります。
私(というか私の会社S&T)は、基本的には商品軸です。お客様に
頼まれても、BASiCSの要素そのものをお客様に合わせて変える
というようなことはしませんし、その必要もないと考えています。

「戦略BASiCS」という、「唯一至高の戦略フレームワーク」が
存在する、という前提に立っているからです(BASiCSの中身や
使い方が会社によって変わるのは当然のことです)。

もし私が密着軸なら、「この会社にはBASiCSを、あちらの会社
にはBACKS、こちらにはBRICSを」というような「個別化」
を行うことになります。それは「やらない」という決断をしています
ので、やりません。良い悪いではなく、やりません。なぜかと聞かれ
れば、それはそう「決めた」からです。
個別化する・しないなどの差別化軸は、良い悪いではなく、戦略とし
ての「決め」の問題です。そして、最悪なのが「決めない」、さらに
最悪なのは「決めたのにブレる」ことです。

決めたからには、やります。そしてそれはリスクがあります(決めな
いことの方がリスクは高いですが)。だからこそ、戦略BASiCS
で徹底的に考え抜くわけです。
「ラク」にできる差別化戦略というのはありません。どの軸を選んで
も、常に走り続け、常に競合より上回ってないといけないわけです。
ラクして勝てる道などはどうせ無いのですから、自分の本当にやりた
い道を行った方がいいと個人的には思います。

 

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◆メーカーの密着軸:「売り方」の個別化
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●売りモノで「個別化」できなくても「売り方」で「個別化」できる

密着軸の差別化戦略は、「個別化」です。

お客様の1人1人の個別のニーズに合わせて、それにあったものを提
供する、ということです。

昔の魚屋さんが、お客様の顔を見て、「佐藤さんの奥さん、今日、い
いマグロが入ってるよ。ご主人の大好物だよね」というのと同じで
す。お客様の好みを「個別に」覚えて、そのお客様にあった提案を、
お客様一人一人に対して「個別に」行うわけです。
メーカーの場合、「売りモノの個別化」が密着軸の典型です。オーダ
ーメードですね。靴でも、オーダーメードのものはありますよね。

しかし、「売りモノ」で個別化できなくても、アシックスのように、
「売り方」で個別化できることは少なくありません。

というか、密着軸の場合は、「売り方の個別化」は、ほぼ必須条件と
なります。要は

「お客様の個々のニーズに合った商品・サービスを提供する」

ということです。

 

●なぜ「子供靴」に効果が高かったのか?

ではなぜ、子供靴での効果が顕著だったのでしょうか? 私の仮説は
恐らく子供が「靴が合っている・合っていない」を自分自身では判断
できないか、判断できたとしても言語化できない、からではないでし
ょうか?

この仮説を立てた理由は、「ミズノ」が子供用に作った「透明シュー
ズ」です。透明なシューズを作って、子供に履かせると、親が「この
靴が子供の足に合っているかどうか」を外から見て判断できるからで
す。

(売れたま! 2004年12月16日 ミズノの透明シューズ)

 

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◆密着軸の売り方は、「測定・診断」サービスがセオリー
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●「売り方の個別化」の典型が「測定・診断サービス」

「足形測定機」は、要は「測定サービス」ですよね。このような「測
定・診断サービス」が、「密着軸の売り方」の典型です。

なぜかというと、密着軸は「個別」ニーズに応えることがポイントな
のですから、まずはお客様ごとに「個別の違い」を知る必要がありま
す。お客様の「個別の違い」がわからなければ、「個別の提案」がで
きませんよね?
ですので、あなたが密着軸で差別化するのであれば、この「測定・診
断サービス」というのは、何らかの形で取り入れることになるでしょ
う。

やり方は、足形測定機のような「機械」かもしれませんし、営業担当
者や開発担当者、あるいはコンサルティング部隊などが、お客様に個
別にヒアリングしてニーズを聞き出すことかもしれません。

やり方はともかくとして、密着軸で行く限りは、「個別ニーズを把握
するプロセス・仕組み」が必要にになります。

 

●HP上の「おすすめシューズ」診断サービス

ちなみに、HP上では、性別・運動経験などからオススメの運動靴を
勧めてくれるサービスを展開しています。

http://www.asics.co.jp/running/shoesadviser/

こういう「オススメ・診断」サービスも、密着軸らしいサービスです
ね。

「お客様の個別ニーズ・個別の状態」を知り、それに合わせた商品や
サービスなどの提案をする、というのが密着軸ですが、アシックスは
明確にこの方向性を意識しているように見えます。

 

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◆「計測」「記録」「提案」のサイクルを回そう!
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●「個別の違い」にあった提案をするための3つの要素

よく、「お客様にあった提案をしよう」とは言われます。

口で言うのはカンタンですが、これをきちんと実行するのは大変です
よね。「お客様にあった提案」を可能にするためには、次の3つの要
素が必要になります。

1)個別の違いを計測する「計測器」
2)個別の違いを記録・蓄積・共有する「データベース」
3)個別の違いに基づき、提案する「提案ノウハウ」
1つ1つ見ていきましょう。
1)個別の違いを計測する「計測器」

まずは、個別の違いが計測できなければ、何が違うのか、すらわかり
ませんから、何らかの形で「計測」することが必要です。

ここで必要なのは「計測器」です。

アシックスの場合は、足形測定機でした。

「機械」とは限りません。法人営業の場合などには、「機械」は作れ
ないでしょうから、「顧客ニーズチェックシート」のようなものが
「計測器」の役割を果たすことになるでしょう。

 

2)個別の違いを記録・蓄積・共有する「データベース」

個別の違いをけ「計測」したら、次は「記録」「蓄積」「共有」する
仕組みが必要です。

データを記録・蓄積しなくても「お客様にあった提案」が絶対にでき
ないわけではありませんが、場当たり的になってしまいます。

「お客様のどの部分がどう違うのか」

ということを数字として把握するためにも、記録・蓄積が必要になり
ます。

また、「共有」しておかないと、次の「提案」を会社全体としてでき
なくなりますので、共有することも必要です。
ここで必要なのは「データベース」(DB)です。会社によっては、
ITを使った大型DBやクラウドになるかもしれませんし、Excelや
「紙」で管理できるようなものかもしれません。

それは、組織や人によって、適した「記録」「蓄積」「共有」する方
法を考えれば良いと思います。
情報が

「個人のアタマの中」
「営業員の手帳」

にしかない、というのは、色々な意味で、まずいですね。

 

3)個別の違いに基づき、提案する「提案ノウハウ」

よく聞くのは、「データはあるんだけど活かされていない」というケ
ースです。特に大企業に多いです。マジメな大企業はマジメにデータ
を取るのですが、「取ったら取りっぱなし」ということは少なからず
あります。

「どの部分がどう違えば、何をどう提案するのか」

ということを会社全体ができるようにする仕組みが必要です。
そして、「違いに合わせて提案する」というのは、口で言うのはカン
タンですが、結構大変ですので、そのための「ノウハウ」が必要にな
ります。

「ノウハウ」とは、

○こんなお客様には
○このような商品・サービスを
○このようにカスタマイズして(カスタマイズできる場合)
○このように伝える

ということの「組み合わせ」

ですね。

その情報が蓄積すると、ると、

「どんな違いが重要か」

という、
1)個別の違いを計測する「計測器」

にフィードバックします。

・どの項目を重点的に聞くべきか
・もっと細かく聞くべきことは無いか
・重要でない項目は何か

などがわかるはずです。
そして、それをまた2)のデータベースに蓄積し、組織内で

「成功事例」「失敗事例」

を共有する、というサイクルになります。
すると、

1)個別の違いを計測する「計測器」
2)個別の違いを記録・蓄積・共有する「データベース」
3)個別の違いに基づき、提案する「提案ノウハウ」

の3つは全て連動していることがおわかりいただけるかと思います。

この3要素は、全てが連動し、お客様1人1人の違いを

・計測し
・記録・蓄積・共有し
・提案し
・それをまた記録し、計測器を修正し……

というサイクルですね。

密着軸、というのは、単に「お客様に密着する」という標語だけでは
なく、ここまでの仕組みをきちんと作り上げることなのです。
もちろん会社のおかれた状況によって違うとは思いますが、あなたの
会社が「密着軸」の場合は、それぞれどうなるか、考えてみてくださ
いね!

 

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◆今日のまとめ
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●密着軸戦略では、お客様の「個別ニーズ」「個別の違い」を把握し
 まずは「個別化」された、「売り方」を考えよう!

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